イスラエルとイランの今回の交戦により中東では緊張が激化しており、アラビア海、ペルシャ湾、イスラエル領海やその周辺において商船の安全航行に対する懸念が高まっています。
イスラエルとイランの今回の交戦により中東では緊張が激化しており、アラビア海、ペルシャ湾、イスラエル領海やその周辺において商船の安全航行に対する懸念が高まっています。
Updated 23 June 2025
Published 18 June 2025
現地の情勢は急速に悪化しており、海運に間接的な影響が及ぶリスクがあります。Vanguard社の許可をいただき、同社の総合リスク分析とリスク軽減策を転載しますのでご参照ください。
ペルシャ湾
6月23日、トランプ大統領はイランが最初に、次いでイスラエルが段階的に「完全かつ全面的な」停戦が合意されたと宣言し、自身が「12日間の戦争」と呼んだ紛争は事実上終結しました。停戦合意違反があったなどの報道などもありましたが、停戦は維持されている模様です。イスラエルのベンヤミン・ネタヤニフ首相は、「イスラエルは米国大統領の相互停戦提案に同意した」と述べました。イランの外務大臣アブバシル・アグラチ氏は、正式な合意を否定しつつも、「イスラエル政権が午前4時までにイラン国民に対する違法な攻撃を停止する場合、その後の攻撃を継続する意図はない」と述べました。イラン最高国家安全保障会議(SNSC)も、イランが停戦を順守するとし、「いかなる挑発的な軍事行動にも反対する」と警告しました。
6月25日、イラン議会は国際原子力機関(IAEA)との協力を停止する法案を可決しました。この法案が正式な政策となるには、国家安全保障会議の最終承認を必要としています。イランのアッバス・アラグチ外相は「合意の有無にかかわらず、イランのウラン濃縮は継続される」と述べています。
6月25日現在、ホルムズ海峡は引き続き航行可能です。6月24日ホルムズ海峡を通過した船舶は130隻、そのうち入域が61隻、出域が69隻でした。これは2025年6月17日から23日までの期間における1日平均111隻を上回る数値です。また、過去24時間において、ホルムズ海峡で船舶からGPSおよびGNSSへの干渉が報告され続けています。
2025年6月25日現在、ペルシャ湾において大規模な武力衝突は報告されておらず、同地域における船舶および海上交通に対する具体的な脅威は報告されていません。ペルシャ湾における軍事活動は、イラン革命防衛隊海軍によるGPS/GNSSへの妨害と軍事演習に限定されています。6月17日から22日までの間、少なくとも4人のイラン当局者がホルムズ海峡での軍事力の強化を示唆する発言を行い、イラン議会はホルムズ海峡の閉鎖を可決しました。これと並行して、イラン革命防衛隊海軍によるGPS/GNSS
への妨害が継続的に増加しています。ただし、2025年6月24日現在、ペルシャ湾で大規模な武力衝突は報告されておらず、同地域における船舶や海上交通に対する具体的な脅威に関する正式な報告は特段なされていません。
したがって6月25日現在、Vanguard社によるリスク評価は次のようになっています。
イスラエル/ガザ地区/ヨルダン川西岸
6月25日現在、ガザ地区ではラファ(Rafah)、ガザ市、ディール・アル・バラハ(Deir al Balah)、ジャバリア(Jabalia)、ヌサイラート難民キャンプ(Nuseirat camp)を含む地域で、戦闘が継続しています。 6月25日、ガザ地区での戦闘により少なくとも86人のパレスチナ人が死亡しました。そのうち少なくとも27人は、ガザ南部ラファで援助を待っていた際に死亡し、別の25人はワディ・ガザ(Wadi Gaza)南部のサラハ・アル・ディン道路(Salaha al-Din Road)での事件で死亡し、140人が負傷しました。 イスラエルはイランとの停戦合意を受けて、西岸地区での厳戒態勢を解除し、移動制限の大部分を緩和しました。緩和措置の一つとして、東エルサレム(East Jerusalem)のアル・アクサ・モスク(Al-Aqsa Mosque)の閉鎖が解かれ、パレスチナ人の礼拝者が再び入場できるようになりました。
電子妨害
Vanguard社のほか、英国海事貿易オペレーション(UKMTO)の勧告第23号や各組織の報告書にも記されていますが、ペルシャ湾とその周辺では現在、多数の電子妨害が確認されています。国際独立タンカー船主協会(Intertanko)によると、船舶自動識別装置(AIS)の偽信号も確認されているとのことです。こうした偽信号は、運航船の針路近くに表示された場合などに、攻撃者に利用されて有害な操船を引き起こすおそれがあります。
そのため、操船者は対地航法や推測航法を用いて操船できるように備えておいてください。衛星信号が回復するまで、このような航法が長期間にわたり必要になるかもしれません。AIS自体も、ジャミングやスプーフィング攻撃によって影響を受ける可能性があります。そのため、AISデータ、その中でも特に他船の位置情報については、細心の注意を払って使用してください。
GPS障害の検出・緩和に関する詳しい方法については、Intertanko発行のJamming and Spoofing of GNSS(GNSSのジャミングおよびスプーフィング)をご参照ください。またGardも、GPS障害を原因とする座礁事故に関するケーススタディを発行しています。
Vanguard社は、リスク軽減策として以下を推奨しています。
海賊対策のガイドラインであるBMP Maritime Security(BMP MS)を厳重に守る。
通航前の航海リスク評価の一環として所属確認を行う。
見張りを強化し、AIS、視覚、レーダーを用いて小舟にも注意する。
インド洋海事安全センター(MSCIO)およびUKMTOに船舶登録して連絡態勢を整え、潜在的な脅威や最新の状況を常時報告する。
無人航空機(UAV)や発射体を目撃した場合は、乗組員に概況を伝え、適切な緊急避難所(SMP)に集合させる。SMPは水面より上の上部構造物内に設けること。
GPSが故障した場合の態勢を整えておく。航行中は細心の注意を払い、目視による見張りを強化するほか、レーダーの活用を増やす。
AIS信号を発信していない船舶がいる場合は目を離さない。そのような船を見つけた場合は、安全な距離を保つこと。
不審物や異常を発見した場合は、CSOやUKMTOの担当者にご連絡ください。
契約面への影響
両国による紛争が続いていることで、船長が船舶と乗組員の安全を守るために離路を決めた場合などに、傭船契約上の問題が生じる可能性があります。その際の費用をどちらが負担するかは、具体的な契約条件によって大きく異なります。特に関係するのが航路選択と戦争危険に関する条項(BIMCOのCONWARTIME 2013/2015、VOYWAR 2013/2025など)です。
これらの条項は一般的に、本船が戦争危険に「さらされた場合(may be exposed)」に船主を保護するものであり、本船やその乗組員、貨物の安全を守るために、船長の合理的な判断の下、取り決めた航路や通常使われる航路からの離路が認められることがあります。ただし、条項の適用可否や離路費用の負担者については、傭船契約の開始以来、戦争危険が著しく変化しているか、契約で具体的な航路が取り決められているか、戦争危険条項がどのような文言になっているかなど、さまざまな要素によって変わってきます。戦争危険条項が発動している状態と言えるかどうかは、その都度判断されなければなりません。
契約や保険への影響に関する詳しい解説は、Gardの記事「紅海における戦争危険と保険への影響」をご参照ください。
外部資料
共同海事情報センターの勧告
Industry transit advice for Persian Gulf, Strait of Hormuz and Sea of Oman
(ペルシャ湾、ホルムズ海峡、オマーン海における航行アドバイス)
Best Management Practices Maritime Security(BMP 5の後継版)
本記事は、Vanguard-Tech社からの情報に基づいて作成したものです。