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海賊行為の動向とハイリスク地域 / Piracy trends and high risk areas (JP)
こちらは、英文記事「Piracy trends and high risk areas」(2023年2月23日付)の和訳です。
2022年は前年に続いて世界的に海賊行為の数が減少しました。しかしそれにもかかわらず、シンガポール海峡における強盗事件の数は7年ぶりの高水準に達し、南米の港では停泊中の船舶に対する凶暴な襲撃事件が相次いでいます。
国際海事局海賊情報センター(IMB PRC)によると、昨年の世界の海賊行為・武装強盗事件数は前年を下回りました。IMB PRCの最新の年間報告によれば、昨年は襲撃事件の総数が前年比で13%減少しています。これは、主としてギニア湾海域における海賊行為が減少したことによるものです。また、この数値をより詳細に見ると、ペルー・カヤオ錨地の強盗報告事件が減少したことは歓迎すべきであるものの、南米の港で報告された事件の多くにおける乗組員への暴力行為の凶暴さが懸念事項となっています。シンガポール海峡での船舶に対する武装強盗件数が増加の一途をたどっていることも懸念材料であり、アジア海賊対策地域協力協定情報共有センター(ReCAAP ISC)の報告によれば、2022年のアジアでの事件総数は前年比で2%増加しました。
アフリカ
ギニア湾では、護衛艦の存在感が高まり、沿岸国の管轄当局が連携を強化したこともあって、同地域で報告される海賊行為の数は引き続き減少傾向をたどっています。昨年、同地域で報告された事件数は前年を46%下回り、2020年の4分の1まで減少しました。乗組員の誘拐も減少し、2021年の7件(57人)から昨年は1件(2人)まで減少しました。しかしIMB PRCは、このところ改善傾向にあるとはいえ、ギニア湾海域は依然として危険であることを強調しています。昨年、2隻の船舶がハイジャックされて乗組員29人が人質に取られ、別の1隻が航行中に発砲されたことは、この海域では罪のない乗組員たちに対する脅威が今も続いていることを示しています。
ナイジェリアでは昨年、誘拐事件が1件も報告されなかったため、ガーナとアンゴラが西アフリカ諸国における海賊事件報告件数の首位に浮上しました。昨年ギニア湾で起きた事件の3分の2以上は錨泊・着岸中に発生しており、ガーナ・タコラディ錨地とアンゴラ・ルアンダ錨地はIMB PRCの「2022年に事件が3件以上発生した港・錨地」一覧に掲載されています。南アフリカとエジプトが6年以上ぶりにIMB PRCの年間報告に登場したことも注目すべき点です。
ここ数年、ソマリア海賊による襲撃が発生していないことを受けて、今年1月にはインド洋のハイリスク海域(HRA)が撤廃されました。とはいえ、ソマリア海賊は依然としてアデン湾地域での攻撃実行能力を保有しているため、IMB PRCは船長らに警戒を怠らないよう呼びかけています。同様に、海運業界がHRAの撤廃を公式に発表したことは、引き続き脅威とリスクの評価を徹底的に行うこと、およびこれらの海域を通過する際は業界のベストマネジメントプラクティス(BMP)を遵守することの重要性を浮き彫りにしています。英国海軍商船隊司令部(UKMTO)が管理するインド洋の自主通報海域(VRA)は依然として有効であり、当海域に入域する船舶はBMPに従ってUKMTOに報告し、アフリカの角海事安全センター(MSCHOA)に登録することが推奨されます。
アジア
ReCAAP ISCによると、アジアでは昨年、84件の事件が報告されています(2021年は82件)。南シナ海で漁船が犯人に接近された1件を除くすべての事例が武装強盗/軽窃盗事件に分類されており、シンガポール海峡は引き続きアジアにおける主要な懸念地域となっています。
シンガポール海峡での事件は毎年増加傾向にあり、昨年は55件の報告がありました(2021年は49件)。その大半は夜間に当海峡の東向き航路で発生しており、ばら積み船が一番の標的となっています。事件の大部分は低レベルの場当たり的な窃盗と報告されており、乗組員が負傷した事例はほとんどありませんでしたが、犯人がナイフその他の武器で乗組員を脅迫することは珍しくありません。昨年報告された事件の1つでは、乗組員1人が船に乗り込んできた犯人に足を撃たれ、重傷を負いました。当海峡では今年も事件の多発が予想されます。今年1月1日~2月20日の間に、当海峡を通航中の船舶を狙った事件が既に10件報告されており、ReCAAP ISCは当海峡を通過する船舶に対し、高度な警戒を維持するよう呼びかけています。
一方、明るい話題もあります。2020年1月以降、スールー海・セレベス海とサバ州東部地域では身代金目的の乗組員の誘拐事件は1件も報告されておらず、フィリピン沿岸警備隊(PCG)は当地域に関する脅威レベルを「潜在的な高レベル(POTENTIALLY HIGH)」から「中レベル(MODERATE)」に引き下げました。PCGの順位における中レベルの脅威とは、「事件が発生する可能性はあるものの、深刻性は比較的低い」ことを意味します。ReCAAP ISCはこれを受けてアドバイザリーを更新し、「自身の権限に基づき、当地域の迂回を選択肢として検討する」よう全船舶に促しました。それでも当地域を通過する船長や乗組員は、警戒レベルを引き上げ、すべての事件を直ちにフィリピン指令センターおよびマレーシアのサバ州東部セキュリティ司令部(ESSCOM)に報告することが強く推奨されています。
南北アメリカ
中南米・カリブ海地域では昨年、海賊行為・武装強盗事件が計24件発生しましたが、喜ばしいことに、IMB PRCの5年間の統計は改善傾向を示しています。これは、昨年ペルー・カヤオ錨地で報告された事件数が前年を33%下回ったことなどによるものです。
しかしペルー・カヤオ錨地とブラジル・マカパ錨地を中心とする中南米・カリブ海地域の港では引き続き武装強盗犯罪が発生しており、犯人は武装し、凶暴である傾向にあります。IMB PRCによると、この地域における昨年の乗組員の被害は人質が7名、暴行が6名、脅迫が6名となっており、乗組員にとって極めてリスクが高い地域となっています。またIMB PRCは、昨年、当地域で報告された事件の大半が夜間に停泊中の船舶を狙ったものであることも指摘しています。
引き続き警戒を
海賊行為・武装強盗の脅威の度合い、犯罪者と遭遇する確率、犯罪者の手口は、地域によって異なるうえ、頻繁に変わる可能性もあります。そのため、海賊の多発地域に入る前に、現地の情報源や保安専門家から最新の情報を取得し、その情報に基づいて船舶の保安計画を見直すこと、航海ごとにリスクを評価すること、乗組員へのブリーフィングと訓練を行うこと、本船の緊急時通信計画の準備・テストをすることが重要となります。業界で発行しているガイダンスやベストマネジメントプラクティ
ス(BMP)に従って適切な防止策を講じる必要があります。海賊多発地域を航行する際、業界のこうしたベストプラクティスに従っていないと、深刻な事態が生じることにもなりかねません。
錨泊時は特に被害に遭いやすいため、リスクの高い港・錨地で停泊する際は、監視をより一層強化する必要があります。なお、適切な見張りは船舶を守る効果が特に高い方法とされています。見張りを適切に行うことで、不審な船の接近や不審な攻撃を早期に発見でき、防御体制を取ることができます。
詳しくは、Gardのウェブサイト「海上での海賊行為と武装強盗」をご参照ください。