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Gardのロンドンオフィスに勤務する弁護士Kelly Wagland20年以上前に取り扱った事案が、この度、最終決着を迎えました。本稿では、The Chairman, Board of Trustees, Cochin v. M/s Arebee Star Maritime Agencies Private Ltd. & Ors事件(以下「Arebee事件」)に関するインド最高裁判所の判決について考察します。この判決は、インドに配船している定期船運航会社にとって、非常に前向きな進展といえます。なお、この情報は、法律事務所Bose & Mitra & CoAmitava Majumdar弁護士、Damayanti Sen弁護士、Tripti Sharma弁護士からお寄せいただきました。

こちらは、英文記事「Indian Supreme Court: Ports are not entitled to levy storage/demurrage charges for abandoned cargo against shipowners and agents」(2020年8月31日付)の和訳です。

ここ数年、Gardには、インド、パキスタン、バングラデシュの港においてコンテナが遺棄されたり、未回収のまま放置されているとの報告が多数寄せられています。こうしたコンテナや貨物の遺棄が生じる主な原因は、荷主による内容物の虚偽申告となっています。定期船運航会社は、そのコンテナ(と中の貨物)の引取りがなされるまで、莫大な保管料その他の費用を負担しなければなりませんでした。Arebee事件の最高裁判決は、インドの港湾当局は、自らがコンテナと貨物を引き取り、これらの受領書を出した後は、保管料と超過保管料を船主、または代理店に負担させることはできないことを確認したものです。

 

このような膨大な額になる可能性のある保管料と関連費用の問題は、長年争われており、1963年主要港湾管理法(以下「MPT法」)の規定の解釈という、より広範な問題の一部として最高裁判所の審理に委ねられました。最高裁判所の判断事項には、引き取ったコンテナの荷出しを行い、空のコンテナを代理店に返却する責任(法定の責任か契約上の責任かを問わない)が港湾当局にあるとすれば、その責任の範囲はどの程度か、という問題が含まれていました。

 

 

Arebee事件判決の背景

 

Arebee事件の基になった紛争は、1998年から未通関のままCochin港の構内に放置されていた「古い」合成ウールのラグのコンテナ貨物(以下「本件貨物」)に関するものでした。本件貨物は、税関検査のために、コンテナから荷出しされていました。それを検査した税関当局は、実際には(荷受人が申告したラグではなく)「新品の衣類」が入っていたと主張しました。これにより、高額の関税、罰金その他の課徴金が課されました。貨物の虚偽申告により、その通関に著しい遅れが生じ、その後、荷受人は(主に、膨大な保管費用を理由として)貨物の通関を拒否しました。荷受人と税関当局との争いが続く間、本件貨物とコンテナは、未通関のまま港湾内に放置されました。この事態に対し、港湾当局は、貨物が港湾内に置かれたままになっている全期間について、本件貨物とコンテナにかかる保管料を課し、その負担を代理店/コンテナの所有者に求めました。

 

これを受けて、代理店/コンテナの所有者は、Kerala高等法院に訴えを提起し、MPT法と主要港関税局(以下「TAMP」)の1999年11月10日、2000年7月19日、2005年9月13日付の命令によれば、遺棄貨物の荷揚げ日から75日を超えた日数については保管料を支払う義務はないと主張しました。この申立ては、虚偽申告が疑われる貨物に関する同様の事案と共に審理されることになりました。

 

第一審判決で、Kerala高等法院は、代理店が港湾当局に対し、再三にわたり遺棄されたコンテナの荷出しを行うよう求めていたのに、港湾当局が、スペースの不足を理由としてこれを拒否したと認定しました。同高等法院はまた、船主とその代理店に課された法外な保管料は、(a) 荷受人が貨物を受け取らなかったこと、(b) 港湾当局がコンテナの荷出しを行わなかったことが理由で発生し(発生し続け)たと認定しました。そして、MPT法第61条と第62条の「may(~ことができる)」という文言は、港湾当局に対し、荷受人が貨物を受け取らない場合には、可能な限り速やかに貨物を売却あるいはその他の方法で処分する義務を課したものであると判断し、さらに、港湾当局には、TAMP命令に従って最大75日分の土地利用料を要求する権利があると判断しました。

 

港湾当局は、Kerala高等法院の判決について最高裁判所に上告しました。最高裁判所は、この問題については相反する先例があることを認定し、そのことから、最高裁判所の小法廷は、この事案をより大きな裁判体に回付し、この問題に関する最終的な判断を委ねました。

 

 

最高裁判所の判断

 

最高裁判所は、その判決を下すにあたり、MPT法と1962年関税法(以下「関税法」)を慎重に検討しました。その結果として、保管料に関する船主と代理店の港湾当局に対する責任という論点について強く求められていた明確化がなされました。その要旨は以下の通りです。

 

(a)    貨物の所有者は誰か? MPT法第2(o)の解釈

 

MPT法は、貨物の「所有者(owner)」と船舶の「所有者(owner)」を別個に定義しており、船舶に対して提供されるサービスで、その料金(すなわち、代理店手数料)を船舶が支払わなければならないものは、荷揚げされた貨物に関して提供されるサービスとは全く別個のものであることを明示しています。

 

貨物の「所有者(owner)」の定義には、荷主、荷送人、荷受人等の当該貨物に対して権利を有する者のほか、当該貨物の売却、保管または船積み・荷揚げに関わる代理店も含まれます。最高裁判所は、「当該貨物の… 船積み・荷揚げに関わる代理店(agent for the… loading or unloading of such goods)」という表現が、貨物の船積み・荷揚げに関わる船舶の代理店を含むことが十分に明らかであると判断しました。

 

最高裁判所はまた、貨物の船積み・荷揚げは、船主の代理店も手配することができ、この場合、当該代理店もMPT法の「所有者」の定義に該当すると判断しました。MPT法は、船主を貨物の「所有者」であるとは明示していませんが、裁判所は、船主の代理店がその定義に含まれる一方で、船主自身が含まれないと判断することはつじつまが合わないと判断しました。

 

次に、最高裁判所は、MPT法第42条(2)を検討しました。同項は、港湾当局は、「所有者」の要請があれば、貨物の管理を引き受けることができ、その場合には受領書を出さなければならない旨を定めています。裁判所は、同規定を根拠として、船主またはその代理店が「所有者」でない場合には、港湾当局は、船主またはその代理店から貨物の管理を引き受ける理由がないのは明らかであると判断しました。

 

(b)  貨物が港湾当局に引き渡された場合の責任の免除

 

最高裁判所はまた、MPT法上、貨物を港湾当局が引き取り、これらに関する受領書が出された場合には、受領書を受け取った者(船主と代理店を含む)は、貨物の滅失毀損について責任を問われることはないと指摘しました。

 

別の見方をすると、受領書が正式に発行された時から、港湾当局は貨物の管理受託者(受寄者)となり、当該貨物の滅失、毀損、劣化について責任を負うということです。

 

(c)  保管費用の支払い

 

裁判所はまた、MPT法について検討し、以下のように述べました。

 

(i)          港湾当局が、船主のリーエンの解除のために保管する貨物に関する倉庫料または保管料は、その貨物についての権利を有する者のみが支払義務を負うが、貨物が荷揚げされ、船舶が出港した後は、船主または船主の代理店は、ここにいう権利者に該当するとはいえない。

 

(ii)         港湾当局が保管する貨物の売却通知は、荷受人、またはその貨物に対して権利を有するその他の者に対してのみ送付することを要する。通知を受けた者は、当該貨物を撤去する義務を負う。

 

(iii)         港湾当局が保管する貨物の撤去・売却が実施されるにあたっては、「当該貨物を荷揚げした船舶の代理店」に対しても通知を送付することができる。ただし、船舶の代理店に対する通知は、代理店が、船主が(当該貨物の売却代金により弁済されなければならない)運賃その他の料金を担保するためのリーエンを当該貨物に対して有している旨を示した場合に限り意味を持つ。したがって、船主またはその代理店は、貨物の所有者ではなく、貨物についての権利を有する他の者にも該当しないことから、港湾当局の通知を遵守する義務を負わない。

 

こうした判断は、ひとたび貨物が港湾当局の保管下に入り、港湾当局が受領書を発行した場合には、港湾当局は、当該貨物に関する費用を船主/代理店に請求することはできないという立場を確認するものです。このように、港湾当局内に保管された貨物は、船舶の代理店または船舶自体ではなく、その貨物の所有者またはそれに対して権利を有する他の者とのみ関係があるといえます。

 

(d)   港湾当局は、一定の期間内に、その保管する物品を処分する義務を負うか?

 

最高裁判所は、MPT法の第61条と第62条の「may(~ことができる)」という文言について、「shall(~しなければならない)」と読まなければならないという第一審の裁判所の判断に異を唱えました。最高裁判所は、港湾当局には、第61条と第62条にいう一定の状況下で貨物を売却する裁量権があるとしつつ、国の機関としてインド憲法による制約を受けていることから、その裁量権を恣意的に行使する権利は認められていないと判断しました。

 

そう述べた上で、最高裁判所は、港湾当局が、当該貨物を保管することとなった時から合理的な期間内にその保管する貨物を売却する憲法上の義務を負っていると判断しました。MPT法第63条(1)(c)は、貨物の荷揚げ日から最大4か月の期限を課しています。港湾当局がこの期間内に貨物を売却することができない場合、その合理的な説明を行わなければなりません。説明が合理的であると認められ、当該貨物の所有者または当該貨物についての権利を有する者がその後、貨物を撤去しない場合、港湾当局は、当該貨物の所有者に対し、懲罰的な超過保管料を課す権利があります。

 

(e)   輸入貨物が入っていたコンテナそのものも貨物の一部を構成するか否か?

 

最高裁判所は、関税法とMPT法のいずれにも、輸入された貨物の管理、保管、売却を行うための各法上の権限に関して類似の規定が含まれており、これらの規定は一体的に解釈しなければならないと述べました。最高裁判所は、様々な判決(およびそれらにおける「原包装輸入品無課税の原則(original package doctrine)」(米国裁判所が発展させた原則)の取扱)を検討し、関税法の下では、コンテナ、つまり輸入された貨物が入っていた容器は、輸入された「貨物」であるとはいえないと判断しました。荷出しが行われれば、コンテナは船主の代理店またはそのコンテナの所有者に返却しなければならないからです。

 

裁判所はさらに、コンテナに詰められた物品のみが法律上の輸入品であるとされていることから、輸入される貨物の種類にかかわらず、コンテナの価額は、輸入品の価額に含まれないと指摘しました。

 

(f)   代理店による、インド船荷証券法に基づくものと異なる方法による船荷証券の「裏書」の法的効果

 

1856年インド船荷証券法第1条の「裏書(endorsement)」とは、貨物の荷送人または所有者が被裏書人を名宛人として船荷証券に行う裏書をいい、これにより、貨物の所有権が被裏書人に移転します。最高裁判所は、貨物が引き渡された旨を示す海運代理店による船荷証券への「裏書」は、1856年船荷証券法に基づく裏書には当たらないことを確認しました。

 

 

まとめ

 

Arebee事件の最高裁判決は、遺棄された貨物/引き取り手のない貨物に関して港湾当局が課す保管料について、その貨物が港湾当局によって保管され、その受領書が発行されている場合には、船主と代理店は責任を負わないとの終局的な判断を下しました。

 

この判決は、港湾において長期間にわたって危険貨物を保管することの危険性を浮き彫りにした最近のベイルートでの出来事との関係で、より一層重要なものといえます。現在のコロナ禍で、状況はより悪化しています。企業の営業停止や事業規模の縮小による影響の下、Gardからみても、引き取り手のない貨物や遺棄貨物の事案で、法外な保管費用が課されるようなケースが増えております。

 

この判決は、自身には何も落ち度もないのにこうした費用を負担させられ、求償する先もなかった船主/代理店にとっては、大きな救いとなるでしょう。

この判決は、港湾当局に対し、遺棄貨物/引き取り手のない貨物を合理的な期間内に処分するとともに、適時に荷出しを行い、空のコンテナを返却する厳格な義務を明示的に課したという点でも意義深いものです。

 

ご留意いただきたいこととして、この判決が、インドの13の主要港に適用されるものであることが挙げられます。広大なインドの海岸にある小さな港やプライベートの港で荷揚げされる貨物に関して

 

は、そのような主要港に含まれていない港湾との具体的な契約の条件を確認して、自社の責任を十分に理解しておくことが推奨されます。本判決は基本的に非主要港にも適用されることになるでしょうが、それらの港にはMPT法は適用されませんので、当事者間の契約の条件と本判決に齟齬があれば、前者が優先することになると思われます。

 

この訴訟を通じてGardのメンバーの代理人を務めるとともに、最高裁判所において勝訴した定期船運航会社側を代理していただいた上級弁護士のPrashant Pratap氏に謝辞を示します。