
INSIGHT
ウクライナ戦争 ― 乗組員との契約、クレームおよび送還への影響(3月11日更新)(Japanese HTML)
ウクライナ人船員およびロシア人船員を雇用しているGardメンバーは少なくありません。この記事では、雇用条件についてのいくつかのよくある質問(FAQ)と、戦争が乗組員関連のクレームに対するP&Iカバーに及ぼす影響について解説します。
こちらは、英文記事「War in Ukraine - impact on crew contracts, claims and repatriation」(2022年3月11日付更新)の和訳です。
それぞれの質問は個別の状況に依存しますが、以下では、いくつかの一般的なガイダンスを記載します。ガイダンスは今後の展開に応じて補足していく予定です。
1 ウクライナ人乗組員が乗船しており、雇用契約期間の満了が近く、契約を延長して船上に留まることを希望している場合はどうすればよいでしょうか。
- 国際運輸労連(ITF)に加盟するウクライナ海上交通労働組合(MTWTU)は、船員は契約を延長できるという声明を発表しました。またMTWTUは「ウクライナに安全に帰国できるようになるまで船上に留まる」ことを推奨しています。
- メンバーは船員と協力し、船員雇用契約書の延長または修正に関して明確な合意を結ぶよう努めるべきです。
- 延長期間の長さによっては、乗組員の訓練証明書または医療証明書の有効期限が切れる可能性があります。Gardは、これらの証明書の有効期限が切れた後もウクライナ人乗組員が船上に留まることに同意します。それによって補償が損なわれることはありませんが、メンバーは、旗国の承認を求めることが推奨されます。
2 ウクライナ人船員が雇用契約の早期終了を希望する場合はどうすればよいでしょうか。
- メンバーがその要望に応じることを希望する場合は、同意書と、送還地の変更を含む契約条件の権利放棄書を取得することが推奨されます。国際P&Iグループ(IG)は、そのためのテンプレートを作成しています。テンプレートの文言は以下の質問7に記載されています。IGはこの文言を承認したわけではなく、単にメンバーへの提案に過ぎず、メンバーは特定の契約や該当する法域に基づいて法的助言を求める必要があります。
3 メンバーがウクライナ人乗組員を船員雇用契約書に規定されている送還地以外の国または場所に送還することは可能ですか。
- MTWTUの声明によれば、「会社は、雇用契約の期間満了または雇用の早期終了時に本国への帰国を希望する船員のために、ウクライナ近隣の友好国(主な空港はモルドバのキシニョフ、ポーランドのワルシャワ、ハンガリー、スロバキア、ルーマニア)への航空券を購入するとともに、ウクライナの陸上の国境または通行検問所への交通費を払い戻すべきである」とされています。
- 船員が船員雇用契約書に規定された場所以外への送還を要請する場合は、権利の放棄/義務の免除を明記した署名入りの書面を作成し、その旨を確認する必要があります。この書面は、船員雇用契約書および海上労働条約(MLC)に基づく義務に精通した弁護士の法的助言を得て、船員組合と連携しながら作成することが望ましいでしょう。IGが作成したテンプレートの文言は以下の質問7に記載されています。
- 権利の放棄/義務の免除に基づき、規定された場所以外に送還した場合、ビザ/難民問題が生じる可能性があります。滞在可能期間は国によって異なるため、受入国と慎重に連携しながら対応する必要があります。
- 権利の放棄/義務の免除に伴い、契約上のすべての義務(賃金、宿舎、最低限必要な生活の糧の提供)が終了となる場合、メンバーは、乗組員が受入国において一定期間にわたり、少なくとも宿舎と最低限必要な生活の糧を引き続き確保できるよう手配し、個々の状況に応じてこれらの提供期間を延長することを検討してもよいでしょう。
- 船員雇用契約書またはMLCに基づく義務に反する可能性があるため、おそらく船員組合は、実際的なアプローチを取り、メンバーと協力する必要があるでしょう。
- 医療目的での送還を除く送還費用は、P&I保険ではカバーされないオペレーション費用です。
4 クラブルールにおける戦争リスクの除外は、船員の人身傷害および死亡に対する補償にどう影響しますか。
- P&I契約は戦争リスクを除外しており、そのためウクライナ戦争に起因する傷害または死亡はGardのてん補の対象外となります。一例を挙げると、たとえ乗船している船舶が標的ではなかったとしても、ミサイル攻撃による傷害はGardのてん補の対象外です。
- 戦争によって生じたのでない傷害、疾病、死亡に関しては、たとえ乗船している船舶が交戦地帯にあったとしても、てん補が維持されます。例えば船上での通常業務の過程で起きた転倒による傷害は、たとえ乗船している船舶がウクライナの港に停泊中であったとしても、P&Iのてん補対象となります。
- メンバーは、どちらの保険が対応するか不明な場合は、傷害または死亡をGardと戦争リスクの保険会社の両方に報告する必要があります。
- クラブルール58条「戦争リスクの除外」に関するより詳しい情報は、クラブルールに関するGardのガイダンスをご覧ください。
5 乗下船に伴う移動において、ウクライナ人乗組員はP&Iでどの程度カバーされますか。
- 戦争リスクはP&Iのてん補から除外されることを条件として、クラブルール27条に基づく乗組員への補償は、乗組員が乗下船に伴う移動をする際にも適用されます。ただし、その移動期間が雇用契約に含まれていることが条件となります。てん補される費用には、雇用契約の条件または適用法に従い、乗組員の傷害、疾病または死亡に関連して発生した病院、医療、生活費、葬儀の費用、その他の経費および費用の支払い債務が含まれます。てん補範囲に関する詳細は、クラブルール27条に関するGardのガイダンスをご覧ください。
6 メンバーがウクライナ人およびロシア人の乗組員への支払いを行うことは可能ですか。
- ロシアによる攻撃が続いているため、米国、欧州連合(EU)および英国はいずれも制裁という形で対抗措置を取っています。
- メンバーがウクライナまたはロシアに乗組員またはその近親者への支払いを送金する場合は、十二分に慎重を期し、該当する法域の法的助言を求める必要があります。
- これらの制限はGardにも適用されるため、Gardはこれらの新しい制裁を注意深くモニタリングしています。
7 船員雇用契約書の早期終了または代替地への送還に関するテンプレートの文言はどのようなものですか。
- 国際P&Iグループ(IG)の人身傷害委員会は、以下の補遺の文言を提供することで合意しました。これはIGまたはGardが承認した文言を構成するものではなく、メンバーが適切と考える範囲内で使用可能な文言を提示することにより、IGとしての統一の見解を表明することのみを目的として提供されるものであることに注意してください。この文言またはその他いずれかの文言の有効性は、船員雇用契約書の具体的な条件や準拠法に依存することに注意し
- てください。実際の文言は、CBA(団体労働協約)およびMLCに基づく義務に精通した弁護士の助言を得て作成または完成させるべきです。
XXXXX日付け船員雇用契約書(以下「SEA」という)に対する補遺
この補遺は、(船員の氏名及び階級)(以下「船員」という)と、(船主直属又はその代理人である可能性のある雇用主の名称を元の雇用契約書に記載されているとおり適切に明記)(以下「雇用主」という)との間で合意されたものである。
SEAの条件によると、船員の船上(船名を挿入)での雇用期間は..........に終了するか、又は........(通常許容される範囲の延長・短縮期間を勘案した契約終了日を挿入)に終了予定である。SEAで合意された本国送還地は.....(SEAでの本国送還地名を挿入)である。
船員は、契約の終了日より前にSEAを終了することを希望しており、雇用主は、現在の例外的状況を考慮してこの要請に同意する。当初予定されていた場所への送還は、もはや現実的でも安全でもない。このため、本国送還の代替地を......(送還のための新たな場所を挿入)とすることに合意する。
船員は、送還の代替地において自己に課される、入国又は査証の要件を含むがこれに限定されないすべての適用法を遵守することを約束する。船員が代替地を指定した後、送還の開始より前に、代替地への送還が実行不可能になるか、または安全でなくなった場合、船員と雇用主は、現実的に送還可能な他の代替地を検討することに合意する。
船員及び雇用主は、そのように合意された送還の代替地への予定より早い送還が、船員を送還する雇用主の義務の正当な履行とみなされること、また、送還の日までに発生し、かつ免責されていない義務を除き、雇用主が雇用契約書に基づく船員に対するそれ以外のあらゆる義務(適用されるCBA(団体労働協約)、海上労働条約、または適用法に基づいて課される義務を含む)から解放されることに合意する。
その他の資料
このFAQはGardが提供する乗組員関連のてん補に関するものであり、ウクライナ戦争に関する多くの問題や、刻々と変化する安全保障および運営上の課題に対応するものではありません。メンバーは、国際独立タンカー船主協会(Intertanko)およびボルチック国際海運協議会(BIMCO)などの組織が提供している、より詳細な助言を参照することが推奨されます。(これらの組織のウェイブサイトを閲覧するには会員登録とパスワードが必要です)