Rate this article:  

本稿では、貨物積載船が中国沖で現在直面しているような長期滞船が発生した場合に、航海傭船契約と定期傭船契約で発生しうるいくつかの影響について簡単に見ていきたいと思います。

こちらは、英文記事「The Chinese/Australian trade wars and implications for shipping」(2021年2月3日付)の和訳です。

地政学的な出来事が海運に与える影響には業界全体が敏感になっています。最近で言えば、中国とオーストラリアによる貿易対立がその最たる例です。現在は南シナ海でこの対立が激しくなっており、国際貿易に次々と大きな影響を及ぼしています。対立に至った理由についてはここでは述べませんが、中国がオーストラリア産石炭の輸入禁止措置を発動したことで、石炭を積んだ船舶に大幅な遅れが発生し、中国沖で荷揚げの順番待ちをする事態になっています。もちろん、船主と傭船者が事業を行う上で本船の遅延や滞船ほど嫌なことはありません。

 

航海傭船契約における懸念事項

 

船主にとって重要である運賃は、たいていの場合、本船が中国の揚地に到着する前までに支払われています。そのため、もし本船が荷役準備完了通知(NOR)を提出できていれば、レイタイム(碇泊期間)と滞船料の条件が発動し、少なくとも滞船料を受け取れる状態にはなるはずです。ただご存じのように、滞船料率というのは通常、本船をマーケットレートで傭船に出した場合の収益と比べると見劣りするため、船主は本船の早出しと次の傭船先への引き渡しを常に望んでいます。

 

もちろん、今回のような事態では、有効なNORを提出してレイタイムを開始することも船主にとっては大事なことです。滞船料をもらえるか否かは傭船契約の条件、特に、有効なNORを提出できるタイミングによって変わってきます。NORを正しく提出すると、レイタイム(滞船料発生後の場合は滞船料)のカウントが始まります。契約がバースチャーターではなく、WIPON(Whether in port or not)条項が含まれており、指定されたバースへの到着時ではなく錨地への到着時にNORを提出できる場合、もちろん錨地での待機も到着済みだとみなされるべきです。法律的にも物理的にも全ての点において本船の荷揚げ準備が整っており、検疫済証も取得している場合は、レイタイムが開始されます。

 

一方の航海傭船者にしてみれば、今回のような事態になれば、一刻も早くレイタイムのカウントを止めたいと思うでしょう。しかしながら、買主と石炭の売買契約を既に結んでしまっており、その契約条件が傭船契約のレイタイムや滞船料の条件とback to backでない、といった場合もあるかもしれません。買主から滞船料をまったくもらえなければ、船主に支払う金額ばかりがますます膨らんでいってしまいます。当然、その場合は、傭船契約を頼りに損失をできる限り抑える方法を探そうとするでしょう。

 

このような状況で傭船者の助け船となりそうなのがレイタイム除外条項です。仮にこの条項を適用できれば、レイタイムのカウントを止められるので、船主への滞船料が発生している場合はそれを大幅に減らすことができるかもしれません。ただ、この条項は厳格に解釈されます。滞船料にも適用される旨が明示されていない場合、レイタイム除外条項はレイタイム内にのみ適用されるとまず解釈されます。しかも、たいていの一般的な傭船契約におけるこの種の条項の文言は、単なる船混みの結果生じた遅延や、後々の船混みの原因となるストライキが起きていない中での遅延を対象とする、といったような適用対象を網羅した内容にはなっていません。

 

レイタイム除外条項を行使できない場合には、傭船者が不可抗力を主張することも考えられます。傭船契約を結んだ時点ではオーストラリア産石炭の輸入制限を予期できなかったため、契約上の義務は免除されるべきである、もしくは、せめて制限措置の発動中は義務の履行が中断されるべきであると主張してくるかもしれません。ただ、これは大陸法系では認められている法原則ですが、英国法では違います。そのため、傭船契約の中に不可抗力の概念を行使できる文言が明示されていない限り、英国の法廷の前ではこれに頼ることはできません。不可抗力に値するような条項が明示されている場合でも、他の除外条項と同様、この条項を拠り所にして義務の履行を免れようとする立場の傭船者にとって不利な解釈がなされるでしょう。そのため、問題となっている出来事が当該条項に挙げられていること、そして、傭船を決めた時点では輸入制限措置は予測し難かったことを証明する必要がでてきます。加えて、この出来事によって生じた事態を回避、緩和できるような合理的な手段が一切なかったことも証明しなければなりません。

 

英国法で不可抗力の原則に値するといってもよさそうなのが、フラストレーションの概念です。これは、両当事者の力が及ばない契約条項外の出来事が発生したことで傭船契約の履行が不可能になった場合、または、両当事者が契約締結時に想定していた主たる目的と完全に異なるものになってしまった場合に、傭船契約が自動的に終了するというものです。これにより、両当事者はその時点で担っている義務から解放されることになります。航海傭船契約の場合で言えば、長期滞船が生じるとフラストレーションが成立することがあります。ただ、裁判所でこのフラストレーションを認める判決が下されることはなかなかありません。当事者のいずれかが財務的に困難な状況に陥ったくらいでは、フラストレーションの発動にはまず至らないでしょう。今回の輸入制限はいずれ解除される見込みのため、傭船契約は最終的には履行できるはずです。

 

 

定期傭船契約における懸念事項

 

定期傭船契約の性質上、ある特定の事態が発生した場合の責任の所在について揉めるケースは、航海傭船契約に比べて少なくなります。それでも紛争が起こりそうな問題はいくつかあるため、一通り見ていきましょう。

 

例えば、契約がフラストレートした(履行不能となった)ことを定期傭船者が証明できる可能性は、航海傭船に比べてずっと小さくなります。オフハイヤー条項の条件に基づけば、遅延のリスクが傭船者にあることは明らかだからです。

 

通常のオフハイヤー条項も傭船者の後ろ盾にはなってくれません。傭船者にとっては明らかに不稼働損失であっても、本船自体は十分に稼働できる状態であり、傭船者が判断しさえすれば求められる役務をいつでも提供できる状態にあるからです。

 

では、NYPE 46書式第16条のように、定期傭船契約の一般的な相互免責条項なら役に立つでしょうか。今回の輸入制限措置が中国政府の命令によるものだと考えられる場合、これは「公権力による抑止(restraint of Princes, Rulers and People)」のような相互免責事項に該当するでしょうか。この種の条項を拠り所にしようとする傭船者にとって問題となるのが、輸入制限によって傭船料の支払義務を履行できなくなった旨を証明しなければならない、という点です。これは簡単なことではありません。

 

ただ、この公権力による抑止を理由とする免責条項は、返船が遅れる場合には使えるかもしれません。中国の錨地で長期滞船が発生すれば、契約上の傭船期間を超えてしまうおそれがあります。傭船期間に「without guarantee」条件が付いていなければ、返船遅れは契約条件の違反とみなされ、船主に対する賠償責任が発生する事態にもなりかねません。ところが、この相互免責条項ならそのような責任を無効にできるかもしれないのです。

 

傭船料の支払いが遅滞なく行われるかどうかは、船主にとっては常に気がかりな問題です。大部分が慣例的に前払いとなっている運賃の支払いとは異なり、傭船料は傭船期間中、定期的(通常は15日ごと)に支払われます。傭船者は、再傭船者や売買契約上の買主から何らかの理由で決まった収入が入らずに苦しい状況に陥ってしまうと、傭船料の支払いを見合わせることもあります。こうなってしまうと、船主としては傭船契約を頼りに何か対策を探さざるをえません。ただ、本船を傭船先から引き揚げて契約を終了するような強硬手段については慎重になるべきです。引き揚げれば本船を次の傭船に充てることはできますが、船荷証券で別途定められた船主の義務が消えるわけではないため、積荷を受荷主に引き渡さなければならないことには変わりないからです。

 

傭船料の支払い期限が来ても未払いの場合には、役務提供を中止できる権利が明示されていることもあります。ただ、このような手段を取っても傭船者にどこまで支払いを促す効果があるのかは疑問で

 

す。本船はすぐに着岸できる見込みもないまま錨泊しているため、引き続き待つほかなく、傭船者がすぐに役務提供を必要としている状況でもないからです。

 

リーエンの行使が船主にとって強力な手段となることもあります。ただし、積荷の留置や再運送賃の留置については、傭船契約上のリーエンを船荷証券にも摂取し、中国法で貨物の留置権を認めてもらわなければならないなど、法律面や実務面で対処しなければならない細かな点が色々とあります。また、再傭船契約の下で傭船者に支払われるべき再運送賃の大部分が既に支払われてしまっている可能性もあります。

 

さらに、長期滞船が発生した際に船主・傭船者の双方が傭船契約で考慮すべき大きな問題として、船体汚損、そして、その清掃責任の所在に関する問題もあります。中国の領海内で長期間停泊することで、おそらく船体汚損の問題が起きるでしょう。傭船契約の中で特別に明示されている条項がなければ、傭船者の指示に従ったことに対する黙示的補償などがあったとしても、清掃費用が傭船者負担となることは一般的にはありません。船体汚損のリスクは輸送上の当然のリスクとみなされるため、船主の負担となります。

 

航海傭船と定期傭船のいずれにも関係する貨物・船員問題

 

どちらの契約形態であっても、積荷である石炭が自己発熱し、最終的には発火に至る可能性があります。航海が長引けばその危険性も高まるでしょう。これは、積荷の危険性などのほか、航海中の積荷の管理状況の問題に繋がっていきます。

 

また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い多くの港で規制が敷かれていることから、船員交代が非常に難しくなっています。石炭の荷揚げが遅れ、その結果、船員交代が可能な港へ向かうのが遅れていることも一層問題を悪化させています。

 

今後の見通しは石炭の色ほど暗くない?

 

業界紙の最近の報道によれば、中国による今回の輸入制限措置が解除されるのではという情報もあります。この情報が正しいものであり、海運業界の頭痛の種がひとつ減ることを願っています。