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INSIGHT

リチウムイオンバッテリー火災 - リスクを防ぐための業界ガイダンスとカンファレンス Lithium-ion battery fires – industry guidance and conference address risks (JP)

こちらは、英文記事「Lithium-ion battery fires – industry guidance and conference address risks」(2023年3月30日付)の和訳です。

リチウムイオンバッテリーによる火災は消火が難しい場合があります。また、頻繁ではありませんが、熱暴走(バッテリー内に貯蔵されているエネルギーや可燃性・有毒性ガスの暴発を引き起こす連鎖反応)が起きることもあり、場合によっては大規模な過熱事象につながり、深刻な被害をもたらすこともあります。

特定の状況下では、すぐには発火しないものの蒸気雲爆発の可能性が生じ、この爆発が起きれば火災よりも被害が大きくなるおそれがあります。周囲の酸素が薄くなった状態でも燃え続けるほか、消火後も高い熱量を出し続けて再発火する危険もあります。

 

業界ガイダンス

 

貨物事故通知システム(CINS)の加盟船社はこのたび、コンテナでのリチウムイオンバッテリー輸送に関する新しいガイドラインを発行しました。業界の有識者からの意見も参考に、国際P&Iグループ(IG)、国際荷役調整協会(ICHCA)、TT Clubと共同で作成したものです。こちらからご覧いただけます。

 

このガイドラインでは、リチウムイオンバッテリーの火災リスクと防止策を明らかにし、輸送の安全度を高めるためにサプライチェーン上の全ての関係者に向けた推奨事項を提示しています。ただし、使用済みや損傷したバッテリーの取り扱いを想定したものではありません。リチウムイオンバッテリーの仕組みや輸送上の規則、危険特性についても記載しています。また、熱暴走の危険性についても説明しており、その原因は過熱や過充電、ショート、バッテリー内の欠陥、バッテリーの損傷だとしています。つまり、熱暴走は何の前触れもなくバッテリー内で発生したり、衝撃や火災など外部事象が原因で発生したりする可能性があるということです。

 

貨物の梱包方法や、輸送中に耐えうるべき応力についても説明しています。コンテナ内で貨物が動かないようにするのは当然ですが、仮に梱包がきちんとなされていても一定の保護は必要で、そうすることによって、バッテリーの損傷や熱暴走のリスクを抑えられるとしています。バッテリーの充電状態や容量劣化状態についても説明しており、充電度が高いとエネルギー放出が大きくなり、出火の勢いが激しくなる一方、充電度が低いと蒸気雲爆発のリスクが高くなるとした研究結果などを紹介しています。空輸の場合は充電度が定格容量の30%以下に制限されていますが、ガイドラインではこの制限がいかに重要かつ妥当であるかも認めています。

 

リチウムイオンバッテリーの入ったコンテナを船のデッキ上もしくはデッキ下に積む場合は、該当するIMDGコードの要件を満たす必要があります。ガイドラインでは、こうしたコンテナを積む場合は、熱源や他の危険物から離し、消火活動を行いやすい場所を選ぶべきだとしています。

 

リチウムイオンバッテリーによる火災の延焼について、そして、そこから火災の検知・消火・防火をどう考えるべきかについて詳しく述べている章もあります。ロスプリペンションをテーマにした最後の数章では、火災に対応するための訓練、手順、顧客を知ることの重要性、今後の輸送を安全に行うための提案などを取り上げています。ガイドラインの内容は、知識や経験の蓄積、技術の進化に合わせて適宜見直していく予定です。輸送する貨物の詳しい把握が必要な乗組員をはじめ、リチウムイオンバッテリーの輸送に携わる人々には必読のガイドラインと言えるでしょう。

 

CINSは今後、更なるガイドラインとして、Part B「Checklists and Compliance」、Part C「Risk Assessment and Emergency Response」、Part D「Training and Awareness Program」の発行も予定しています。

 

業界カンファレンス

 

IG、CINS、TT Clubは去る3月15日にロンドンで、「ロジスティクスサプライチェーンにおけるリチウムイオンバッテリー」と題した業界カンファレンスも共同で主催しました。会合には、規制機関やコンテナ船社、自動車船社、火災研究・消防の専門家をはじめとする関係者130名以上が出席。ガイドラインで触れられている内容や後ほどこの記事で紹介する点をテーマに、プレゼンテーションや議論が行われました。業界内でのこうした連携によって、リチウムイオンバッテリーに関するリスクの対処・制御方法が十分な情報に基づいて決められるようになることが期待されます。

 

リチウムイオンバッテリーの需要増に伴う船舶輸送の増加

 

リチウムイオンバッテリーは、従来のバッテリーと比べて出力重量比が高く放電率が低いため、一度充電すると長持ちするという特徴があります。モバイルテクノロジーが広まったことでリチウムイオンバッテリーの需要が高まり、今では大半の携帯電子機器にこのバッテリーが広く使われるようになりました。それに伴い、こうした機器に加えバッテリーそのものもコンテナでよく運ばれるようになっています。今後最も需要が急速に伸びるとされているのは、クリーンエネルギーとしての用途です。電気自動車などがこれに当たり、今後は自動車船やRORO旅客船で輸送されるでしょう。世界全体におけるリチウムイオンバッテリーの需要は、2030年には現在の5倍以上に急増すると見られています。

 

船舶での火災事故とそのリスク

 

船内で火災が発生した場合は非常に危険です。出火元にかかわらず、封じ込めや消火が難しい場合が多いためです。電気自動車の輸送中にリチウムイオンバッテリーが火元と確認された火災はまだ多くありません。逆に、従来のガソリン自動車のみを輸送している自動車船やRORO旅客船ではこれまでにも大火事が多数起きています。とはいえ、電気自動車の輸送台数の増加に伴い火災のリスクも増しています。別の場所から出た火が電気自動車に延焼すれば、火災の威力はガソリン車よりさらに激しくなることもあるでしょう。陸上ではこれまで電気自動車の火災が多数発生しており、写真で見てもその危険性がよく分かります(下部リンク参照)。

 

コンテナ輸送によるリスクも増しています。リチウムイオンバッテリーを含んだコンテナの数が増えているだけでなく、誤申告のおそれも高まっています。近年発生しているコンテナ船火災の原因で特に多いのが、バッテリーの誤申告です。また、船舶自体が運べる貨物の量が増えている(コンテナ船で24,000 TEU超、自動車船でも9,000 CEU超目前)という点も要注意です。1台でも出火すれば火災は広がってしまうからです。

 

火災の検知・消火の難しさ

 

リチウムイオンバッテリーを火元とする火災の検知・消火の最適な方法については現在研究が進められています。その一部を上記のガイドラインや下部リンクでご覧いただけます。リチウムイオンバッテリーの熱暴走が始まる際は、白い蒸気(オフガス)が出たり、「ボン」という音が聞こえるなどの兆候が見られることがあります。火災を封じ込めるカギは素早い検知にあるため、車両デッキの映像と音をモニタリングすることがこれまで以上に一層重要になるでしょう。そのため、従来の煙感知器では効果が薄いかもしれません。リチウムイオンバッテリーは、車両やコンテナにしっかり収められているからです。

 

CO2など従来の消火媒体は冷却効果がないため、こちらも同じく消火効果に疑問があります。熱暴走が起きると熱と可燃性ガスが発生し続けるため、うまく封じ込めるためには大量の水が必要でしょう。しかし水を大量に使えば、特に自動車船やRORO旅客船では復原力が下がってしまうおそれがあります。陸上の消防隊はこの点をよく頭に入れておく必要があるでしょう。また運航者は、1回限りしか使えない消火設備の活用法について、例えばCO2を全て注入すれば再発火の危険は一切なくなるのかどうかといったことに疑問を持っています。あるコンテナ船社は、CO2自体に消火効果がない場合、水の代わりにCO2消火設備を用いることの意味について船級協会と議論を重ねています。港で停泊中、ドアやハッチが開いている状態で火災が起きた場合は被害が広がりやすくなり、空間を閉鎖したり固定消火設備を用いたりしても効果が出るのが遅くなります。コンテナ船の大型化に伴いその消火能力への懸念も高まっていることから、Gardではこの懸念を解消するための取り組みを行っています。

 

何より重要なのは人身被害が出ないようにすることです。だからこそ、リチウムイオンバッテリーから出火する可能性を知っておくことが大切です。前述のように、リチウムイオンバッテリーは蒸気雲爆発を起こすことがあり、その際には有毒ガスが発生しています。この蒸気は通常の火災で発生する煙とは違うため、間違わないようにしてください。乗組員は消防のプロではありません。そのため、携帯型の消火用具や大型のファイヤーブランケット(これまで消火実験で車両を覆うために使われた実績あり)を用いることが非常に危険とされる場合もあるでしょう。当然ですが、消火活動の際は適切な消防服や呼吸装置を必ず身につけてください。ただし、こうした装置を使える時間は限られています。火災現場は車両と車両の間隔が狭く、煙の中を移動するのが大変な場合もあるため、現場から安全に撤退できるようにしておくことも考えておかなければなりません。多くのコンテナ船社は、コンテナに突き刺して内部に水を送る装置や、コンテナの最上段まで射水する装置など、法令で定められた要件よりも性能のよい消火装置の開発を進めており、乗組員が火災現場で装置をコンテナに取り付ける時間を極力減らそうとしています。船級協会も、特殊なウォーターモニターとウォーターカーテン用に船級記号への付記を新たに定めています。

 

結局、船長にとっては、閉鎖された貨物区画などで火災が発生した場合は、消防隊が助けに来てくれるまで固定設備を用いて火災の封じ込めに努めるのが最も安全な行動だと思えるかもしれません。そのためには、熱が広がらないよう周囲の区画を冷やすこともそうですが、こうした設備のメンテナンスと検査が大事になります。火災訓練を行って常に火災に備えておくことが大事な点は変わりませんが、船内でのリチウムイオンバッテリー火災については、消火よりも封じ込めを重視するという心構えにシフトする必要があるでしょう。ただし、法令で定められている火災訓練はどちらかと言えば汎用的な内容のため、実際に火災が起きた場合は、その状況に合わせた対応のしかたについて、乗組員が陸上の専門家からすぐにアドバイスをもらえるようにすることがおそらく必要になります。

 

規則上の問題点

 

リチウムイオンバッテリーに伴うリスクの制御にもいくつか問題点があります。例えば、(主に技術や環境的な要因により)リスク状況の変化に対策が追いついていないという点もその1つです。これが特に顕著なのが法による規制です。どのようなリスクがあるのかを調べ、それに対する規則を話し合って決定し、施行するまでには長い年月がかかるためです。

 

船舶に対する規則

 

2021年に開かれた国際海事機関(IMO)第103回海上安全委員会(MSC103)で、コンテナ船における火災の検知・封じ込め・防火能力を改善するため、SOLAS条約を改正することで審議がまとまりました。2028年以降、新造船の火災検知・防火に関する要件を修正することを目指したものです。

 

2026年以降に建造されるRORO旅客船の防火に関するSOLAS条約の改正案は、2023年6月に開かれるMSC 107で提出される予定です。改正案では、ウェザーデッキへの固定式火災検知・消火装置の設置と、全車両スペースの映像監視を義務づけています。

 

現時点で、電気自動車に特化した船舶防火要件は法令で定められていません。そこで、IMOに加盟しており、大規模な自動車生産拠点ともなっている一部の国々が、電気自動車や代替燃料自動車を輸送する船舶を想定して防火要件を見直すよう、IMOに提案書を提出しました。その中のある国が参考に提出した火災実験の報告書では、一斉散水装置のほか、高膨張泡消火装置が有効な対策として紹介されています。これを受けてIMOは、MSC 105で、電気自動車など新しい動力を用いる自動車の積載に対応できるよう、SOLAS条約の防火要件の見直しを検討していくことで合意しました。

 

RORO旅客船上での自動車の充電は、過度な充電によって熱暴走が起こるおそれがあるため、火災リスクが増加することになります。しかし現時点では、船上での充電は法律で規制されていないため、充電サービスを求める旅客の声は今後高まっていくでしょう。

 

貨物に対する規則

 

IMDGコードは、貨物の安全輸送の基準を定めた、ただでさえ複雑で厄介な規則です。条文を読み解くにはそれなりの能力と知識が求められます。常につきまとう問題が、隔年で行われるコード改正です。中でも特別条項は厄介です。荷送人が一部の貨物を危険物として申告することを逃れようと、この条項を用いることがあるためです。特別条項SP188は、リチウムイオンバッテリーを非危険物として輸送するための要件で、セルやバッテリーの重量や短絡保護措置を適用条件としていますが、この他にも条件があります。リチウムイオンバッテリーがもたらしうるリスクを考えると、IMDGコードにおけるこの貨物の分類(最もリスクが低い「Class 9 - Miscellaneous Dangerous Substances and Articles」)も適切でない、と基本的に考えられています。

 

また、特別条項SP961は、一定の条件を満たしていれば、車両・RORO区画に積載される電気自動車は基本的に危険物に該当しないと定めています(ただし、車両・RORO区画という条件があるため、コンテナに積載する場合は危険物となります)。こうした状況を受けて、IMO第8回貨物小委員会(CCC 8)は、特別条項の改正を唱えた加盟国からの議案を審議した結果、当該貨物の危険性に対処する法改正や対策を検討する通信部会を設置しました。

 

空輸とは異なり、現在、船舶でリチウムイオンバッテリーを輸送する場合の充電度については規制がありません。そこで、ある加盟国はIMOに対し、電気自動車のバッテリー充電度について30%を上限とする提案を行いました。

 

リチウムイオンバッテリーは損傷や欠陥があると、ショートするリスクが高まり、熱暴走を引き起こすおそれがあります。こうしたバッテリーは輸送すべきではありませんが、今後は、中古電気自動車で使われているバッテリーを含め、中古のバッテリーがさらに増えると思われます。規則を定めなければ、船社の中には輸送を禁止するところも出てくるでしょう。しかしそれでは、悪質な荷送人による嘘の申告を単に助長してしまうことになりかねません。

 

大容量の貯蔵能力を備えた可搬型のバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)は、サイズはさまざまで、コンテナサイズにすることも可能です。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを大量に貯蔵しておいて、必要なときに使用することができます。船級協会では、このBESSを船舶で輸送する場合のリスク評価に既に取りかかっています。

 

まとめ

 

リチウムイオンバッテリーの輸送は飛躍的に増えており、船社や保険者、業界団体、専門家は、目まぐるしく変化するリスク状況への対応を続けています。最も重要なのは、こうした関係者が連携してリスクへの理解を深め、リスク認識を高めて効果的なリスク管理法の共有に努めている点です。規則の変更には時間がかかるため、こうした取り組みは欠かせません。もちろん規則が果たす役割は大きいですが、先に挙げたようなガイダンスやカンファレンスは、規則が現状に追いつくまでの間、関係者が一丸となって自衛力を高めようとしているすばらしい例だと言えます。貨物を知り、顧客を知り、実施可能な対策を知ること。これがリスクを防ぐカギです。

 

物事が急速に変化する中、この先、リスク管理の強化に役立つような新しい技術もきっと登場するでしょう。理想は、そうした技術を搭載した設備やデバイスそのものが登場することです。そうすれば、バッテリー管理システムによって、船に積み込む前にバッテリーの有害反応を抑えやすくなったり、それが無理だとしても、船に積んでから問題が発生したときに通知を受け取れるようになったりするでしょう。船舶やコンテナに設置するセンサーや新しい消火媒体も、必要とされるのであれば、きっとさらに性能や効果がアップすることでしょう。とはいえ、サプライチェーンは船舶やその乗組員に問題解決を押しつけていてはいけません。こうした問題をさまざまな形で生み出してきたのは今の社会なのです。

 

参考資料/関連リンク

 

報告書

 

電気自動車の輸送に関する英国海事沿岸警備庁(MCA)のガイダンス:
MGN 653(M)RORO旅客船での電気自動車の輸送(英文のみ)

 

代替燃料自動車の輸送に関する欧州海事安全庁(EMSA)のガイダンス:
RORO区画での代替燃料自動車の輸送に関するガイダンス(英文のみ)

 

電気自動車のリチウムイオンバッテリー火災に伴う救急対応者の安全上のリスクに関する国家運輸安全委員会(NTSB)の報告書:電気自動車のリチウムイオンバッテリー火災に伴う救急対応者の安全上のリスク(英文のみ)

 

電気自動車の輸送に関する米国船級協会(ABS)のベストプラクティス:電気自動車の輸送に関するベストプラクティス(英文のみ)

 

米国沿岸警備隊(USCG)発行のSafety Alert

 

廃リチウムイオンバッテリーを違法積載したコンテナの火災:
米国コーストガードMarine Safety Alert - リチウムバッテリー火災(英文のみ)

 

海水侵入による電気自動車バッテリーの損傷:
米国コーストガードMarine Safety Alert - 海水侵入による電気自動車バッテリーの損傷(英文のみ)

 

研究

 

コンテナ貨物火災の安全リスク研究に基づき費用対効果の高い貨物火災リスク管理法を調べたEMSA Cargosafeプロジェクト:
コンテナ船の安全(英文のみ)

 

RORO船の火災リスクを大幅軽減することを目的とした国際研究プロジェクト「LASH FIRE」:
CFIS 2023(海上火災予防カンファレンス)(英文のみ)

 

フェリーの車両デッキに積まれた電気自動車のバッテリーから発生する火災の検知・消火に関してデンマーク消火技術研究所が行った実験:
フェリーにおける電気自動車バッテリー火災に関する新たな発見 (英文のみ)

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