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「Not always afloat but safely aground(常に海上浮揚の状態ではないが安全に着底できる)」(NAABSA)という文言は、干潮時に船体を損傷させずに船が着底できるような海底を持つ港を表現するのに使われます。ただ、そのような港に寄港する際は、船体の損傷や荷役の遅延を避けるためのみならず、船主と用船者の取引関係をこじらせないようにするためにも注意を払う必要があります。

こちらは、英文記事「NAABSA: Licence to sit on ground?」(2020年11月25日付)の和訳です。

はじめに

 

NAABSAの文言は配船を行う上での実状を踏まえて作られたものですが、特に、着底することを船員が想定していなかったときなどは、この条項とその慣行性を巡って争いが起きることも珍しくありません。P&I保険、船体保険、FD&D保険の保険業者であるGardではNAABSA条項を含んだ用船契約に伴うクレームや紛争に対応しており、加入者である船主・用船者の双方から訴訟や問い合わせが寄せられてきます。ここでは、3つの事例研究の概要をご紹介した後に、この問題の法的な位置づけについて考察し、さらに、損失を避けるための実践的なアドバイスをご紹介します。

 

事例研究1:予期せぬ着底

 

用船者は積地として南米のある港を指定しました。用船契約はNYPE 1946書式(改訂版)で、そこには安全港/安全バースの保証が明示されていました。一方、この用船契約のNAABSA条項には「ECSA(南米東岸)ではNAABSAを無条件に適用できる」旨が記されていました。

 

用船者は、航海指示書を入れたメッセージの中でその港がNAABSA港であることには触れませんでした。一方、現地の代理店が本船到着前に送ったメッセージの中にはその旨がはっきり書かれていましたが、船長はそれを見落としてしまいました。港湾局は港がNAABSAであると公式には宣言していませんでしたが、現地代理店は、ある一定以上のサイズの船舶にとってここがNAABSA港であるのは当然という認識でした。

 

15時30分に始まった甲板積みの荷役でしたが、18時30分頃になると本船が海側に傾き始め、さらにフェンダーからも離れてしまいました。そして、乗組員が手作業で測深を行った結果、船体が桟橋側の海底に接触していることを確認。代理店からのメッセージにNAABSAのことが書かれていたのを船長が見落としていたため、乗組員たちは着底するなど思ってもいませんでした。しかもこの会社では、NAABSA港に寄港する際の手順を安全管理システム(SMS)で一切定めていませんでした。

 

船長は荷役を止め、着底により発生する損害、損傷、費用はすべて用船者の責任であるという内容の抗議文を用船者とターミナルに対して出しました。用船者は、NAABSA港での着底は「慣例」であるという理由でその抗議をはねつけたうえ、荷役を続行するよう主張しましたが、船長は構造強度と復原性の問題があるとして、それを拒否しました。本船はそれから数時間後に再浮上したため、その段階で、船長の要請により別のバースに移動したのち荷役を再開しましたが、用船者はこの荷役の中断時間分をオフハイヤーとしました。

 

船内への浸水は一切なかったものの、船主は水中サーベイの実施を希望しました。ただ、積地では行えなかったため、揚地での実施となりました。サーベイの結果、船底に凹みが見つかり、バラストタンクの点検時にその凹みが正式に確認されました。その他に重大な損傷は見つかりませんでした。

 

安全バースの保証という点から考えると、NAABSA条項にはどのような効力があったのでしょうか。荷役を中断して本船を別のバースに移動するよう命じた船長の行為は正当なものだったのでしょうか。用船者には船長が荷役を中断した時間をオフハイヤーにする権利はあったのでしょうか。そして、本船の損傷リスクは最終的に誰が負うのでしょうか。

 

この事例で出てくるこのような細かな質問に答える前に、まずはNAABSA条項全般について考えてみましょう。その後、船主・用船者双方が対処・実践していく上で考えるべきことを見ていき、損失を防ぐための推奨事項をご紹介します。

 

NAABSA条項の法的効力とは

 

NAABSA条項は、潮汐条件によって着底のおそれがあるような港や場所に用船者が船舶を寄港させようとする場合に、大半の用船契約で求められている「常時浮揚(always afloat)」の条件に違反しているということにならないよう、たいてい用船契約に摂取されています。用船契約にNAABSA条項が入っていれば、それは船主がそのような事態が起こる可能性を承諾しているということを意味します。

 

NAABSA条項は用船契約における安全性保証全般と絡めて解釈しなければなりません。そのため、仮にNAABSAバースで着底したことによって船体が損傷した場合、船舶が安全に着底できるような安全港/安全バースを指定する義務に用船者が違反したことになる、という主張が可能になることもあります。ただし、その主張が通るかはそのバースの特徴を実際に調べたうえで判断されます。また、船長が本船の安全性を確保するべく合理的な操船航海技術を行使する必要があることも念頭に置いておかなければなりません。

 

NAABSA条項は、用船契約で言及されている港やバース、錨地、場所の安全性の保証という、もっと大きな枠組みで考える必要があります。この条項には普通、船舶が寄港を命じられた指定の港やバース、錨地の安全性を用船者が保証する意味合いも含まれており、個々の用船契約条項によって、この安全性の保証が明示されている場合もあれば、黙示されている場合もあります。

 

安全性の明示保証

 

明示保証には主に、絶対的安全性の保証と条件付き安全性の保証の2つがあります。

 

例えば、絶対的安全性の保証はNYPE 1993書式で用いられています。この書式の中で安全な場所と言った場合は、船舶がそのバースに接近するときも含まれます。絶対的義務を負う場合の安全性については、適切な操船航海技術を駆使することで港や場所にある危険を避けられるかどうかが基準となります。一方、Shelltime書式(Shelltime 3とShelltime 4)などの一部の標準書式では条件付き安全性の保証が定められており、用船者の義務は相当の注意を尽くす義務に引き下げられています。つまり、寄港指示を出した時点で、指定したその港や場所が安全だと見込まれたことを用船者が既知の事実に基づいて合理的に結論づけることができた場合には、その港や場所は安全だとみなされるということです。

 

安全性の黙示的保証

 

船舶が寄港を指示された港や場所の安全性について、用船契約で明示的に保証されていないこともあります。特定の限られた状況においては、英国裁判所が安全港/安全な場所の保証義務が用船契約で黙示されているとする構えを見せる可能性もあります。用船契約で安全性の明示的保証がなされていないにもかかわらず、港名の一覧という形にせよ、特定の2港間を寄港範囲として記載しているにせよ、用船契約の中で港が明記されている場合、その契約では安全性の保証が黙示されていることにはならない点には注意が必要です。安全港に関する全般的な解説については、安全港について取り上げたInsight記事(英文のみ)のほか、「Implied safe berth warranties(安全バースの黙示的保証)」(英文のみ)の記事もご参照ください。

 

NAABSA条項の取り決め

 

大切なのは、用船契約に摂取されているNAABSA条項の文言をよく検討することです。契約によっては、ボルチック国際海運協議会(BIMCO)のNAABSA条項が摂取されている場合もあります。このBIMCOのNAABSA条項は言及範囲が他のものより広くなっており、用船者によるNAABSA港への寄港要求を拒否する合理的な権利が船主に与えられています。また、用船者に対して、船舶が損傷することなく柔らかな海底に着底する旨を文書で認めることも求めており、着底によって船舶に何らかの間接損害が発生した場合、用船者は船主に補償をしなければなりません。

 

ただ、このBIMCO条項よりも、船主にNAABSA港への寄港を求める条項の方がもっと一般的になっています。つまり、船主にはそのような航海指示を拒否する権利がないのです。こういった条項では、船舶が安全に着底できる特定の港が指定されているか、寄港範囲が挙げられていることがあります。条項によっては指示がもっと大ざっぱで、船舶を安全に着底させることが慣例となっている複数の港が挙げられていることもあります。こういった条項には普通、用船者から船主に対する明示的な補償は含まれていません。

 

何をもって「慣例」とするかの法的な定義はなく、船舶が特定の場所の海底に着底するのが「慣例」となっているかどうかは実証的な問題になります。もし船舶が特定のバースや場所で損傷することなく普段から着底している場合は、慣例化していると考えてもよいでしょう。

 

話を先程の事例研究に戻しますが、つまりこのNAABSA条項では、本船が安全に着底できるのであれば、記載されている範囲内の場所に着岸するよう用船者から指示された場合には船長に拒否する権利はないということです。重要なのは「安全に」という点です。したがって、着底した海底や河床の状態が原因で本船が損傷した場合、それが普段の適切な航海技術をもってすれば避けられたものでない限り、船主はその損傷について求償できるのです。一方、本船が安全に着底でき、安定した状態を保っているのであれば、船長には荷役を止める権利はなく、仮に止めた場合には用船者は当然オフハイヤーにすることができます。この最初の事例で起きた複雑な事態は、用船者、船主、船長がコミュニケーションをもっとうまく取っていればおそらく避けられたでしょう。次のセクションでは、海底や河床の状態や特徴を確認するためには船主と用船者がどのような手順を踏めばいいのか、また、適切な航海技術を行使するには実務面で他にどのようなことに気をつければよいのかを考えていきます。

 

手続き面や実務面で考慮すべきこと

 

船主や船舶管理者が、乗組員が参照する安全管理システム(SMS)でNAABSA港への寄港に関する手引きを必ず定めているかというと、そうとも限りません。定めていないと、上記の事例研究のように、着底してから行動を起こすという非常に事後対応的なものになってしまいます。SMSには、本船がNAABSA港に寄港するにあたっての必要な準備事項や、乗組員と陸側管理者の両方が取るべき行動についての手順を詳しく定めておきましょう。一般的に、SMS内で定める手順ではこれからご説明する4つの段階を押さえるべきです。大事なポイントを書いた簡単なチェックリストを作っておけば、乗組員たちも分かりやすいでしょう。

 

 

1. 港への到着前

 

これは情報収集段階です。まず、用船契約のNAABSA条項、それから用船者の航海指示書を確認しましょう。次に、現地代理店やP&Iコレスポンデントなどの信頼できる情報筋が持っている情報を集めましょう。その際の注意点として次のようなものがあります。

  •  湾局が当該港をNAABSA港として認める旨を公式発表しているか
  • 海底が平らであるかを確認するため、海底の特徴と地形を調べる
  • 最小深さと、許可されている最大喫水
  • 測深と浚渫作業の最終実施日
  • 積み荷役と揚げ荷役の速度
  • 港湾局から何らかの公式なガイドラインが提示されているか
  • 潮汐情報
  • 該当するバースで過去に着底したことのある同サイズの船舶の履歴

 

2. 着岸後

この段階は、船体や機関、その他の機器が損傷しないように乗組員が取るべき行動を対象とします。高位シーチェストへの切り替えや、水深確認のために船体周囲6~9箇所での手動測深の実施、採泥などの項目が対象となるでしょう。河川岸壁で流れが激しい場合、手用測鉛線での測深は正確な結果が出ないおそれがあるので注意してください。結果が疑わしい場合はエコーサウンダーを使って確認し、その結果を港湾局に知らせましょう。

 

3. 干潮による着底後

構造強度と復原性の問題があるため、もし本船が着底した場合は荷役を止めることをお勧めします。これは用船者に声を大にして伝えておくべき大事な問題です。なぜなら、積付計算システムでは船舶の復原力を浮揚状態で計算しており、着底した場合、実際には復原力が失われてしまうからです。この影響が特に顕著になるのが、甲板に貨物を積むときです。着底時の状態を踏まえた復原力を積付計算システムで計算できない場合は、本船の船級協会に問い合わせれば復原力計算について教えてくれることもあります。

 

次に重要なのが、船体に裂傷がないかを確認することです。乗組員は、二重底タンクやダクトキール、コッファダム、スツールスペース、船艙の湾曲部などのスペースで測深を頻繁に行う必要があります。着底した途端に船体がバースから横方向に傾くおそれがあるため、係船策に十分注意する必要が出てくるかもしれません。また船体が突然横に動くと、船体のほか、クレーンやギャングウェイなどの陸側の設備にも損傷を与えるおそれがあります。

 

4. 再浮上後

水中サーベイを手配して、船体や操舵設備に損傷がないか確認しましょう。

 

事例研究2:船舶の横移動による損傷

Gardが取り扱ったある事件では、着底と同時に本船が桟橋から数メートル離れてしまうということがありました。それによって係船策に無理な力が加わり、ギャングウェイと桟橋が損傷する事態になりました。

 

この事例では、船体と桟橋の損傷を引き起こしたのはおそらくその海底の特徴にあったといってもよいでしょう。ただ、普段の適切な航海技術を用いていれば損傷はもしかすると避けられたかもしれません。ここで強調しておくべきは、非安全状態というのはその航海の開始時点で存在していなければならないという点です。例えば、沈泥が溜まっているのに浚渫を定期的に行わなかったために海底に傾斜ができたと言える場合、これは非安全状態と考えることができます。

 

事例研究3:船体への損傷

 

ドライドック入渠中に、舵、シャフト、シャフトフランジ、ベアリングに損傷があることが分かりました。この本船はドライドック前の数か月間、複数のNAABSA港に定期的に寄港していましたが、そういった港への寄港後も船底の水中サーベイを一切行わず、採泥も行っていませんでした。

左:船底の凹み、右:舵に入った亀裂

バラストタンク内のフレームに入った亀裂

 

上記の事例では、本船が着底を指示された場所が非安全状態だったために損傷が起きたということを証明できれば、船主が用船者に求償する根拠になったかもしれません。その場でサーベイが行われなかったために様々な問題が生じ、船主は、船体が損傷したのは港の非安全状態が原因であったことを立証する責任を負うことになります。その場で集めた証拠がなければ、損害賠償を求めるのは難しいかもしれません。だからこそ、再浮上した後に、損傷を記録できるだけの見通しの利く場所やタイミングで水中サーベイを行うことをお勧めしているわけです。

 

NAABSAと加入保険- P&I保険と船体保険

 

標準的な用船契約に基づく通常の配船であり、該当する要件をメンバーが順守している限り、船主・用船者に対するGardのP&I保険によるてん補(船体損傷への責任を含む)が適用されなくなることは一般的にはありません。NAABSA港に寄港する船舶の場合、船主は、保険者への通知が免除になる一方、バースでの着底によって本船が受けた損傷を補償させる旨の合意を用船者から取り付けるよう求める条項が船体保険契約に含まれているかを確認することをお勧めします。一方の用船者は、航行の過失いかんを問わず船体への損傷に厳しい責任を課すような用船契約の条項を承諾する場合、てん補に影響を与えないようGardの承認を得る必要があることに注意してください。つまり、船主にしても用船者にしても、NAABSA港への配船に合意する場合は、ブローカーや保険者と確認を取っておくことが賢明ということです。

 

推奨事項

 

NAABSA港に寄港する際は相当の注意を払うことがある程度求められます。乗組員だけでなく、船主の陸上管理者や用船者も注意を払わなければなりません。これは、船体の損傷や荷役の遅延を避けるためだけでなく、船主と用船者の取引関係をこじらせないようにするためでもあります。そのため、用船契約で合意したNAABSA条項とその効力について船主・用船者の双方が把握してお

 

く必要があります。では、船主と用船者は航海が始まる前にどんな点に気をつければよいのでしょうか。重要なポイントを以下にご紹介します。

 

Ÿ   基本的に船長は用船契約の条件にあまり詳しくないため、船主や管理者から船長にその内容をはっきり伝えましょう。そうすることで、特定の港で本船が着底する可能性がある旨を乗組員が認識することができます。

Ÿ   用船者は指定した港がNAABSA港であることを航海指示書の中で明記し、船長から受領確認を取り付けましょう。

Ÿ   船長は航海指示書や代理店からの入港前メッセージを注意して読みましょう。その港の特徴について詳細を知りたければ、代理店に要求しても構いません。

Ÿ   船主は、NAABSA港への寄港リスクに関する乗組員への指導要領と、安全に作業を行うために必要な行動を定めましょう。

Ÿ   船主と用船者は、もし実施可能であるならば、指定の港/バースで採泥を共同で行うことに合意しましょう。こうすることで、両者とも着底のリスクをはっきり捉えられるようになり、場合によっては、船体への損傷や、用船者が最終的に負担することになるかもしれない損傷費用の発生を防ぐことができるかもしれません。

Ÿ   船主は、てん補条件がどのようになっているのか、加入している船体保険の契約条件を確認しましょう。Gardと契約を結んでいる用船者は、一般的ではない煩雑な内容のNAABSA条項に合意する際は、船体損傷が変わらずてん補されるよう、保険者に通知しましょう。

Ÿ   FD&D保険を契約しているメンバーの皆様は、用船契約の交渉時や締結時、もしくは費用負担で揉めている事件の最中やその後に、その契約に含まれているNAABSA条項の法的な効力について、担当FD&D弁護士と相談するのもよいかもしれません。