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海運業界は今、脱炭素化という重要な目標に取り組んでいる最中です。今回の寄稿者であるMartin Crawford-Brunt氏は、どうすればこの目標を達成できるのか視野を広げて考えることが大切だとし、完璧な方法を追い求めるあまりCO2の排出削減が進まない事態は望ましくないと警告しています。

こちらは、英文記事「Beware of binary thinking – a single alternative fuel may not be the panacea some seek」(2022年4月4日付)の和訳です。

我々は今、かつてない変化と転換の時代にいます。一部の人々が言うように、変化は常に起きているどころか、おそらく多くの人にとってそのスピードはさらに目まぐるしくなっているでしょう。

 

海運、そして世界のサプライチェーンにおけるCO2の排出を削減し、最終的には脱炭素化を目指すために、海運業界全体がさらなる貢献を迫られています。

 

COP26を終えて、各国政府と大企業はともに、サプライチェーンにおけるCO2の排出削減は至上命題であり、これがネットゼロ公約と社会の期待に応えるチャンスになるという認識を強くし、より踏み込んだ協調姿勢をとるようになりました。

 

ただ、業界では、排出削減が不可欠な理由や、気候変動への対処に必要な行動については理解が進んでいる一方、実際にこれを迅速に実行に移すにはどうすればよいのか、その費用は誰が負担するのかという点については、理解や合意にはいまだほど遠い状況となっています。

 

こうした経済・社会・環境という3つの要素をめぐる緊張は日増しに高まり、その結果、排出削減の公約と企業の現場レベルにおける実現状況は乖離する一方となっています。しかし、ボーナスのためにと、公表した削減目標にあえて逆行する行動をいまだに取る部門や従業員も数多く見られます。

 

難しい判断に迫られたからといって、つい選択肢を狭めてその中からすぐに答えを出そうとしてしまうのは、人間の非常に悪い癖です。これを続けていると、「こちらかあちら」という二者択一でしか考えられなくなってしまい、片方を選んだら、もう片方も同時に選ぶことはありえないと思ってしまいます。例えば、目下の排出量を減らすために既存船をさしあたり最適化する方法があったとしても、それだと、部門横断的な協力やイノベーション、代替燃料を活用した完璧な脱炭素化を目指す動きと矛盾すると思ってしまう人もいるのです。

 

今こつこつと燃料消費を節約して、絶対排出量を瞬間的に減らしたり、高価な排ガス処理装置などのCO2リスク削減対策の必要性を抑えたりすることに意味があるのでしょうか。

 

実は、こうした複数の選択肢は同じ時間軸にあるわけではなく、しかも当面の排出量削減の方が長期計画を考えるよりはるかに難しい場合もあるのです。さしあたっての対策を進めるには、言いにくいこともはっきり伝える作業を社内で地道に始め、それを業界外にいる多くの主要関係者にも大規模に広げていくことが必要です。

 

こうした課題や機会に対する現実的な対応策を見つけるには、リーダーが臆することなく社員と率直に向き合っていくことが必要です。リスクやコストをサプライチェーンの次の段階に押しつけていては何の解決にもならないということを理解しておかなければなりません。むしろ、自社の「影響力」や「規模」ばかりを理由にこのような責任逃れをしていると、信頼を失っていき、両者がウィンウィンになるせっかくのチャンスが台なしになってしまいます。

 

このような状況に陥らないためには、視野を広げ、新しい解決策をどんどん受け入れていく広い心を持つ必要があります。最初は「正攻法」ではないと思ってしまったり、二者択一思考にとらわれて他のアイデアとかぶっているように見えたりすることもあるかもしれません。でも、そうした個々の仕事について「今実行できる方法」を見いだそうと、より協力的な文化を意識的に築いていけば、誰もが、複数の選択肢について試行錯誤を重ねていく間にリスク軽減方法を見つけられるようになるのです。

 

ですから、脱炭素化を目指すうえでは完璧主義に陥らない方がよいでしょう。一度で問題をすべて解決できないからといって、最適化に向けた地道な歩みを止めてはいけません。

 

もちろん、海運の完全脱炭素化を実現するには真のグリーン燃料の導入が必要です。しかも、こうした燃料は、流通量が多く、競争力があり、安全で、各国当局が承認したものでなければなりません。最後の点は見落とされたり軽んじられたりすることが多く、最初の2点は基本的に自分たちの思い通りにはできない市場要因です。

 

現在、Well-to-Wake(生産から航跡まで)ベースで見た真のグリーン燃料は供給が限られているため、こうした燃料は、高くても購入してくれる市場や、他の選択肢がほとんどないような市場に回ってしまいます。率直に言って、おそらく海運業界はこういう市場ではないでしょう。そのため、航空や公共交通、トラック運送など、他の業界での需要が供給を上回ると、調達不可能な状態が続いてしまいます。

 

特にこの業界に入ってまだ日が浅い方たちはすぐには理解できないと思いますが、この業界で唯一共通しているのは、資産がどれも水に浮かんで動かせるということだけです。業界に身を置く時間が長くなるほど、たくさんの例外があることを実感するようになるでしょう。現に、サービスの提供先であるエンドカスタマーをはじめ、輸送貨物や航路、船のサイズ、業界内の部門といった面でも、その種類は非常に多岐にわたっています。

 

COP26の開催中にクライドバンク宣言で提言されたように、今後はおそらく特定の市場や航路に新しい燃料が導入されていくでしょう。ただ、それで規模拡大が必要になった場合も、かつてのLNG燃料導入時のように、生産者グループと購入者が連携して対応するものと思われます。

 

私たちはどうしても二者択一思考に陥ったり、科学的な情報を基に幅広い視点で考えることをせずに答えを楽に導き出そうとしたりしてしまいがちですが、これは避けなければなりません。これまで挙げてきたどの理由を見ても、海運業界にとって代替燃料の選択肢を1つに絞るというのは、最終的に脱炭素化を危機に陥れるおそれがあり、必ずしも万能な策とは言えないのです。

 

クライドバンク宣言の詳細については、Insight記事「COP26を終えて海事産業の脱炭素化の進展状況」をご覧ください。

 

筆者紹介:Martin Crawford-Brunt氏は、RightShip社のCEOを経て20214月にLookout Maritime社を創業。現在、バルチック海運取引所でカーボン戦略リードを務めており、CO2排出に焦点を当てた同取引所協議会の一員でもあります。本稿で示された見解はあくまで筆者自身のものです。