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水先人用乗下船設備に関するガイドラインの更新 / Updated guidance on pilot transfer arrangements (Japanese HTML)
国際海運会議所(ICS)と国際水先人協会(IMPA)は先頃、水先人用乗下船設備の安全性の向上を図るべく、『Shipping Industry Guidance on Pilot Transfer Arrangements(水先人用乗下船設備に関する業界ガイドライン)』の更新版を発表しました。
こちらは、英文記事「Updated guidance on pilot transfer arrangements」(2022年2月14日付)の和訳です。
水先人の乗下船は危険を伴う作業です。事故が起きれば、重傷を負ったり、亡くなったりしてしまうこともあります。水先人用乗下船設備については、これまでICSとIMPA発行の『水先人用乗下船設備に関する業界ガイドライン』が主に活用されており、今年1月には第3版が発表されました。今回は、この度の改訂で新たに盛り込まれた点をご紹介するとともに、IMPAが昨年実施したパイロットラダーの安全性に関する調査の結果について簡単に見ていきます。
第3版に新たに盛り込まれた点
『水先人用乗下船設備に関する業界ガイドライン』の最新版では、コンビネーションラダーに関するセクションを新たに設け、トラップドアの開口部の最小サイズや設置方法について取り上げています。
トラップドアとは
一部の船舶では、従来のコンビネーションラダーではなく、トラップドアが設置されていることがあります。どちらの設備の場合も、垂直につるされたパイロットラダーからアルミ製のアコモデーションラダーに移らなければならないことには変わりありません。ただトラップドアの場合は、以下に述べるように、アコモデーションラダー下端にあるプラットフォームの開口部をくぐるため、水先人にとってはリスク要素が増すことになります。
2012年以前に建造された船舶のトラップドア
SOLAS条約第V章第23規則では、アコモデーションラダー下端のプラットフォームの上方1.5メートルの位置でパイロットラダーを船側に固定するよう定めています。プラットフォームにトラップドアが設置されている場合は、パイロットラダーとマンロープをトラップドアの中を通して、プラットフォーム上方のハンドレールの高さまで延ばす必要があります。
ただし、2012年以前に建造された船舶はこの要件に従う必要はありません。ところが一部の国では、このような古い型の船舶が船級協会や旗国から現状の設備のままでよしとする承認を受けていたとしても、トラップドアが水先人用乗下船設備に関するSOLAS条約の現在の要件を満たしていないと、水先人に乗船を拒否されてしまうとのことです。
各国の水先人協会によると、例えば、プラットフォームの底面近くにある横桁からパイロットラダーがつり下がっている(下にある左側の写真を参照)ような場合は、トラップドアをくぐってアコモデーションラダーに移る際に、以下のような理由から事故が起きやすいそうです。
- ステップが等間隔でないため、パイロットラダーからアコモデーションラダーに移りにくくなる。
- 移る際にサイドロープを支えとして使えず、代わりに横桁やスタンションを掴まなければならない。
- パイロットラダーが船側に固定されていない。
右側の写真は、トラップドアのあるコンビネーションラダーをSOLAS条約の現在の規則に従って設置した様子です。
左:一部の港で水先人から危険と見なされるトラップドアの一例。パイロットラダーがトラップドアの横桁に固定されていて、プラットフォームの上方まで延びていない。
右:SOLAS条約の現在の規則に従ったトラップドアの写真。
IMPAによる2021年の調査の概要
IMPAの2021年パイロットラダー調査では、同協会の会員から回答のあった水先人用乗下船設備のうち13%が、SOLAS条約の第23規則に従っていないとの結果が出ました。そのうちの大半がコンピネーションラダーとパイロットラダーに関するものでした。
コンビネーションラダーに関する欠陥の上位3項目は以下のとおりです。
- パイロットラダーがアコモデーションラダーの上方1.5メートルの位置で固定されていない。
- ラダーが船側に固定されていない。
- 下端にあるプラットフォームのスタンション/レールが正しく設置されていない。
パイロットラダーに関する欠陥の上位3項目は以下のとおりです。
- 揚収索の取り付け方が悪い。
- ステップが水平になっていない。
- ラダーが船側に密接していない。
今回の調査では過去の調査と比べて規則違反の割合が高かったことから、乗組員と船主/管理会社の双方に対して、パイロットラダーの安全性に関する啓発が必要なことは明白です。
推奨事項
- 管理会社におかれましては、管理船舶の水先人用乗下船設備が、SOLAS条約第V章およびIMO決議A.1045(27)(A.1108(29)により改正)を順守しているか確認するようお願いいたします。世界各国の水先人協会から、設備の好例や悪例を紹介した参考資料が数多く発表されています。本記事の最後に、その一部のリンクを掲載していますのでご覧ください。
- コンビネーションラダーを備えており、その中でも特に、2012年以前に建造され、トラップドアを備えている船舶については、十分に注意してください。
- こうした古い型の船舶の船主/管理会社におかれましては、現地の規則上、既存のトラップドアを改修せずに使用しても問題がないか、現地代理店に確認を取ることをお勧めします。
- SOLAS条約の現在の規則に従っていないトラップドアを備えた古い型の船舶を運航する会社におかれましては、水先人の乗船拒否の問題や、場合によってはポートステートコントロールとも問題が発生することがあるため、そうした問題を避けるべく、船級協会や旗国の求める要件を満たすよう設備の改修を検討することをお勧めします。
Gardの記事
参考資料
- ICSおよびIMPAの『水先人用乗下船設備に関する業界ガイドライン第3版』
- IMPAの乗下船設備に関するポスター
- IMPAの2021年安全キャンペーンの結果
- 各水先人協会が作成した、トラップドアに関するガイドライン