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Gardは先日、セキュリティコンサルタント会社のAMBREYからゲストスピーカーをお迎えし、ロスプリベンションウェビナーを開催しました。海賊・戦争リスクの動向を中心に見ていきながら、船員、そして船体などの資産に対する安全上の脅威を最小限に抑えるうえでの重要なアドバイスをいただきましたので、その模様をハイライトでご紹介します。

こちらは、英文記事「Maritime security – unsafe seas, insecure crew」(2021年7月8日付)の和訳です。

今回パネリストが注目したのは、船舶と船員に対する安全上のリスクの高まりです。運航、営業、法律、保険、そして個人的経験というさまざまな観点からお話いただきました。AMBREY社のSteven Harwood氏には、2019年12月に起きた誘拐事件を例にしながら危機管理のプロセスを解説していただきました。また、GardのSiddharth Mahajanは、自身が船長として乗船中に遭遇しかけた海賊襲撃の様子を紹介しました。私たちは船員の存在を片時も忘れたことはありません。今回、このウェビナーにHafnia社の船隊から100名を超える船員の皆さまにご参加いただいたことを光栄に思っています。

Kunal Pathak(モデレーター、Gard Asiaロスプリベンションマネージャー)、Harry Pearce氏(AMBREY社Associate Director, Risk Intelligence)、Steven Harwood氏(AMBREY社Director, Crisis Management)、Siddharth Mahajan(Gardロスプリベンションエグゼクティブ)、Puja Varaprasad(Gardシニアロイヤー)、Chris Lambe(Gardアンダーライター)

最初に、AMBREY社のHarry Pearce氏から世界全体の海上犯罪と戦争危険の概況についてご説明いただきました。2021年は昨年に比べて犯罪件数は減るものの、地域間での差が縮まり、中南米での事件発生率が比較的高くなると見込まれているようです。

 

ここでは、身代金目的の誘拐を中心に現在、海賊行為の多発地帯となっている西アフリカのギニア湾に注目しました。この地域ではナイジェリアが依然として海賊事件の最多発国となっており、毎年の合計件数の約半分を占めています。ただし、発生場所が移動しつつあり、適切な安全対策もそれに応じて複雑化してきているとのことでした。また、海賊事件の発生率は一貫して季節ごとに周期的に変わる点には注意が必要だとし、こうした情報をしっかり念頭に置いておくことが重要だと強調しました。プレゼンの最後には朗報もありました。ひとつは、海賊行為の成功率の低下で、今年はこれまでと比べて成功率が下がっているとのことです。また、近い将来、多数の重要な構想や海軍の配備が開始予定とのことです。

 

海賊・戦争危険– 2つのシナリオから見る保険、傭船契約、船員雇用契約への影響

 

ウェビナーでは、ギニア湾の航行と戦争危険水域の航行という2つのシナリオを取り上げました。後者でクローズアップしたのは、2020年にジッダ(Jeddah)港で起きた、爆発物を搭載して遠隔操作されたボートによるBW RHINE号襲撃事件です。一般的に、海賊行為は戦争危険と見なされ、船体・機関の損害、船主責任ともに戦争保険でてん補されます。GardアンダーライターのChris Lambeの説明によると、特定の地域については戦争委員会連合(Joint War Committee, JWC)が除外水域に指定しており、この除外水域内を航行する場合、船主はてん補の条件として、また保険料の精算のため、戦争保険の保険者にその旨を通知することが求められます。

 

一方、除外水域外での海賊被害は変わらず戦争保険のてん補対象と見なされ、戦争保険の保険者へ前もって航海の通知を行う必要はありません。ただ、GardのFD&D弁護士のPuja Varaprasadによると、傭船契約によっては戦争危険による航行禁止区域を、JWCの除外水域よりも広く定めている場合もあるとのことでした。また、ボルチック国際海運協議会(BIMCO)の海賊条項など、一部の傭船契約には「船長および/または船主は、当該地域で海賊行為が実際に報告されている、またはその脅威が報告されていることに鑑み、本船、積荷、乗組員その他本船に乗船している者が危険にさらされると合理的に判断した場合、当該地域に向かうことを拒否することができる」とする文言が含まれているとの指摘もありました。

 

指定ハイリスクエリアを航行する場合は、船員雇用契約で追加の補償やその他の権利を定めておくことがあります。例えば、国際運輸労連(ITF)の国際団体交渉協議会(IBF)の労働協約では、船舶が指定危険海域を航行する際、その海域がハイリスクエリア(High Risk Area)なのか、軍事行動海域(Warlike Operations Area)なのか、拡張リスク海域(Extended Risk Zone)なのかによって、船員はそれぞれ追加の金銭補償を受け取ることになっています。また、そうした海域への航海を拒否する権利を持ち、会社の費用負担で送還される場合もあります。なお、Mahajanが指摘したように、ハイリスクエリアに指定されている海域は、IBF/ITFの船員雇用契約上とJWC除外水域では異なります。また、これとは別に、ギニア湾の海洋状況把握機構(Marine Domain Awareness for Trade – Gulf of Guinea [MDAT-GoG])が管理する任意報告海域(VRA)というものもあります。この西アフリカのVRAはソマリア沖の報告海域とは異なり、指定ハイリスクエリアを含みません。これら3つの海域の境界は以下のとおりです。

 

 

リスク管理に重要なのは脅威認識、訓練、準備

 

パネリストの皆さんからは、海上の安全についてさまざまな観点からお話をいただきましたが、問題解決の重要なポイントはいずれも共通していました。脅威の認識とは最新情報の確認を

 

含むものであり、関係者の協力が必要となります。海上の安全は些末な問題として扱われるべきではありません。リスクの高い海域を航行する際の脅威に備えて、船員に十分な情報を提供し、訓練を行い、装備を充実させておく必要があります。

 

法律・保険の面では、戦争保険者と早急に連絡を取り、各保険のてん補範囲の細かな違いを把握しておかなければなりません。また、海賊行為や戦争、貿易に関する除外条項など、傭船契約の条項を見直しておくことも必要です。そして、事件の前後や最中においてもコミュニケーションと透明性が欠かせません。ここでいうコミュニケーションとは、本船の成約担当部署と船員担当部署での社内的なコミュニケーションのほか、会社と船員間のコミュニケーションも含まれます。船員は、リスクとそれに対して立案した対策の両方を理解するとともに、懸念点があればそれを伝える場を設けてもらうことが必要です。

 

今回、分析データや知見を提供してくださったAMBREY社に心より感謝申し上げます。ウェビナーでは1時間のプレゼンテーションの後、30分の質疑応答の時間を設けました。録画はこちらからご覧いただけます。予定していた時間では全ての質問にお答えできなかったため、各登壇者にいただいた質問とその回答について、別途Insight記事でご紹介する予定です。