Bulk carrier on a sea of EU flag

FuelEU Maritime:BIMCOの新条項とその影響

FuelEU Maritime規則の施行が2025年1月1日に迫るなか、BIMCOはこの複雑な規則を、船主と傭船者が容易に理解・採用できるシンプルかつ公正な形で速やかに条項化するという難題を抱えていました。

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Published 19 December 2024

ボルチック国際海運協議会(BIMCO)のFuelEU Maritime(以下「FuelEU」)条項がついに発公表されました。船主と傭船者は傭船契約を交わす際、この条項をベースにすることで、コンプライアンス・バランスや関連諸費用の処理精算方法をにつき合意を形成し決めやすくなります。とはいえ、同条項はすべてを事細かにカバーしているわけではないため、傭船契約にそのまま摂取する場合に注意しなければならない問題があります。本記事では、こうした問題や、基本文言への追記・修正の検討が望ましい点について解説します。

代替燃料

(c)項の目的は、傭船者がFuelEUを遵守するために本船にバイオ燃料などの代替燃料を供給できるようにすることです。バイオ燃料を含むGHG強度の低い燃料の供給を契約で認めると、それに伴う速力保証、性能保証、燃料油スペックの修正、場合によっては、燃料供給に伴う試運転、タンクのクリーニング受入準備に関する規定や、それらの作業にかかる時間・費用の負担に関する取り決めの修正が必要になるため、注意が必要です。代替燃料を使用する場合は、船級協会とエンジンメーカーの承認を船主の船舶保険者から求められる可能性があるため、取り決めにあたってはまず両者の見解を聞いておくとよいでしょう。

本船引渡時のコンプライアンスバランスの報告

(a)項は、「船主は、報告期間(Reporting Period)過去2期分の本船のコンプライアンス・バランスを引渡時に傭船者に報告しなければならない」との旨を規定しています。「報告期間」は、1月1日から12月31日までと定義されています。

翌年以降に罰金が発生した場合の計算方法を傭船者が把握できるよう、コンプライアンス・バランスを明確にすることが必要です。FuelEUでは、コンプライアンス・バランスが2年以上連続でマイナスになった場合、1年目は10%、2年目以降は20%と、本船に科される罰金額が上乗せされます。そのため傭船者は、罰金増額のリスクを把握するために、それまでのコンプライアン・スバランスに関する明確な情報を必要とします。

前年に別の傭船者に傭船されていた際にコンプライアンス・バランスがマイナスになった船舶を傭船して、今年もマイナスになった場合、2年目の今年は罰金額が1割増しになります。しかし、その原因は前の傭船期間中の実績にもあります。したがって傭船者としては、そのような船舶を傭船する場合は、割増分を負担しないという条件で交渉したいところです。

コンプライアンス・バランスの計算

(d)項の文言は、「船主は、傭船期間中の各航海終了後15日以内に、同暦年中のコンプライアンス・バランスの累積を傭船者に通知する」との旨を規定しています。コンプライアンス・バランスがマイナス(本船がGHG強度上限値を超えて運航したため、罰金が発生している)の場合、船主は、その計算内容を「独立した第三者の検証」を受けたうえで傭船者に提出しなければなりません。注記(Explanatory Notes)には、この検証はどのサービス事業者が行ってもよいとありますが、船主が選んだ検証者が本当に「独立した第三者」にあたるかをめぐって争いが起きる可能性もあります。この条項は、罰金発生の根拠とするために船主の計算内容の検証を求めているので、船主は検証が適切に行われるようにしなければなりません。契約を交わす際は、検証費用の負担方法(配船先を決めた傭船者側の負担とするか、単に船主側のランニングコストとするか)に関する規定も盛り込んだほうがよいでしょう。

本船を再傭船に出す場合、傭船者は再傭船者ともめないよう、船主の計算結果を確定した拘束力のあるものとするよう取り決めたほうがよいでしょう。

追加費用(Surcharge)の支払い

(d)項は、「本船がFuelEUで定めるGHG排出強度を超えてEU/EEA域内を航行した場合は傭船者が追加費用(Surcharge)を支払う」と規定しています。Surchargeとは、GHG強度規制の超過によって本船に支払義務が生じた罰金額のことです。傭船者から船主へのSurchargeの支払時期は、両者の間で自由に決めることができます。(f)項は、「支払いは月ごともしくは航海ごと、または返船時を選択できるが、遅くとも翌年の6月7日までとする」と規定しています。この時点までに、船主はFuelEUに関する最終的な負債額の計算・検証結果を受け取っているはずです。

支払いの条件や期限は交渉可能ですが、傭船料の最終精算時まで支払いを先延ばしする場合、船主は多額の無担保債権を抱えてしまう可能性があるため、注意が必要です。「罰金はまだ確定しておらず実際に支払ったわけでもないのに、支払いに充当する資金を船主に供給する必要はない。」と傭船者は主張するかもしれませんが、船主が定期傭船者にこのような形で多額の与信を行う費用は他にありません。こうした問題に対処すべく、(g)項では、船主から傭船者への追加費用の払い戻し条件を規定しています。少なくとも傭船者としては、再傭船先との支払い条件が船主との合意条件に必ず一致するよう徹底すべきです。

月ごともしくは航海ごとに支払うことにした場合、BIMCO条のFuelEU項では「追加費用が支払われなかった場合、船主は傭船契約で定める役務の提供を中止できる」となっています。これは、一部の傭船者が契約への摂取を渋ったBIMCOのEU-ETS条項の業務履行の中止規定と似ています。傭船者としては、この追加費用の支払いを最終傭船料の支払時まで引き延ばすことができさえすれば、役務提供の中止リスクを回避できます。

バンキング/プーリング

(i)項は、「傭船者は、BIMCO条項に基づいてコンプライアンスバランスのバンキングまたはプーリングを船主に指示する権利を有する」と規定していますが、この権利は、傭船期間が報告期間の最初から最後まで、つまり1月1日~12月31日まで続いている場合に限られます。したがって、2025年2月から2026年11月までの傭船契約の場合、条項の文言を修正しない限り、傭船者はコンプライアンス・バランスのプラス分をバンキングプーリングすることはできません。これはおそらく、バンキングプーリングの決定権について複数の傭船者間で権利の重複が生じないよう、船主(および原傭船者)の注意を要する事態を見越した規定でしょう。バンキングプーリングの決定権を持てる傭船者は1年につき1者に限られるためです。

傭船者がバンキングプーリングの実施資格を有する場合、船主は傭船者の指示に従って実施しなければなりません。制裁リスクがあるなどの理由でプーリングの拒否権を留保したければ、船主は拒否権を留保する旨を条項に明記する必要があります。文言には、バンキングプーリングの実施にかかる一切の費用は傭船者の負担となる旨が明記されています。しかし、規定はされていないものの、バンキングプーリングのために必要な一切の情報を傭船者が船主に提供することも黙示されていると思われます。

プーリングに関する合意が実際どのように取り交わされるのかは現時点でも不明です。そのため、BIMCO条項でも、コンプライアン・スバランスのプラス分をプーリングして船主がプーリング先からその対価を受け取った場合、船主から傭船者へ払い戻すべきか、その場合払い戻し方法をどうすべきか、あるいは、プーリングの対価が傭船者に直接支払われるようにすべきか、という点は明記されていません。そのため、この点についても文言や規定の追加が必要になるでしょう。BIMCOの注記には、「プーリングによる利益が発生した場合は傭船者が受け取るべき」と書かれていますが、条項にはこの点に関する規定が明記されていないようです。

BIMCO条項には、本船のコンプライアンス・バランスが大幅にプラスになった場合の詳しい規定がありません。そのため、プラスが見込まれる場合は、その処理方法(およびプーリングする場合の方法)をよく検討することが推奨されます。規定がない場合、どのような権利が与えられるのかを明確にするよう傭船者から求められる可能性があります。

船主は、自社方針として特定のプールに本船を加入させたい場合、プーリングの決定権限を傭船者に付与しているBIMCO条項の規定を修正する必要があります。修正する際は、コンプライアンス・バランスのプーリング費用の負担者、傭船者によるプーリング費用の払い戻しの有無と方法、コンプライアンス・バランスのプーリングで生じた利益の分担方法について取り決める必要があります。

ボローイング

ボローイングは、傭船期間が報告期間連続2期以上に及ぶ場合に限り可能です((l)項の規定)。したがって、例えば傭船者が2025年のコンプライアンス・バランスのマイナス分を翌2026年分から前借りするためには、傭船期間が2025年1月1日から2026年12月31日まで続いていなければなりません。傭船者は、傭船期間の最終年にボローイングすることはできません。最終年は、前借りで生じたマイナス分の処理対応のためにある程度の猶予を船主に与える必要があるためです。

ボローイングの上限は現在、当該年のGHG強度上限の2%までとなってはいますが、マイナス分が一定値を超えた場合はボローイングできなくなるよう、船主はボローイング上限の規定を条項に含めておいたほうがよいでしょう。

コンプライアンス・バランスのプラス分

傭船契約が複数年にわたり、最初の数年でコンプライアンス・バランスのプラス分が生じた場合、そのプラス分を残りの契約年のためにバンキングしておきたい、プーリングして利益を得たいなど、プラス分のメリットを最大限享受したいと傭船者が思うのは当然のことでしょう。しかし例えば、ある傭船者が2027年6月まで傭船し、その年の1~6月までにプラス分が発生している場合など、1年の途中までに発生したプラス分はどう扱えばよいのでしょうか。その傭船者が1~6月に生じたプラス分の処理方法を指示できる契約になっていると、次の傭船者は、自身がその年の7~12月に稼いだプラス分の処理方法を決める権利がなくなってしまいます。同様の問題は、わずか数か月の傭船期間中にプラス分が生じるような傭船契約でも起こるでしょう。

この解決策としてBIMCOが設けたのが(m)項です。ただし、支払額については両者で取り決めなければなりません。(m)項では、あらかじめ取り決めた単価(上限も契約で設定)でプラス分の金額を船主が傭船者に支払うことになっています。船主にとってこの方式が難しいのは、プラス分の実際価値が判明する前に、また、資金を得る前に、取り決めた金額を傭船者に支払わなければならない可能性があるという点です。傭船者としても、受取額が実際に稼いだプラス分の価値より少なくなるのは好ましくないでしょう。これについては、複雑にはなってしまいますが、プラス分の実際価値の満額が得られてから傭船者に支払うという方法が代案として考えられます。

まとめ

BIMCO条項は、FuelEU規則のさまざまな制度をどうすれば傭船契約上で機能させられるか検討するためのたたき台です。業界としても規則の実際の運用についてまだ分からない点があるため、この条項は契約交渉の際に便利ではあるものの、誰もが満足できる万能な内容にはなっていません。そのため、EU/EEA域内を航行する船舶の利用方法について各当事者が持つニーズや計画に合うよう、今後も条項の修正点を慎重に考えていく必要があります。

本記事の執筆にあたっては、GardのLouis Shepherd氏、Neil Henderson氏、山下哲氏、James Hawes氏の協力を得ました。

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