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CII制度に対応するうえでの課題 -「協力」こそがカギ / The challenges of CII compliance – Cooperation is key (JP)
こちらは、英文記事「The challenges of CII compliance – Cooperation is key」(2022年11月25日付)の和訳です。
国際海事機関(IMO)のCarbon Intensity Indicator [CII]格付け制度が来年から発効します。これは、CO2排出の面から船舶の運航効率を評価することを目的とした制度です。この制度によって、船主と定期傭船者の従来の責任区分が変わり、船舶の運航方法も大きく変わる可能性があります。
船主と傭船者が協力してこの制度に対応していくためには、今後生じる課題をまず理解するところから始めましょう。この記事では、CII制度の主なポイントについて見ていきます。関連記事「BIMCOの定期傭船契約用CII条項の解説」では、新たに発表されたCII条項について解説しています。この条項は、船舶運航に関する制度であるCII制度に、船主と定期傭船者が契約面で協力しながらうまく対応していけるようにすることを目指したものです。
CII制度
CII格付け制度とは、IMOが策定した格付け制度です。総トン数(GT)5,000トン以上の貨物船、RO-PAX船、クルーズ船すべてを対象に、2023年より毎年1年間の船舶運航に伴うCII実績値を格付け評価します。船種/サイズごとに2019年のCII平均値が参考線として用いられます。制度の主なポイントは以下のとおりです。
- CII格付け:各船舶はCII実績値を基に、「A」~「E」の5段階で格付けされます。Eが最低評価です。実績値の計算は、2018年より施行されているIMOデータ収集制度(Data Collection System [DCS])に従って各船舶から報告された燃料消費実績データを基に行います。

- 「D」または「E」評価だった場合の対応:格付け結果が「3年連続D」または「E」となった船舶は、「C」評価を獲得するための対策をまとめた改善計画を船舶エネルギー効率管理計画書(Ship energy Efficiency Management Plan [SEEMP])Part IIIに記載し、旗国主管庁または代行検査機関(RO)である船級協会の確認を受ける必要があります。そして、確認を受けた計画は船上で実行しなければなりません。
- 補正係数と航海調整:IMOは、CII実績値(Attained CII)を計算する際は各種補正係数や航海調整を考慮してもよいとしています。船舶の安全確保や海上での人命救助を目的としたやむをえない排出、瀬取り(STS)航海に伴う燃料消費、冷凍コンテナ/貨物冷却/ガス船の再液化装置で使用する電力の発電に伴う燃料消費、貨物加熱に伴う燃料消費などがこれにあたります。こうした調整事項をさらに追加すべきであるかは検討途中です。
- CII値の段階的な削減:IMOはCII値の継続的な改善を目指しており、CII基準値を毎年2%ずつ下げていくという段階的なアプローチを採用しています。そのため、船主/管理会社は炭素排出強度の改善に継続的に取り組まなければなりません。現状維持のままでは格付けが下がっていってしまうからです。
載貨重量(DWT)が62,000トンのばら積み船を例に考えてみましょう。この船の2023年のCII値が5.50 g CO2/t-nmだったとすると、格付けは「D」となります。しかし、翌年の2024年も管理や運航方法に改善や変更がなく、その結果、CII値が前年と同じ5.50 g CO2/t-nmだったとすると、その年の格付けは「E」となります。この2年間でこの船舶のCII基準値(Required CII)が下がっているため、降格してしまうのです。
- 船舶エネルギー効率管理計画書(SEEMP)Part III:CII制度の対象となる船舶はそれぞれのSEEMP Part IIIに、「CIIの計算方法」、「2026年までのCII基準値(Required CII)」、「CII基準値を達成するための実施計画」、「自己評価および改善に関する手順」などの情報を記載しなければなりません。なお、各船舶にはすでに、エネルギー効率の改善に関するSEEMP Part I、燃料消費量データの収集および報告に関する手順を記載したPart IIが備え置かれているはずです。Part IとPart IIに関する規則は2018年に発効しています。
- 良好なCIIを保持する船舶へのインセンティブ:IMOは主管庁や港湾当局に対し、「A」や「B」の格付けを獲得した船舶にインセンティブを与えるよう促しています。ただ、どのような形で与えるべきか具体的な方針は特に打ち出していません。格付けに応じてこうしたインセンティブ制度を導入している当局はまだ出てきていませんが、今後出てくることを予期しています。
CIIを左右する要素
船舶のCII値がどのような要素によって左右されるのか理解するためには、CIIを算出する式を簡略化して見る必要があります。CIIは年間効率化比率(Annual Efficiency Ratio [AER])から導き出します。つまり、実際の輸送貨物量ではなく、船舶の載貨重量がベースとなるのです。実際の輸送貨物量をベースとする場合には、エネルギー効率運航指標(Energy Efficiency Operational Indicator [EEOI])という指標があります。
上の式が示すように、CII値の計算には燃料消費量とあらかじめ定められた炭素排出係数を用います。エンジンの排気口で排出量を直接計測するわけではありません。また、船内でCO2を回収しても加味されません。分子が小さいほど、また分母が大きいほど、CIIの値は小さくなります。まず分子の方ですが、CII格付けで高評価につながる要因として以下のようなものが挙げられます。
- 減速航海。これは燃料消費量の削減につながります。年間の航海距離が若干減ることにはなりますが、それ以上に燃料節約の方が効果が大きくなるでしょう。同様に「ジャストインタイム」のような考え方は排出量削減によい効果が期待できます。
- エネルギー効率を上げる技術の導入、風力の使用、水の摩擦抵抗の軽減、機器の最適な運用などによって燃料消費量を減らす。
- CO2排出係数の低い燃料を使用する。
一方、分母に関しては載貨重量(DWT)やGTは決まっているので、変えられる要素は航海距離だけです。港の中や錨地などでの停泊時間が長くなればなるほど、条件としては悪くなります。航海中に機器の故障が頻繁に起きても、同じように格付けにとっては悪影響となります。DWTやGTが決まっているため、輸送貨物の量を減らすかバラスト航海を増やせば、CII格付けが上がるという結果になるでしょう(燃料消費量が減るため)。
これについて、姉妹船である「Vessel 1」と「Vessel 2」の2隻の船を例に説明します。2隻の船のCII計算値は以下のとおりです。
これを見てもお分かりのように、2隻の船は同型船にもかかわらず格付けが異なるケースがあるのです。この例では「Vessel 1」の方が高い格付けを獲得しました。これにはさまざまな理由が考えられますが、たとえば以下の図に示したようなものがあります。理解しやすいよう、計算式と関連づけて紹介しています。また、各要因を大きく左右すると思われる関係者も併せて示しました。
重要なポイント
- カギを握るのは乗組員:乗組員の役割を見過ごしてはなりません。燃費改善に取り組むのは乗組員たちだからです。ただし、あらゆる面で陸上からのサポートや手引き、訓練提供が必要となります。ある試算では、IMOが掲げる脱炭素化の目標を達成するには、新しい燃料や技術への移行に対応できるよう30万人の船員のスキルアップが必要になり、2050年までにネットゼロ排出を達成するには、80万人の船員のスキルアップが必要になるとのことです。
- 継続的な評価:本船のCII値については、船主と傭船者の両者が常に気にかけておく必要があります。目標としているCII格付けを達成するためには、実績値を常に計測し続けなければなりません。それと同じ理由で、航海についても、開始前に排出量を計算しておく必要があるでしょう。
- 協力と透明性:船主と傭船者がデータを包み隠さず共有すること。協力して船舶を最適な形で運航すること。CII値を減らし高い格付けを獲得するには、この2点がカギを握ります。両者が互いの行動や期待に歩調を合わせることが重要です。
- CII削減のために講じた対策を記録:CII合意値(Agreed CII)を達成するために年間を通してどのような対策を講じたのか、船主と傭船者の両者がそれを示すことが不可欠です。
- バランス:船主と傭船者は今後、柔軟性と確実性のバランスを取っていく必要があり、このバランスをうまく取れるよう、契約交渉中も相当の注意を尽くさなければなりません。ボルチック国際海運協議会(BIMCO)は先日、定期傭船契約用CII条項を発表しました。これは、燃費実績削減目標を達成するために、両者の協力とデータ共有を促そうという狙いで作成した契約枠組みです。このCII条項に関するInsight記事はこちらからご覧ください。