Rate this article:  

このリストを見れば、船長・乗組員による貨物管理に落ち度がないことを完全に立証するためにどのような証拠を集めておくべきかが分かります。

大豆は、ある特定の条件下に置かれるとカビが生えやすく、それに伴い自己発熱も起こしやすい貨物です。豆の水分値と温度が高いほど、安全に輸送できる時間は短くなります。輸送距離や船積みされている時間が長いものほど、微生物学的不安定性によって損傷する可能性が高くなっているのです。

 

2019年にブラジルからばら積み輸出された大豆は7,400万トン以上。この内の4分の3が中国向けでした。輸出は増加傾向にあります。Proinde社発行の実用ガイドによれば、近年ブラジルから輸出される大豆、中でも南部の港から積み出されるものについては、ほとんどが喜望峰経由で中国に運ばれており、輸送に35~45日掛かっています。一方、仕向地がEU諸国の場合の輸送日数は14~20日となっています。

 

ブラジルから輸出される大豆の主な輸送ルート(縮尺なし)、Proinde Practical Guidanceより転載

 

外気温24~32℃、水分量13~14%の状態で船積みされたブラジル産大豆は、仕向地が欧州であれば良好な状態のまま輸送できますが、中国向けの場合には輸送時間がそれよりも長くなるため、到着時には損傷してしまっているおそれがあります。

 

換気を行えば、船体の汗濡れをある程度抑えられ貨物上部に垂れてくる水滴を減らせるため、上部数センチ分については損傷を防ぐという意味では効果があるでしょう。ただ、大豆の持つ微生物学的不安定性によってそれより下の部分が固結・変色してしまうことは、換気では抑えることができません。大豆貨物の換気方法については、Tim Moss博士にその概要を伺った動画がありますので、ぜひご覧ください。  

 

中国の裁判所では、貨物の損傷の責任が船主にあるとする不利な判決が数多く見られます。「損傷の原因は、貨物の不安定性・自己発熱・特性など貨物固有の瑕疵(inherent vice)以外に考えられず、船長や乗組員が損傷を防ぐ手だては一切なかった」とする専門家による科学的な証拠があっても、このような判決が出されているのです。

 

損傷が起きた際、世界的に著名な専門家にその原因を結論づけてもらうには、調査を行って証拠を集めておけばまず事足りるでしょう。ただ、中国で最近出されている判決を見ると、裁判所はその専門家の結論が絶対だとは考えていないようです。むしろ、現地のサーベイヤーの所見や、荷役中、航海中、そして揚げ切りまで本船が貨物に注意を払っていた証拠が完璧に揃っているか、ということを重視する節があります。そのため、情報や記録に不備や間違いがあると、そういった情報や記録はどの損傷の原因とも無関係であると専門家が証言したとしても、本船側に不利な結果になりかねないのです。

 

貨物の管理はヘーグ・ヴィスビー条約で義務として定められており、船長・乗組員はこの義務を積極的に履行しなければなりません。また、船積み後のB/L発行や、貨物の外観チェックを適切に行い「外観上良好な状態」で積まれたか判断することも船長の責任となります。貨物が大豆の場合は、通常の荷役順序(ローディングシーケンス)で荷役が進んでいる最中に目視で確認することが適切な外観チェックと言えるでしょう。外観に異常がない限り水分量のサンプル検査は不要です。これは義務ではありませんし、推奨もしません。検査が必要な場合はGardにサポートを依頼してください。

 

Volcafe事件(Volcafe Ltd and another v Compania Sud Americana de Vapores SA ([2018] UKSC 61))に対して先般下された英国最高裁の判決では、貨物が「外観上良好な状態」で積まれたにもかかわらず揚地で損傷していた場合、貨物の管理義務が果たされたことを立証する責任は船主が負う、ということが改めて確認されました。判決では、「固有の瑕疵による免責条項を援用するには、運送人が貨物を適切に管理したにもかかわらず損傷が発生したこと、または貨物の損傷を防ぐため万全の対策を講じたとしても貨物の特性を前にしては効果がないと考えられること、このいずれかを運送人が立証しなければならない」と具体的に述べられています。

 

中国はヘーグ・ヴィスビー条約の批准国ではありませんが、同国の海商法にも、貨物の管理義務や、固有の瑕疵による免責といった原則は同様に盛り込まれています。ただ実際は、船による貨物管理の証拠が不十分だと判断すれば、裁判所は船主にとって不利な判決を平気で下すでしょう。例えば、船積み中の貨物の外観が本当に良好な状態だったことが分かるような写真が少ない場合や、作為・不作為を問わず、船長・乗組員が換気などを適切に行わなかったり、その記録をしっかりと取っていなかった場合、船主・乗組員の作為・不作為と貨物の損傷には因果関係がなく損傷は避けられなかったと専門家が述べていたとしても、固有の瑕疵による船主の免責請求は容赦なく棄却されてしまいます。中国の裁判所の立証責任に対する姿勢は、Volcafe事件以上に厳しいといってもよいでしょう。

 

Volcafe事件の判決に関する以前のInsight記事でも、日頃から記録を着実かつ念入りに付けておくことの大切さを取り上げましたが、大豆の損傷に対する中国の裁判所の姿勢を見ても改めて同じことが言えます。証拠が何よりも重要なのです。そこで今回は、中国での大豆損傷のクレームに対抗できる万全の立証体制を整えていただくため、換気記録表のサンプルも含めたチェックリストをご用意しました。このリストを見れば、船長・乗組員による貨物管理に落ち度がないことを完全に立証するためにどのような証拠を集めておくべきかが分かります。オペレーション部門や船長・乗組員とぜひ共有してください。

 

船積み前

 

  • 記録を取り、証拠を残す – ホールドの清掃が済んでいること、あらゆる点で業界基準をクリアしており大豆をいつでも積める状態にあることを記録に残しておきましょう。ホールドの準備について荷送人や傭船者から指示があった場合には、それも記録に残します。また、ハッチカバーの風雨密性テスト(超音波やホースによるテスト)の実施記録も取り、証拠として残しておきましょう。ハッチカバーにシールをするよう荷送人や傭船者、燻蒸業者から指示があった場合には、その旨を書面で取り付けておくことをお勧めします。前荷、ホールドのクリーニングやメンテナンス、写真、証書、ログ、ハッチカバーのメンテナンス・修理レポートなどもすべて記録のうちに入ります。
  • 貨物申告書を入手し、内容を確認する – 貨物を輸送する上での特性を確認するために必要となり、この特性が「外観上良好な状態」と関わってきます。大豆の管理については、「ばら積み穀類の安全運送に関する国際規則(穀類規則)」のほかに特に指標となるものがありませんので、大豆を船積みする際はこの規則を参照するとよいでしょう。品質証明書には積載する貨物の実際の分析結果が載っているため、貨物が「外観上良好な状態」でない場合など問題があった際には、この証明書を取り寄せましょう。
  • 換気に関する指示は書面に明確に残すよう要求する–荷送人、傭船者、燻蒸業者から換気の指示があった場合にはその旨を書面で取り付け、燻蒸期間が航海日数より長いなど指示内容に矛盾があった場合は、その場で先方に説明を求めましょう。後でもめることがないよう、指示内容はすべて燻蒸業者から傭船者に伝えてもらい、傭船者には船主の確認を得るよう頼んでおくことをお勧めします。
  • 荷役前に積付プランとローディングシーケンスを確認する– 船積み方法は穀物規則を基に決め、航海中は燃料油に関する通常の熱管理を行うことを前提に考えましょう。

 

 

荷役中

  • 雨が降っている間はハッチカバーを閉めておく – 天気予報を常に確認し、雨の予報が出ている場合や今にも降りそうな場合には、ハッチカバーをいつでも閉められる状態にしておきましょう。荷役中の天候は日誌に記録を付けておき、Statement of Factsには、雨が降りそうだった、または雨が降っていたため、貨物が水濡れしないようにハッチカバーを閉めた旨を書いておきましょう。航海日誌には、雨の降っていた時間だけでなく、ハッチカバーの開閉を行った時間も記録しておいてください。
  • 目視でチェックする – 貨物が外観上良好な状態であるかを確認するため、荷役中は、貨物の色や匂いに問題はないか、虫が湧いていないか、コンタミがないか、などを確認しましょう。正常な大豆は薄黄色をしています。大豆の色が濃くなっている場合は、自己発熱で傷んでいる証拠です。「外観上良好な状態」でないと思われる場合は、現地のサーベイヤーを手配し、必要に応じて専門家にも協力してもらいますので、Gardにご一報ください。
  • コンベヤベルトでの船積みの場合は、可能な限り貨物の状態を確認する – 各ホールドの荷役停止中や、粉塵が落ち着くまでの間などに貨物の状態を確認し、日付入りの写真を撮り、撮影した旨を航海日誌にきちんと記録しておきましょう。写真はデジタルで残しておくことが望ましいです。揚地でクレームを受けた際に貴重な証拠となります。荷役中の様子のほか、荷役方法(トラック、はしけ、グラブ、パイプ、コンベヤベルトなど)についても日付入りで写真を撮っておきましょう。
  • ローディングシーケンスを記録する – 揚げ荷役の際に損傷のパターンを見ながら原因を特定する際に必要となります。はしけで運ばれてきた場合は、その番号も記録しておきましょう。
  • 貨物温度を計測する – 較正済みのデジタル温度プローブを使用します。荷役の休憩中や終了後に、各ホールド2~3か所で計測するとよいでしょう。最低でも深さ30~50cmのところに5~10分間プローブを挿し、貨物全体の温度を平均して算出してください。この平均温度が3℃ルールに従って換気を行う際の基準になります。温度が高かったり、各計測場所や各ホールドで温度に5~10℃の開きがあったりする場合は、自己発熱が起きている兆候ですので、Gardに連絡するとともに、全関係者宛にプロテストレターを発行してください。
  • 貨物のサンプル採取は不要 – 船積み時に貨物の品質を調べることは運送人の義務ではないため、大豆を積む際には荷役の基本プロセスにサンプル採取を含める必要はありません。ただし、損傷が見つかった場合には検査の一環として代表サンプルを採取してください。その際は、油・種子・油脂連盟(FOSFA)の定めたルールやサーベイヤーの指定した方法に従って行います。検査が必要な場合は、Gardがサーベイヤーや専門家の選任を行い、サンプルの取り扱いについてサポートいたします。
  • 水分量の計測は不要 – 水分量は品質の問題であり、運送人が管理できるものでもなく、管理する義務もないため、大豆を積む際には荷役の基本プロセスに水分量の計測を含める必要はありません。計測が必要になるのは、荷役中、貨物に明らかな問題や異常が見られたときです。検査が必要な場合は、Gardがサーベイヤーや専門家の選任を行い、計測の実施をサポートいたします。
  • 貨物の外観が良好な状態でない場合は、荷役を止めてGardにサポートを依頼する – その時々の状況にもよりますが、Gardでは主に次のような対策を検討します。
    • コレスポンデントへの連絡、原因調査のためのサーベイヤーの立ち会い手配、船長のサポート、関係者へのプロテストレターの発行
    • 検査・サンプル採取・テストなどを合同で行うよう、荷送人、傭船者(およびそのP&Iクラブ)への声かけ
    • 専門家の助言を得たり、実際に現場に立ち会ってもらったりする必要がある場合の協力の取り付け
    • 故障付きB/Lにするか否か、外観が良好でない貨物を荷送人に陸揚げさせるか否かの検討
    • 法的通知の送付や法的手段の行使のため、弁護士の協力の取り付け

 

航海中

 

  • 乾燥状態を保ち、(3℃ルールまたは露点ルールに従って)適切な換気を行う– 貨物が濡れてしまうような天候や海況の場合には、通気口を閉めておきましょう。天候が許せば、上記のルールに従って夜間は通気口を開放しておいてください。どちらのルールでも、霧が出ていたり相対湿度が高かったりする場合は、換気を行うにはふさわしい状況ではありません。詳しくは、「大豆・穀類貨物の最適な換気方法」の動画をご覧ください。

 

  • Gardの推奨は3℃ルール – 通気口を開けるのは燻蒸業者の指示を受けてからが安全ですが、指示を受けた後は、ホールドの外の温度が貨物の平均温度より3℃以上低い場合には必ずホールドの換気を行いましょう。
  • 換気記録を正しく付ける – 添付の露点ルール3℃ルールのサンプル表には、それぞれのルールに従う場合に記入すべき関連情報が書かれています。燻蒸業者からの指示を受けたから、天候が悪かったから、など、換気の実施有無について理由を記しておくことが大切です。
  • 燻蒸期間が過ぎたら、ドレン弁を確認する – 弁が塞がれていないこと、結露していないことを確認してください。結露が見られる場合には、航海日誌に記録して写真も添えてください。結露は貨物が自己発熱している兆候と思われます。
  • ハッチカバーにシールがされていない場合、燻蒸期間が終わったら週に2回貨物を点検する – ただし、天候が許す場合のみ、オンデッキからホールドに下りる通路の最上部から行ってください(乗組員が確保すべき安全上の問題があるため、ホールド内には入らないでください)。異常(汗濡れ)が見られた場合には航海日誌に記録しておきましょう。
  • 航海に大幅な遅れが出る場合は、Gardに連絡する – 連絡後、可能な場合はハッチカバーを開けて貨物を点検してください。ハッチカバーにシールがされている場合は、点検のためシールを剥がしてよいか傭船者の確認を取りましょう。できれば、傭船者側と合同で点検を行うことが望ましいです。傭船者側が立ち会いを拒否した場合は、貨物温度をチェックし、写真を撮って先方に送りましょう。
  • 貨物温度を監視する – 航海中、サウンディングパイプから温度計を下ろして計測します。貨物の自己発熱が進んでいれば、高い温度を示すでしょう。
  • 貨物を積んだホールドに隣接するHFOタンクでは、燃料油を使用可能な最低温度に抑えておく–燃料油の熱が隣接する貨物に伝わって熱損傷を起こす可能性を減らすことが目的です。
  • 貨物の状態を記録する – 揚地到着後、現地当局による最初の貨物検査に備えて初めてハッチカバーを開けた際、すべてのホールドで貨物上部の全体が収まるように写真を撮っておきましょう。

 

今回のInsightは、CWA社(Stephanie Heard博士、James Blythe氏)、Brookes Bell社(Kai Aamlid博士、Martin Jonas博士、Daniel Sheard博士、Nicholas Crouch博士、Tim Moss博士)、Penningtons Manches Cooper法律事務所(Darryl Kennard氏)、およびWaterson Hicks法律事務所(John Hicks氏)にご協力をいただき作成いたしました。また、換気のサンプル表についてはBrookes Bell社からご提供いただきました。