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68は国連が定めた「世界海洋デー」です。「生命と生活」という今年のテーマに基づき、今回は商船と漁船の衝突について取り上げたいと思います。これまで衝突事故によって、悲しいことに多くの命が失われてきました。こうした事故はなぜ起こるのでしょうか。そして、事故を避けるためにはどうすればよいのでしょうか。

こちらは、英文記事「Collision avoidance – safeguarding the lives and livelihoods of fishermen」(2021年6月8日付)の和訳です。

はじめに

 

Gardは持続可能性を中核事業に取り入れることに力を入れています。2021年サステナビリティレポート(英文のみ)でも述べましたが、Gardの目標は、船員の生命と生活を守り、海をよりきれいで安全な場所にすることです。その取り組みはこれからも続いていきます。私たちが万事知り尽くしているというつもりはありませんが、活動を続けることで、今後こうした悲惨な事故が起きないよう協力して取り組めることも増えると信じています。

 

憂慮すべきデータ

 

Gardには2015~2020年の6年間、加入船が関係した漁船衝突事故が49件報告されています。この期間中、これらの事故により少なくとも54人の漁船船員が亡くなったほか、15人が負傷しました。衝突事故による死亡や怪我はあってはならないことです。他の関係者と協力しながら、事故件数をゼロに近づけるための取り組みを意識的に行っていかなければなりません。本稿では、これらの漁船衝突事故の調査から分かったことや、こうした悲惨な事故を防ぐための推奨事項を簡単にご紹介します。

 

COLREGと漁船

 

1972年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する国際条約(COLREG)では、適切な見張りの継続は海上にいる全ての船舶の相互義務であるとし、見張りは視覚と聴覚だけでなく、レーダーやAIS、VHFなど他に利用可能な手段も用いて行うよう求めています。また全ての船舶に対し、他船との衝突の危険があるか否かを、レーダー機器(搭載されており、使用可能な場合)を用いるなどして判断するよう求めています。もちろん、接近中の船舶のコンパス方位を確認するという従来の手法も忘れてはなりません。

 

航行中の動力船と帆船は「漁ろうに従事している」船舶の進路を避けなければなりませんが、漁ろうに従事している船舶も、操船が自由でない状態にある船舶や、操縦性能が制限されている船舶の進路はできる限り避けなければなりません。漁船として認定されている船舶は、漁ろうに従事しているときに限り「操縦性能が制限されている船舶」となります。

 

船舶が漁ろうに従事しているとみなされるのは、操縦性能を制限する網、縄、トロールその他の漁具を用いて漁ろうをしている場合に限られ、流し釣りやその他操縦性能を制限しない漁具を用いて漁ろうをしている船舶はこれに含まれません。またCOLREGでは、保持船に対し、避航船が衝突を回避するための適切な動作をとっていないことが明らかになった場合は、直ちに衝突を回避するための動作をとるよう求めています。

 

調査結果

 

これまでの衝突事故を調査した結果、衝突が起こるまでの間、両船ともに効果的な見張り(視覚とレーダー)を常時継続していなかったことが分かったうえ、漁船側で以下のような状態が発生していたために衝突につながったケースが複数あったことも分かりました。

 

  • 船長が船内唯一の有資格者であり、なおかつ疲れていたケースが多く見られた。
  • 船員が2、3人しか乗船していない船もあった。これは24時間休みなく漁ろうをしながら適切な見張りも行うには不十分な人数である。中には、見張りが全く行われていなかったケースもあった。
  • 事故発生時、漁ろうには従事していなかったが、漁場間を移動している最中であった。
  • 航路として広く認められている場所で漂泊していた。見張りを一切立てず、船員が全員とも就寝中であった。
  • 当直員が訓練を一切受けておらず、COLREGで漁船に課されている義務や、レーダーの使い方、レーダーの限界について理解していなかった。
  • 灯火方法がCOLREGの規則に従っていなかったため、状態や動きが周りから判断しにくくなっていた。
  • 複数の漁船が互いに接近し、他船の安全航行が一層難しい状態になっていたケースが多く見られた。
  • 衝突前のVHFでの呼びかけが紛らわしく、自船名を言わずに他船に呼びかけることがあった。
  • 直前になって予期せぬ操船をして、他船の安全航行を余計に難しい状態にしていた。中には、自船の漁具を守ろうとして他船の航行を危険にさらしたと思われる操船もあった。

 

商船側の主な課題

 

6年間のデータを見ると、ばら積み船やタンカー、自動車船、コンテナ船など、さまざまな種類の商船が衝突事故に巻き込まれていることが分かります。しかも、事故が多発する場所はある程度決まってはいるものの、世界中で起きているのです。そして、衝突した場合、両船の船員全員が何らかの形で影響を受けますが、怪我や死亡といったリスクを受けやすいのは漁船の船員です。商船と漁船では得てしてそのサイズに格段の差があることを考えると、これは極めて明白な話です。そのため、衝突事故を避け、より小型の船舶の船員の生命や生活を守るためには、商船側が注意を払うことがより一層重要となります。

 

商船とその船員が抱えている主な課題には以下のようなものがあります。

 

輻輳度が高い海域での操船能力

 

AISのマッピングを見ると、漁船(Type B AIS搭載)は南シナ海、東シナ海、ペルシャ湾、ボスポラス海峡に入る南側地域、そして北海に最も多く集まっています。どの種類の船舶でも、航海士はCOLREGに従って規律を確実に保ち、漁場を通過する際のさまざまな問題を意識しておく必要があります。漁船は灯火が不十分であったり、漁船の輻輳度が高い海域で漁ろうをしていたりすることも多いうえ、予期せぬ操船をしがちです。輻輳度が高い海域では、余裕を持って状況を判断できるよう減速が必要になる場合もよくあります。こうした海域に入る前には、主機関を急な操船に対応できるようにしておくとよいでしょう。こうしておけば、ブリッジにいる船員たちが状況を速やかに判断し、必要に応じて減速することができます。

 

ブリッジの人員配置

 

海域によっては、全域で多数の漁船が輻輳している場合もあります。そのように広範囲にわたって輻輳が続くと、ブリッジの船員たちは見張りで極度のストレスにさらされることにもなりかねません。この問題を解決するため、輻輳度が高い海域では船長にブリッジに上がってもらうなどして、ブリッジの人員を増やしてください。こうすることで意思決定や業務負担の管理を行いやすくなります。輻輳度が高い海域でブリッジの人員配置を適切に行っておけば、「手動操船」モードで操船することも可能になるため、漁船が直前で予期せぬ動きをしても迅速に回避行動を取ることができます。

 

また変針時や、漁船の意図や行動が読めない場合は、それを知らせるため、COLREGの要件に従って警笛を用いることも忘れないでください。

 

衝突回避における電子機器の限界

 

現代における商船の船員は先人がうらやむような技術を手にしており、漁船や漁船団を素早く見つける方法が今はいくつもあります。しかし、こうした機器にも限界はあり、そのことを頭に入れておかなければなりません。

 

レーダーを使って漁船から受信するエコーは、その時点の天候だけでなく、その漁船の大きさや形・構造・外観によっても変わってきます。小さくて表面積が限られ、高さもあまりないターゲットは発見できないこともあります。仮に発見できたとしても、著しく接近した時点になってしまうかもしれません。漁船が金属製であれば、レーダーの反応は木造漁船よりも良くなります。小型船、とりわけ木造船や非金属製の船の場合は、金属製の反射物(マスト、ブーム、エンジンなど)が多数取り付けられていることがあり、これによってエコーの増幅または受信エコーの相殺のいずれかが起きる可能性があります。またエコーが海面での跳ね返りの影響を受けて上述のように相殺される可能性もあります。

 

Type B AISを搭載した漁船であれば、商船側から早く見つけやすくなります。また、現在では漁船は自らの漁網の場所や漁ろう水域を標示する目的でAISを導入することもできるため、商船側がレーダーにAIS情報を重畳表示させることができれば、漁船の存在に対して乗組員に注意喚起することができます。

 

また、天候もレーダー上での漁船の発見に影響を及ぼします。「波」や「にわか雨」自体から発生するエコーがターゲットとなり、それが反射してレーダーに拾われると、「シークラッター」や「レインクラッター」となるのです。小型漁船は大型船に比べてクラッターに紛れてしまう可能性が高くなります。更に、雨や霧のほか、湿度が高かったり気温が海水温より低かったりしても、レーダーで探知できる範囲は狭くなります。

 

航海士は、できるだけ良好な状態で受信ができるようにレーダーが設置されているか、そしてレーダーが衝突回避に効果的に使用できているか、その両方を確認してください。最後に、レーダー機器の限界を認識しておくことは、視覚による十分な見張りの常時徹底にもつながります。視界が良ければ、視覚による見張りは状況判断と衝突回避の最も効果的な方法です。

 

疲労

 

疲労は言うならば、体や心の酷使による体力・気力の低減で、反応時間や協調、意思決定といった身体能力に影響を及ぼしかねないものです。船員が慢性的な疲労を抱えていると、パフォーマンスに影

 

響が出るだけでなく、自身のパフォーマンスの著しい低下を自覚できなくなることもよくあります。最悪の場合、仕事中にいつの間にか眠ってしまうことにもなりかねません(多いのは、座っている間や立っている間の一瞬の居眠りです)。睡眠は人間の基本的欲求であり、睡眠不足は疲労につながります。

 

航海士は自分が疲れているかもしれないということを意識するとともに、漁船の船員も疲れている可能性があることを心に留め、一層の注意をもって接近するようにしてください。

 

接触後の行動が命を救う可能性も

 

漁船との衝突事故では、事故発生時の商船側の当直員が、衝突に全く気付かなかったとして、単なるニアミスだったと調査官や船長に報告していたケースもありました。結果、彼らは救助のための行動を一切取らず、これが悲惨な結果を招いた可能性もあります。

 

ニアミスだと当直員が思ったとしても、漁船への被害の有無の確認が求められていると思った方がよいでしょう。もし接触した場合、商船側は捜索と救助に協力しなければなりません。

 

おわりに

 

本稿の目的は、漁船との衝突事故が招く悲惨な結果に焦点を当てることです。こうした衝突事故の多くは、航海計器の限界とそれを操作する当直員のことをもっと深く理解していれば避けられたものです。安全航海を行ううえでブリッジの船員たちは常に重要な役割を果たしていますが、運航会社や管理会社もブリッジの人員配置を充実させるという点で重要な役割を担っています。

 

メンバーの皆さまにおかれましては、輻輳度が高い海域での航行に対応するための最適な方法について、船員に指導を行うことをお勧めします。訓練は安全を確保するための予防的アプローチです。安全を確保するには、船舶の安全運航に支障が生じる前に、危険を認識、分析、軽減する必要があります。

 

最後になりましたが、海上でさらなる命が失われるリスクを減らすため、Gardは商船と漁船の衝突リスクを減らすにはどうすればよいか、その方法をさらに詳しく知りたいと考えています。この点に関するご意見・ご提案がございましたら、お気軽にご連絡ください。