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Tai Prize号事件の今回の判決は予想通りの結果となり、ヘーグ・ヴィスビー・ルールで定められた船長の義務が改めて確認されることとなりました。ただ、定期傭船者にとっては不利な判例ができてしまいました。船積み前から状態が悪かった大豆貨物の損傷に関して、その賠償責任を航海傭船者に転嫁しようという試みは失敗に終わったのです。当該事件の顛末を振り返り、このような事件が起きた場合に船主や定期傭船者、P&Iクラブはどのような対応をすればよいのか、Penningtons Manches Cooper LLCの弁護士であるDarryl Kennard氏に伺いました。

こちらは、英文記事「The “Tai Prize” – The Court of Appeal reaffirms the Master’s duty to independently record the order and condition of cargo」(2021年4月1日付)の和訳です。

PRIMINDS SHIPPING (HK) CO LTD対NOBLE CHARTERING INC事件(Tai Prize号事件)について、控訴院は、「貨物が外観上良好な状態である(apparent order and condition)旨を荷送人が記したドラフトB/Lが船長に呈示されても、それは荷送人・傭船者による保証を意味するものではない」という第一審である商事裁判所の判決を支持しました。「ヘーグ・ルールで定められたとおり、運送人は独立した立場で独自に船積み時の貨物の状態を外部から確認し、それをB/Lに正しく記載する義務があるため」というのがその理由です。

 

 

事件の背景

 

Tai Prize号はブラジルから中国向けに大豆貨物63,366.150MTを輸送。荷送人が船主に呈示したB/Lには、Shipper’s description of Goods(荷送人による貨物の詳細)の欄に「clean on board(無故障にて船積み)」の文言があったほか、「shipped … in apparent good order and condition(外観上良好な状態で船積み)」の文言も記載されていました。ところが、揚地で貨物を受け取った荷受人は貨物に焦げや変色、カビがあるとしてクレームを起こし、B/L上の運送人である原船主(Head Owner)を相手取ったクレームが中国の裁判所で認められました。原船主は原傭船契約に摂取されていたインタークラブアグリーメント(ICA)に基づき、荷受人に支払った賠償金の分担額50%を管理船主(Disponent Owner)から受け取りました。それを受けて、今度は管理船主がNorth American Grain Charterparty 1973(改正版)を基に賠償金全額を負担するよう傭船者に求償。仲裁の結果、(i)荷送人・傭船者は、船積み前に合理的な検査を行っていれば貨物が外観上良好な状態でないことは確認できたはずである、(ii)したがって、荷送人が署名のために呈示したドラフトB/Lにある「shipped in apparent good order and condition」の文言は不正確な記載である、(iii)貨物の状態に欠陥があったことは船積み中の合理的な検査では船長には確認できなかったため、不正確な記載のあるドラフトB/Lに署名したことで被った賠償責任について船主は補償を受ける権利がある、という3つの理由(仲裁人団による決定)から、管理船主の主張が認められました。

 


商事裁判所

 

傭船者は仲裁人の決定を不服として高等法院に控訴し、そこでは以下の点について検討が行われました。

 

  1. ドラフトB/Lにあらかじめ記載されていた「clean on board」と「apparent good order and condition」の文言は、貨物の外観上の状態が呈示されたB/Lどおりであることを荷送人が認識していたという事実の表明・保証と言えるのか、それとも、そのドラフトB/Lはあくまで船長自身で合理的な検査を行い、外観上の状態を判断してほしいと依頼するものにすぎなかったのか。
  2. 発行されたB/Lは法律上不正確だったのか。
  3. 仮にB/Lの内容が不正確だった場合、傭船者は保証もしくは黙示の補償のいずれかの形で船主に対する責任を負うのか。

 

高等法院は仲裁人の決定を覆し、ドラフトB/Lにあらかじめ記載されていた文言は事実の保証でも表明でもなく、貨物の外観上の状態を独自に確認・記録することは船長の義務であるという判決を下しました。さらに、船長・乗組員が船積み中に行った合理的な検査で見た限り貨物に損傷はなく、B/Lにリマークを入れる理由もなかったことからして、そのB/Lは法律上不正確ではなかった、としました。B/Lの内容が不正確ではなかったため、3つ目の争点については議論の余地が残る形となっています。

 

 

控訴院判決

 

控訴院でも先の3つの争点について検討を行い、その結果、第一審である商事裁判所の判決が支持されました。

 

まず検討されたのが、B/Lの「apparent good order and condition」という文言の意味です。仲裁人は「船長は貨物の損傷の有無を船積み中には確認できなかった」と認めた一方で、「荷送人が船積み前に確認していればその損傷は発見できたはずであるので、貨物は外観上良好な状態ではなかった」とも判断しています。一方の控訴院はNogar Marin号事件の判決を引き合いに出し、仲裁人は誤った基準を適用したと判断しました。B/Lの文言は船長が表明するものであって荷送人が表明するものではないと解釈されているからです。控訴院判決では、David Agmashenebeli [2003]事件の判例が改めて支持される形となりました。この事件では、「『apparent good order and condition』という文言は、船積み中の一般的な状況において有能な船長が合理的な検査を行い、船積み時の貨物の外観から判断した上で記載するべきものである」との判決が下されています。ここでいう合理的な検査では、船長がその貨物に精通している必要はありません。また、船長は詳しく検査することも検査のために通常荷役を中断することもできない、とされています。

 

貨物の状態に関するリマークは船長の判断に基づき記載するという原則は、B/Lに摂取されているヘーグ・ルールと一致するものです。当ルール第3条第3項では、運送人は、荷送人の請求により、梱包の数や主要記号、容積、重量、外部から認められる物品の状態を記載したB/Lを発行しなければならない、と定めています。さらに第3条第5項では、これらすべての情報の正確さについて荷送人が運送人に保証(および、それに伴う補償)をすることを定めています。ただし、ここが重要なのですが、物品の外部から認められる良好さについては保証対象に含まれていません。

 

以上のことから貨物の外観上の状態を記録する義務が船長にあるとなると、荷送人が呈示したドラフトB/Lに記載されていた「shipped in apparent good order and condition」や「clean on board」の文言にはどのような効力があるのでしょうか。船主は、この文言は荷送人が貨物の状態を認識していた旨の申告であることから、それが不正確であった場合には荷送人への求償権が生じると主張しましたが、控訴院はそう判断しませんでした。貨物の外観上の状態を自ら判断した上でB/Lを発行するという船長の義務に反しているからです。荷送人によるドラフトB/Lの呈示はあくまで船長への依頼にすぎず、船積み時の貨物の外観検査は船長が行わなければなりません。通常の荷役が行われている間に検査を行い、外観上良好な状態であることを確認する義務があるのです。荷送人が記載したような「クリーン」な状態が確認できない場合、船長は船積み時の状態についてB/Lに適切なリマークを入れる権利がありますし、入れなければなりません。この原則を守ることが、B/Lを本来の役割に立ち返らせることに繋がります。B/Lは船積みされた貨物に対する運送人の受取証であり、B/L所持人と運送人との運送契約書(契約の証)なのです。

 

以上のことから、先に挙げた争点について控訴院は次のように判断しました。

 

  1. 荷送人から呈示されたドラフトB/Lに記載の文言は事実の表明・保証を意味するものではなく、船長が貨物の状態を確認次第、その内容について独自に表明するよう依頼するものにすぎない。
  2. 発行されたB/Lは不正確ではなかった。

 

黙示の補償の問題については、荷送人がドラフトB/Lを呈示しても黙示の補償義務を負わせることはできないとされました。これは、船積み時の貨物の外観上の状態を記した上でB/Lを発行するという、ヘーグ・ルールで定められた運送人の義務に反するためです。

 

中国では、貨物固有の瑕疵(inherent vice)を原因とする大豆貨物へのクレームが起きています。この大きな問題の中で今回のTai Prize号事件の判決について考えるべく、Penningtons Manches Cooper LLCのソリシター兼パートナーであるDarryl Kennard氏にお話を伺いました。

 

控訴院は、仮に貨物の状態に問題があることを荷送人が現実に認識しているにもかかわらず、それを明らかにする合理的な手段を船長が持ち得ない場合、船主が置かれるであろう厳しい立場に多少の理解を示し、そのような場合には黙示の表明が適用される可能性を示唆しました。認識していたことを証明するには、どのような基準がありますか?また、重過失の場合でもその基準をクリアできますか?

 

船積み時点で貨物に欠陥があることを現実に認識していた、といったようなことが基準になるでしょう。ただいずれの場合もそうですが、問題は、これがあくまで仮定に基づく判断にすぎないということです。荷送人からは黙示の表明も明示の表明もなく、荷送人は船長にドラフトB/Lをただ呈示しているに過ぎないからです。もし貨物の外観上の状態が良好でないと判断した場合、船長はB/Lにあらかじめ記載されていた文言に従う義務はありません。もうひとつの問題は、損失を被った当事者(原船主または管理船主)がクレームを起こす際はチャーターチェーンとB/Lのどちらに基づけばいいのかという点です。B/Lに基づいた方がうまくいく見込みは高いでしょう。貨物の状態に問題があるにもかかわらずその代金を支払ってもらおうと、損傷していることを知りながら荷送人がクリーンB/Lのドラフトを故意に呈示し、その結果船主の損害を悪化させたことを仮に証明できれば、経済的不法行為と認定できるかもしれません。

 

 

このような判決が出ると、船主が問題視しているような不注意や過失を起こしても大丈夫と荷送人・航海傭船者に思わせることになりませんか?

 

クリーンB/Lとは要するにリマークの入っていないB/Lのことで(Sea Success号事件)、貨物の外観上の状態に関する情報を伝えるのは船長の役目です。今回の事件でとにかくはっきりしているのは、ドラフトB/Lは貨物の外観上の状態を表明するものではないということです。そもそも、起こしていないことを荷送人がわざわざ起こそうと思うでしょうか?それに、貨物の状態に問題があることが外観から分からなければ、船主も抗弁の機会を奪われるわけではないのです。ただし、貨物に注意を払い、仮に問題があってもそれは船積み時に外観からは分からなかったものであり本船が原因でもないことを証明できるよう、記録をしっかりと取って立証責任を果たす必要はあります。ただ、これをしたからといって、クレームの原因とB/Lのリマークの話を一緒くたにできるわけではありません。クレームを受けた船主各社は、貨物の損傷に対する責任が自分たちには一切ないことを中国の裁判所に認めてもらおうとしましたが奏功していません。クレームについては、B/L上に記載された貨物の外観状態に関する文言が原因ではありませんでしたし、その文言は、船長が貨物の状態から判断する限り正しいものだったのです。

 

 

ヘーグ・ヴィスビー・ルールはP&Iカバーの基準であり、B/Lに署名する際の運送人の義務を明確に定めています。Tai Prize号事件は船主をより不利な立場に追い込むものなのか、それとも既知の判決(David Agmashenebeli [2003]事件Nogar Marin [1988]事件)を繰り返しただけなのでしょうか?

 

今回の判決は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールの規定に合わせる形になっています。貨物の外観上の状態に関しては、B/Lに正確な事実を確実に記載するのは荷送人の義務ではなく、常に船長の義務となります。荷送人にその義務を課すことはできません。荷送人は船積みのための貨物を用意するだけです。B/Lは物品が船積みされたことを示す受取証で、通常の荷役途中に貨物の外観上の状態を検査・報告するのは船長の義務です。今までもずっとそうでした。船長は荷送人が呈示した貨物状態に関する文言を絶対に信用してはならなかったのです。

 

船主や、チャーターチェーンの中間に入っている傭船者が、自身の過失ではない損失を負わされるのはリスクとして公平でしょうか?例えば、大豆の「固有の瑕疵」によるクレームはP&Iクラブや船主にとって非常に大きなリスクとなっており、貨物の状態に関してはおそらく航海傭船者のほうがよく把握していると思われるにもかかわらず、航海傭船者に賠償責任を転嫁するのは難しくなっています。このような中で船主はどう自己防衛すればいいのでしょうか?明示的補償の条項が唯一の解決策なのでしょうか?B/Lに基づいて荷送人に対抗する方法はないのでしょうか?

 

 

ぜひ覚えておいていただきたいのは、航海傭船者は傭船契約という枠の中では荷送人の仲介者かもしれませんが、貨物について船主より詳しく把握しているとは必ずしも言い切れないということです。船積み時の貨物の状態をB/Lに記載するという船長の役割は、何百年も前からずっと変わっていません。それは正当な理由あってのことです。船長は、貨物の状態確認を独自に行える唯一の当事者とも言えるからです。FOB契約の場合、買主は、売主が提供した貨物の状態が良好だとする船長のリマークを全面的に信じるでしょうし、それに基づいて貨物の代金を払う取り決めになっているのです。

 

明示的補償の条項があれば解決できるように思われるかもしれませんが、この条項では問題の根本原因を究明することにはならず、むしろ間違いなく問題を増やすでしょう。P&I保険に関して言えば、明示的補償の条項に合意している傭船者は、加入するP&Iクラブとの間でもめることになるでしょう。てん補対象でない損失を生み出すとなれば、そのような条項が市場で受け入れられる可能性は少ないからです。困ったことに、固有の瑕疵に関するクレームをチャーターチェーンの枠組みの中で解決しようとしても、法律的にどこが責任を負うかという議論に矮小化されるだけで、結局また次の事件が起きてしまっています。その間もクレームの原因は放置されたままです。クレームの原因は、船積み前から貨物に損傷があっても船長の目では確認できなかった旨を船主が証明できた場合にのみB/Lに基づく抗弁権がある、という点です。今回は、発行されたB/Lの記載に船長の目から見て不正確な点はありませんでしたが、荷送人による表明という別の基準があるということにしてしまうと、それまで国際貿易で長年にわたって理解されてきたB/Lにおける表明の意味が変わってしまうのです。

 

 

この不公平な状態を是正するために市場でできる取り組みはありますか?

 

重要なのは、中国における大豆がらみのこのような事件にP&I市場が抵抗することです。中国の荷受人と保険会社という主なプレーヤーからのクレームを押し返すには、市場で足並みを揃えて協力し合うのが一番良い方法でしょう。

 

この点については、英国の裁判所が先日Frio Dolphin号事件で下した判決(控訴審待ち)がP&I保険会社にとって強力な武器となるでしょう。固有の瑕疵を原因とする貨物損失の責任を間違って負わせられるという不当な扱いを受けた場合にはこの判決を援用できます。このFrio Dolphin号事件について裁判所は、荷受人から代位求償権を受けた貨物保険者がB/L約款に摂取されている仲裁条項に違反して別の国の裁判所で訴えを起こし勝訴していた場合、船主はその代位保険者を相手取り仲裁手続きに持ち込み、「エクイティ上の損失補償」(損害賠償)を請求できるという判決を下しました。現行の法律では、船主が海外の裁判所の判決で支払いを命じられた額に関連費用を足した額がその損害賠償額となります。もちろん執行の問題は引き続きありますが、この執行手続きについては、保険会社の方が現地の荷受人に比べて影響をはるかに受けやすいのです。

 

さらにEternal Bliss号事件(こちらも先日英国の高等法院で下された判決で、同じく控訴審待ち)では、滞船料は、本船が留め置かれたことで発生したすべての損失に対する予定損害賠償とはならないという判決が出されています。これにより、揚地での停泊期間中に貨物が劣化したことに伴う損失・損傷について、航海傭船者から(輸送の大本となる売買契約の売主が航海傭船者であれば、場合によっては航海傭船者が)補償を受けられる可能性が出てきました。とはいえ、救済策となりそうなこの判決でも原船主の置かれる状況が良くなるとは限りません(権利を回復できるかはICAで決まりま


す)。それでもこの判決によって、ICAに基づき責任を負っていた定期傭船者(管理船主)はその責任を航海傭船者に転嫁しやすくなるでしょう。

 

最後にもうひとつ、外国訴訟差止命令(anti-suit injunction)も引き続き強力な武器となります。こんな命令は中国の荷受人にはどうせ無視されてしまうと決め込まないでください。1,000万米ドルの損害賠償を請求された最近の大豆がらみの事件では、政府系の荷受人に対する外国訴訟差止命令を勝ち取ったおかげで、クレームがすぐにぴたっと止まったのです。この差止命令はきちんと守られ、中国で差し入れていた担保も返還されました。

 

 

この控訴院判決が最高裁で覆されるのか見届けなければなりません。最高裁への上告期限はいつですか?

 

最高裁への上告申請は既に終わっています。そこでどのような判決が下されるのか見届ける必要がありますが、おそらく従来の法解釈が繰り返されるでしょう。

 

貴重なご意見をお聞かせくださりありがとうございました。