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Gard 密航者に関するガイダンスの更新版をリリース / Gard releases updated Guidance on Stowaways (JP)

Gardは先日、密航者に関する総合ガイダンスの更新版を発行しました。密航者問題の概要、関連する規則、密航リスクの評価方法、港における密航防止策、船内に密航者がいた場合の人道的な対応などをまとめています。本ガイダンスの作成にあたって過去数年間の傾向を検証しましたので、今回はその結果をご紹介します。

事件の発生傾向と多発地域

 

国際P&Iグループ(IGP&I)では、密航者に関するデータを定期的に収集しています。各クラブで取り扱ったクレームを基に、密航事件の多発地域のほか、密航者の国籍や事件発生に伴い負担する平均費用を割り出しています。

 

このデータ収集はもともと、国際海事機関(IMO)の海事関係総合情報データベース(GISIS)に登録されている密航事件データを補足する目的で行っているものですが、IGP&Iで記録している事件数の方がGISISより多くなっているのは特筆すべきことでしょう。ただ、GISISのデータの方が数は少な目とはいっても、密航事件の多発地域や密航者の国籍に関して見られる傾向は、IGP&Iのデータで見られる傾向とほぼ変わりません。

 

IGP&IとIMO GISISの収集データ(2013~2022年)からは以下のような傾向が見られます。

 

事件の全体的な傾向(IGP&Iのデータ)

 

事件数および密航者数

 

 

事件および密航者にかかる費用

 

  • 密航事件数は、2007保険年度のデータ収集開始時の半分以下になりましたが、直近5年間は横ばいになっています。
  • 密航者の総数も減少傾向にありますが、事件数の減少ペースほどではありません。つまり、事件1件当たりの密航者の数が増えてきているのです。現在、1件当たりの密航者は平均約3人となっています。
  • 船主が国から科される罰金など、事件の発生に伴い負担する総費用(免責金額を除く)は減っていますが、1事件当たりおよび密航者1人当たりにかかる費用は増えています。また注意すべきは、船主が負担する費用がP&Iクラブが負担する費用より高くなっている点です。これは、免責金額があることに加えて、船主は保険でてん補されない費用を自分で負担しなければならない場合があるためです。

 

密航多発地域(乗船地別)(IMO GISISのデータ) 

 

  • アフリカ大陸は事件の総数は減っていますが、依然として密航者の乗船が最も多い地域となっています。
  • 欧州は2017年の統計で目立ち始め、それ以来、高止まりが続いています。

 

乗船地上位5か国(2018~2022年)(IMO GISISのデータ)

アフリカ大陸

ヨーロッパ大陸

 

  • アフリカ大陸南部の国々はこれまで密航事件の多発地域とされてきましたが、最近は減少傾向にあります。西部諸国も同様です。とはいえ、南アフリカのダーバン港のほか、ナイジェリアのラゴス港やギニアのコナクリ港、セネガルのダカール港など西部の港は、引き続き多発地域として警戒する必要があります。
  • アフリカ北部の多くの国々が、紛争や貧困から逃れて欧州に行こうとするアフリカ系やアラブ系住民の中継地点になっていることは有名な話で、モロッコのカサブランカ港やチュニジアのラデス/チュニス港をはじめ、北アフリカのマグレブ地方で密航事件が急増傾向にあります。
  • 欧州では、ギリシャとトルコからの密航が大半ですが、イギリス海峡に面しているフランスとベルギーの港でも多く発生しています。

 

密航を防ぐには、まずはリスク認識から

 

ガイダンスにも記載していますが、何より大切なのは、部外者を船に入れないようにすること、そして、許可を得て乗船した者を全員下船させてから出港することです。出入管理をきちんと行えるかは乗組員の肩にかかっているため、乗組員は本船の運航パターンが抱える密航リスクや、密航を防ぐための安全対策をしっかり把握しておく必要があります。密航者が乗り込んでしまうと、乗組員に大き

 

な負担がかかることになります。密航者の世話が必要になるため長時間労働を強いられる可能性があります。船長も、密航者の下船地や離路の要否、入港手配などについて関係各所と連絡を取り計画を立てることに時間を取られるでしょう。もちろん、安全面でも大きな懸念があります。ですから、「転ばぬ先の杖」で密航を防ぐことが重要なのです。

 

このガイダンスでは、船内で発見した密航者への対応の仕方についても詳しくアドバイスをしています。安全を考慮しつつ、密航者には十分な食料と水、そして必要であれば医療を提供するなど、人道的に対応しなければなりません。船が海上を航行する限り密航のリスクは常にあり、それは今後も変わりません。密航者の中には難民に該当する人もいれば、経済移民もいます。Gardは2023保険年度より、密航者に関連する費用てん補範囲を取り決めた第32条を改訂し、難民でも経済移民でも、密航によって発生した費用のてん補に関して区別をしないことを明確にしました。

 

このガイダンスは、ダウンロード可能なPDFオンライン版の両方でご利用いただけます。

 

 

 

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