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ノルウェージャン・クルーズラインは米国連邦地方裁判所において、フロリダ州の企業がサービスの条件として顧客にワクチン接種証明書の提示を求めることを禁止するフロリダ州法の適用差し止めに成功しました。

こちらは、英文記事「Good news for Norwegian Cruise Lines – Passengers can be required to show documentation of COVID-19 vaccination」(2021年8月16日付)の和訳です。

2021年8月15日にフロリダを出航地とするクルーズの再開を計画しているノルウェージャン・クルーズライン・ホールディングス(NCLH)は、客船のすべての乗客にCOVID-19に対するワクチン接種の完了と、ワクチン接種状況の証明書提示を要求する方針を採用しました。

 

しかし、NCLHの方針は、先ごろフロリダ州で制定された法令と対立するものでした。このフロリダ州法381.00316条は、アクセス、入場、サービスを受ける条件として、州内の企業が顧客にCOVID-19ワクチン接種または感染後の回復を証明する書面を要求することを禁止するものです。

 

NCLHは、この法令が米国憲法修正第1条および眠れる通商条項の法理(Dormant Commerce Clause Doctorine)に違反すると主張し、フロリダ州南部地区連邦地方裁判所に対して同法令施行の仮差止命令を出すよう米国連邦地方裁判所に求めました。

 

連邦地方裁判所は2021年8月8日、同法令の遵守を要求された場合にクルーズ船社が回復不能な損害を受ける可能性が高く、また差止命令が衡平法上の権利と公共の利益にも合致するという憲法上の根拠に基づき、NCLHが本案の訴訟に勝訴する可能性が高いと判断し、NCLHの要求を認めました。(Norwegian Cruise Lines Holdings v. Rivkees, No. 21-22492, 2021 U.S. Dist. LEXIS 148279 (S.D. Fla. Aug. 8, 2021))

 

背景 - CDCの航海禁止命令と条件付き航海命令

 

クルーズ船上特有のCOVID-19集団発生リスクを考慮して、米国疾病予防管理センター(CDC)は2020年3月14日に航海禁止命令を出し、クルーズ船の運航者が米国領海での運航を続けることを禁止しました。航海禁止命令は三度の延長を経て2020年10月31日に失効しました。その後2020年11月4日に、CDCはクルーズ船の旅客航海を段階的に再開するため、以下の4段階からなる枠組みを定めた条件付き航海命令(CSO)を発出しました。

 

  1. 米国領海におけるクルーズ船の船員の臨床検査体制を確立する
  2. 模擬航海を実施して、クルーズ船内でのCOVID-19の感染拡大を抑える能力をクルーズ船の運航者がどの程度備えているかをテストする
  3. 認定プロセスを完了する
  4. COVID-19の感染拡大を抑えるべく、限定的に旅客航海を再開する

 

COVID-19ワクチンの導入後、CDCは一連の指示書簡を通じてCSOを修正しましたが、このうち2021年4月28日付の書簡にて、クルーズ船社は模擬航海の代わりに以下の代替手段によって枠組みの第2段階を満たすことも可能である旨が通知されました。

 

  1. 船員の98パーセントがワクチン接種を完了していることを証明する(後に95パーセントに緩和)
  2. 「出航前に乗客の95パーセントがワクチン接種を完了していることをクルーズ船運航者が確認済みである場合に限りクルーズ船の航海を許可し、それ以外の航海には制限を掛けられるように、明確で具体的なワクチン接種計画と予定表」をCDCに提出する

 

先の個別の法的異議申し立てにより、CSOとその後の指示はもはや拘束力のない指針となっているように思われるものの、すべてのクルーズ船社が自主的にCDCの命令と指示に従うことに同意しています。

 

ノルウェージャン・ジェム号

 

NCLHは、パンデミック以降初めてとなる、ノルウェージャン・ジェム号の航海(フロリダ発)の再開を計画しました。

 

2021年7月9日、ノルウェージャン・ジェム号が模擬航海の代替証明手段によってCSOの枠組みの第2段階を満たしたことにより、CDCはこの客船の条件付き航海申請を認可しました。

 

ノルウェージャン・ジェム号は2021年8月15日にフロリダを出航し、バハマ諸島、ホンジュラス、ベリーズ、メキシコ、ドミニカ共和国、米国領ヴァージン諸島、英国領ヴァージン諸島を巡る予定でした。

 

NCLHは、船上でのCOVID-19の集団発生を防止し、自社ブランドに対する信頼と顧客との良好な関係を築き、CDCに提示した確約を遵守するため、すべての船員と乗客が乗船に先立ちワクチン接種を完了すること、そして乗客がワクチン接種状況の証明書を提示することを義務付けようとしていました。

 

381.00316

 

しかし、NCLHの方針はフロリダ州法によって禁じられていました。2021年7月1日以降、フロリダ州の企業は「州内の事業活動へのアクセス、入場、またはサービスを得る条件として顧客にCOVID-19ワクチン接種または感染後の回復を証明する書面を要求してはならない」とされ、違反するごとに5千米ドル以下の罰金を科すこととされていました。

 

フロリダ州保健局にはこの法令を施行し、施行規則を採用する権限がありますが、差止命令が出された時点で同局はこれを実施していませんでした。

 

但し、同法令は企業が従業員にCOVID-19ワクチン接種証明書の提示を要求することを禁止してはいませんでした。

 

法的基準

 

仮差止を申し立てる当事者は次の4つの要素を立証する必要があります。(1) 本案勝訴の相当な可能性、(2) 回復不能な損害の重大な脅威、(3) 申立人の損害が相手方の損害を上回ること、(4) 差止命令が公共の利益を損なうものではないこと。

 

米国憲法修正第1 

 

憲法修正第14条を通じて州に適用される憲法修正第1条は、言論の自由を必要以上に制限する法律の制定を禁止しています。本条の下では、州が表現をその意図、考え、内容を理由として規制する権限が制限されています。

 

裁判所は381.00316条が文面上、内容に基づいた区別を行っているため、内容に基づく規制であると指摘しました。同法令は、サービスへのアクセスの条件として企業が顧客に「COVID-19ワクチン接種または感染後の回復を証明する書面」の提示を求めることだけを明確に禁止しており、企業がCOVID-19検査陰性の証明、他のワクチン接種の証明書、その他の医療情報を要求することは禁止していません。企業が要求できないのはCOVID-19に対するワクチン接種の証明書のみです。よって、裁判所は同法令が特定の内容に関する書類を対象としており、企業はサービスの条件として他の書類を自由に要求できるため、内容に基づく規制であると判断しました。

 

さらに、裁判所は営利的言論に適用される中程度の法令審査を適用して、フロリダ州が内容に基づく言論の制限が有効であることを立証できなかったと判断しました。言い換えると、同州は法令が実質的な政府の利益によって正当化され、政府の利益を直接促進し、政府の利益に適合するものであることを示せなかったのです。

 

したがって、裁判所はNCLHが憲法修正第1条の本案に勝訴する可能性が高いと判断しました。

 

眠れる通商条項(Dormant Commerce Clause

 

裁判所はさらに、同法令が2つの行為を禁止する、眠れる通商条項に抵触する可能性があると判断しました。

 

第一に、州は州際通商を直接規制もしくは制限するか、または州内の経済的利益を優遇する効果のある法律を制定することを禁じられています。第二に、州が州際通商に間接的な負担を課す法律を制定する権限は制限されています。州際通商への負担が、推定される地域の利益と比べて明らかに重すぎる場合、当該の法律は無効となります。

 

裁判所は第一の分析は当てはまらないと判断し、第二の分析に焦点を合わせた上で、フロリダ州は同法令が州際通商に負担を課すことを正当化する地域の目的を明示できなかったとの判決を重ねて下しました。

 

裁判所は同州が住民の医療プライバシーに対する権利を保護し、ワクチン未接種の住民への差別を阻止することを切望していると仮定した上で、これらの利益が実際に危険にさらされていること、あるいは法令がこれらの目的を推進するものであることを示す証拠がないと判断したのです。

 

反対に、裁判所は同法令が従業員に関するCOVID-19検査結果やその他の医療文書について規制を設けるものではなく、医療プライバシーを保護するという目的と矛盾していると指摘しました。さらに、同法令はワクチン未接種の個人を差別から保護するものではなく、クルーズ船社はワクチン接種済みの乗客と未接種の乗客とで別々の処置と手順を採用しているとも指摘しました。

 

逆に言えば、裁判所は以下の主張を認め、NCLHが州際通商への大きな影響を証明するのに成功する可能性が高いと判断したのです。

Icon quote
検疫と検査に関する数多くの要件が目まぐるしく変化する中、不変であるのはクルーズ船の乗客が公表されている寄航港に円滑にアクセスできるようにすることである。ワクチン接種証明書によって、NCLHが航海する予定のほぼすべての国や港への乗客の入国・入港を円滑に進めることができる。一方、ワクチン接種の証明書がなければ手順はそれぞれで大きくばらつき、特にデルタ株の感染拡大によって頻繁に変化することとなるため、NCLHのようなクルーズ船社が要件を遵守するのは非現実的であるだけでなく、財務的、法的、ロジスティック的に負担の大きいものとなる。

 

回復不能な損害の重大な脅威

 

最後に、裁判所はNCLHが憲法修正第1条の本案に勝訴する可能性が高いと判断し、さらにエルロッド対バーンズの最高裁判所判決(427 U.S. 347 (1976))に従って、NCLHに対して引き続き381.00316条を適用するのは明らかに回復不能な損害になるとの判決を下しました。エルロッド判例での最高裁判所の説明のとおり、「憲法修正第1条の自由を失うことは、たとえわずかな期間であっても、明白に回復不能な損害となる」(Id. at 373)のです。この判決はその後、評判、信用、顧客との良好な関係の喪失に加え、7日間のクルーズのキャンセルにつき約400万米ドルの収益減という重大な金銭的損失になるとの主張によって裏付けられました。

 

仮差止命令を申し立てる当事者が法的基準に基づき立証を要求される他の要素についても、衡平法上の権利と公共の利益の観点から差止命令が支持されると裁判所が判断するのは難しいことではありませんでした。

 

こうしてNCLHの仮差止命令の申立ては認められ、フロリダ州は本訴訟の本案が解決するまで、NCLHに対して381.00316条を課すことを禁じられています。

 

フロリダ州は2021年8月10日に控訴通知を提出しました。当面はこの判決によって、ノルウェージャン・ジェム号の航海に参加する乗客はCOVID-19ワクチン接種証明書の提示を求められることとなるでしょう。