Rate this article:  

Gardはこれまで、新天地を求める密航者が船舶のラダートランクに潜んでいた事例をいくつも見てきました。ラダートランクという場所は、溺れる危険性が高い上に、良い結果につながる保証はありません。今回は、最近起きたCHAMPION PULA号の事例を検証し、それを基に密航者問題全般について考えてみたいと思います。

こちらは、英文記事「The dangerous practice of stowaways hiding in a vessel’s rudder trunk

(2020年12月10日付)の和訳です。

 

密航者の発見

タンカー船CHAMPION PULA号が、9月25日にナイジェリアのラゴスを出港し10日後に積地のラスパルマスに到着した際に、驚くことに、本船のラダーに座っている4人の密航者がスペインの港湾当局によって発見されました。10日以上もの間、4人は外洋で、しかもプロペラに近い場所でわずかな食料と水だけで生き延びていました。Gardのメンバーでベルゲンに本社を置くChampion Tankers AS社は、密航者がいることに気付いていませんでした。船内からラダートランクに行くことはできないからです。

スペインの港湾当局と赤十字社が密航者の健康状態を確認したところ、厳しい状況に置かれていた影響で多少衰弱してはいたものの、問題はなかったことから、港湾当局は本船に対して4人をそのまま乗船させるよう命じ、送還を認めませんでした。

4人の健康状態や本船に乗船させておくリスクの高さを考え、Champion Tankers AS社はノルウェー船主協会とノルウェー外務省の協力を得て、そしてGardは現地のP&Iコレスポンデントと選任弁護士を介して、4人がラスパルマスに滞在できるようスペイン当局への説得を試みましたが、拒否されてしまいました。

スペイン政府の発表によると、今年の現時点における西アフリカからカナリア諸島への難民・移民の数は2019年の同じ時期と比べて664%増加しており、11月1日時点で計11,409人にのぼっています。そのため、当局が密航者の受け入れを拒んだのも当然のことでしょう。

4人の密航者が本船に戻ってきたため、Gardは、乗組員の安全を守る目的で、また4人を外気に当たらせる際などのサポート役として、3人の警備員を手配しました。Champion Tankers AS社の方では、4人の宿泊用としてスエズクルー用の船室にベッドを追加で用意しました。4人は手厚く扱われ、船内にいる全員が新型コロナウイルスに感染しないよう安全対策も講じられました。

 

警察による対応と亡命

本船は10月17日にノルウェーのヘロヤに寄港し、その後は米国に向かう予定になっていたため、密航者の下船をノルウェーで行うのが誰にとっても賢明な選択でした。密航者を乗船させたまま米国に入国すると、罰金を科されたり拘束されたりする可能性があるからです。そこで、本船のラスパルマス出港後、Gardはすぐにノルウェーのシーエンとサンデフィヨルドの地元警察と国境警察に連絡を取り、乗組員の安全が脅かされるほか、密航者がラダートランクに隠れるという辛い状況に置かれていたことは人道的に問題があるとして、4人をヘロヤで下船させるよう求めました。ただし、正確に身元が分かる身分証明書などの情報がなければ密航者の送還は極めて難しくなります。この4人はノルウェーでの亡命申請を希望する旨を明らかにしました。Gardはノルウェー警察と良好な協力関係を築いていました。本船がヘロヤに到着すると、警察は然るべき移送手段と護送人を手配して4人を下船させるとともに、亡命申請の手続きを始めてくれました。

 

密航者問題の概況

国際海上交通の簡易化に関する条約(FAL条約)では、密航者を「船舶所有者又は船長若しくは他の責任を有する者の同意を得ることなく、船舶内に隠れ、又は船舶に積み込まれる予定の貨物の中に隠れていた者であって、当該船舶の出港後に当該船舶内で発見され、又は到着港における積卸しの際に当該貨物の中から発見され、船長により密航者として適当な当局に通報された者」として定義しています。

密航者は、経済上の理由による移民であったり迫害から逃れてきた難民であったりします。密航理由によっては上陸時にその法的地位が不利になる場合がありますが、船上での処遇に影響を及ぼすものではありません。Gardが扱う密航者の事件は複雑で費用がかさむこともあります。多くの場合、密航者は本国に送還しなければなりませんが、その人物がパスポートなどの身分証明書を持っていないとそれが難しくなることもあります。また、送還時や送還を待っている間の警備も必要になります。2018年、Gardは150名の密航者が絡んだ59件の事件を扱い、その費用は合計で140万米ドルにのぼりました。

ナイジェリアのラゴス港などアフリカの港の多くは、総じて密航者が多いことで知られています。このことは、2019年2月に、国際P&Iグループが国際海事機関(IMO)に報告した最新の密航件数データでも確認できます。下図は、2007年、2011年、2014年、2017年の2月20日から始まる各保険年度における各港での密航者の乗船件数を示したものです。アフリカの各港は、全保険年度において、密航件数の上位10港に含まれています(出典:IMO Document FAL 43/13)。

 

 

 

予防策

船舶と港湾施設の保安のための国際コード(ISPSコード)の機能要件のひとつに、密航者などによる船舶への不正立ち入りの防止があります。このコードでは、船舶へのあらゆる不正立ち入りの危険性を考慮した船舶保安体制の評価を求めており、部外者が船舶に一切立ち入れないようにするほか、乗船許可を得た者も出港前に下船させることを基本方針としています。船舶の入港中に開放しておかなければならない出入口に見張りを立たせておくことが重要だとしており、しかもその見張りは、訪船者や修理業者、ステベドアといった許可を得た人物が乗船する際の手続きについてもしっかりと把握しておかなければなりません。また、人の出入りを監視するだけでなく、普段立ち入らないような場所への侵入を主眼に置いて、物理的に立ち入りができないようにする対策を取ったり、船内を手当たり次第に見て回ったりすることも必要となります。

出港前には、乗組員がすべての区画をくまなく調べ、その結果を航海日誌に記録する必要があります。CHAMPION PULA号の事例からも分かるように、ラダートランクは密航者の侵入場所として決して珍しくはなく、特にバラスト状態のときは潜伏場所としてよく使われています。

CHAMPION PULA号のように、ラダートランクに出入りができる船尾船型は多くの船舶に見受けられるため、そのような船舶が密航リスクの高い港に寄港する際は、次のような予防策を講じることを検討する必要があります。

  • 密航者が侵入できないよう、ラダー区画の開口部を鉄格子や鉄筋で覆う
  • 操舵機室にインスペクションハッチを設置し、出港前にラダートランクをチェックできるようにする
  • バラスト状態で出港する際には、出港前に救助艇やパイロットボートを使うなどしてラダーをチェックする

おわりに

船主は、乗組員、乗客、貨物を安全に保護する全面的な責任を負っています。FAL条約では、密航者を原因とする海上交通の遅延への対処に特化した条項が定められており、2018年6月にはIMOがRevised guidelines on the prevention of access by stowaways and the allocation of responsibilities to seek the successful resolution of stowaway cases(密航者による侵入防止および密航事件を無事に解決に導くための責任分担に関する改訂ガイドライン)(FAL.13(42))を採択しました。このガイドラインで採用されている密航事件の防止方法に関するアプローチは、ISPSコードで採用されているセキュリティアプローチと完全に合致するようになりました。

 

これに伴い、密航者の乗船防止はFAL条約ならびにISPSコードに基づく船舶の義務履行の重要な要素となったことから、出入管理や捜索などの義務履行に関する手続きや対策については、船舶の正式な保安計画に明記する必要があります。密航者が乗船していると、その船舶の保安態勢に穴があると捉えられ、ISPSコード違反の明白な根拠であると港湾当局がみなす場合もあります。

 

メンバーの皆様におかれましては、所有する船舶の配船予定国の情勢を注視し、密航者が増えてしまうような情勢の変化がないか確認するように極力努めてください。例えば、内戦や自然災害といった劇的な出来事が起こると密航のリスクが高まる可能性があります。特定の地域で景気が落ち込んだ場合も同様です。

 

また、より多くの情報を収集する手段として、現地代理店や他の船長とも密航者問題について話し合うとよいでしょう。そうすることで貴重な最新情報を手に入れることができます。各地域におけるその時々の密航多発場所に関する情報だけではありません。賄賂を渡すのか、コンテナの中に潜り込むのか、ラダートランクに隠れる際にはボートを使うのか、それとも泳いでいくのか、ステベドアのふりをして潜り込むのかなど、ある特定の港で密航者が船舶に侵入する際に一番よく使われる手口についても情報を得ることができます。さらに、様々な密航パターンを把握してそれに対処できるよう、乗組員に対する周知と訓練を行うことも重要です。Gardのクレーム担当窓口はこのような密航事件について豊富な経験を有しており、事件が起こった際にすぐに対応できます。

 

予防策に関するその他のアドバイスや、密航者を発見した際に取るべき措置や行動については、『Gard Guidance on StowawaysGard密航対策ガイダンス)』にも記載されています。