
ALERT
張力がかかった係船索にご注意を / Be careful with lines under tension (Japanese HTML)
係船甲板でのスナップバックに関してはガイダンスが多数発表されています。しかし死亡事故は後を絶たず、英国船舶事故調査局(UK MAIB)が警鐘を鳴らしています。
こちらは、英文記事「Be careful with lines under tension」(2022年7月28日付)の和訳です。
Gardがこれまでに扱ったクレームの中でも特に悲惨な負傷・死亡事故に、張力がかかった係船索の破断に伴う事故があります。係船索の張力が破断荷重をオーバーして破断する主な理由としては、損耗した係船索の使用、係船索の過度な巻き込み、船体の急な移動などが挙げられます。
英国船舶事故調査局(UK MAIB)は、係船索の破断に関するガイダンスは多数発表されているものの、事故が後を絶たないとして、今年7月に注意喚起通知を出しました。新しいテクノロジーの導入や自動化が進んでいる海運業界ですが、係船甲板では、張力のかかった重い係船索の近くで作業が必要なことには変わりなく、有人作業は避けられません。そのためUK MAIBは安全ガイダンスに従うことが重要だとし、係船作業の安全性を高めるには次の3つの要素が欠かせないと強調しています。
- 設備:係船甲板で安全に作業をするためには、適切な設備を使用すること、そして保守管理によって設備を良好な状態に保つことが不可欠です。係船索は定期的に点検し、損耗で劣化していないか、合成繊維索の場合は硬化している部分やオイルやグリースがしみ込んでいる兆候がないか確認するようにしてください。各係船索を配索する際は、余分な負荷がかかったり、摩擦点ができたりしないように注意する必要があります。過去には、設備の保守管理がきちんとできていなかったために、係船索が破断して乗組員に当たる事故も発生しています。そのため、乗組員の安全を確保するには、設備に異常な点がないか念入りな点検が欠かせません。
- 計画と打ち合わせ:係船甲板で作業を行う場合は計画を立てることが重要です。新しい作業1つ1つに対するリスク評価と対策が問題ないか確認し、どのような配索をするのか考慮した上で計画を立てるようにしてください。特に、スナップバックに対しては注意が必要です。係船甲板の作業場所は常に整理整頓しておいてください。また、どの岸壁であっても着岸中は係船索の状態をよくチェックしておきましょう。これは潮汐が大きい場合は特に大切です。また、適切な計画を立てるには、乗組員全員が配索の概要説明をきちんと受けているか、作業内容を把握できているか、甲板上の危険の少ない場所に配置されているか確認することも必要です。作業を安全に行うには十分な数の乗組員が必要ですが、多過ぎても余計なリスクが発生してしまうため注意してください。
- コミュニケーション:最後に、最も重要と言えるのが乗組員同士のコミュニケーションです。意思疎通をきちんと取れなければ、大きな危険にさらされてしまうおそれがあるからです。係船作業に携わる乗組員はコミュニケーションをうまく取ることが求められますが、通信回線数も考慮しなければなりません。1つの回線で飛び交う声が多すぎると、混乱が生じ、必要以上に話してしまうことにもなりかねません。ただ、別々の回線を使えば連絡の輪に入れない人が出てきてしまいます。最終的には、コミュニケーションをうまく取れるか否かが安全と危険の分かれ目になるため、係船計画を立てる際は、作業関係者全員がコミュニケーションを密に取れるようにすることが重要となります。
英国海事沿岸警備庁は、同国籍船向けに発行した『Code of Safe Working Practices for Merchant Seafarers(商船船員のための安全作業手順コード)』の第26章で係船作業に関する推奨事項を紹介しています。他の国でも同様のガイダンスが発行されていると思われます。国際労働機関(ILO)の『 Code of practice for accident prevention on board ship at sea and in port(海上および港内における船内の事故防止のための実務指針)』の第19章でも、係船・離船作業を行う際の推奨事項と手順を紹介しています。
その他の情報と推奨事項
Safe Mooring(安全な係船作業)は、国際海事機関(IMO)の議題にもなっています。安全な係船作業についてはSOLAS条約第II-1章第3-8規則で定められており、2024年1月1日に発効する改正規則では、使用時の安全を考慮して係船設備・装置を設計・選定することが義務化されます。また、係船装置の点検・保守も義務化されます。以下のサーキュラーがガイドラインとなっています。
- 係船設備の設計と、係船装置、係船索、艤装品の選定に関してはMSC.1/Circ.1175/Rev.1と MSC.1/Circ.1619
- 係船索をはじめとする係船装置の点検・保守に関しては、MSC.1/Circ.1620
船舶管理会社は管理船の係船作業手順を確認し、作業中に危険な状況が生じないよう適宜修正するようにしてください。また、乗組員が作業手順をきちんと把握し守っているか、作業に伴う危険を認識・評価・管理するための適切な訓練を受けているか確認することも大切です。
Gardは安全ミーティング用にケーススタディを定期的に発行しています。リスク評価の進め方や、どのようなミスが重なって事故につながったのかを考えることが狙いです。係船作業を題材にしたものもあるため、これを乗組員同士での比較や分析、議論を行うための訓練材料としてぜひご利用ください。また、係船作業に関するロスプリベンションポスター「Are you snap-safe?(スナップバックから自分の身を守れますか?)」もお役立てください。