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船内での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗原検査実施について多くの質問が寄せられていますが、抗原検査はどのくらい正確なのでしょうか。また、運航会社は自社の運航船に抗原検査キットを配布してもよいものなのでしょうか。そこで今回は、抗原検査を船内の感染拡大防止戦略に取り入れるにあたって知っておくべきいくつかの基本原則について、Ingrid H. Johansen博士に概説していただきます。

こちらは、英文記事「Testing for COVID-19 onboard」(2021年3月11日付)の和訳です。

世界保健機関(WHO)が新型コロナの世界的大流行(パンデミック)を宣言してから、2021年3月11日でちょうど1年になります。宣言が出されたこの日の時点でWHOによる公式の感染確認者は、世界で118,319人。それから1年が過ぎた今、この数は1億1,700万人を超えるまでに膨れ上がり、うち死者は260万人以上にものぼります。これはまさにWHOが長年恐れてきた事態で、新型ウイルスが出現して瞬く間に世界中に広がったことで、人々の命や経済が世界中で大きく脅かされています。

 

朗報は、この数か月の間に、ウイルスに効果のあるワクチンがいくつか承認されたことです。これにより、ついにパンデミックが終息するのではとの期待も再燃しています。ただ、ワクチンの製造・流通は一筋縄では行かず、時間がかかることも明らかになっています。ワクチンの配布計画は国ごとに大きく異なるため、世界の人口の大半がワクチン接種を終えるまでにはかなりの年月を要することも考えられます。その間、どの国でも基本的な公衆衛生対策が感染拡大防止の基盤となることに変わりはありません。公衆衛生当局にとっては、検査、接触追跡、隔離、隔離療養、質の高い医療提供が、個人にとっては、人混みの回避、対人距離の確保、手洗いとマスク着用の徹底が基本的な対策と言えます。海運業界にとっては、移動と港湾業務を引き続き制限することが基本対策と言えるでしょう。ただ、この対策は、船員交代や罹患した船員の送還に関する問題や、船員の健康状態への懸念を引き起こしています。

 

検査への投資

 

感染拡大防止で最も重要となるのが検査です。感染者を早期に発見・隔離することで、感染の広がりを抑え、感染者に必要な治療を施すことができるからです。今回のコロナ禍で最も多く用いられているのがポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査です。ウイルスを検出して感染の診断をするには、依然としてこのPCR検査が基本となっています。精度は非常に高いと言われているものですが、結果が出るまでに時間がかかるという面もあります。そこで、これを補おうと多くの国で抗原検査実施のための臨床評価が始まっており、既に国の検査体制に抗原検査を取り入れているところも出てきています。

 

抗原検査にはPCR検査と比べて運用面でのメリットがいくつもあります。結果がすぐに分かる、比較的安価といった点のほか、患者のいる場所で診断できるようにすべてが揃ったキット形式になっているといったメリットもあります。これならば、表示された検査結果の分析を船内でも行うことができます。ただ注意していただきたいのは、抗原検査は抗体検査とは違うということです。抗原検査が体の中に現在あるウイルスを検出するためのものである一方、抗体検査では過去に感染したことのある人しか特定できません。つまり、抗体検査は現在感染しているかどうかの診断には向いていないということです。

 

船内での新型コロナの抗原検査実施について多くの質問が寄せられていますが、抗原検査はどのくらい正確なのでしょうか。また、運航会社は自社の運航船に抗原検査キットを配布してもよいものなのでしょうか。2020年に公開した2本のInsight記事、「COVID-19検査の概要」と「誤った安心感を与えかねないCOVID-19の検査」では、ノルウェー海上・潜水医学センターのIngrid H. Johansen博士に新型コロナの検査がはらむ複雑さについて概説していただきました。3本目となる本稿では、船内で抗原検査を安全に行うにあたり知っておくべき問題について解説していただきます。検査を実施するうえでの耳寄りで有益な情報のほか、抗原検査を船内の感染拡大防止戦略に取り入れるにあたり、船舶運航者が知っておくべきいくつかの基本原則を簡単に教えていただきましょう。

 

抗原検査の実施

 

抗原検査は、PCR検査と同様、新型コロナウイルスを検出するためのものです。PCR検査と比べて扱いが簡単で早く結果が出るというメリットはありますが、早い分、精度が犠牲になるというデメリットもあります。この記事の執筆時点で、既に承認を受けて普及している抗原検査キットの大半が、標準的なPCR検査に比べて感度は低いものの特異度については高いとされています。これは一体どういうことなのでしょうか。

 

医療検査の精度というのは、感度、特異度という2つの要素を測ることで決まります。感度検査では感染者を割り出します。つまり、感度とは検査結果で陽性と出る感染者の割合を測る指標と言えます。特異度検査では非感染者であれば陰性という結果が出ます。つまり、特異度とは陰性を正しく陰性と判定する指標と言えます。では、ここで抗原検査に戻って考えてみましょう。

 

  • PCR検査に比べて感度が低い」とは、つまり、ウイルスの検出能力の面で、抗原検査の方がPCR検査より劣っているということです。抗原検査で陽性判定を得るにはPCR検査よりも多くのウイルス量が必要となり、陽性と判定される可能性のある期間はPCR検査の場合よりも短くなります。つまり、ある時点で抗原検査を行って陰性と判定されても、感度の高いPCR検査では陽性と判定される可能性があるということです。

 

  • 特異度が高い」とは、検査キットの製造業者の指示に従って抗原検査を行った場合、偽陽性が出る可能性が低いということです。ただ、偽陽性というのはどうしても避けられないもので、このリスクは、感染のベースラインリスクが低い母集団で検査を行ったときほど高くなります。

 

以前のGard Insightで詳しく解説しましたが、どの検査、検査手順、分析でも多少の不確実さは伴います。正確な検査結果を得るには、検査のタイミングがとにかく重要となります。

 

 

船内で抗原検査を行う際の基本原則

 

1. 適切な検査キットを選ぶ

自社の運航船で抗原検査を実施することにした場合は、WHOが定める最低要件(感度80%以上、特異度97%以上)を満たす検査キットを選んでください。感度も特異度も高ければ高い方がよいでしょう。簡単に使えるものを選び、サンプル採取、取扱方法、処分・使用方法については製造業者の指示に正しく従う必要があります。また、当該政府当局の承認を受けたものを選んでください。欧州で購入する場合は、CE-IVDのマークが入った認証済みのキットを探しましょう。緊急使用許可(EUA)を与えられた抗原検査キットの概要については、以下のページでご確認いただけます。

 

 

寄港、船員交代の際は、検査手順や認可済みの検査キットが国や港湾局ごとに異なる場合があるので注意してください。

 

2. 他の検査の代わりではなく、他の検査に付け加える形で行う

抗原検査は、船内に感染が疑われる人がいる場合の対処法を決めたり、適切な治療方法を選択したりする際に、もう一歩決め手となる根拠が欲しい場合に役立ちます。ただ、他の感染予防策の代わりにはならないため、船内での感染拡大を防ぐ方法としては引き続き以下の対策が最も有効と言えるでしょう。

 

  • 乗船予定の乗組員を、乗船前に14日間の隔離状態に置く。隔離場所は乗船場所にできるだけ近い方が望ましく、隔離終了後、船までは万全の感染対策を講じたうえで移動する。
  • 船と陸側の接触をできるだけ減らす。
  • ウイルスが船内に持ち込まれてしまった場合には、それ以上ウイルスが拡散しないよう、具合の悪い乗組員を隔離する、手洗いを頻繁に行う、咳エチケットに気をつける、衛生基準を全体的に引き上げる、といった対策を講じるようにする。

 

これを受けて、船舶運航者に対しては、国際海事機関(IMO)による以下の勧告に特に注意するよう呼びかけがなされています。

 

 

 

 

 

3. 感染が疑われる場合にのみ行う

陽性検査の難しいところは、検査結果に基づいて行動しなければならないという点です。前述のように、どの検査にもそれぞれ固有の不確実性があり、偽陽性を示すリスクもあります。また、感染のベースラインリスクが低いほど、抗原検査で偽陽性の判定が出るリスクは高くなります。

 

新型コロナに感染した場合、通常の風邪やインフルエンザ、マラリアといった、他のよくある病気と似たさまざまな症状が出ることが分かっています。また、感染者は発症の48時間前から感染力を持つことや、感染しても症状が出ない人がいることも明らかになっています。ただ、そのような無症状の人もウイルスにさらされていたことには違いありません。直近14日間のうちに感染者と濃厚接触して感染していたということです。そのため、すべての運航船で抗原検査による大々的なスクリーニングを行っても、メリットよりデメリットの方が大きくなりかねません。偽陰性にもかかわらず、結果に安心してしまって行動様式を変えてしまう人、本当は感染していないのに偽陽性判定に基づいて隔離を余儀なくされてしまう人が出てくる可能性があるからです。また、似たような症状が出る別の病気と新型コロナを間違えてしまい、その結果、本来の病気に対する治療やケアが余計に遅れてしまう、といったケースも予想されます。

 

 

4. 陰性判定が一度出ても絶対に信用しない

体内のウイルスを検出できるか否かは、感染してからの期間や体内のウイルス量、検査キットの品質、検査方法の質によっても変わってきます。前述のように、抗原検査で陽性判定を得るにはPCR検査よりも多くのウイルス量が必要となります。陽性判定が最も出やすいのは発症後5日間ですが、発症の1~2日前でも陽性となることがあります。したがって、検査のタイミングが感染後すぐであったり、逆に、発症から検査までの期間が空きすぎたりすると、偽陰性になる可能性が高くなってしまいます。

 

つまり、一度陰性判定が出たからといって感染していないとは言い切れないということです。繰り返し陰性判定が出ることで、感染していない可能性が高まるのです。2~3日ごとに抗原検査を行っていくことで確度の高い陰性判定が得られるため、この方法を提唱している政府当局も複数あります。繰り返し検査を行う際、最後の検査については、感染していないことを確認するため、最後にウイルスにさらされたと思われる日から少なくとも7日が経過してから行わなければいけません。

 

まとめ:船内での抗原検査の役割

 

新型コロナの検査にはさまざまな課題やジレンマが潜んでいます。それでも、クルーズ船や遠洋航海船、何週間も海上で停泊しているような船において、抗原検査は感染拡大防止を進めるうえで一定の役割を発揮するでしょう。ただ、この検査は本来、新型コロナとおぼしき症状のある人が本当に感染しているかの確認や、感染が確認されている人と濃厚接触をした無症状者のスクリーニングといったことを目的に行うべきものです。スクリーニングの際には、検査結果にかかわらず対象者を隔離し、陽性判定が出た場合も隔離しましょう。

 

検査結果の解釈が難しいこともあるため、検査を行う際は免許を持った医療従事者と協力しながら進めてください。

 

Gardより一言

 

新たに乗船する乗組員や訪船者が船内にウイルスを持ち込むリスクを減らす意味でも、船内での感染拡大のおそれを抑える意味でも、抗原検査は追加の感染防止対策としてきっと役立つでしょう。ただし、今回や前回のInsightでJohansen博士が説明したように、新型コロナの検査は複雑な問題を抱えており、100%確実と言える検査がないのが現状です。

 

そのため、運航者の皆さまにおかれましては、各運航船に抗原検査キットを配布するにあたり、免許を持った医療従事者と連携し、各船の感染拡大防止戦略で抗原検査をどのような形で用いるのがベストかを話し合うことをお勧めします。また、検査キットの選択基準を設けたり、検査を行うべき状況や場面を取り決めたりしておくことも大切です。検査を行う人は十分な研修を受け、検査結果の判断もしなければなりません。また、最後になりますが、実際に検査を行った際の検査結果への対応方法をはっきり決めておくことも必要です。具体的な対応方法が決まっていない場合は、アメリカ疾病対策センター(US CDC)作成の「抗原検査手順」(英文のみ)が参考になるでしょう。

 

船内での検査にはジレンマや懸念事項がつきものです。だからこそ、今回Johansen博士がこのようなガイダンスや基本原則を教えてくださったことを大変ありがたく思います。これを今後の計画に役立てていただければ幸いです。なお、新型コロナによる船舶・船員への制限措置は国ごとに異なるので、その点にもぜひご注意ください。抗原検査の陰性結果を船内に感染者がいない証拠として認めてくれるかは港湾局によって対応が変わってきます。どの港に寄港する際も、感染防止の規制措置としてどのような対策が行われているのか、現地の港湾局や代理店に十分な時間的余裕を持って確認しておくことをお勧めします。

 

その他の資料

 

GardのHot topic: COVID-19(新型コロナウイルス)のページには、運航者・船長・乗組員が新型コロナの感染拡大への警戒、準備、対応を行ううえで役立つ、ウェブサイト、ガイドライン、Gardの記事のリンクがまとめて紹介されていますので、ぜひご覧ください。また、抗原検査については以下のガイダンスも参考にしてください。

 

 

WHO:新型コロナウイルスの迅速な抗原検出のための検査実施ガイド(英文のみ)

 

欧州疾病予防管理センター(ECDC):新型コロナウイルス感染症の迅速な抗原検査のための方法(欧州連合・欧州経済領域・英国向け)(英文のみ)

 

CDC:新型コロナウイルス抗原検査用暫定ガイダンス(英文のみ)

 

本情報は一般的な情報提供のみを目的としています。発行時において提供する情報の正確性および品質の保証には細心の注意を払っていますが、Gard は本情報に依拠することによって生じるいかなる種類の損失または損害に対して一切の責任を負いません。

 

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