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先日開催された国際海事機関(IMO)の第103回海上安全委員会(MSC 103)では、自動運航船(MASS)に関する諸規制の論点整理の完了報告が審議の目玉のひとつとなりました。一方、金銭面や責任面に関する問題を扱うIMOの法律委員会と簡易化委員会の各規制ワーキンググループは、現在も検討段階にあり、提言をまとめる状況には至っていません。

こちらは、英文記事「One small step for MASS」(2021年5月26日付)の和訳です。

海上安全委員会(MSC)のMASS規制ワーキンググループは、報告書を発表し、IMOの規制枠組みの中でMASSに対応していくためには、MASSに関する規則を新たに策定するのが最善であるとする提言を行いました。IMOの条約やSOLAS条約の各章について、MASSに合わせていくことは、矛盾や混乱が生じ既存の規則を従来の船舶に適用する際に問題が生じる可能性もあることを考え合わせると、これは妥当な提言と言えるでしょう。一方、規則を新たに策定すれば、SOLAS条約など既存のIMO条約のうちひとつを修正するだけで強制力を持たせることができます。またワーキンググループは、このMASS規則を、あらかじめ定めた到達点に近づけていくような形で策定するよう提言しています。これはIMOが作成した現行のガイドラインに沿ったものと言えます。

 

仮に法律委員会、簡易化委員会それぞれのワーキンググループでMSCと同様の結論に至れば、新たなMASS規則の策定作業が始まることになりますが、国際的な作業となるため、策定にはかなりの時間がかかることが予想されます。これまで自動運航船は、一部の国で設計・建造され、現在、運航に向けた準備が進められていますが、いずれも各国内の法律とガイドラインに基づいた国内海域での運航であり、国際的な規則はまだ存在していません。

 

北欧諸国における自動運航船の開発

自動運航船が大きな注目を集めるきっかけを作った国のひとつがノルウェーです。ノルウェーは、2016年、トロンハイム・フィヨルドを自動運航船の正式な試験海域として初めて指定したことを発表し、その後、ノルウェー自動運航船フォーラム(NFAS)を設立しました。これが世界的に大きな関心を呼び、中でもフィンランド、オランダ、ベルギー、英国では同様の自動運航船フォーラム試験海域が承認されることになりました。

 

世界では、運航費の削減と安全性の向上という経済的なメリットから自動運航船の実用化が進められています。ノルウェーでも、海運業界において、新たなテクノロジーを一刻も早く開発すべきだという経済的・社会的ニーズがますます高まっています。海洋油田・ガス産業や海事産業は、この数年景気低迷に見舞われており、またこうした産業による環境負荷を低減するよう世界的な圧力も高まっていることから、政府や業界はさらなるイノベーションの創出と新しいテクノロジーの開発を進めざるをえなくなっているのです。その一方で、新たな開発の推進は、雇用や海事ビジネスを生むことにもなります。しかも、各産業で培った技能が失われてしまうわけではありません。むしろ、そうした技能を活用して、業界のイノベーション、中でも自動運航船の開発を進めていくべきでしょう。

 

また、北欧諸国で海事業界のイノベーションが進んでいるのは、産業としての歴史が長いこと、そして、規制当局をはじめ、保険会社、造船会社、舶用機器メーカー、大学、船員、船主、運航会社にいたるまで、業界のバリューチェーン全体が参画していることが根底にあります。

 

自動運航船は、イノベーションが起きている分野のひとつであり、他にも洋上風力発電や洋上養殖で同様の現象が進んでいます。業界やその中で培われてきた技能を守り、より環境に優しい未来への移行を支援しようと、北欧各国では海事戦略や研究基金を通じて、こうした分野の振興や後援を行っています。

 

ノルウェーでは、道路や鉄道網の陸上輸送は、建設・維持費がかかるうえに、1年のうち数か月は厳しい気象条件であることなどから、かねてより陸上輸送から海上輸送へ切り替えた方が大きな利点があり、決まった航路を運航する自動運航船ならその利点は更に大きくなるため、そこで開発されたのが、言わずと知れた世界初のバッテリー式自動運航コンテナ船Yara Birkeland号です。

 

Yara Birkeland号は2020年11月にYara Norge AS社に引き渡され、その翌月に処女航海を終えてから現在まで、ノルウェーのホルテン(Horten)港で係留されています。

 

現在、Yara社は、このYara Birkeland号を使って温室効果ガスを排出せずにコンテナ輸送を始めることを最優先で進めようとしています。ヘロヤ(Herøya)にある同社工場内の新港建設は完了し、後はクレーンの納入と操業開始を残すのみとなっています。これが秋に完了すれば、同船は運航を開始し、年末にかけて同社のコンテナ貨物の約40~60%を輸送する計画です。また、乗組員を減らした状態での運航の第一段階実施に向けた準備も進んでいます。成功すれば、その後2年をかけて完全無人運航の実現に向けて取り組んでいく予定です。

 

国内海域で自動運航船の試験が進められているもうひとつの分野がフェリーです。GardのメンバーであるノルウェーのBastø Fosen社は、現在所有するBastø IV号で自動運航と自動接岸の試験を行っており、ホルテン~モス(Moss)間の日々の輸送力強化を目指しています。なお、試験中は乗組員を全員乗せた状態で運航しています。またこの試験から、自動運航システム検査用シミュレーター開発を目的としたノルウェーの研究プロジェクト、Simaros 2が生まれました。

 

自動運航機能、自動接岸機能の試験を行っているフェリー、Bastø IV号。

 

北欧各国では、Gardメンバーが自動運航の実現や非化石燃料への移行に向けた計画に取り組んでいます。フィンランドのFinFerries社は、同社のフェリーFALCO号で自動操船と自動接岸のデモ運航に成功。スウェーデンのStena Line社は、同社が所有するフェリーで燃料費を削減するとともに非化石燃料への移行を進めるべく、エンジンの自動制御を支援する人工知能のテストを行っています。またデンマークのSvitzer社では、タグボートの遠隔操作の実演を行い、さらなる開発を進め、コペンハーゲン港での運用を目指しています。

 

Gardは自動運航船「メイフラワー号」の保険を引き受ける、名誉ある役割を担っています。この船は、初代メイフラワー号が英国から米国まで航行した歴史的な航海から400年を迎えたことを記念して建造されたものです。初代メイフラワー号と全く同じ航路を辿りながら、未来を見据え自動運航で大西洋横断を実現する姿を示すことによって、科学や研究に対する若い世代の情熱をかきたてることを目指しています。また、大西洋横断中・横断後に、海洋科学調査に必要なデータを収集することも目的としています。

 

自動運航船の開発で重要なのは協力と知識の共有

 上記プロジェクトはいずれも、実現に向けた最善の方法を見つけるべく、各方面と協力関係を結びながら行われてきました。政府から一定の支援を受けているものも数多くあります。ノルウェー自動運航船フォーラムも、Gardやその他のノルウェーの海事関係者を招待し、Gardは2016年より参加しています。フォーラムの設立以来、筆者はGardの代表として関わってきました。また、このフォーラムは、Gardも参加している自動運航船国際ネットワーク(INAS)を設立、先導する旗振り役も務めてきました。こうしたフォーラムは、北欧諸国のみならず世界中の開発者や研究機関、学生、船級協会、規制当局を結び付ける場となっています。

 

知識の共有は、技術開発に必要なだけでなく、その開発状況を国際的な規制枠組みに認知させるうえでも欠かせません。また、協力関係を築くことは、自動運航の実現に伴って起きる変化に適応するための法的・商業的基盤を作るうえで重要となります。Gardがメンバーとなっているボルチック国際海運協議会(BIMCO)の起草委員会では、自動運航船の使用を念頭に置いた標準船舶管理契約様式「AUTOSHIPMAN」の策定を進めており、今年後半に発表する予定です。

 

一方Gardは、社内で独自のMASSワーキンググループを立ち上げ、業界や国で実施中のプロジェクトのモニタリングを行っているほか、Gard独自の技能や知見を有している分野での知識の共有も行っています。また、多くの学生や大学研究者に対し、研究や論文用のデータを提供する支援を行ってきました。さらには、SFI Autoship(安全かつ持続可能な運航を目指す自動運航船の開発において、ノルウェーの事業者が主導的役割を果たせるようにするために立ち上げた、8年間の期限付きで活動を行う研究主体のイノベーションセンター)の後援者、メンバーにもなっています。

 

「ともに、持続可能な海洋ビジネスの発展を実現する」

 Gardは、自動運航船の第一陣となる複数の試験プロジェクトにおいて、P&I保険と船体保険を引き受けることにより、微力ではありますが自動運航船の実用化に貢献できていることを誇りに思っています。業界一丸となって、海洋ビジネスの持続可能で有益な発展に貢献すること、これはGardが特に大事にしている目標のひとつで、行動指針にもなっています。持続可能な海洋ビジネスの発展への貢献については、先日発表したサステナビリティレポート(英文のみ)で詳しく紹介しています。