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海水に含まれている塩化ナトリウムは、道路の凍結防止剤としても用いられ、鉄を腐食する作用があります。高価な鋼材貨物を船積みする際に硝酸銀試験を行えば、船積み前の貨物から塩化物を検出し、船長が船荷証券に適宜リマークを入れることができます。

こちらは、英文記事「The purpose and limitations of Silver Nitrate Testing」(2022年1月27日付)の和訳です。

スチールコイル、ビレット、鋼管、厚板などの鋼材の海上輸送は日常的に行われており、熱延鋼材の場合は、屋外のストックヤードや上屋に運ばれたあと、雨風をしのぐためのシートが掛けられていないこともあります。

 

鋼材は高価で、腐食作用のある塩化物によるコンタミネーションが起きやすい貨物です。塩化物によるコンタミネーションは、工場生産後の輸送・保管のいずれの段階でも起こりえます。ただ残念なことに、「海水による水濡れ」が疑われて、海上輸送の段階にばかりクレームの矛先が向けられがちです。貨物を船内で管理している間に海水に含まれる塩化ナトリウムが過度に付着したせいでコンタミネーションが起きたと主張されやすいからです。

 

鋼材に塩化物が付着していないかを調べる事前試験は、酸性の硝酸銀溶液を用いて、輸送過程のどの段階でも行うことができます。純粋な硝酸銀(AgNO3)は結晶塩の形状をしており、製薬業界を中心に多くの商業用途があります。海運業界では塩化物による鋼材のコンタミネーションを調べるのに特に用いられており、硝酸銀2、硝酸(塩化物なし)2、蒸留水96の割合で試験液を用意するのが一般的です。この溶液は褐色瓶に入れて保管する必要があり、現場で使用する際は、スポイト付きの小型の褐色瓶に入れるのが最も一般的な方法となっています。

 

塩化物の有無を調べるのは簡単です。手近な範囲にあるものであればどれでも構わないので、鋼材の露出表面にスポイトを使って硝酸銀溶液を少量かけます。塩化物が存在する場合は、溶液が反応して白く濁ります。これまでのところ、この硝酸銀試験で得られた結果は、陰性(反応なし)、半陽性(わずかに反応あり)、陽性(強い反応あり)の3つです。

 

 

 

「陽性反応」の例

 

 

 

「陰性反応」の例

 

ぜひ覚えておいていただきたいのは、この硝酸銀溶液を用いた試験は塩化物の有無を示すだけであって、その塩化物の出所や、どの程度の量が付着しているのかまでは分からないという点です。硝酸銀は非常に反応しやすいため、塩化物が偶然付着した痕跡にも陽性反応を示すことがあります。そのため、船内に塩化物が入り込んだ明らかな証拠がある場合には、それを確認するのには役立ちますが、船積み前や荷揚げ後に行う場合は、試験結果から明確な結論を導き出すことは難しくなります。

 

塩化物による鋼材のコンタミネーションが起こるのは、以下のような段階だと考えられます。

 

  • 生産工場からの車両輸送中
  • 船積みを待つ間の港での野積み保管中
  • 海上輸送中
  • 荷揚げ後の港での保管中
  • 受荷主の工場敷地内までの車両輸送中

 

船積み前のコンタミネーションに関しては、悪天候の中や冬場にトレーラーの荷台に載せて輸送する際に発生することがあります。冬場は道路が凍結しやすく、凍結防止を目的に岩塩が定期的に撒かれます。その結果、車両が通った際に塩分を含んだ水がはね、細かいしぶきとなって、車両や、むき出しで荷台に積まれている鋼材や機器にかかってしまうのです。冬場は洗車の頻度が必然的に高くなっているのではないでしょうか。むき出しの鋼材にも、同じように塩分が付着しているのです。

 

港やターミナルでの保管中も同様です。悪天候時に海水や汽水のしぶきが飛び散り、こうしたしぶきや霧状の水が保管中の貨物、その中でも特にカバーの掛かっていないむき出しの鋼材にかかってコンタミネーションを引き起こしてしまうことがあります。積み込む船舶の近くで貨物のハンドリングを行っている際、岸壁が汽水や海水で濡れていると、車両での輸送中と同じく、はねた水しぶきが貨物にかかってしまうおそれがあります。

 

そのため、鋼材の海上輸送を指定された場合は、包括的な船積み前サーベイを行い、その記録を漏れなくつけておくことをお勧めします。サーベイでは、貨物に塩化物が付着していないか確認する必要があります。これは、貨物の全体的な状態と包装状態(包装されている場合)の確認・記録作業に追加する形で行ってください。塩化物が付着していることが判明したら、その旨を荷送人の代理人に知らせることが大切です。当該貨物をそのまま船積みする場合は、メイツレシートに試験結果を記し、該当するB/Lに以下のリマークを挿入してください。

 

Icon quote
「… (number) coil/pieces/bundles provided a positive reaction to silver nitrate solution tests(硝酸銀溶液試験の結果、~コイル/枚/バンドルに陽性反応あり)」

 

揚地で貨物に硝酸銀試験を行って陽性反応が出ても、航海中の海水によるコンタミネーションや水濡れが原因とは限りません。ホールド内の表面に発生したと思われる結露で陽性反応が出ることもある

 

からです。このような結露水は、前回のホールドクリーニングの際に残ってしまった塩分や空気中の塩分を吸収することがあり、その結果、ホールド内に積まれている鋼材の表面に軽い陽性反応が出てしまうのです。

 

陽性反応が出た場合、本船の輸送状態に問題があったのではと決まって疑われてしまいますが、前述のように、これは事実に基づかない間違った主張である可能性も十分あり、揚げ荷役中に無用の混乱を招いてしまうことにもなりかねません。

 

以上のことから、硝酸銀試験は塩化物の有無を明らかにするあくまでひとつの方法にすぎないと考えておいてください。塩化物の出所に関して疑問がある場合は、さらに詳しい化学的な分析と試験が必要になります。