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船舶は世界の貨物の90%を世界各地に運んでいます。そのため、密輸犯が密輸品を市場に運ぶ手段として商船を選択するのは当然と言えるかもしれません。麻薬をばら積み貨物や船舶のボイドスペース、コンテナの中に隠し、または船体外板に取り付けて輸送することは、何年も前から問題となっており、船舶の運航に支障をきたし続けています。今回のInsightでは、ゲスト執筆者が、シーチェスト等に隠されていた麻薬が見つかったために船舶が遅延したり拘束されたりした場合の船主と傭船者の法的な立場について解説します。

こちらは、英文記事「Contractual allocation of risk for drug smuggling in commercial shipping

(2020年11月30日付)の和訳です。

はじめに

 

海運セクターにおける麻薬密輸は、船主、傭船者、積荷の利害関係者の間に、複雑な契約紛争をもたらし続けています。多くの費用と時間を要する紛争を回避するためには、これらの当事者が、契約書の中で賠償責任に適切に対処し、それに応じて賠償責任を割り当てることが極めて重要です。世界の海運業は麻薬対策を強化し続けているにもかかわらず、密輸犯は麻薬密輸の新しい手口を見いだし、しかもその手口は次第に巧妙化しつつあります。今回のInsightでは、密輸品の発見によって生じうる運航の遅延と損失について探り、潜在的な賠償責任を軽減するための実務的な助言をいくつかご提供します。

 

リスクの高まり

 

船体の水面下の部分にあり、取り外し可能なストレーナープレートが取り付けられたシーチェストは、取りこんだ水を溜めておくタンクとつながっており、船舶の配管システムはそこから水を汲み上げます。しかし最近では、このスペースが他の目的にも使用されています。ストレーナープレートをこじ開け、航海の間、麻薬をプレートの内側に保管するという目的です。シーチェストは船体内とは言っても水面下に位置することから、乗組員に知られることなく、また乗組員の協力を得ずとも、麻薬を隠して密輸することが可能です。ダイバーは、船舶の出航時や目的地への到着時に、港湾労働者や乗組員に頼ったり金銭を渡したりしなくても、密かにシーチェスト周辺のエリアをこじ開けることが可能であり、そのため従来の臨検手法は通用しなくなってきています。

 

船主にとって、密輸品が当局に発見され、船舶の運航に遅延が生じた場合、傭船料収入が途絶え、積荷の利害関係者からクレームを請求されることになりかねません。また船舶の拘束/運航の遅延によって、その後の航海予定に支障が出る可能性もあります。(船主、傭船者、再傭船者など)利害が対立する関係者間におけるこの種のクレームの解決は、傭船契約書に明確な文言がない場合、とりわけ困難になるおそれがあります。

 

賠償責任

 

したがって、船主と傭船者の間の責任に関する取り決めは極めて重要であり、両当事者が傭船契約書で合意した明確な文言が大きな鍵を握ります。起こりうる問題のひとつは、該当条項を起草した時点では、麻薬密輸の新たな手口の多くを想定しておらず、そのため例えば上記のようなシナリオが、傭船契約書の条項に当てはまらない可能性があることです。

 

一般的に用いられる条項のひとつが、ボルチック国際海運協議会(BIMCO)が作成した、1986年米国薬物乱用防止法に基づく2013年版定期傭船契約条項(U.S. Anti-Drug Abuse Act 1986 Clause for Time Charter Parties 2013)です。この条項が傭船契約書に盛り込まれていた場合、船上に麻薬が隠されていたことに起因する費用と運航の遅延に対する責任は、傭船者が負担するのが一般的です。ただし、この条項は発生した損失時間と罰金に対する責任の分担方法をかなり明確に規定しようとしているとは言え、ある程度の曖昧さも残っています。例えば、この条項は麻薬がonboard(船上)」に隠されていた場合のみを対象としており、麻薬がシーチェスト内で見つかった場合もこれに含まれるかどうかは規定されていません。

 

船主の立場

 

傭船契約書に責任分担に関する明確な規定がない場合、当事者たちは、自分に有利な根拠を見つけ出そうと、契約書以外の場所を探し回ることになりかねません。例えば船主は、傭船者による特定の港への航海指示書に従ったために密輸が起こったと主張するかもしれません。その結果、船主は航海指示書に従ったのだから免責される権利があると主張するでしょう。あるいは(実際にその港で麻薬が発見されたとしても、むしろそのことが、その港が保安体制を敷いていることを証明するかもしれないが)、船主は傭船者が危険な港への航海を指示したと主張しようとするかもしれません。

 

傭船者の立場

 

一方、傭船者は、船主の堪航性担保義務を指摘する可能性があります。ヘーグ・ヴィスビー条約を傭船契約書に盛り込むことによって、船主の堪航性担保義務が、出航前と出航時に注意義務を尽くし、船舶の堪航性を確保することに限定されていた場合、傭船者の主張の根拠は一段と弱くなります。例えばダイバーが(おそらく夜間に)麻薬を密かに船体の内部または周囲に隠した場合、注意を尽くしてもそれを見つけることは容易ではありません。また傭船者は、このシナリオにおいて、旗国とポートステート両方の法規に従うのは船主の義務だと主張できるかもしれません。

 

水中検査やビデオ撮影を手配したり、シーチェストが開かないよう溶接しておくことが優良慣行であることを傭船者が証明したりできれば、船主が船体の適切なメンテナンスまたは堪航性担保義務の遵守を怠ったという主張の裏付けとなる可能性があります。ただし、船舶がすべての書類を整え、すべての現地規則または国際基準を遵守していた場合、そのような主張を組み立てることは困難と思われます。

 

いずれかの当事者が負担した損失を他方当事者に転嫁することを可能にする旨の、十分かつ明示的な規定が契約書に含まれていない限り、損失を転嫁することはできない可能性があります。同様に、運航が遅延している間の船舶をオンハイヤーとするかオフハイヤーとするかは、関連するオフハイヤー条項に左右されます。

 

貨物クレーム

 

輸送貨物が生鮮品であり、麻薬が船上で、または船舶に取り付けられているのが発見されたために運航が遅延した場合、貨物クレームが発生する可能性があります。貨物クレームは、船荷証券の発行者が誰かに応じて、船主または傭船者のいずれかに請求されることになります。いずれにせよ、貨物の損害に対する賠償責任は概ね船荷証券の条件によって決まり、また前述のように、船主が船舶の堪航性を確保するために注意義務を尽くしていたかどうかが重要になる可能性が高いと思われます。

 

多くの場合、貨物クレームを船主から傭船者に、または傭船者から船主に転嫁できるかどうかは複雑な問題です。適切な傭船契約条項を船荷証券に注意深く盛り込むことにより、その問題を簡略化することができるでしょう。

 

まとめ

 

麻薬の密輸が及ぼす影響は、当初の罰金や刑事制裁にとどまらず、傭船契約書や船荷証券に基づいて、商業面での幅広い影響を及ぼす可能性があります。一部の港湾で麻薬の密輸が横行していること、また麻薬密輸犯が船舶を利用する新たな違法行為の手口を編み出し、その手口が次第に巧妙化していることを考えれば、船主、傭船者及び荷送人は、契約の曖昧さを理由に紛争が生じないよう、明確な文言で規定された条項を傭船契約書や船荷証券に盛り込むことが推奨されます。

 

BIMCOが作成した、1986年米国薬物乱用防止法に基づく2013年版定期傭船契約条項は、ある程度のガイダンスを提供してくれますが、この条項に変更を加えるか、個別の事例に合わせてよりカスタマイズすることにより、契約をより明確なものにできる可能性があります。また、契約書に定められ

 

た賠償責任の分担方法によっては、船主及び傭船者は、通常の密輸防止対策に加え、リスクが高い港からの出航前に水中検査とビデオ撮影を手配することが賢明かもしれません。さらに、リスクが高い港に停泊する際は、密輸に関連した動きを特定するという明確な目的のために、常に見張りを置くことが適切と言えるでしょう。

 

本稿に記載された見解は、執筆者(Campbell Johnston Clarkの弁護士)の見解であることにご注意ください。麻薬密輸に関する船主責任(P&I)保険についてより詳しくは、Insight記事「良い旅を薬物と P&I 保険」をご覧ください。