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中国・渤海海峡の安全航路を把握していますか? / Do you know the safe passages through the Bohai Strait in China? (Japanese HTML)

中国の渤海(Bohai)海峡は渤海の唯一の出入口です。近年、この渤海海峡で航行制限区域を通航したとして、船舶が当局から罰金を科されたという報告が頻繁に寄せられています。

こちらは、英文記事「Do you know the safe passages through the Bohai Strait in China?」(2022年7月21日付)の和訳です。

また、航行制限区域を通航中に養殖施設や漁網に接触する事故も多発しています。渤海の港に寄港する船舶の船長およびメンバーの皆さまにおかれましては、罰金や漁業関係のクレームを受けないよう、通峡時の安全航路をよく把握しておくようにしてください。

出典:ロイズリストインテリジェンス - 通航データ(2017~2021)、HiFleet - 海図画像
 

ケーススタディ

 

2022年3月、Gard加入の貨物船が天津(Tianjin)を出港後、外地に向けて渤海を航行していた。老鉄山水道(Laotieshan Channel)への到着前、当直航海士が大連(Dalian)の船舶通航業務(VTS)からVHFで連絡を受け、当該海域で軍事演習を実施しているため同水道の分離通航帯(TSS)が一時閉鎖中であると告げられる。そこで、ブリッジにいた船長は他の航路を検討し、大欽島(Daqin Dao)と砣磯島(Tuoji Dao)の間を通航することにした。本船は航路を調整し、以下の地図に示した北砣磯水道(Beituoji Waterway)を通航。しかし翌日、中国海事局(MSA)から連絡を受け、航行制限区域を通航したため、中国海上交通安全法に違反したと告げられてしまった。

出典:HiFleet - 加入船の渤海海峡入出峡時の航跡

罰金額

 

中国MSAは、本船が航行制限区域を通航し法律に違反したとして、それぞれ以下の罰金を科しました。

 

船主に対して4万人民元(6,000米ドル)

船長に対して8,000人民元(1,200米ドル)

当直航海士に対して6,000人民元(900米ドル)

 

また、通航中に養殖施設や漁網に接触したため、関係者からクレームを受けるおそれがあるとの警告もありましたが、幸い今のところ、そのようなクレームは届いていません。

 

 

通航データ

 

渤海海峡は渤海の唯一の出入口です。海峡の中央部から南部には廟島群島(Miaodao Archipelago)が広がり、いくつもの水道に分かれています。海峡には北から南にかけて、老鉄山水道、大欽水道(Daqin Waterway)、小欽水道(Xiaoqin Waterway)、北砣磯水道、南砣磯水道(Nantuoji Waterway)、長山水道(Changshan Waterway)、登州水道(Dengzhou Waterway)などがあります。煙台(Yantai)MSAの情報では、違反の大半は、上記のケーススタディと同じく、廟島群島の北砣磯水道の通航に関するものです。また、ロイズリストインテリジェンスの調べでは、2017~2021年の期間中、同水道だけで、総トン(GT)数3,000トンを超える船舶(船種を問わない)の通航が125件にのぼりました。その内訳は以下のとおりです。

 

  • 外国船が全体の94%を占める。
  • 58%がバルク船、27%が各種タンカー。
  • 45%が全長(LOA)199メートル超。2017年には、LOAが400メートルのフルコンテナ船が通航。
  • 12%がGardの加入船。

 

渤海海峡を安全に通航するには

航海用刊行物に記載の情報を確認

 

  • 紙海図:英国海軍(British Admiralty [BA])海図(BA1206など)には注意事項として、渤海海峡では老鉄山水道、長山水道、および廟島海峡(Miaodao Haixia)(登州水道)のみ通航可能と記載されています。また、廟島海峡(登州水道)は200GT以下の船舶に限り通航可能であることにも注意が必要です。
  • ECDIS下のスクリーンショットはECDISに通常表示される注意事項で、次のように書かれています。「廟島群島では、長山水道および廟島海峡(登州水道)を除いて通航禁止。廟島海峡は200GT以下の船舶に限り通航可能」

ECDISに通常表示される注意事項
  • Admiralty水路誌(Admiralty Sailing Directions [ASD]NP32Bには、外航船は老鉄山水道、長山水道、および廟島海峡(登州水道)(200GT以下の船舶に限る)の3つの水道のみ通航可能と記載されています。

 

その他の海上安全情報を確認

 

山東(Shandong)MSAでは、商船による通航違反が多発していることを受けて、航行警報(NW)と水路通報(NTM)をこれまで度々発行してきました。2017年にはNW SD0434とNTM No. 068を、2020年にはNTM No. 0519を、2022年にはNW SD0088を発行しており、今年3月14日に発行したばかりの警報でも以下のように記しています。

 

「渤海海峡の廟島群島、北磯水道は閉鎖。

 

通航禁止。

 

中国・山東MSA

 

 

なぜ違反が頻発するのか

 

  1. 外国船の乗組員が、廟島群島の海域に航行制限区域があることをきちんと把握できていないため。統計によると、2017~2021年の期間中、北砣磯水道を通航した船舶の94%が外国船で、中国船は6%でした。しかも統計には救助船や訓練船といった通航が認められている船舶も含まれているため、中国船による実際の違反件数はこれよりもっと少ないと考えられます。  
  2. 電子海図には注意事項が紙海図ほど明確に表示されないため。現在は、紙海図の代わりにECDISを2台装備している商船も多くなっていますが、ECDISを使用する際は、画面に表示される情報に疑問を持ち、詳しく調べることが必要です。注意事項などの安全情報は紙海図と比べて入手に手間がかかる場合もあり、何度かクリックしてサブメニューを呼び出さないと情報を取得できないこともあります。  
  3. 航海用刊行物に記載されている各水道が、一部の船員には理解しにくい名称になっているため。海上安全情報で使われている地名の多くは、現地の文化を尊重する意味合いや、現地刊行物の情報との整合性を尊重する意味合いから、翻訳ではなく中国語のローマ字表記で記載されており、外国の船員には分かりづらい場合があります。例えば航海用刊行物では、Straitの代わりにHaixia(Bohai Haixiaなど)、ChannelやWaterwayの代わりにShuidao(Laotieshan Shuidaoなど)、Archipelagoの代わりにQundao(Miaodao Qundaoなど)といった表記になっているケースがかなり多く見られます。
  4. 渤海や黄海北部で軍事活動中の海域がある場合に、その海域を避けようとして別の航路を選ぶ船舶がいるため。先ほど見たケーススタディでも、大連VTSからの情報を受けて本船は航路を調整していました。渤海や黄海北部では軍事訓練や軍事演習が頻繁に行われており、通常は、当該海域に入らないよう警告する水路通報がMSAから商船宛てに出されます。その場合、船舶は、当該海域への進入や滞船・遅延のおそれを回避するべく、普段は通らないような別の航路を通ろうとするかもしれません。しかし、老鉄山TSSは大連VTSの管轄内にあり、廟島群島の海域は煙台MSAが管理しているため、航路の調整や選択が必要な場合でも、関係VTSからしっかりとしたサポートや確認をなかなか受けられない可能性があります。
  5. 老鉄山水道や長山水道に漁船が輻輳しており、航行時に航路調整が必要になる場合があるため。渤海海峡と黄海北部では漁の期間中、漁船が多数活動しており、過去には、老鉄山水道や長山水道で商船と漁船の衝突事故も度々発生しています。2020年に老鉄山水道で発生した事故では、漁船が沈没して乗組員10名全員が亡くなっています。そのため、老鉄山水道や長山水道の通航を予定していたものの、漁船の航行数増加が見込まれる場合には、「代替」航路を探すことがあります。
  6. 適切な海上安全情報を乗組員が入手しにくい場合があるため。中国MSAは、航行警報は中国語と英語で発行していますが、水路通報については中国語のみとなっています。また、中国海軍水路部(CNHO)が採用している情報には、航行警報や水路通報がすべて盛り込まれているわけではありません。英国水路部(UKHO)は、水路通報を含めCNHOの刊行物を参考に情報を更新しているので、もし中国MSAが発表した海上安全情報をCNHOが採用しなければ、BA海図に頼っている船舶は航海に関する重大な情報をUKHOから受け取れない可能性もあります。

 

違反するとどうなるのか

 

罰金が科される

 

中国の海上交通安全法によると、法律に違反した場合はMSAによる処分を受けることになります。同法第44条では、「船舶は、法律に違反して航行制限区域に入域または同区域を通過してはならない」、また第103(7)条では、「法律に違反して航行制限区域に入域または同区域を通過した船舶に対して、罰金を科す」とそれぞれ定めています。そのため、違反した船舶は、MSAの指示のもと是正措置を講じた上で、次の処分を受けることになります。

 

  • 違反船舶の船主、運航者または管理者には、2万人民元(3,000米ドル)以上、20万人民元(3万米ドル)以下の罰金が科されます。
  • 違反船舶の船長および運航の責任者である乗組員には、1人あたり2,000人民元(300米ドル)以上、2万人民元(3,000米ドル)以下の罰金、および312か月間の海技免状(Certificate of Competency [COC])停止処分が科されます。
  • 悪質な場合には、違反船舶の船長および運航の責任者である乗組員は、COCが取り消されます。

 

ただし、免状の停止や取消措置の適用対象は、中国MSAが発行したCOCや承認証書(Certificate of Endorsement [COE])に限られます。

 


航海中に起こりうる事故

 

接触事故

 

廟島群島に暮らす人々にとって、漁業と養殖業は古くから重要な生計手段となってきました。航行が禁止されている水道には漁網や養殖施設が設置されているため、船舶が航行した場合に接触事故も起こりやすくなります。

 

座礁

 

廟島群島の水道は長年、軍事活動のために商船の航行が禁止されています。そのため、航海用刊行物に記されているこの海域の測量データは正確性や信頼性に欠けている可能性があります。例えば、MSAの情報でも強調されていますが、北砣磯水道には浅瀬があるため、船舶、中でも大型船舶の航行には危険な場所となっています。

 

推奨事項

 

  • 中国北部・渤海沿岸諸港に寄港する船舶の船長には、以下の点を推奨いたします。
    • 200GTを超える船舶が渤海海峡を通航する場合、安全航路は老鉄山水道と長山水道の2つであることをきちんと認識しておく。老鉄山水道長山水道はいずれも、調査が正しく行われており、各VTSの監督下にあります。
    • 滞船や遅延が発生した場合の計画を立て、予定していた水道が一時的に通航できない場合に備えて、代替航路として別の水道の利用も検討しておく。
    • 航海計画を立てる際は、紙海図や電子海図、ASDなどの航海用刊行物、MSA発行の航行警報や水路通報の最新版を参照し、渤海海峡の通航計画に注意事項を加えるとともに、ECDISでユーザーマップを作成し、航行制限区域があることを当直航海士に注意喚起する。
  • 渤海諸港に配船するメンバーには、以下の点を推奨いたします。
    • 渤海海峡の安全航路について、また、法律に違反した場合に受ける処分について、全船舶にサーキュラーを送り乗組員の啓発を図る。
    • 航行制限区域に進入しないような適切な航海計画を立てるために、デューデリジェンスを実施し、航海用刊行物や船舶代理店、中国MSAから安全通航に関する必要な情報を漏らさず収集するよう乗組員に注意喚起する。

 

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