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シャチ保護のため、北米西岸沖の航行時は減速を / Slow down for killer whales off the North American west coast (Japanese)
絶滅の危機にあるシャチ「サザンレジデント・キラーホエールズ」の個体数を回復させるため、カナダのバンクーバーや米国のシアトルなどセイリッシュ海(Salish Sea)沿岸の港に寄港する商船は、このシャチの季節的な生息地とされている同海域を航行する場合や、航路上でシャチを見かけた場合に、減速航行が呼びかけられています。
こちらは、英文記事「Slow down for killer whales off the North American west coast」(2022年9月2日付)の和訳です。
セイリッシュ海は、カナダのブリティッシュコロンビア州と米国のワシントン州にまたがる太平洋の縁海で、サザンレジデント・キラーホエールと呼ばれるシャチの固有個体群の生息地となっています。現在の個体数はわずか70~75頭で、カナダ・米国の両国で絶滅危惧種に指定されています。両国政府は、船舶が発する音や船舶の海域への侵入がシャチにもたらす悪影響を抑えるため、さまざまな対策を講じています。とりわけ騒音は、シャチの狩りや移動の能力、反響定位を用いた伝達能力に支障を来たすため、対策が必要とされているのです。
対策の具体的な内容は、一定の距離を確保する、一時的な禁漁区域を設ける、区域ごとに漁場を閉鎖する、季節に応じて減速区域を設けるといったもので、サイズや推進方法にかかわらず、原則すべての船舶に適用されます。ただし、航行中の大型商船の内、分離通航方式(TSS)に従っている、もしくは船舶通航業務(VTS)の指示に従っている船舶は基本的に適用対象外となるため、こうした対策の影響を受けるのは、この海域を運航する小型船舶やボートが大半となるでしょう。また、遭難船や、人身・船体・環境に差し迫る深刻な脅威を回避するための操船が必要な船舶も対象外となります。それでもやはり、当該海域の港に配船している運航会社やその船舶の船長の皆さまには、こうした対策の内容や適用期間、例外となる対象船舶や対象者を詳しく把握しておいていただきたいと思います。
- カナダにおける規制内容:ブリティッシュコロンビア州南部海域におけるシャチ(オルキヌス・オルカ)の保護に関する、カナダ運輸省発行の『Ship Safety Bulletin No. 15/2022(船舶の安全に関する公報No.15/2022)』をご参照ください。
- 米国における規制内容:連邦規則集第50編第II章C節(海獣)をご参照ください。サザンレジデント・キラーホエールに関する米国海洋大気庁(NOAA)海洋漁業局のリソースページも役立つでしょう。
商船を対象とした任意減速プログラム
セイリッシュ海において大型商船がサザンレジデント・キラーホエールにもたらす騒音の影響を抑えようと、以下のような任意プログラムが実施されているため、船長はこちらも留意しておいてください。
- 米国のQuiet Soundプログラム
- カナダのEnhancing Cetacean Habitat and Observation(ECHO)プログラム
これらのプログラムでは、セイリッシュ海域に出入りする航路を通航する商船に対して、運用中の「シャチ報告警戒システム」を使用するよう求めています。また、シャチの目撃情報が寄せられた場合には、減速や停止、見張りを立てるなど、人とシャチ双方にとって安全な対策を講じるよう求めています。カナダのECHOプログラムでは、6月~10、11月にかけて減速運航が推奨されるシャチの生息地3か所を定めており、その情報を詳しく紹介しています。本稿の執筆時点で、Quiet Soundもワシントン州の海域において、一部の季節に任意減速区域を試験的に設けることを現在検討しているところです。
この場を借りて、米国・カナダ東岸を運航する船舶の船長・船員の皆さまも、同じく絶滅危惧種であるタイヘイヨウセミクジラに十分に気を配り、報告義務と速度制限規定が施行されている場合はそれに従うよう改めてお願いいたします。