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COVID-19と英国法における不可抗力条項について / COVID-19 and force majeure clauses under English law (Japanese)
こちらは、英文記事「COVID-19 and force majeure clauses under English law」(2020 年 4 月 1 日付)の和訳です。
GardのFDD弁護士に頻繁に寄せられている質問の1つが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに関し、各傭船契約の不可抗力条項は適用されるのか、という質問です。今回のGard Insightは、HFWのパートナーであるBrian Perrott氏とその同僚の方々の見解をもとに作成しました。
フランス語の「大いなる力」が語源の「フォース・マジュール(不可抗力)」は、当事者の支配の及ばない異常な出来事または特段の事由により当事者が契約上の義務を履行できない場合に当事者の履行義務を免除することを可能にする一般的な契約条項です。通常、特定の事態が生じた場合に不可抗力条項を援用すれば、当事者の一方(または双方)は、契約を解除すること、および/または一定期間中、一部またはすべての債務から免れることができます。実際の事案や傭船契約の契約条項は様々であり、個別に検討する必要があります。このため、以下でご紹介する見解は法的助言とは捉えないようにしてください。
一般的な不可抗力の解釈
- 英国法では不可抗力(フォース・マジュール)の一般的な概念は存在しません。そのため、契約書に具体的に明示することが求められ、その効力は個別の文言により異なります。通常、不可抗力条項は狭義に解釈されますが、現在の異常事態を考慮すると、裁判所や審判所は解釈を拡大し、COVID-19についても適用を認める可能性があります。
- 一般的に、不可抗力条項を援用するために、当事者は、不可抗力条項の文言に該当する可能性のある事由に加え、次の点を示す必要があります。
- その事由が、当事者の支配の及ばない事項であること、
- その事由が原因で義務が履行できなかった、遅延した、妨げられた(契約ごとに文言は異なる)こと、そして
- 不可抗力条項の援用を求める当事者が当該事由の影響を緩和するために合理的なあらゆる努力を尽くしたこと。
COVID-19は不可抗力に該当する事由でしょうか?
- COVID-19が不可抗力に該当するかどうかは、具体的事由と不可抗力条項の書きぶりにより異なります。ただし、COVID-19は、多数の一般条項で不可抗力事由を構成する可能性があります。
- 具体的に病気、伝染病、検疫などへの言及が契約条項でなされていないかを確認する必要があります。また、COVID-19はその他にも以下のような条項に該当する可能性があります。
- 天災地変(Act of God):判例法では「直接的かつ強烈で、突発的に発生し、人力ではどうすることもできない自然災害」と説明されています。COVID-19がこのカテゴリーに該当するかは明確ではありませんが、議論の余地があります。
- 政府機関の行為
- 人為を超えた制御不可能なその他の事由。
契約上の正確な文言や事由を評価する必要があります。なお、中国でCOVID-19が発生した後に締結された契約に関しては、解釈上、COVID-19が一般的な不可抗力に含まれると主張することは難しい可能性があります(具体的に列挙することが可能だったため)。
- 不可抗力条項は、予見不可能な事由であることを要件としていますか?
- COVID-19はおそらく予見不可能な事由と言えるでしょう。ただし、COVID-19の発生後に締結された契約については、同条項が適用できない可能性があります。これは不可抗力条項では予見不可能な事由であることを要件としているためです。
履行の一部不能
すべてではないが契約の一部のみを履行できる場合に関しても、当事者は不可抗力条項を援用できる可能性があります。ただし、通常は、例えば比例配分するなど、当事者間で合理的に負担を配分する必要があります。
因果関係
不可抗力事由が実際の原因である必要があります。不可抗力ではない別の原因が義務の履行に影響を与えたと考えられる場合、当事者は不可抗力条項を援用できない可能性があります。
緩和義務
通常、当事者は、合理的な対策を講じたにもかかわらず影響を回避できなかったことを示す必要があります。どの程度の対策が合理的と言えるかは、主として対策にかかる費用によると考えられます。
裁判所は、現在の異常な事態を考慮した上で、緩和義務に対しては寛大なアプローチを採用する可能性があります。COVID-19の流行後に締結された契約に関しては、当事者はより高水準の緩和義務を求められる可能性があります。
通知規定
通知規定は遵守する必要があります。(不可抗力の発生の)通知は、不可抗力条項を援用するための要件となっている場合があります。
目的達成不能
不可抗力条項が存在しない場合でも、「目的達成不能」が適用される可能性があります。ただし、要件を満たすことは容易ではありません。適用の可否の判断にあたっては、契約上の義務を慎重に検討する必要があります。
実務的な留意点
- 通知規定を遵守してください。
- 証拠となる書類を保持してください。
- 影響を緩和する対策を行い、書面で記録を保持してください。
- 契約書全体を確認してください。不可抗力条項以外にも、除外/制限条項などの条項が適用される可能性があります。
- 新規契約に関しては、義務の履行に対する不可抗力条項の適用方法について慎重に検討する必要があります。契約によっては、一方の当事者のみが不可抗力条項を援用することを許可しているものもありますのでご注意ください。また、契約の当事者間でCOVID-19の潜在的な影響を明示することも検討する必要があります。
上記見解は、英国法についてのものであり、単に参考情報としてご提供するものです。法的助言ではありませんのでご注意ください。