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米中貿易摩擦が始まって以来、中国は南米からの大豆輸入を増やしてきました。その一方、Wang Jing法律事務所によると、中国国内ではこの数年、大豆のカーゴダメージによる高額クレームも増えており、運送人に全責任や少なくとも主な責任があるとする判決が常態化しているとのことです。貨物固有の瑕疵がダメージの主因であると考えられる場合や、船側ではいかんともしがたい理由で荷揚げ開始が遅れた場合、あるいは、運送人がこうした事態を防ぐための対策を講じていた場合でさえ、このような判決が下されているのです。ところが先日、山東省の裁判所で開かれたある上訴審で、第一審の判決を覆して運送人の責任割合を70%から30%に減ずる判決が下されました。船主にとってこの判決は、貨物固有の瑕疵を直接・間接的な原因とする大豆損傷のクレームについて、今後は公平性の高い判決が下されるようになるかもしれないという多少の期待材料になっています。

こちらは、英文記事「Soya Bean claims in China - Wang Jing reports a positive outcome in appellate decision」(2021年8月5日付)の和訳です。

背景

 

2017年4月7日にブラジルの積地を出港した本船ADELANTE号は、5月25日に中国の揚地に到着し、いつでも荷揚げ可能な状態にあった。しかし、荷受人からの信用状発行は6月16日まで先送りされ、輸入許可が出たのは7月13日であった。輸入許可手続きが遅れたため、本船は8月22日まで約3か月間錨地で待機。その後荷揚げを始めたところ深刻なカーゴダメージが見つかり、その結果、荷受人から運送人に対して1,800万ドルの請求がなされた。

 

判決

 

第一審では、荷受人の荷揚げ開始遅れと運送人の換気不備の両方がカーゴダメージにつながったことを認めたにもかかわらず、運送人に70%の責任があるとする判決が下されました。つまり裁判所としては、合理的期間内に荷渡しが完了しない場合でも運送人は貨物を適切に処理し、法律で定められた義務のもと損失を抑えなければならないため、荷揚げ開始遅れを直接の原因とするカーゴダメージについて荷受人は大きな責任を負わない、という見解でした。

 

ところが、上訴審ではこの責任割合を覆し、運送人を30%、荷受人を70%とする判決を下します。運送人が責めを負うべきは換気の不備のみである、というのがその根拠でした。貨物を処理することも気温の高い状況で貨物の熱損傷を避けることも運送人には不可能だったことを考えると、荷揚げ開始遅れによるカーゴダメージについて運送人に責任はなく、荷揚げ開始が遅れたのは荷受人が輸入手続きを怠ったためだと判断したのです。

 

注目ポイント

 

吸湿性が高い、高温に弱い、船積み状態では劣化が速く進むなど、大豆貨物には固有の瑕疵があります。つまり、大豆は輸送中の内的・外的両方の要因の影響を受けやすいということです。内的要因と外的要因を完全に区別できない複合的な原因で損傷してしまうことも珍しくありません。このため、積地での検査で状態に問題ないことが確認された場合、中国の海事裁判所は国家出入境検験検疫局(CIQ)や中国検験認証集団有限公司(CCIC)の検査報告書の内容を非常に重視することが多く、主に換気不備など運送人による貨物管理が不適切だったためにカーゴダメージが発生したと判断してしまうのです。

 

山東省では過去の判決に従い、大豆の損傷に関する運送人の最低責任割合を50%としてきましたが、実際50%とされたのは3例だけです。しかも、このうちの2例は荷揚げが約3か月遅れ、残りの1例では貨物の水分量が13%(中国で定めた安全保管の最大基準値)を超えていました。それにもかかわらず、毎回重い立証責任が運送人の側に課せられ、納得のいかない判決が下されてきました。

 

一方、ADELANTE号の上訴審では、荷受人と運送人の責任割合、中でも換気と荷揚げ開始遅れに関する責任割合を見直し、過去の判決より本船側の責任を減らす方向にシフトしました。この判決には2つの画期的なポイントがあります。

 

l  荷揚げ開始待ち中の自然換気が効果を発揮するのは貨物表面だけである。

 

過去の判決では、換気の重要性に焦点を当てていたにもかかわらず、実際換気を行ってもばら積み大豆に与える効果は限定的であることを説明できていなかった一方、今回の上訴審判決では、特に本船が錨泊中の場合は自然換気の効果が非常に限定的であることを認めました。仮に効果があったとしても、貨物の表面のみだとしたのです。そのため、貨物の中間・下部の損傷については運送人の責任が免除されました。

 

l  荷揚げ開始待ち中の損失を抑えるという運送人の義務は、「合理的かつ実現可能な」基準に従うべきである。

 

貨物関係者の落ち度で荷揚げ開始が遅れた責任をなぜ中国の裁判所は運送人に負わせているのかというと、倉庫までの荷揚げや貨物の転売など貨物処理による損失を抑える義務が運送人にあるとしているからです。しかし、これは運送人にとって「不可能なミッション」に思えます。今回の上訴審はこうした論理に従わず、貨物を適切に管理すること、また必要な輸入手続きを迅速に行うよう荷受人に促すことを除いて、運送人は荷揚げ開始待ちの間に船上の貨物を処理することもできず、処理する権利もないことを確認しました。輸入手続きが終わっていないと、運送人は多くの場合、荷揚げ開始までなす術がないため、こうした新しい考え方は実務上合理的なだけでなく、より公平性も高いといえるでしょう。

 

コメント

 

これまでの要点をまとめると、今回のADELANTE号の上訴審判決によって、大豆貨物の損傷クレームに関する責任割合は今後ますます常識的な方向に向かうと思われ、中国裁判所も今まで以上に実際の細かい状況をもとに判断していくはずです。今回も「換気の不備」(中国での大豆貨物クレームに関する判決では必ず登場します)が損傷の一因として挙げられはしたものの、換気が大豆貨物に及ぼす効果は状況によって異なるということが少なくとも認められるようになりました。また、運送人による貨物の処理能力や荷受人の輸入手続き義務も考慮されるようになりました。これまでは揚地に着いた船の中で何か月も大豆を劣化させておいても呑気に構えていた荷受人ですが、今後はそうはいかないかもしれません。

 

今回の判決では損傷の主な原因に荷揚げの開始遅れを挙げており、換気の不備を唯一の原因としたCIQの報告書の結論を一部却下しています。中国の裁判所では大豆の損傷クレームに関してCIQの報告書に過度に依存する傾向があるため、この流れを変えるのは難しいことではありますが、運送人

 

は今回の判決によって、十分な証拠による裏付けがあればCIQの報告書の結論を完全に、または一部覆すチャンスができたともいえます。

 

全体として見ると、今回の判決は、荷受人のせいで荷揚げ開始が遅れた場合などの運送人と荷受人の責任負担を公平かつ論理的な方向に向かわせる、明るい一歩といえるかもしれません。航海中に起きた大豆のカーゴクレームについて、運送人は現時点ではまだその責任を完全に回避できるというわけではなさそうですが、こうしたクレームについて運送人にとってより合理的で公平な判決が下されることを期待してもよさそうです。

 

青島(Qingdao)、日照(Rizhao)、竜口(Longkou)、煙台(Yantai)、威海(Weihai)の各港がある山東省では、運送人にとって非常に納得のいく判決が出るものと期待できます。

 

今回のInsightWang Jing法律事務所のYuan HuiWang Yongli両弁護士にご寄稿いただきました。なお、大豆のカーゴダメージに関する中国と英国での仲裁方法の違いについて、Gardの弁護士Louis Shepherd動画 で解説しています(繁体字簡体字字幕入りもあります)。また、Hot Topicsページでは、大豆のカーゴダメージに関するGardのロスプリベンション資料もまとめてご紹介しています。