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米司法省(DOJ)は、米国の港に寄港する外国籍船舶について、MARPOL条約に違反している船主と運航者の起訴を積極的に行っています。これらの起訴は、コーストガードによる初期検査と捜査の結果として行われることが少なくありません。本稿の筆者二名は、民間セクターに移る前に、弁護士としてコーストガードに勤務していました。本稿では、コーストガードの検査官と捜査官が取り調べを行っている間の船主と乗組員の権利と責任について筆者の考えをお伝えします。

こちらは、英文記事「Company and Employee Rights During a U.S. Coast Guard MARPOL Investigation」(2020年10月29日付)の和訳です。

 

はじめに

 

DOJは過去1年間も引き続き、米国の港に寄港した外国籍船舶について、MARPOL条約の米国国内法である船舶からの汚染防止法(Act to Prevent Pollution from Ships [APPS])に違反している船主と運航者を積極的に起訴しました。例えば2020年3月には同じく油水の違法排出を隠蔽していたシンガポールの船会社に165万米ドルの罰金を科しました。2019年12月には、米国の沿岸水域に油水を排出したことを認めた漁船の船主と運航者が100万米ドルの罰金を科され、また石油タンカーの船主、運航者および機関長が、司法妨害と意図的な汚染の隠蔽に関する有罪判決を受けました。また2020年7月には、日本に本社を置く国際的な船会社が、APPSに反して油記録簿を正確に記載せず、油水の排出を隠蔽していたことを認めたため、150万米ドルの罰金と4年間の保護観察処分を言い渡され、包括的な環境コンプライアンス計画の実施を命じられました。

 

これらの起訴事例は、米国政府が引き続き、船舶による汚染防止法違反の取り締まりを精力的に行っていることを示しています。またこれらの事例は、船主がAPPS違反を理由に刑事訴追され、代位責任を負うことになった場合、重い罰則を科されることを明らかにしています。APPS違反には、船舶が米国の領海外で行った廃油の排出を隠蔽するために油記録簿に虚偽を記載するというMARPOL条約違反を犯した状態で米国の領海に進入することも含まれます。本稿では、船舶を検査するコーストガードの権限の背景を解説し、ポートステートによる所定の検査から犯罪捜査に移行しうる要因について論じます。ただし、ここで示された著者らのコメントは、単に法的権利に関するガイダンスであり、法的助言とはみなされないことにご注意ください。

 

Sean ― コーストガードは、米国の管轄海域内にいる外国籍船舶にポートステートコントロール(PSC)検査を実施するための幅広い権限を有しています。APPS違反の捜査は所定のPSC検査とは異なり、特定の船舶によって、またはその船上で環境犯罪が行われなかったかどうかを判断するために、コーストガードが特定の船舶に対象を絞って捜査します。APPS違反の刑事事件では、米国の様々な法域の米連邦検事局が(通常、DOJの環境犯罪部門と連携しながら)起訴の指揮を執りますが、その際の根拠となるのは、コーストガードがAPPS捜査の過程で集めた証拠です。船長や乗組員、船舶運航者が、コーストガードの乗船目的が、所定の事務的なポートステートコントロール検査を行うためなのか、それとも多額の罰金や乗組員の禁固に発展しうるAPPS違反の捜査のためなのかを知るためには、どうすればよいのでしょうか。

 

Andrew ― 通常、外国籍船舶のAPPS違反事件は、ポートステートコントロール検査から始まります。不法行為が見つかった場合は、より幅広い検査(APPS捜査)を実施します。この幅広い検査は海上の安全を確保する目的で実施され、場合によっては不法行為に関連した目撃者の供述を集めたり、証拠を押収したりすることが含まれます。ポートステートコントロールの担当者による捜査が終了したら、事件はコーストガードの犯罪捜査官に引き継がれ、犯罪捜査が開始されます。犯罪捜査官は、ポートステートコントロールによる捜査の過程で集められたすべての証拠を利用することができます。

 

コーストガードによる非犯罪捜査のほとんどは、コーストガードの制服職員が担当しますが、犯罪捜査はコーストガード犯罪捜査班(CGIS)の特殊エージェントが担当します。CGISの特殊エージェントが乗船してくるか、継続的な捜査に協力している場合は、少なくとも刑事訴訟が検討されているサインです。ただし、どのような状況であればコーストガードがポートステートコントロールの検査結果をDOJに付託し、より詳細な捜査を求めるのかを決定する、「明確な線引き」規則はありません。

 

またコーストガードは、企業またはその従業員に対して、自身が行っている捜査の種類や、質問の理由を伝える必要はありません。したがって、CGISの検査官が到着すれば、犯罪捜査が進行中であるヒントとなります。一方で、その後起訴される場合は、ポートステート検査や、既に収集された情報または押収された証拠が利用される可能性があり、多くの場合、実際に利用されています。

 

Sean ― 多くの人は、米国の警察ドラマで、警察官が容疑者にいわゆる「ミランダ権」を告知する場面を見たことがあるでしょう。例えば黙秘権があること、すべての供述は刑事訴追で不利な証拠として採用される可能性があること、容疑者には弁護士を呼ぶ権利があるといった内容です。原則として、「ミランダ権」の告知は身体拘束下の取り調べにも適用されます。コーストガードの捜査官は、船舶の乗組員を尋問する際、そのような権利を告知しなければならないのでしょうか?

 

Andrew ― CGISのエージェントを含め、コーストガードの検査官は、乗組員に対して権利を告知する必要はありません。これは権利が存在しないという意味ではありません。しかし権利が存在するか否か、またどのような時に存在するかを判別することは困難です。実際に存在する権利の中には、特定の事件に関連する報告義務要件の一環として提供しなければならない最低限の情報以外に、その事件に関して何らかの情報を明かすよう「強制」または強要されない権利が含まれます。

 

海難事故または油の流出のような特定の事件が発生した場合は、義務に従い、コーストガードに報告しなければなりません(報告義務の完全なリストは末尾の付属書に記載されています)。報告しなければならない状況が生じた場合は、最低限の届出要件を満たすために適切な情報を明かすことで、必要な届出を怠ったことによる罰則を回避する必要があります。

 

これらの罰則は厳しいものとなりえます。例えば油の流出または危険物質の放出について報告を怠った場合、刑事訴追につながる可能性があり、有罪判決が下れば、多額の罰金か5年以下の禁固、またはその両方を科される可能性があります。また報告を怠った場合は、コーストガードから重大な民事罰を科されることもあります。例えば海難事件の報告義務に違反した場合、1日当たり39,936米ドル以下の民事罰を科される可能性があり、違反状態が続いている間、1日ごとに別の違反としてカウントされることになります。

 

Sean ―APPS違反の捜査に話を戻すと、報告義務を果たしている場合、企業と乗組員にはどのような権利があるでしょうか?

 

Andrew ―先ほど述べたように、報告義務要件を満たすのに必要な最低限の情報と、海難救助活動の実施に必要な基本的な連絡を別にすれば、コーストガードは、召喚状がない限り、企業またはその従業員に情報を明かすよう「強制」することはできません。つまり、捜査中にコーストガードから尋問を受けるすべての人は、質問への回答を拒否できるということです。回答を拒否するのは最善の策ではないかもしれませんが、そうする選択肢または権利はあります。

 

コーストガードが発行する召喚状には、独立執行力はありません。つまり、召喚状が(例えば「[x]を提出するよう、ここに命じる」と)命令文で書かれていたとしても、企業または従業員が召喚状に従うことを拒否した場合、コーストガードには、召喚状に従うよう強制する手立てがありません。その代わり、コーストガードは、地元の連邦検事に連絡を取り、検事を説得して召喚状を連邦裁判官に提出し、召喚状に従うよう、裁判官から命令してもらう必要があります(命令が出された場合は従わなければなりません)。このプロセスは、最終的に成功したとしても、数日間または数週間を要する場合があります。

 

Sean ― 我々は二人ともコーストガードの元弁護士であり、捜査に協力した方が企業にとってより良い結果につながりうるという点で意見が一致すると思います。ですが、捜査中は、事実に即した供述を行うことが極めて重要です。APPS違反事件の多くには、虚偽の供述または司法妨害の罪が含まれるからです。

 

Andrew ―そうですね。米国当局は、企業またはその代表者が書面または口頭でコーストガードに提供した情報を、コーストガードに提出または押収された物的証拠(航海日誌、配管、ポンプなど)と共に、あらゆる目的に利用する可能性があります。それには民事訴訟または刑事訴訟手続きの証拠としての利用も含まれます。君が言うように、APPS違反事件の多くには虚偽の供述または司法妨害の罪が含まれており、その多くは虚偽の記録の「提出」という重罪に基づいています。

 

Sean ― APPS捜査の法定代理人について話をしましょう。君は、コーストガードには弁護士を同席させる権利について船長または乗組員に告知する義務はないと言いましたが、船長または乗組員が弁護士の同席を求めた場合はどうなるのでしょうか?

 

Andrew ― 捜査中に尋問を受ける企業や従業員は、弁護士に相談し、弁護士を尋問に同席させる権利を持っています。コーストガードは、捜査の対象者が弁護士を雇い、捜査現場に呼び寄せるための合理的な期間を設けることができるように捜査を遅らせるべきです。

 

捜査の対象者が弁護士による支援または同席を求めた場合のコーストガード向けガイダンスには、可能であれば、弁護士と相談するための合理的な機会を与えられるよう、尋問の日時と場所について相互に合意すべきと定められています。

 

適切な経験を積んだコーストガードの捜査官であれば、弁護士に対し、どの乗組員、従業員または企業の代理人であるかを尋ねるでしょう。様々な当事者の利害は相反する可能性があるため、運航会社に雇われた弁護士が乗組員の代理人を務めることは利益相反となる可能性があります。

 

Sean ― 良い指摘ですね。弁護士は、利益相反の関係にある二人以上の依頼人の代理人になることはできません。APPS違反事件に関しては、往々にして利益相反が生じます。船主は、乗組員の行為に対する代位責任に基づいて刑事罰に問われる場合があり、APPS違反事件ではそうした事例が少なくありません。加えて、こうした起訴の一部は、「内部通報者」である乗組員が提出した証拠――つまりある乗組員が、他の乗組員による不正行為の証拠として提出した証拠に基づいて行われます。このことは、利益相反は船主と乗組員の間だけでなく、乗組員同士の間にも生じうることを意味します。

 

海事法と刑法は完全に異なる専門分野であり、そのため海事法の弁護士は、必要な時のために、この種の事件に精通した刑事弁護士の詳細な連絡先を管理しておくとよいでしょう。弁護士が雇われて捜査対象者の代理人を務める場合の、捜査段階における弁護士の役割について説明してくれますか?

 

Andrew ―もちろん弁護士は、尋問に答えなくてもよいという助言も含め、依頼人に助言をすることができます。また依頼人がコーストガードの尋問に答えることを選択した場合は、弁護士には尋問に同席する権利があります。弁護士は、尋問への回答または捜査を妨害するか、物理的に妨げるか、または証言を改ざんすることにより、回答または捜査に干渉することはできません。

 

弁護士は、依頼人以外の尋問への立ち会いを要求することができ、要求すれば立ち会いを許可されます。コーストガードは原則として、弁護士を含め、いかなる人物であっても尋問の現場から排除することは不適切であるとの方針を採っています。言い換えれば、弁護士は、たとえ依頼人ではなくても、コーストガードによるすべての尋問に立ち会うことを認められるべきです。この方針は、弁護士が尋問への回答を物理的に妨げない限り、コーストガードは弁護士を尋問の現場から排除することはできないという方針とも一致します。

 

英語が流暢でない乗組員は大勢おり、そのため船長または乗組員は、言葉の壁がある場合、通訳を尋問に同席させるための手配を要請する権利があることにも触れておきたいと思います。コーストガードは、捜査に多大な遅れが生じるのでない限り、この要請を認めるべきです。通訳または言葉の壁に関する問題があれば、乗組員は企業の担当者または代理人である弁護士と相談すべきです。

 

Sean ― 最後に、APPS違反事件におけるP&Iクラブの役割について説明しておきたいと思います。汚濁に関する罰金のうち、クラブがカバーするのは「偶発的な排出」による汚濁のみです。つまり、故意に油水分離器を迂回するAPPS違反はカバーされません。これは、乗組員が企業の方針に反する行動を取り、企業の経営陣がそのことを把握していなかった場合でも同様です。とは言えGardは、この種の事件を得意とする弁護士に関する情報の提供を通じて、メンバーの皆さまを支援します。Andrewも同意見だと思いますが、犯罪捜査が行われる可能性がある場合、企業は、指針となる有力な法的助言が必要になります。

 

Andrew、体験談を聞かせてくれてありがとうございます。報告義務に関する詳細は、Andrewが作成してくれた別表をご覧ください。

 

 

別表

 

A. コーストガードに報告しなければならない海難事件には以下が含まれます。

 

(1) 故意でない座礁、または故意でない橋梁との衝突。

 

(2) 航行、環境もしくは船舶の安全に対して危険をもたらすか、または下記第(3)項ないし第(8)項のいずれかの基準に合致する故意の座礁または橋梁との衝突。

 

(3) 主推進装置、主操舵装置、または船舶の操舵性能を低下させる付属装置もしくは制御システムの機能低下。

(4) 船舶の堪航性または航行もしくは航路の適合性に重大な悪影響を及ぼす事象。これには、火災、浸水、固定式消火システム、救命装置、補助発電装置またはビルジポンプシステムの故障または損傷が含まれますが、これらに限定されません。

 

(5) 人命の喪失

 

(6) 専門的な治療(応急処置を超える治療)を要する負傷であって、その負傷を負った者が船内で業務に従事する被雇用者である場合は、その者が日常業務を遂行できなくなるような負傷。

 

(7) 75,000ドルを超える財産的損害を発生させる事象。この損害には、財産を事象発生前の状態に回復させるのに要する人件費、材料費が含まれますが、救助費、洗浄費、ガスフリー費用、乾ドック入梁費用、滞船料は含まれません。

 

(8) 環境に著しい悪影響をもたらす事象。

 

B. 危険状況

 

危険状況とは、船舶、橋梁、建造物もしくは沿岸域の安全、または米国の港湾もしくは航行可能な水路の環境の質に悪影響を及ぼす可能性があるあらゆる状況を意味します。これには、衝突、火災、爆発、座礁、流出、損傷、乗船者の負傷もしくは疾病、または人員不足等が含まれますが、必ずしもこれらに限定されません。

 

C. 油の流出

 

水質浄化法セクション311(b)(3)(合衆国法典第33篇第1321条 (b)(3))は、「有害な量」の油または有害物質を、以下の方法で排出することを禁止しています。(i) 米国の航行可能な海域、隣接する海岸線または接続水域への排出、(ii) 連邦大陸棚領域法(合衆国法典第43篇第1331条以下参照)もしくは1974年深海港湾法(合衆国法典第33篇第1501条以下参照)に規定されている活動に関連した排出、または (iii) 米国に属するか、米国に関係するか、米国の排他的な管理権限の下に置かれている天然資源に影響を及ぼす可能性のある排出。油の有害な量とは、(1) 水域の表面に油膜もしくは変色を生じさせるか、(2) 適用される水質基準に違反するか、または (c) 水面下もしくは隣接する海岸線にスラッジもしくはエマルジョンの堆積を生じさせる分量を指します。

 

報告義務のある油の流出が起きた場合、以下の情報を国立対応センター(NRC)に届け出なければなりません。(1) 報告者および責任者の名称と住所、(2) 流出または放出された物質の種類と分量、

 

(3) 流出または放出された場所、(4) 流出もしくは放出の日時またはその発見日時、および (5) 排出の原因。

 

D. 有害物質

 

「放出」とは、(一部例外はありますが)環境への流出、ポンプによる排出、流し込み、排出、注入、漏出、ろ過、投棄または廃棄を意味します(これには、危険物質、汚染物質もしくは混入物質の入ったバレル、コンテナ、その他の密閉容器の遺棄もしくは放棄が含まれます)。「危険物質」は連邦規則集第40巻第302.4条で指定されており、数が多すぎるため、ここには記載していません。危険物質の「報告義務のある分量」は、連邦規則集第40巻第302.5条に記載されています。

 

油の流出報告と同様、NRCの担当職員は、事件に関してできるだけ多くの情報を得るため、報告者に対し、標準化された一連の質問をします。

 

E.事件に関連した排出

 

以下を伴う事件が発生した場合は、直ちに報告しなければなりません。

 

(1) 船舶またはその装置の損傷に起因するか、船舶の安全確保または海上での人命救助を目的として行った、油、危険物質、海洋汚染物質または有害液体物質(NLS)の排出

 

(2) 船舶の操業中における、15 PPM(もしくは特別地域の場合はそれ以下)を超える分量の油の排出、または連邦規則集第46巻第153.1126条もしくは同第153.1128条に規定された分量を超える大量のNLSの排出

 

(3) 梱包状態での海洋汚染物質の排出

 

(4) 船舶またはその装置の損傷に起因して、排出が起きた確率が高い場合

 

上記 (4) の「確率」を判断する上で考慮しなければならない要因は、連邦規則集第33巻第151.15条(c)4に規定されています。

 

各報告には、以下が含まれている必要があります。

 

(1) 船舶の特定情報

(2) 排出された有害物質の種類

(3) 事件の発生日時

(4) 事件が発生した時の船舶の地理的位置