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ブラジル産大豆の輸出シーズンが始まり、これから5月にかけてばら積み大豆の輸出が予定されています。揚地の中国までは長い航海です。そのうえパンデミックの影響で荷揚げも遅れてしまうと、貨物が自然劣化してカーゴクレームを受けるリスクは高まります。ただ、換気の記録をはじめ、輸送中の貨物管理の記録を残しておけば、貨物の「固有の瑕疵(inherent vice)」が原因のクレームを揚地で受けても抗弁できる確率が高くなります。

こちらは、英文記事「Export season for Brazilian soya beans is underway – reminder for the recommended precautions」(2022年2月24日付)の和訳です。

GardのコレスポンデントであるProinde社の報告によると、ブラジル穀物輸出協会(ANEC)発表の2020~2021年にかけての大豆生産量は、パンデミックによる混乱があったにもかかわらず、過去最高の約1億3,710万トンとなりました。また、2021~2022年シーズンの生産量は1億4,280万トンと、前年比4%増となる見込みです。一番の輸出先は引き続き中国で、生産量の60%以上が中国向けとなっています。

 

中国への長期間航海と荷揚げ遅延で高まる貨物の劣化リスク

大豆を安全に輸送できるかは船積み時の貨物の温度と水分量が鍵を握ります。ホールドに積まれた時点の貨物の温度と水分値が高いほど、安全に輸送できる時間は短くなります。そのため、ヨーロッパ向けであれば問題ありませんが、アジア向けの場合は航海期間が40日以上とさらに時間がかかるため、到着までに劣化してしまうおそれがあります。温度が上昇する、黒く変色する、カビが生える、固結するといった現象は、いずれも貨物が輸送中に自己発熱している兆候です。大豆の微生物学的不安定性および自己発熱に関する動画でも解説していますが、自己発熱は大豆の生化学反応の過程で起こるもので、避けることは不可能です。これを貨物固有の瑕疵と言います。

 

パンデミックで高まる荷揚げ遅延リスク

パンデミックによって揚地の中国では多くの問題が発生しています。そのひとつが荷揚げの大幅な遅延です。荷揚げ開始が遅れれば、大豆などの腐りやすい農作物の貨物は傷んでしまうおそれがあります。この場合、運送人がヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条第2項(h)「検疫上の制限」の免責事項を援用できるかは不透明です。同ルールのすべての免責事項と同様、この項目も同条第1項で定めた堪航性を維持していることが前提となります。また、運送人が適用できる免責事項は裁判管轄によって異なり、各管轄の基準次第で変わる可能性があります。

 

メンバーの皆さまには、感染防止とは別に荷揚げ遅延回避のための対策を講じることをお勧めします。中国までの航海時間は長いので、これを逆手にとり、感染した乗組員が出ても早期に隔離対策を講じれば、到着時に、IMOのプロトコルに基づく陽性者が乗船しているリスクを減らすことができます。

 

貨物の劣化による揚地でのカーゴクレームへの抗弁

揚地の中国で受ける大豆貨物のクレームに抗弁するため、船長と乗組員は積地での荷役前、荷役中、そして輸送中に、船長チェックリストにある対策を講じるとともに、(万が一クレームが発生した場合には)揚地での対策も忘れないようにしてください。換気記録をもれなくつけておくなど、貨物の管理義務を果たしていたことが分かる記録を正しく残しておけば、後々こうした理不尽なクレームが発生しても対抗できるかもしれません。船内で使用するための船長チェックリストや換気記録表、Gardの動画や情報は、推奨防止策を講じるために欠かせないガイド、参考資料となります。Soya Bean Shipping – A Master’s tool kit to reduce cargo claims大豆の輸送 – カーゴクレーム防止のための船長ツールキット)をご参照ください。また、大豆貨物のクレーム防止に関する記事・動画はすべてこちらからまとめてご覧いただけます。

 

中国の法律事務所Hai Tong and Partnersは先日、中国最高人民裁判所から国内地方裁判所宛に出された覚書に関するサーキュラーを発行しました。同事務所はこの中で、運送人が貨物固有の瑕疵による免責をうまく援用するには、貨物管理の記録を正しく残しておくことが重要だと強調しています。また、運送人が大豆の熱損傷は大豆自体の特性が原因であるという主張を崩さず免責を求める場合は、同覚書第54項に従い、「運送人は、物品の積込、取扱、積付、運送、保管、管理および荷揚を

 

適切かつ慎重に行う義務を適切かつ慎重に果たしたことを立証しなければならない。また、中国最高人民裁判所の判例によれば、大豆を輸送する際、適切な換気を行うことは運送人の義務のひとつである」と述べています。したがって中国の法律と慣習の下では、換気が適切に行われたことを運送人が書面で立証しなければなりません。これは英国法を準拠法とする場合より厳しいと言ってもいいでしょう。ただ、英国の最高裁判所がVolcafe Ltd and another v Compania Sud Americana de Vapores事件で下した判決にもあるように、貨物に適切な注意が払われていたこと、または運送人が注意義務を果たしていたか否かにかかわらず貨物の損傷が発生していたことを立証する責任は運送人にあります。

 

B/L上の「quality unknown」などの文言は抗弁材料とならない

ヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づき、船長には貨物の外観上の状態をB/L上に独自に記録する義務があります。実際には、B/Lは荷送人が用意し、船積み時の貨物について「外観上良好な状態(in apparent good order and condition)」という文言が入っています。外観が良好な状態でリマークが一切入らなければB/Lは「クリーン」で発行されます。クリーンB/Lは、銀行が代金を立替払いして円滑な売り渡しをサポートする際に一般的に求められるものです。

 

B/Lには「quality, quantity unknown」や「said to be」、「said to contain」、「said to weigh」などの不知文言が入ることもあります。ただ中国では、こうした文言が運送人の抗弁を後押しする効果は限られています。無故障(クリーン)B/Lが発行された貨物(船積み時の外観上の状態が良好であった)が揚地到着時に損傷していた場合、運送人は貨物の管理義務を果たしたことを立証しなければなりません。貨物の損傷は防ぎようがなかったとする専門家の証言が仮にあったとしても、本船の書面での記録が不十分だと不利になってしまうおそれがあります。そのため、クレームの原因がたとえ大豆固有の瑕疵によるものだとしても、それに抗弁するには、運送人があらゆる義務を果たしたことの証明記録をもれなく適切に残しておく体制整備が欠かせません。

 

 

本記事は、Representacoes Proinde LtdaRicardo Martins氏、およびHai Tong and Partnersからの情報に基づいて作成したものです。