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先日のGard主催のウェビナーでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が大流行するさなかでの船員交代という現在進行形の難題をテーマに、船員の健康面から見た問題のほか、交代を理由に離路せざるをえなくなった船主と用船者の間で起こる契約上の問題について、登壇者たちが意見を交わしました。本稿では、ウェビナー中に寄せられたいくつかの質問について詳しくご紹介します。

ちらは、英文記事「Are we all in the same boat? Crew changes in the time of pandemic」2020年11月12日付)の和訳です。

 

はじめに

COVID-19の大流行によって、極めて当たり前であった船の運航にすら支障が生じています。海運業界が目下直面している最大の問題のひとつに船員交代があります。感染拡大を抑えるために国や地域、自治体レベルで設けられた制限措置によって、船員たちが通常の雇用契約期間内に交代することが極めて難しくなっているのです。乗船期間を延長したことで船員たちのストレスと疲労は高まっています。これは、彼らの身の安全だけでなく、船の安全運航や安全で効率的な貨物輸送に不安をもたらす元です。コロナ禍で船員を交代するには本船を離路させなければならないことが多く、船主と用船者が互いに業務を続けようとする中で、利害の対立や争いを招く多くの問題を引き起こしかねません。先日のウェビナーでは、登壇者たちが過去数か月間のGardでの経験をもとに、先の見通せないこの難しい状況で船員交代を行う際に船主と用船者が直面する問題を、主に法的・実務的な面から取り上げました。ウェビナー(1時間)の録画はこちらでご覧いただけます

 

ウェビナー中や終了後に、法律や契約、保険面の問題に関して、参加者から重要な質問や関連質問をたくさんお寄せいただきました。このInsight記事の中で、寄せられた質問にお答えしていきたいと思います。

 

法的規制と寄港国の規制

 

質問:国際海事機関(IMO)は船員をキーワーカーとして扱うよう呼びかけています。この提案はどこまで実現されていますか。

 

回答:去る2020年5月、国連グローバル・コンパクト(UNGC)から一連の推奨事項とガイドラインが発表されました。これらのガイドラインは、世界中の寄港国で船員の「キーワーカー」としての認知を推し進めることを目的としたものです。船員交代によって感染拡大が起これば国益にかかわることから、この提案が出された後も寄港国はこの手引きを採用することに慎重な態度を見せています。その方針を和らげて手引きを導入した国もいくつかあり、流行が始まってからの最初の数か月と比べれば良い方向には進んでいますが、キーワーカーへの指定には段取り的な問題が複数あり、航空会社・保健当局・環境機関・各国政府といった様々な関係者との協力が必要となるため、時間がかかっています。事態が正常化するまで採用は長期化する見込みであることから、Gardは、世界各国の港湾当局と連絡が取れるよう、コレスポンデントのネットワークを使ってメンバーの皆さまをサポートしています。

 

質問:契約期間を超過してしまっている船員を交代しなかったとして、寄港国の港湾当局に本船が拘束されるリスクについて教えてください。

 

回答:このリスクは現実味がとても強く、乗組員が長期間乗船していることを理由に世界各国で拘束事件が複数発生しています。問題は、これらの港で本船が拘束されたからといって寄港国が自らの管轄区域内での船員交代を認めるわけではないということです。このことが船員交代の問題をいっそう複雑にしています。

 

船主と用船者の間で起こりうるクレーム

 

質問:用船者は用船契約を結ぶ前に船主にどのようなことを聞くべきですか。また船主は、用船中に船員交代が必要である旨を用船者に認識してもらうためにどのような追加情報を提供すべきですか。

 

回答:用船者は、用船期間中のどこかの時点で船主が船員交代を行う予定や見込みがあるかをはっきり確認すべきです。そして、もしその予定があるのであれば、おおまかな時期や場所についても聞いておきましょう。長期用船の場合ですと、船主も正確には答えにくいでしょうが、一航海のみの定期用船や航海用船などの短期用船であれば、計画の内容をかなり明確に説明できるはずです。船員交代のために離路が必要となる場合、用船者は営利的な面からその契約を結んでよいか検討すべきです。

 

船主は、船員交代を一切禁じる条項への同意には慎重になるべきです。理由は単純で、やむを得ない事情が船内で起きる可能性があるからです。また、計画済みの船員交代の必要性について船主から説明する場合は、その時点で保証できる範囲内に留めておくということも忘れないでください。

 

大事なのは、船主・用船者双方がそれぞれの観点から船員交代の計画や可能性について情報交換を行うことです。こうすることで、契約を結ぶ前に互いの要件が合致しているかを確認することができます。

 

質問:船員交代に際して、多くの港では遅くとも14日前の通知を求めてきますが、直前まで次の航海が分からないことも多々あります。船主はどうすればいいでしょうか。用船者が航海の詳細を早めに知らせれば、船主の負担を和らげることになるでしょうか。また、連絡が遅かった用船者に対して、オフハイヤーやその他の費用を一部負担するよう求めることはできますか。

 

回答:中には直前の通知を受け付けてくれる港もあります。船主は本船が今いる航行地域で船員交代が可能な港を確認し、交代計画をなるべく早く用船者に知らせることをお勧めします。

 

用船者側についてですが、航海計画をなるべく早めに知らせてあげれば船主も助かるでしょう。ただし通常の用船契約において、用船者が費用を一部負担したり、待機時間中もオンハイヤーのままにしておく義務はありません。ここでも、協力をしてコミュニケーションをとることが全当事者の費用を最小限に抑えるうえで重要となります。

 

質問:定期用船者の立場として、バラスト航海中、積地への寄港前に船主が船員交代のために離路をし、しかも再用船者との契約に積地への到着遅延による解除条項がある場合はどうなりますか。このような場合の対応の仕方についてアドバイスがあれば教えてください。

 

回答:離路をしたことで再用船者との契約の解除期日までに本船が到着できないということであれば、次のポイントを確認する必要があります。

 

(i) そもそも船主には離路する権利があるのか

 

(ii) 船主には、こちらが説得することで受け入れてくれるような選択肢が他にあるのか

 

(iii) 再用船者は解除期日の延長に同意してくれそうか

 

お互いに率直なやり取りをすることが、全関係者にとってうまくいく解決策を見出す最も有力な方法でしょう。

 

用船契約の条項

 

質問ボルチック国際海運協議会(BIMCO)の「COVID-19クルーチェンジクローズ」を推奨しますか

 

回答:これは定期用船契約を対象とした条項で、言ってみれば、本船が寄港を命じられた港や場所でCOVID-19に伴う制限措置により船員交代が行えない場合に、交代可能な港に離路する権利を明示的に認めたものです。離路が認められるのは、移動やCOVID-19関連の制限措置が原因で、用船者が寄港を命じた港で予定の停泊期間内に船員交代を行えない場合に限られます。この「行えない」という言葉は、この条項を行使するうえで高いハードルになっています。用船者に命じられた港や場所で船員を交代すると他の場所より費用がかさむとか不便であるといった理由では、船主はこの条項を行使することはできません。

 

この条項には選択肢が2つあります。本船をオンハイヤーのままにするがバンカー代は50%ずつ分担する方法か、オフハイヤーにしてバンカー代を船主負担にする方法です。このどちらか1つを選ぶことになっています。また、再用船者との用船契約と、運送契約の証拠となり用船契約に従って発行される船荷証券の両方に、離路する権利を入れるよう用船者に求めています。 

 

船主に対して – この条項を使うことをお勧めします。ここで付与されている明示的な権利は一般の用船契約に含まれていないことが多いうえ、ヘーグ/ヘーグ・ヴィスビー・ルール(適用される場合)に基づく離路の許容性など、さらに複雑な言い分に頼る必要がなくなるからです。

 

定期用船者に対して – この条項の良い点は、確実性がとても高いというところでしょう。アドホック(特例)条項より優れています。アドホック条項というのは、法律的に関連する問題を精査せずに作られることが多いからです。とはいえ、再用船契約にこの条項を入れるのは難しいかもしれません。航海用船の場合はなおさらです(これについては次の質問で詳述します)。また、短期の用船契約の場合ですと、このような条項は負担が大きすぎると感じるのも無理はないでしょう。繰り返しにはなりますが、この問題について当事者間でオープンに率直に話し合うことをお勧めします。船員交代の必要性について船主が包み隠さず話してくれるのであれば、他の方法でこの問題を収めることができるはずです。

 

質問:BIMCOのCOVID-19クルーチェンジクローズを航海用船契約や船荷証券にそのまま摂取させることは難しくないのですか(現にこの条項ではそうするよう求めていますが)。

 

回答:下位条項(a)を航海用船契約や船荷証券に摂取することは理論的には難しいことではありません(この条項の他の部分を摂取する義務はありません)が、実際には、追加費用の負担を懸念して再用船後の航海で運賃にその分の費用を転嫁する必要があるなど、摂取がそこまで簡単にいかない場合があることも確かです。ただ、もちろん交渉次第になります。

 

質問:船員交代を理由に離路することに同意する前に、用船者が船主から補償状(LOI)を取り付けた事例を見たことがありますか。

 

回答:そういった事例は見たことがありません。LOIでカバーできる対象が不明ですし、仮に離路することが用船契約違反になるのであれば、とにかく契約に基づいてクレームし続けるほうが得策でしょう。もちろん、そのLOIが不当な離路に対するクレームを解決する方法として取り決めた結果であれば、双方がそれに合意しても構いません。

 

P&Iカバー

 

質問:港湾当局と港湾運営会社は、スムーズな船員交代を妨げることでリスク管理に失敗しています。リスクがほぼ間違いなく高まっていることを考えると、保険料が上がる可能性はありますか。

 

回答:私たちが懸念しているのは船員が疲弊することによりリスクが高まることですが、これまでのところ、前年までと比較して事故の頻度は高まっていません。クレームのデータが集まるにはまだ時間がかかるため、全容が分かるのは来年後半になるでしょう。ただ、この船員交代の危機に関連しているかどうかは分かりませんが、Gardや国際P&Iグループの他のクラブで重大クレームがいくつか発生しています。

 

質問:船員の罹患に対するクレームの損害防止として、Gardでは疲労に伴う船員交代にかかる離路費用をてん補していますか。

 

回答:Gardでは、COVID-19に罹患した船員の治療のための離路費用をてん補しています。それには、離路により発生した追加の燃料費、保険料、賃金、備品代、食料費、港費が含まれますが、治療目的で発生したものに限られます。

 

COVID-19に罹患した疑いのある船員に治療を受けさせるため本船が離路しなければならない場合、離路費用がてん補されるかは各ケースの具体的事実・状況によって異なりますが、治療目的で追加費用が発生した場合に限られます。

 

そのため、離路費用のてん補は実際に罹患が確認された場合に限られ、罹患の可能性に対する損害防止としててん補されることはありません。てん補の指針については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)Gardカバーに関するよくある質問でご確認いただけます。

 

おわりに

 

誰もが様々な形でCOVID-19の影響を受けており、それは今後も続いていくことでしょう。ただ、私たちは運命共同体です。船員は生計を立てるために船の上で安全に働ける仕事を必要としています。船主は船員たちを安定雇用し続けるために船を安全に運航する必要がありますし、用船者は仕事の機会を提供し続けられるよう、貨物を安全に遅れることなく運んでもらう必要があります。このバランスを取るのは決して簡単なことではありませんが、船員たちの健康を守るため、海の安全のため、そして事業を続けていくために、これからもキーワーカーである船員をサポートし、船員交代に一丸となって取り組んでいかなければなりません。COVID-19と海運業に関する詳しい情報や推奨事項を知りたい方は、GardのHot topic: COVID-19(新型コロナウイルス)のページ(随時更新)をぜひご参照ください。

 

インターネットを通じて世界中と繋がることができたというのは、このようなコロナ禍の暗雲が立ちこめる中で私たちにとって明るい希望になりました。主催したウェビナーには、海運業界各所から300を超えるメンバーや担当者の皆さまがご参加くださり、Gardのシンガポール、香港、東京、アーレンダール、オスロ、ロンドン、ニューヨークの各事務所からの参加もありました。お忙しい中ウェビナーにご参加くださった皆さま、また、セッションの開催にご協力くださった方々に御礼申し上げます。