Rate this article:  

Alice Amundsen率いるGardPeople Claimsチームは、メンバーから寄せられる船員クレームへの対応を担っており、その件数は年間数千件にのぼります。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大によりGardメンバーの船員がこれまで受けてきた影響の概要について、また、船員のワクチン接種に向けた課題について、Amundsenに話を聞きました。

こちらは、英文記事「The Covid crew crisis – Is there a light at the end of this tunnel?」(2021年5月13日付)の和訳です。

 

これまで新型コロナウイルス感染症は何波にも分かれて流行しており、犠牲者もその度に増え続けていますが、Gardに寄せられる感染報告から見えてくる傾向があれば教えてください。

 

あいにく新型コロナは人身クレームに甚大な影響を与えています。2020年にGardに寄せられた船員の疾病クレームのほぼ半数が新型コロナ関連です。現時点で船員の死亡者総数が大幅に増えているわけではありませんが、死亡者の10%は新型コロナが原因で亡くなっています。残念なことに、この数週間、新型コロナまたは自殺による死亡が多発していることから、死亡者数は増加傾向にあると言ってもよいかもしれません。

 

現在、精神疾患やそれによる怪我や自殺の件数が増えているのは、メンタルの疲れといったパンデミックがもたらす悪影響が一番の要因だと考えられています。こうした悲惨で気がかりな傾向について、もっと実態を把握していきたいと思っています。

 

最近の感染状況について、変異株が原因と思われるような変化は起きていますか?また、状況は今後どうなっていくと思いますか?

 

最悪の状態を迎えるのはまだこれからなのではないかと懸念しています。先月は集団感染が約100件発生し、多くの人が感染したため、記録的な数の感染報告が寄せられました。

 

船員のほとんどが感染してしまう船内集団感染も初めて発生しています。感染者の大半に症状があるため、運航にも深刻な影響が出かねない状況です。以前は、検査で陽性反応の出る船員がたいてい1人はいましたが、その場合でも、治療が必要でない限りは船内で隔離していました。

 

ところが現在は、船員のほとんどが感染しているため船全体が隔離されてしまっているケースもあるのです。これは、ウイルスの変異株が原因である可能性が高いです。世界大手の船舶管理会社Synergy社のCEOであるRajesh Unni氏は、感染力の強い変異株について、海運業に壊滅的な損害をもたらすものであり、1回当たり最大2週間運航不能になる船がさらに増えるだろうと断言しています。しかも、船員のメンタルへの影響はまた別の話です。

 

インドで第二波が猛威を振るっている痛ましい状況が報道されています。これはまさしく人道問題で、海運業界にも波及してくるでしょう。しかも船員だけでなく、その家族も影響を受けるのです。昨年、船員交代プロトコルが導入されたおかげで船員交代を行えるようになりましたが、インドがこのような状況なので、またストップしてしまうかもしれません。

 

インドの状況には本当に胸が締め付けられます。船員交代にも影響が出るかもしれないとのことですが、その理由を詳しく教えてください。

 

インドは、中国、フィリピン、ロシアに次ぐ世界第4位の船員供給国です。インド人船員は推計約8万人いますが、シンガポールや日本、オーストラリア、アラブ首長国連邦、多くの欧州諸国で船員交代の規制が再び敷かれるようになっていることから、そのうち約30%がインドで自宅待機となっています。船主や管理会社は現在乗船中の船員の契約期間延長をまたしても強いられており、今回の船員危機は昨年以上にひどくなるのではないかとする向きもあります。契約期間が終わっているにもかかわらず、今も乗船している船員は20万人にのぼると見られます。検疫プロトコルに絶えず変更があり、民間の航空便に乗るのも難しい状況で、帰国や交代人員の手配といった配乗がなかなかうまくいかないことが原因です。

 

インドやパキスタン、トルコなどで感染が急拡大すれば、またしばらくの間、規制の強化が必要になるかもしれません。ワクチンの不足や接種の進行具合の遅さとは関係なくインド変異株が報告されている国が増えてきていることから、世界保健機関(WHO)は欧州でも感染が急拡大しかねないとする警告を既に発しています。このインド型ウイルスは世界で懸念される変異株に指定されており、感染が広がりやすいことが複数の事前研究からも分かっています。

 

船員の安全を確保するには、もちろんワクチンを接種するのが一番でしょう。接種については、一部の国がかなり進んでいますが、船員に対してはどのような形で行っていくのでしょう?

 

エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによれば、85以上の低所得国では、ワクチンが広く普及するのは2023年以降、集団免疫を獲得するのは2024年以降になると見られています。国際海運会議所(ICS)発表のデータを見ますと、世界の船員のうち90万人、船員業界の実に半数以上が開発途上国の出身です。

 

フィリピンでは3月1日からようやくワクチン接種が始まりました。最大7,000万人への接種を目指していますが、開始から2か月間の接種回数はわずか180万回に留まっています。これは人口の1.4%です。フィリピン政府が発表した数字によると、現在、外航船員は合計54万9,000人。船員は優先的に接種できるようになっていますが、実際に接種の順番が回ってくるのはまだ何か月も先でしょう。

 

多くの国が船員へのワクチン接種に取り組んではいますが、船員をキーワーカーに指定し、船陸間の移動とワクチン接種を可能にするという国連の通達に従っている加盟国は3分の1未満に留まっています。

 

通達に従っていない国の方が多いというのは本当に歯がゆい気持ちです。パンデミックの最中でも船員たちは世界の貿易を支えてきました。ワクチン供給だけでなく、重要な医療機器や個人用防護具を世界中に輸送するなど、貨物船で働いている船員の中には重要な役割を果たした人がいることも忘れてはいけません。

 

ワクチン接種の課題はどうすれば解決できるでしょうか?船員が接種できるよう、業界でどのような取り組みを行っていますか?

 

国際海事機関(IMO)は現在、WHO、国連によるワクチン共同購入・分配機関Covax、そして国連加盟国と協力しながら、船員向けのワクチン接種の拠点を複数設けるべく取り組んでいます。ICSでも、WHOが共同主導するCovaxプログラムからワクチンを共同購入する提案などについて検討しているほか、世界各地の主要港にワクチン接種の拠点を設けるべく活動しています。

 

ただ、実現には時間がかかるでしょう。英国のようなワクチン接種の先進国とも言える国々でも、船員が接種を受けられるのはおそらく今年10月以降になりそうです。

 

フィリピンなどでは官民連携が既に提案されており、キーワーカーへのワクチンの割り当てと接種ができるよう、メーカーから船主にワクチンを直接提供しようという計画も進んでいます。ただ、これが実現するのはどんなに早くとも7月になる見込みです。

 

もし船主の方で自社の船員へのワクチン手配が可能になった場合は、WHOまたは該当する国際・国内規制当局のいずれかから、そのワクチンの緊急使用に関する承認を必ず受けるようにしてください。

 

さらに、ワクチンは闇市場でも流通していますが、違法に入手したものであったり、偽物であったり、安全性が保証されていなかったりとリスクも高まるため、ワクチンの供給元について、船主は相当の注意を尽くすことが求められます。信頼できる企業から入手し、安全性のチェックが行われているか必ず確認するようにしてください。欧州警察組織からは最近、新型コロナのワクチンや検査キットの製造・流通に関わる組織犯罪集団についての警告も出されています。

 

このトンネルに出口はあるのでしょうか?

 

パンデミックによって、海運業界、そして海上・陸上問わずこの業界で働く人々に注目が集まったのは間違いありません。また、業界全体がかつてないほど結束しているように感じます。業界一丸となって船員をキーワーカーへと押し上げ、移動の自由の実現、ワクチンの優先接種の促進、安全な労働環境の提供に向けて取り組んできました。また、船主の代表機関であるICSと船員の代表機関である国際運輸労連(ITF)など、業界団体がこれまで前例のなかったような協定を結び、業界のためにロビー活動やキャンペーン活動を合同で行っています。ですから、コロナ禍の出口は確かに見えています。ただ、そこにたどり着くまでにはもう少し時間がかかりそうです。