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2021年2月19日、英国最高裁判所は、約50年ぶりに英国最高裁判所まで争われた衝突事件(The “EVER SMART” and The “ALEXANDRA 1” [2021] UKSC 6)に対して、判決を下しました。Stann Law事務所のFaz Peermohamed氏が、この事件に関して解説をします

こちらは、英文記事「Evergreen wins landmark collision case in UK’s Supreme Court」(2021年2月25日付)の和訳です。

2015年、アラブ首長国連邦のジュベルアリ港沖、2月の晴れた夜のことでした。天候条件は穏やかで、視界も良好でした。Evergreenが所有し、Gardが保険を提供していた大型コンテナ船EVER SMARTは、出港のため、港と外洋を結ぶ狭水道を進んでいました。VLCC(大型原油タンカー)のALEXANDRA 1は、水先人乗船エリア内の、狭水道の外側にいました。ALEXANDRA 1は、出港中のEVER SMARTから水先人を迎え、狭水道を通って入港するつもりでした。現地時間23時42分に、これら2隻の船舶が狭水道の外側で衝突しました。

衝突の前に、EVER SMARTは、狭水道内の中央からわずかに左側を航行していました。1972年の「海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約」(COLREG条約)の規則9(狭水道規則)では、狭水道内を航行する船舶に対して、右側を維持することを求めています。

海員や航海に精通している者であれば、横切り規則(クロッシングルール)として知られるもう一つの規則、つまり規則15が優先適用されることを知っているでしょう。The Alcoa Rambler事件においてライト卿が述べた有名な言葉が、COLREG条約における横切り規則の重要性をよく表現しています。すなわち、「(横切り規則)は安全な航行を保証するのに役立つため、可能な限り(横切り規則を)適用し、厳格に実施する必要がある」ということです。

EVER SMARTは狭水道の中心からわずかに左側を航行していましたが、衝突は、狭水道の外側で発生しました。

衝突前、ALEXANDRA 1は、EVER SMARTの左舷側に位置していました。COLREG条約の横切り規則では、2隻が交差しており、衝突のリスクがある場合、他の船舶を右舷側に見る船舶が避航船となり、当該他の船舶の進路を避けなければならず、そして、他の船舶を左舷側に見る船舶が保持船となり、その針路及び速力を保持しなければならないと定められています。横切り規則が適用されるのであれば、ALEXANDRA 1は、十分な距離を維持するために早期かつ大幅に行動を取ることにより、EVER SMARTに針路を譲る必要があったことになり、EVER SMARTは、自船の針路と速力を維持する必要があったことになります。

海洋の真ん中で横切り状況が生じたのであれば、誰もが、横切り規則が適用されるべきであると主張するでしょう。同様に、2隻の船舶が狭水道で互いに遭遇したのであれば、誰もが、狭水道規則が適用されるべきであると主張するでしょう。ところが、狭水道が外洋と接している場合には、特に、一方の船舶が水道内にあり、他方の船舶が水道外にあるような場合には、困難な問題が生じます。英国法では、この問題に1世紀以上にわたって取り組んできました。確立された法によると、一方の船舶が狭水道から出ようとしており、他方の船舶が水道入り口への最終アプローチ段階にあり、進入するための進路調整を行っているような場合、横切り規則ではなく、狭水道規則が適用されることになっています。

ところが、ALEXANDRA 1は、水道への最終アプローチの段階ではありませんでした。ALEXANDRA 1は実際に進入していたのではなく、進入するために待機していたのです。

海事裁判所と控訴裁判所において、ALEXANDRA 1側は、狭水道の外側に向かって航行する一方の船舶が、狭水道に進入する意図を持ち、かつ、進入の準備中の(ただし、実際には進入するための進路調整はしていない)、狭水道にアプローチしている他方の船舶と交差するような状況では、その遭遇に対しては横切り規則ではなく、狭水道規則が適用されるべきであると主張しました(この点は、最高裁判所への上告において「論点1」となりました)。さらに、ALEXANDRA 1側は、海事裁判所と控訴裁判所において、ALEXANDRA 1EVER SMARTと互いに交差する進路にあり、衝突のリスクがあったものの、ALEXANDRA 1の進路は、横切り規則が適用できるほどに「安定」していなかったとも主張し、この主張は海事裁判所と控訴裁判所において認められました(この点は、最高裁判所への上告において「論点2」となりました)。

EVER SMART側は、これら2つの主張が間違ったものであり、海上での安全を促進するものではなく、むしろ安全を損なうことになると強く感じていました。

論点1に関して、入港船が狭水道の外側にあって、狭水道に進入するための進路を決定しておらず、進入のためにただ待機していただけの状況において、狭水道規則が横切り規則よりも優先適用されるという原則を追加すると、どちらの規則が適用されるのか不明確性が生じる原因となります。操船経験者であれば誰でも、こうした状況下において相手船の意図を読み取ることがいかに困難であるかを知っているでしょう。船舶が狭水道の付近(ただし、狭水道の外側)を航行する理由は複数あり、水道の外側に向かって航行する船舶の船長にその理由を推測する責任を負わせることは、船長を窮地に追い込むことになりかねません。

論点2に関しては、ライト卿の言葉に立ち返るべきです。横切り規則は、安全な航行を保証するのに役立つため、可能な限り広範囲で適用されるべきものです。2隻の船が方位を保ったまま接近していれば、衝突リスクがあることの明らかな兆候であることは船員であれば誰でも知っていることです。他船を自船の右舷側に見る船舶(この事件では、ALEXANDRA 1)も針路を保持しなければならないとすると、船橋チームにさらなる負担を負わせることになり、最も基本的な航行規則の一つの適用について不明確性を発生させることになり、これがさらなる困難を生み出します。

EvergreenとGardは、海運業界と海上での安全性を危機にさらしているこれらの問題は、上訴せざるを得ないほどに重要であると考えました。(2021年) 2月19日(金曜日)、EvergreenとGardの判断が正しかったことが証明されました。衝突事件が英国の最高裁判所まで上訴されたのは1976年以来のことでしたが、最高裁判所は、EVER SMARTの事件に対し、すべての論点で全裁判官が全員一致により判決を下しました。

論点1に関して、最高裁判所は、一方の船舶が狭水道の外側に向かって航行し、他方の船舶が狭水道に接近し、交差が存在する状況下においては、横切り規則が適用されると判断しました。最高裁判所の表現によると、以下のとおりです。

「狭水道の外側に向かって航行している船舶が、接近する船舶と交差しており、衝突の危険がある場合においては、接近する船舶が狭水道に進入する意図を持ち、かつ、進入の準備をしていることだけを理由として、狭水道規則を、横切り規則に対して優先適用させるべきではない。アプローチしてくる船舶が進入のために進路を定め、最終アプローチ段階において、右舷側の進入口に到達しようと航路を調整している場合においてのみ、狭水道規則が、横切り規則に対して優先適用される。」

論点2に関して、最高裁判所は、横切り規則の適用には、針路保持している必要はないと判断しました。

「航路に沿って移動している2隻の船舶が互いに交差し、衝突の危険がある場合、横切り規則の適用は、避航船が直進していることを条件としない。2隻の船舶を操舵している者にとって、2隻の船舶が互いに(時間とともに)方位を保ったまま接近していることが合理的に明らかである場合、それが真正面からではなくとも、まさに2隻は互いに交差しようとしており、避航船の航路が一定しないものであったとしても、2隻は衝突の危険のある交差をしているのである。」

大型商船の操舵は文字通り生死にかかわる問題であるため、規則の明確性と一貫性のある適用は極めて重要です。この判決により、船員にとって、どの規則が適用されるのかが明確となりました。この判決は、世界中の船橋チームにとって、(そして特にEVER SMARTの元船長にとって)、歓迎されるべき判断でしょう。この判決は、横切り規則が安全な航行を保証するのに役立つため、横切り規則を広範囲に適用し、厳格に実施すべきであることを強調しています。

原審の判断では、EVER SMARTが衝突について80%の責任を負担すると判断されていました。最高裁判所の判決に照らして、この事件は、過失割合を再決定するために差し戻されることになります。

 

Gardは、船体保険とP&I保険をEvergreenに提供しています。私たちは、Gardとメンバーの代理人を務めたStann Law事務所のFaz Peermohamed氏とInce Gordon Dadds事務所に感謝の意を表します。また、最高裁判所でEvergreenの代理人を務めた勅撰弁護士のSimon Rainey氏とNigel Jacobs氏にも感謝の意を表します。