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船荷証券(B/L)の原本1通を本船託送しても、そのB/Lは貨物の所有権を示す実質的な証拠にはなりません。こうした慣行は、流通している残りのB/Lが揚地で呈示されない場合、誰に貨物の所有権があるのか確認が難しいため、常にリスクがつきまといます。

こちらは、英文記事「One is the loneliest number – the enduring practice of the “on board bill of lading”」(2022年3月2日付)の和訳です。

国際貿易においては、「船主は、呈示されたB/L原本がB/L所持人の貨物に対する所有権を示す確かな証拠であると十分に認識した上で貨物を引き渡す」ことが大前提となっています。ただ海運業界では、この前提に伴うある問題への対応に苦慮し続けています。それは、B/L原本が銀行間の決済網を通過するのに伴い揚地への到着が遅れてしまうことです。こうした問題は電子B/Lやブロックチェーンを用いれば手際よく安全に解決できると思われますが、さまざまなプラットフォームが登場しているとはいえ、紙のB/Lに比べると導入はまだ一部にとどまっています。現在、国際P&Iグループ加盟のクラブでてん補対象として承認されている電子B/Lシステムは、Bolero International Ltd、E-Title Authority Pte Ltd、GlobalShare S.A.(edoxOnlineプラットフォーム)、CargoX、WAVE(WAVE Application)、TradeLens(TradeLens eBL)、essDOCS(CargoDocsプラットフォーム)です。ただ、Covantis(2021年2月)やMinehub Trade Finance(2021年11月)など、新たなプラットフォームも続々と登場しています。

 

通常、B/Lは3通1組で作成されます。そのうちの1通を本船託送する慣行は、原本の揚地到着遅れの問題を解決する方法として編み出され、現在まで続いています。このB/Lがあれば、船主は表向きには「B/L原本と引き替えに貨物を引き渡す」ことが可能となるため、理論上はこの法的要件を満たしているという理解になるかもしれません。ただそもそも、このB/Lは銀行間の決済網を通過しておらず、流通することも裏書きされることもないため、貨物の所有権を示す実質的な証拠にはなりません。つまり、こうした慣行は、流通している残りのB/Lが揚地で呈示されない限り、誰に貨物の所有権があるのか確認できず、常にリスクがつきまとうことになるのです。

 

実務上、残りのB/L原本の流通が銀行間の決済網で止まっている場合、そのB/Lの法律上の所持人は現地の荷受人ではなく銀行である可能性が最も高くなります。これは、Navig8 Ametrin号事件 [2021] EWHC 3132 (Comm)、Miracle Hope号事件 [2021] Lloyds Rep Plus 54、Nika号事件 [2020] EWHC 254 (Comm)など、貨物の誤渡しに関する最近の訴訟でも示されている見解です。

 

国際P&Iグループの各クラブは以前からメンバー向けサーキュラーを度々発行し、こうした慣行に従わないよう推奨するとともに、もしこの慣行に従って貨物の誤渡しによるクレームを受けても基本的にはてん補対象にはならないと明示してきました。商業上の理由からこの慣行に同意せざるを得ないと思われる場合は、船上に保管されているB/L原本1通と引き替えに貨物を引き渡す可能性があるということを、今後残りのB/Lを手にする全関係当事者がはっきり認識できるような文言をB/L原本全通に裏書きするよう推奨しています。以下の文言を入れるようにしてください。
 
 
Icon quote
“One original bill of lading retained onboard against which bill delivery of cargo may properly be made on instructions received by shippers/charterers.”  (「B/L原本の1通が本船上に保管され、荷送人・傭船者の指示があれば、同B/Lと引き替えに貨物の引き渡しを正当に行うことができる」)

 

また、引き渡し指示を受けたら、引き渡し相手の身元確認に相当の注意を尽くすとともに、荷送人・傭船者から指示された相手に貨物を引き渡したことを示す然るべき証拠を確保するようにしてください。

 

ただ、貨物の誤渡しリスクは今も大きく高まり続けています。船長は引き渡し相手が貨物の正当な所有権を有しているか確認できないため、仮に誤渡しした場合は貨物価額全額が損害賠償対象になってしまいます。流通B/Lの呈示を受けずに貨物を引き渡すための補償状(LOIについては、国際P&Iグループの加盟クラブが取り決めた推奨文言がありますが、本船上のB/L原本1通と引き換えに貨物を引き渡すためのLOIについてはそのような文言がありません。そのため、こうした慣行に従うよう要請があっても、実務上・商業上可能な限り、今後も受け入れないほうがよいでしょう。

 

 

電子B/Lが一般的になるまでは、B/L原本の呈示を受けずにLOIとの引き換えで貨物を引き渡す、もしくはこれまで見てきたように、3通のB/L原本のうち1通を本船託送し、そのB/Lを荷送人・傭船者の指定した相手に渡して「呈示」してもらったら貨物を引き渡す、という対応を求められる状況が続くでしょう。ただ、どちらの場合でも、P&I保険のてん補対象外となってしまうおそれがあるのでご注意ください。

 

詳しくはGardのクラブルールガイダンス(第34条)をご参照ください。