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2020年に船員が直面した困難は、新型コロナウイルス感染症だけではありません。2020年はギニア湾で130人の乗組員の誘拐事件が発生したほか、シンガポール海峡では船舶に対する武装強盗が引き続き増加しました。南米でも強盗事件が依然として頻発し、世界的に前年よりも海賊行為が増加しました。

こちらは、英文記事「Maritime piracy hotspots persist during 2020」(2021年1月28日付)の和訳です。

国際海事局海賊情報センター(IMB PRC)によると、2020年は世界的に海賊行為と武装強盗の数が増加しました。IMB PRCの最新の年次報告書によると、2019年の162件に対し、2020年は未遂を含め195件の事件が発生しました。IMB PRCは、世界的な事件数の増加はギニア湾内で報告された海賊行為・武装強盗の増加とシンガポール海峡での武装強盗活動の増加によるものとしています。内訳としては、ハイジャックされたのが3隻、乗船されたのが161隻、襲撃未遂に遭ったのが20隻、銃撃を受けたのが11隻となっています。報告書では身代金目的の誘拐事件についても憂慮すべき傾向が見られると警告しています。世界的に見ると、2020年は135人の乗組員が誘拐され(2019年は134人)、ギニア湾で誘拐された乗組員数がそのうちの95%以上を占めています。

 

IMB PRCの2020年の報告書では、停泊中の船舶と航行中の船舶で起きた事件数はほぼ同じでした。着桟中の船舶に対する攻撃はこれまでと同様に少なく、2020年に報告された事件総数のわずか7%にとどまりました。2020年に報告された事件のうち、80%以上はタンカー、ばら積み貨物船、コンテナ船、一般貨物船などの一般的な商船に対するものでしたが、IMB PRCのデータを見るとあらゆる船種が標的となっていたことが分かります。2020年の統計には、タグボート、漁船、各種オフショア支援船、さらにはFPSOや掘削船で発生した事件も含まれていました。

 

現段階ではコロナウイルスのパンデミックが海上の安全保障上の脅威に直接的影響を及ぼしたことを示唆する証拠はないとされています。しかし、今後、時間の経過とともに、海上での海賊行為や武装強盗に関わる全体的リスクに間接的影響を及ぼすようになることが考えられます。乗組員の疲労が重なり、安全手順の実行がおろそかになるなど、船舶の安全レベルに影響が出てくる可能性が考えられます。乗組員交代の拠点となる錨地が混雑することで、犯罪者に犯行の機会を与えてしまう可能性も考えられます。さらに、各国の経済・政治状況の悪化が、海上での犯罪活動を含む犯罪活動の増加の引き金となる可能性があります。

なお、海上での海賊行為・武装強盗の脅威の程度、犯罪者の犯行の機会や手口は地域によって異なり、これらは急変する可能性があります。したがって、海賊の襲撃がありうる水域を航行する場合の船舶運航者への一般的な助言は、引き続き警戒態勢を強化すること、IMBのウェブサイトを確認したり、現地代理店や地元当局と綿密に連絡を取るなどして状況を注視すること、航海特有のリスク評価を行うこと、ベストプラクティスや入手可能な業界ガイドラインに沿って関連する予防措置を採用・実施することです。Gard のウェブサイト「Piracy and armed robbery at sea(海上での海賊行為と武装強盗)」では、海賊行為や武装強盗に対する警戒、準備、対応に関し、船舶運航者、船長、乗組員に役立つと思われる関連ウェブサイト、ガイドライン、Gard資料へのリンクがまとめられています。

 

アフリカ

ギニア湾は、同地域を航行する乗組員と船舶の安全・警備に対して重大かつ差し迫った脅威をもたらしています。IMB PRCによると、2020年にギニア湾で発生した船舶に対する海賊行為と武装強盗事件は84件報告されており、同地域だけで前年比30%以上の増加となっています。2020年に発生した3隻の船舶に対するハイジャック事件のすべてと、11隻に対する銃撃事件のうち9件はギニア湾地域で発生しています。

 

さらに、ギニア湾地域では、22の事件で130人の乗組員が誘拐され、誘拐された乗組員数が過去最多となりました。特に懸念される点は攻撃がますます暴力的になっており、2020年には同地域で発生した事件の80%以上で銃の使用が報告された点です。また、攻撃が沿岸から遠く離れた場所で発生していることや、一度の事件で誘拐される船員の数が増加していることも懸念されています。

 

現在、ギニア湾地域は、2021年1月23日に発生したコンテナ船「モーツァルト」号への重大な攻撃を受け、一層緊迫した状況となっています。IMB PRCによると、モーツァルト号はサントメ・プリンシペの北西98海里付近を航行中、海賊(人数は不明)に乗り込まれ、乗組員1人が殺害され、15人が誘拐されました。このため、IMB PRCは船長や乗組員にギニア湾を通過する際は、厳重に警戒し、必要な予防対策を講じるよう警告しています。また、IMB PRCは船舶に対し、可能であれば沖で待機せずに直接接岸することや、海岸から少なくとも250海里の距離を保つことを促しています。

 

ギニア湾を航行する船舶や乗組員にとって、ナイジェリア沖の状況は依然として大きな懸念事項となっています。アフリカ地域で発生した事件や乗組員誘拐事件の大半は依然としてナイジェリアに起因するものであることに変わりはありませんが、海賊がさらに沖合で船舶を襲撃していることが確認されており、ナイジェリアの近隣諸国にも影響が広がっています。IMB PRCによると、2020年にギニア湾で発生した事件のうち、発生件数の多かった上位5箇所は、ナイジェリアの他にベナンガーナアンゴラギニアでした。また、過去5年間のIMB PRCのデータは、ナイジェリアの排他的経済水域外で身代金目的の誘拐や拉致事件が増加していることを示しています。

改善した面もあります。IMB PRCによると、2020年にギニア湾以外のアフリカ大陸で発生した事件数は4件のみで、2019年の7件から減少しています。この4件はすべて強盗事件であり、モザンビークのナカラの係留地で発生したものです。2019年と2020年には、ソマリア沖アデン湾で海賊事件が発生したとの報告はなされていませんが、IMB PRCは、ソマリアの海賊は同地域で攻撃を実行する能力を保っていることから、ソマリア海域やインド洋全域を航行する際は油断しないよう、船舶の運航者と船長に注意を促しています。

 

アジア

アジアでは、2020年に海上における海賊行為と武装強盗事件の総数が増加しました。アジア海賊対策地域協力協定情報共有センター(ReCAAP ISC)によると、2020年にはアジアで97件の事件が報告されていますが、この件数は2019年比で17%増となっています。

 

2020年にアジアで発生した事件の大部分は「武装強盗」に分類され、深刻度は低く、船舶の乗組員に対する身体的危害は報告されていません。報告された97件の事件のうち、9件がインド、5件がバングラデシュ、残りの83件が東南アジア諸国で発生しています。ReCAAP ISCの2020年のデータを見ると、シンガポール海峡からの報告分を除き、これまで事件の大半が係留・停泊中の船舶で発生していたことが分かります。

 

 ReCAAP ISCによる2020年の年次報告書は、以下の地域に焦点を当てています。

 

  • スールー海・セレベス海とサバ州東部地域: 2020年は商船での身代金目的の乗組員誘拐事件は発生していません。しかし、2020年1月にマレーシアのサバ州東部の海域でトロール漁船の乗組員が誘拐される事件が発生しており、身代金目的の誘拐は依然として同海域における深刻な脅威であることを示しています。
  • フィリピン:2020年にフィリピンの港湾、係留地では強盗事件が増加しました。Gardの2020年9月20日付アラートをご参照ください。2020年には13件の事件が報告され、2019年の7件から増加しています。13件のうち9件はマニラの係留地で発生し、3件はバタンガスの係留地で、1件はジェネラルサントス港の係留地で発生しています。バタンガスの係留地で発生した事件のうち2件では、乗組員がナイフを持った強盗に脅されたことが報告されています。
  • シンガポール海峡:シンガポール海峡での強盗事件の増加傾向は2021年も続いています。シンガポール海峡では、2019年の31件に対し、2020年は合計34件の海賊事件が報告されました。しかし、同海峡の西航路と東航路の事件数がほぼ同じだった2019年と異なり、2020年に発生した事件の90%近くは東航路で発生しています。東航路で発生した事件で標的とされたのは、タグボートやはしけではなく、大半がばら積み貨物船やタンカーなどの大型船でした。ReCAAP ISCは、2020年に、シンガポール海峡の事件や犯罪者の手口に関する情報や、海運業界に対する提言を提供するため、インシデントアラート(4本)を発行しています。

中南米とカリブ海域

中南米とカリブ海域では2020年に計30件の海賊行為と武装強盗事件が報告されており、IMBPRCの5年間の統計で見ても、同地域に改善の兆しは見られません。2020年の前半には、メキシコ湾南部での海上の脅威に対する警告が出されました。この脅威とは、2020年4月4日から4月15日の間に発生した4件の海賊事案を指すものです。4件のすべてでオフショア支援船が襲撃され、一部では乗組員の負傷と窃盗が報告されました。IMB PRCによると、その後メキシコ湾で新たな海賊事件が発生したとの報告はありませんが、各種のメディア報道では2016年以降メキシコの海上石油インフラに対する攻撃が急激に増加していることが伝えられています。一部メディアは、2019年1月から9月までの間、1か月当たり平均16件の攻撃があったと伝えています。この数字は未確認のものですが、メキシコ湾で発生した事件数が相当に過小報告されている可能性があることを示唆しています。詳細はGardの2019年4月22日付アラートをご覧ください。

 

ペルーのカヤオの係留地は長年海賊事件の多発スポットとされており、2020年も8件の事件(2019年より2件減少)が報告されるなど、依然として状況は改善されていません。憂慮すべき新たな傾向は、アマゾン川河口のブラジルのマカパ市付近で強盗事件が増加していることです。同地域では2020年に7件の事件発生が報告されており、この傾向は2021年1月に入っても続いています。

 

 

 

中南米・カリブ海域を航行する船舶は、警戒を緩めず、特に停泊中は、海賊に対する厳重な監視と対策を継続するようにしてください。