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米国のVGPとVIDA : 2023年以降の対応に関して運航者が知っておくべきこと / US VGP and VIDA: What ship operators need to know for 2023 and onwards (JP)
米国環境保護庁(EPA)はこのたび、船舶からの排水に関する新たな連邦基準を2024年秋に公布することを明らかにしました。当初の期限より約4年遅れとなります。その一方でEPAは、適用期間が延長されたVessel General Permit制度の順守を徹底するため、検査や取り締まりを強化していると見られ、違反した場合は多額の罰金を科すこともあると注意を呼びかけています。
規制スケジュール
米国は2018年12月、船舶からの排水に関する法律(Vessel Incidental Discharge Act [VIDA])を成立させました。Vessel General Permit(VGP)制度に取って代わる排出基準を策定し、現在商船業界において連邦、州、地方でつぎはぎ状態に適用されている要求事項を整備することが目的です。このVIDAの成立により、環境保護庁(EPA)には国としての新しい船舶排出基準を策定するために2年間の猶予が、そして米国コーストガード(USCG)には、その基準を実施、取り締まるための規則や最適な運用方法を策定するために、さらに2年間の猶予が与えられました。
また、EPAとUSCGが最終的な規則を公布するまでは、その公布までの期間にかかわらず2013 VGPが引き続き適用され、その間はVGPの内容を変更しないことも定められました。
EPAは2020年10月、規制制定案告示(notice of proposed rulemaking)を公表しましたが、新しい排出基準の最終的な形はまだ明らかになっていないため、VGPに完全に取って代わる制度が施行されるまでにはまだしばらく時間がかかると言えるでしょう。EPAが先日ウェブサイトで発表した声明によると、新しい排出基準の最終的な形は2024年秋に完成見込みとのことです。したがって、USCGがその基準に対応する取り締まり規則の策定に2年の猶予期間を丸々使った場合、現行の2013 VGPは2026年まで適用されることになるでしょう。
EPA、VGP取り締まりを強化
国としての新しい排出基準の実施が遅れているからといって、EPAが排出を大目に見る、規制をしない、というわけではありません。むしろその逆で、適用期間が延長されたVGP制度順守を徹底するため、EPAは検査や取り締まりを強化していると見られ、違反した場合は多額の罰金を科すこともあると注意を呼びかけています。
少し前にはGardのあるメンバーが、加入船3隻がVGP制度で定められた検査・報告要件に違反したとEPAから通知を受けています。EPAいわく、これらの船舶は、排出許可を維持するために求められている年次報告書の作成も、違反内容とそれに対する是正措置の記録も行っていなかったとのことです。このメンバーにどのような処置が下されるかはまだ分かっていませんが、最近もVGP制度に関して同様の違反があったとして多額の罰金が科されたケースが実際にありました。
例えば、2021年11月にEPAは、2隻の商船がVGPで定める検査・監視・報告義務に違反したとして計81,474米ドルの罰金を科したと公表しました。あるコンテナ船は2016~2019年にかけて、定期的な目視検査を行わず、年次報告書を期限までに提出しなかったとして、66,474米ドルの罰金を科されています。また、あるばら積み船は、バラスト水処理装置の月例機能試験と年次較正を行わずにVGP適用海域にバラスト水を排出し、また、排出中に採取したバラスト水のサンプルについて制度で求められている生物学的検査を行わなかったとして、計15,000米ドルの罰金を科されています。EPAは「排出許可を守らない船舶は、米国内の航路において環境に多大な悪影響を与えるおそれがある」とし、「VGP制度は船舶が自己による検査・報告を行う前提となっていることから、こうした違反はVGP制度を揺るがすものとして非常に重大視される」とも述べています。
VGP規則を守るには、従いやすい手順にすることが重要
VGP制度のような規則に違反した場合の罰金は一般的にP&I保険のてん補対象になりませんが、せっかくですのでこの場を借りて、EPAのVGP制度の取り締まり体制にどのような変化が見られるかお伝えしておきたいと思います。EPAの取り締まり調査は頻度と細かさが増し、違反した場合の罰金額も高くなっています。
そのため、米国に配船している運航者は自社のVGP順守体制を見直し、欠点があれば対処しておくことをお勧めします。VGP制度では、運航者と船長が評価と報告を自ら行うことが求められます。検査官が乗船して規則の順守状況を確認する従来のポートステートコントロールとは、この点が若干異なります。そのため、制度で定められている日常的な検査や年次検査の実行手順、監視やサンプリングの実行手順については、船内で常に確認できるようにするとともに、乗組員が従いやすい形にすることが重要です。また手順では、違反をして是正措置を講じた場合の記録を取っておくことの重要性も強調しておかなければなりません。違反があっても報告しなければ、それは実質、二重の違反になってしまいます。そもそも要件に従わなかったことが違反に当たるのに、それを報告しないという違反も犯すことになるからです。
モニタリングデータを含めた年次報告書を暦年ごとに作成し、翌年の2月28日までにEPAに提出する必要があることも忘れないでください。
米国における商船の排出基準の概要
米国領海への汚染物質の排出規制の基本構造は、1972年の水質浄化法(Clean Water Act [CWA])で定められており、許可を取得しない限り、特定汚染源から領海に汚染物質を排出することは違法とされています。特定汚染源には、汚染物質を排出する、または排出する可能性がある船舶などの浮遊機器も含まれます。
さまざまな排出物が、EPAの全国汚染物質排出削減制度(National Pollutant Discharge Elimination System [NPDES])の許可プログラムの対象となっており、排出限度や監視・報告要件のほか、排出物によって水質や人体に害を及ぼさないようにするための規定が定められています。
Vessel General Permit(VGP)では2008年より、全長79フィート以上の商船の通常の運航に伴う汚染物質の排出を、全国でNPDES許可制度の対象としています。現在適用されている2013 VGPは本来、2018年に適用終了の予定でしたが、その前にVIDAが成立したのです。
船舶からの排水に関する法律(VIDA)はCWAを改訂し、商船の運航に伴う米国領海内への汚染物質の排出について、EPAとUSCGによる規制の仕組みを改めるものです。具体的には、EPAが船舶からの汚染物質の排出基準を策定する責任を負い、USCGがその基準を命じ、施行し、取り締まる責任を負うことになります。この手続きには時間がかかっており、完了見込みは2026年となっていることから、それまでは以下の暫定要件が引き続き適用されます。
- 全長79フィート以上の大型商船(ただし漁船を除く):2013 VGPおよびUSCGバラスト水規則を通して制定された現行の船舶排出要件、ならびにそれに該当する州政府および地方政府が定める要件。
- 全長79フィート未満の小型船舶および全ての漁船:2013 VGPおよびUSCGバラスト水規則を通して制定された、バラスト水のみに関する現行の船舶排出要件、ならびにそれに該当する州政府および地方政府が定める要件。