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この度バイデン米大統領は、コンテナのディテンション(返却延滞料)とデマレージ(超過保管料)に関する慣行改善に加え、反トラスト法と海事関連規則の執行状況に関して、連邦海事委員会によるコンテナ船社とアライアンスへの監視強化を求める大統領令に署名しました。今回は、米法律事務所Holland and Knightの皆さまにご寄稿いただき、この大統領令発出の背景と、考えられる影響の範囲について解説していただきました。

こちらは、英文記事「New US Presidential Executive Order targets liner operators and alliances」(2021年7月22日付)の和訳です。

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、米国の消費者・事業者による輸入需要が急増し、そこに運航を中断する船舶が増えたことも相まって、過去に類を見ない規模の滞貨が発生しています。その影響は、米国を含め世界全体のサプライチェーンに及んでいます。

 

2021年7月9日、ジョー・バイデン大統領は海事業界の海上輸送部門、とりわけ国際コンテナ船社とアライアンスを対象にした、国内市場の競争促進に関する大統領令(E.O. 14036)を発出しました。この大統領令は、コンテナ船社のほかに通信やインターネットプラットフォーム、医療サービスなどの業界を対象に、米国内市場での公正な競争の促進を目指すものです。命令の中では、過去数十年の間に進んだ海運業界の合併が引き合いに出され、こうした合併によって国内輸出業者が不利益を被る可能性があるとされています。そのため、連邦海事委員会(FMC)に対し、2020年発表のFMC解釈規定(合衆国法典第46巻第545.5条)で明示されているように、ディテンションとデマレージの徴収に関し海運法に準じて「不公正かつ不合理な慣行を積極的に禁じる」よう求めています。ここでいうデマレージとディテンションには、港湾ターミナルのスペースやコンテナの使用に関して規制対象となる事業者が算出したあらゆる料金(運賃は除く)が含まれます。

 

今回の大統領令は、複合一貫輸送における滞貨に関してFMCが現在行っている重要な活動を受けたものです。FMCでは、新型コロナウイルス感染症の流行に伴って発生した貨物輸送システムの問題について有効な解決策を見つけることを目的とした、事実確認調査No. 29:国際海上輸送サプライチェーン業務を開始しています。また、本命令は、2021年6月15日に行われた下院沿岸警備隊・海上輸送小委員会による「海上コンテナの不足・到着遅延・需要増加が北米サプライチェーンに及ぼす影響」に関する公聴会の結果を受けたものでもあります。当公聴会ではFMCのDaniel B. Maffei委員長が、全てのアメリカ国民にとって海上輸送がいかに欠かせないものであるか、海上輸送が経済競争力と国民生活の維持にいかに重要であるかを強調しました。

 

起こりうる影響

 

今回の大統領令が米国の法律や規制に準拠する船会社に与える影響の全体像については予測が難しくはありますが、運賃の値上げや輸出船腹供給の問題や反競争法的な問題、デマレージやディテンションなど、大統領令で明記されている領域については、米国の規制当局による監視の強化への備えが必要になると思っておいた方がよいでしょう。ただし、規制当局によるこうした取り組みが十分な効果を発揮するかは不透明です。反トラスト法から既に適用除外されているものがどの程度あるか、こうした状況で海運法の適用がどの程度制限されるか、そして最終的には、滞貨問題の主な要因である新型コロナウイルス感染症の流行による滞貨がどれくらい続くかによって、失敗する場合もあり得るからです。

 

確かなのは、今回の大統領令をもってホワイトハウスとFMCが、コンテナ輸送にかかるデマレージやディテンションなどの問題について、規制当局として何らかの行動を取る意向だとメッセージを発信している点です。そのため、コンテナ船社やアライアンス、港湾ターミナルは注意しておいた方がよいでしょう。上述のように実際には制限が色々とあるため、FMCは今後、直接の権限があり関心を示している領域に対して、より積極的な対応を取ってくるものと思われます。以下がその例です。

 

  1. 新規のアライアンス案件の精査を強化する(実際に案件がある場合)。既存のアライアンスによる活動と報告・データの検証も厳格化する可能性があります(報告については、昨年既に一定数増加)。
  2. デマレージとディテンションの慣行に対する措置を講じる。これは既に強力な監視対象になっていたものですが、事実確認調査No.29での調査内容や、FMCにて保留されていたデマレージやディテンションに関する論争の検討なども含まれるようになります。
  3. 運賃や輸出船腹供給に関して、訴訟レベルにもなりうる苦情の調査機会をうかがう。苦情の例としては、船社が申し合わせたような行動を取る、ボイコットをする、苦情を申し立てた荷主に報復するといったものや、大手のアライアンスが協定やアライアンスの範囲を逸脱して、競争を抑制するような大きな影響を及ぼしているのではないか、といったものがあります。

 

さらに、FMCは規制当局として、デマレージとディテンションに関してさまざまな形で措置を講じてくる可能性があるため、この点でFMCの取り組みには注意が必要です。デマレージとディテンションに関する取り組みについては、規制が行きすぎないようバランスを取らなければなりません。これらの料金については先頃、解釈規定が発表されていますが、FMCがさらに拘束力の強いガイダンスを検討する場合、業界の見解や問題の多様性を考慮に入れた規則正式制定手続きを考えるには、大統領令の提言を採用することが役立つと思われます。

 

最後に、FMCは既存のアライアンス協定の範囲や競争上の影響を再検討する可能性もあります。私訴や調査活動によって悪習と思われるものを引き続き見つけ出していくことなどが考えられます。また政府は、単独か司法省(DOJ)との共同かにかかわらず、アライアンスや船社からの報告データや業界に関するその他の情報をこれまで以上に徹底的に調べ、反競争法的な影響を与えるおそれがないか、より広範に探っていく可能性もあります(以下参照)。

 

司法省の新たな役割

 

今回の大統領令では、既存の反トラスト法の調査・執行について、連邦取引委員会(FTC)に対してもFMCや他の機関と協力するよう求めています。そこで、FMCとDOJ反トラスト局は7月12日、コンテナ船業界に対する監視と執行の責任に関する連携強化促進のための省庁間覚書(MOU)に署名しました。FMCのMaffei委員長、DOJのRichard Powers司法次官補代行が署名をしたこのMOUは、両機関で交わされた初めての覚書となりました。

 

本MOUがもたらす実質的な影響はまだ分かりませんが、大統領令の発出からわずか3日で締結に至ったことは、省庁間をまたいだ取り組みであることを考えれば注目に値する出来事です。省庁間MOUが実際に締結されることは珍しいことではありませんが、本MOUについては、DOJ反トラスト局とFMCが海運業界の公正競争確保に向けて協力すること以外、詳しいことはまだ分かっていません。ただ船社にとって重要なのは、本MOUの締結によって、連邦政府から海運業界に対する反トラスト行為への監視が強まるであろうという点です。

 

より具体的に言えば、本MOUは、シャーマン反トラスト法に基づくDOJ反トラスト局の犯罪取り締まり能力と経験を活用するものです。その点を踏まえると、省庁間MOUの進展に向けた取り組み

 

は事前の入念な計画と協力が必須なため、DOJは、船社のオペレーションを常に注視し、具体的な取り締まり策を徐々に策定していけるようにする方針であると考えられます。

 

まとめ

 

海上輸送や複合一貫輸送システムのこうした問題は決して新しいものではありませんが、今回の大統領令によって注目度が高まっています。関係者の皆さまにおかれましては、今回の大統領令の内容を確認し、FMC、陸上運輸委員会(STB)、DOJが業界に今後どのような展開をもたらすのか注意深く追っていくことを推奨いたします。また、FMCがDOJ反トラスト局の調査・取り締まり能力を活用する可能性があるため、自社の法律順守状況の評価を行うことを検討するとともに、今後、大統領令の内容に関わるような決定を行う際は弁護士への相談も検討することを推奨いたします。

 

今回のInsightは、Holland and Knight法律事務所のSean T. Pribyl氏、Gerald A. Morrissey氏、J. Michael Cavanaugh氏、Jameson B. Rice氏、Christopher R. Nolan氏、David C. Kully氏にご寄稿いただきました。記載の意見は筆者本人の見解によるものです。