国際海事機関(IMO)による既存船の燃費性能指標(EEXI)規制の施行が迫りつつあります。傭船契約は規制移行期に柔軟に対応できるような内容になっているか。新しく締結予定の定期傭船契約をEEXI規制に適合させるにはどうすればよいか。今回はこうした疑問を細かく見ていきます。
04 APR 2022
こちらは、英文記事「Under the lens - BIMCO’s EEXI transition clause for time charterparties」(2022年3月16日付)の和訳です。
IMOは、炭素集約度を2030年までに2008年比で最低40%低減する目標を掲げ、さらに2050年までに約70%低減することを目指しています。そして、こうした温室効果ガス(GHG)削減のための気候目標達成を促すべく、エネルギー効率設計指標(EEDI)や、窒素酸化物(NOx)規制、硫黄酸化物(SOx)規制を導入するなど、さまざまな対策をすでに講じています。昨年には、船舶の効率改善のための新たな規制も採択しました。その1つが、効率の劣る老齢船を主な対象とした、既存船の燃費性能指標(EEXI)規制です。2023年以降も運航を続けるための切符と呼ばれることも多々あります。
規制移行期に傭船契約上の問題が発生しないよう、ボルチック国際海運協議会(BIMCO)は先頃、定期傭船契約用のEEXI移行条項を発表しました。施行を控えた今の時期に役立つありがたい条項です。BIMCOによるGHG削減関連の条項はこれが初めてで、今後も、排出量取引制度(ETS)や燃費実績(CII)格付け制度に関する条項を発表していく予定です。本稿ではEEXI移行条項にスポットを当て、この条項を契約当事者の方針により適した内容にカスタマイズする方法をご紹介します。
はじめに:IMOによる脱炭素化のための技術対策であるEEXIとは
EEXIは、エネルギー効率設計指標(EEDI)の枠組みを既存船にも拡大し、新造船と同等の設計効率を求める、船舶の燃費性能対策です。各船舶のEEXIは船舶の設計という固定要素を基に評価され、気象・海象などその時々で変わる運航要素の影響を受けません。運航要素も含めた評価については、燃費実績(CII)格付けという別の指標があります。EEXIとは、簡単に言うと、CO2排出量を輸送量で割り、トンマイル当たりのCO2排出量をグラムで表したものです。式を簡略化すると以下のようになります。
EEXIの規制値を達成するには
EEDIと同様、EEXIも達成のための具体的な規定があるわけではなく、改善後の性能が規制値を達成していればよいので、どのような方法で規制に適合させるかは船主や管理会社、運航者に委ねられています。上記の式から明らかなのは、EEXIが以下の3つの要素の関数であるということです。
(a) 搭載エンジン出力(式の分子部分)。EEXIを決める最も重要なパラメーターの1つ。
それから、分母部分の
(b) 船速
(c) 載貨重量
です。
EEXI規制値を達成するために分子や分母の値をどう変えるかは船主が自由に決めて構いません。燃費改善の方法として実用的なのは、大まかに分けると以下の3つのいずれかになります。
EEXI規制値を満たすために、船体の設計や搭載機関の変更が必要になる場合もあります。適合のための対策を決める際は、以下のような要素を考慮することが必要です。
出力制限
DNVやLloyd’s Registerなど各船級協会が明らかにしていますが、大半の船舶はエンジン出力制限(EPL)やシャフト出力制限(SHaPoLi)を選ぶ傾向にあります。このような改善方法であれば、作業範囲が最小限で済み、費用を抑えられ、早く実行できるからです。ただし、船速が落ちる可能性があります。船齢が高いほど出力制限も大きくする必要があり、最大航海速力が大きく下がってしまいます。
規制値達成の証明
EEXI規制の対象船舶は、2023年1月1日以降、国際大気汚染防止証書(IAPPC)に関する最初の年次、中間または更新検査の際に、規制に適合していることを旗国や認定機関(登録船級協会)に証明する必要があります。認証を受けると、国際エネルギー効率証書(IEEC)が発行され、EEXIテクニカルファイルが承認されます。2013年以降の建造船であれば、海上公試時に評価されたEEDIがあるケースも多く、それをEEXI適合評価に使うことが可能です。一方、2013年以前に建造された船舶については、海上公試報告書の原本など評価に必要な書類が揃っていない場合もあるため、評価作業は煩雑になります。このような場合、IMOは、船速とエンジン出力の分布の統計を取って大まかな基準速度を算出する方法を採用します(参照:IMO決議MEPC.333(76))。ただし、この方法では船速が最大1ノット下がってしまいます。
BIMCOの定期傭船契約用EEXI移行条項
BIMCOが発表したこのEEXI移行条項を詳しく見てみると、EEXI規制が2023年から施行されると、この規制への適合は船主の義務となることが明記されています。
この条項では、規制に伴う改善方法で最も主流となる出力制限(出力の最適化)を中心に取り上げています。
また、このEEXI移行条項では、前述の「EEXIの規制値を達成するには」の段落で挙げた2番目と3番目の燃費改善方法については、傭船者の同意と承認を受けることを条件としており、傭船者はその同意と承認を不当に保留したり遅らせたりしてはならないと定めています。
EEXI移行条項のカスタマイズ
EEXI移行条項を傭船契約に摂取しようと考えている船主や傭船者にとって、交渉で念頭に置いておくべき事柄は他にもいくつかあります。
燃費向上技術の導入 / エンジンの改造
燃費向上技術の導入や、低炭素燃料対応エンジンへの改造を検討している船主は、このような改善を施す権利を傭船契約に盛り込む交渉をするとよいでしょう。出力制限以外の改善を施す場合や出力制限の他にも改善を施す場合には傭船者の合意と承認が必要、というのがEEXI移行条項の基本スタンスですが、このような改善を施す権利を盛り込んでおけば、合意と承認を取り付けられるか不安に感じることもなくなります。
船舶の性能と効率を高めるこのような改善提案を受け入れることは傭船者の利益にもなります。長期の定期傭船者にとってはプラス要素です。効率が高く、パフォーマンスに優れた船舶は、カーボンフットプリントが減少するだけではありません。船舶の燃費実績(CII)の格付けや、世界中での配船の可能性、そしてとりわけ、排出量取引制度(ETS)が適用される場合には、その規制を満たすために必要な排出枠にも直結してきます。傭船中のGHG削減に対して航海傭船者から注目が集まっていることを考えると、こうした改善によって船舶の市場価値が高まることは間違いありません。船主による改善に定期傭船者が協力する明確なモチベーションになります。
傭船者が改善に合意してくれそうであれば、当事者間で改善の流れについて話し合った上で条件を取り決めましょう。取り決めるポイントは、傭船者の運航にできるだけ支障をきたさないような通知方法、改善作業の実施・認証の費用負担、改善作業に伴うオフハイヤー期間(船舶が傭船者の手から離れて、改善作業の実施・認証後に傭船者に再度引き渡されるまで)などです。
また、燃費向上技術を導入する場合は、傭船契約上の他の義務に与える影響についても考えなければなりません。例えば、以下のような点です。
出力制限
EEXI移行条項は、EEXIの改善方法として出力制限を検討している船主にとって特に役立つ条項です。ただし、改善後の速力と性能保証値を計算する際は、制限方法の種類と、改善後の航海速力への影響について、エンジンメーカーの推奨事項などを踏まえて注意を払う必要があります。
EEXI移行条項の第C(V)項は出力制限後の最大速力に関する項目で、制限後の最大速力が現行の最大保証値を下回る場合は、制限後の値を新たな最大保証値とするよう定めています。一般的に、傭船契約に記載されている速力と燃料消費量の保証値は、最大速力ではなく、空荷時と積荷時の航海速力がベースになっています。最大速力で長時間航行することはほぼないためです。
例えば、最大速力13.5ノットの船舶が、出力制限をしない状態での航海速力を約13ノットと保証しているとします。すでに見たように、EEXI規制に適合するには、同じ船種であっても老齢船であるほど船齢の若い船舶より厳しい出力制限が必要になる場合があります。その結果、下の図のシナリオB(老齢船)のように、出力制限後の航海速力が13ノットを下回ってしまう場合は、次の点を考慮した上で性能保証値を修正しなければなりません。
(a) 出力制限によって下がった新しい航海速力
(b) 船体とエンジンに与える影響(もしあれば)
出力制限が航海速力に及ぼす影響の有無を簡略化して示したシナリオ
性能保証値を更新する場合は、出力制限後の安全航海速力の最大値を採用するのがよいでしょう。老齢船の場合は、前述の「規制値達成の証明」の項目でも解説したように、速力が下がってしまう可能性も念頭に置いておく必要があります。
出力制限によって速力が下がってしまう場合、傭船者は傭船料の値下げを交渉できるかという問い合わせも何件かいただいていますが、それはあくまで当事者同士がビジネスとして話し合う問題です。EEXI移行条項は、傭船者に値下げ交渉を無条件に認めるものではありません。
重要なポイント
関連リンク
Gardの刊行物
EEXIに関する最近のIMOサーキュラー
その他リンク