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大豆産業は巨大ビジネスです。現在は米国を凌いでブラジルが世界最大の生産国となっています。今回私たちは、ブラジルから中国向けの大豆のばら積み輸送と、積み荷役時の貨物の水分量が原因で発生しうるいくつかの問題について知見を得るため、コンサルタント科学者のStephanie Heard博士にご協力いただきました。

こちらは、英文記事「An expert’s view on the carriage of soya bean cargoes from Brazil to China」(2020年7月23日付)の和訳です。

 

Gardはこれまで、ブラジルから中国に輸送された大豆貨物が揚げ地で損傷している、損傷の疑いがあるという理由によるクレームを数多く見てきました。クレームは船荷証券に基づいて受荷主や貨物保険者から本船側に申し立てられ、多くの場合、巨額の保証請求を伴います。用船契約にインタークラブアグリーメント条項が摂取されている場合は特にですが、こういったクレームは用船者側につなぐことがよくあります。それでは、大豆貨物の取引や貨物損傷の原因について、そして、すでに損傷が避けられない場合に損失を軽減するためのアドバイスについて詳しく伺っていきたいと思います。

 

Heard博士、損傷の原因についてお聞きする前に、まずブラジルの大豆生産に関する基本情報を少し教えていただけますか?

 

ブラジル中部にある一部の栽培地域では、9月にはもう大豆の種まき期が始まります。大豆が花を咲かせて鞘をつけたら、畑でそのまま乾燥させます。鞘の90~100%が茶色になったら収穫どきです。大半の農家では大豆の水分量が13%になったら収穫することにしていますが、その判断は鞘の色を見て行うのが一般的で、これはあくまで主観に基づく判断になるため、水分計を使ったときのような正確な判断ができない場合もあります。もっと進んだ収穫方法ですと、水分計を備えたコンバインを使います。こうすることで、収穫中に鞘の水分量を常に測ることができるのです。乾燥が必要な場合は、畑で乾燥させるか、または協同組合にある共同の乾燥機で乾燥させることもあります。

 

ブラジルの大豆栽培農家は1月上旬から収穫を開始します。その作付面積は約3,690万ヘクタールで、ドイツの国土を上回ります。ブラジルでは、収穫した大豆の畑から港までの輸送が以前から変わらぬ課題となっています。増加の一途を辿る生産高に輸送や貯蔵インフラの整備が追いついていないのです。大豆は、マトグロッソ・ド・スル州やセラードと呼ばれるサバンナ地域から、サントス、パラナグア、リオ・グランデといった主要な輸出港まで何百キロもの道のりをトラックに載せて運ばれます(次の段落のリンク先にある地図を参照)。

 

最近は、マットグロッソ州産や栽培地域が拡大している北部地域産の大豆については、国道BR163号線を通ってアマゾン川流域の都市まで運ばれる割合が増えています。そこから今度は何隻ものはしけに分けて積まれ、アマゾン川とタパジョース川を下ってサンタレンやバルカレナ、サン・ルイスといった海港まで運ばれます。

 

輸送手段の空き状況や、道路状況に深刻な影響を及ぼす天候の具合にもよりますが、いずれのルートでも輸送には数週間かかることがあり、貨物を積んだトラックやはしけは毎日のように激しいスコールにさらされることもあります。

 

米国はこれまでずっと中国向け大豆の最大の輸出国でした。米中間の貿易摩擦が高まっていますが、現状はどうなっていますか?

 

ブラジルは大豆生産国としては長年世界第2位にとどまっていました。唯一のライバルは米国です。大豆生産に関する米国とブラジルの競合関係は、中国の旺盛な需要によって激しさを増しています。中国では大豆を粉砕して調理用の大豆油や養豚用の大豆飼料が生産されており、2017年にはその需要が4億4,000万トンにものぼりました。中国の2017年の大豆輸入量は9,500万トン超で、このうち約3,290万トンが米国からの輸入、約5,093万トンがブラジルからの輸入と見られています。

 

2018年に米中間での貿易戦争が勃発したことで中国は米国産の大豆に報復関税をかけ、それによって米国からの輸入は半減しました。この間ブラジルは、中国の需要を満たすため大豆生産地域をさらに拡大して輸出量を増やしましたが、2018年8月にアフリカ豚熱ウイルスが発生すると、中国国内の養豚の約半分が殺処分され、大豆飼料の需要が落ち込みました。これはブラジルの大豆輸出量にも影響を及ぼしました。その後取引は回復し始め、中国の大豆粉砕業者は、今年初めから発生している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるさまざまな規制に伴う供給問題の解決に本腰を入れています。

 

2020年5月時点でブラジルの年間大豆生産量は米国を上回り、収穫量は約1億1,700万トンにのぼっています。ブラジルの今年の中国向け大豆輸出は大活況と評されています。

 

ばら積みの大豆貨物は自己発熱する可能性があり、私たちがこれまで揚げ地で見てきた中には、カビが生えていたり、固結していたり、変色したりしているものがあることが分かっています。この過程について説明していただけますか?

 

大豆貨物の温度と水分量、この2つは、ばら積みされている大豆でのカビの発生しやすさを決定づける重要な要素となります。大豆の種子にはもともとカビ胞子があるのですが、大豆表面の相対湿度が65%を上回るとこの胞子が発芽、成長します。大豆表面の相対湿度を決めるのは大豆の水分量と温度です。この相対湿度が65%を上回るとカビが成長し、分解作用が起こって熱が発生することによって豆の劣化を引き起こす可能性があります。さらに、ばら積みされた貨物の中でところどころ自己発熱が起きるおそれもあります。自己発熱が起きている場所では貨物が固結しやすく、発熱が進むと、やがて大豆の色が黄色から茶色へ、最悪の場合は黒に変色することもあります。温度が高くなると大豆油の品質を損ない、大豆製品に含まれるタンパク質を減少させることにもなりかねません。

 

劣化と損傷を防ぐために生産者は何をすればよいですか?

 

航海中の劣化リスクを最小限に抑えるためには、船積み時の大豆の水分量を安全に輸送可能な水分量に可能な限り近づけておく必要があります。それでも劣化のリスクはなくなるわけではありません。大量出荷する貨物というのは通常もともとの品質が異なる小口のロット、具体的には、水分量が違ったり場合によっては温度も違ったりするロットが集まったものだからです。

 

長い航海中に大豆にカビが生えるかどうかを判断するには、港までの輸送用トラックやはしけに積み込む前に各ロット貨物の水分量と温度を計測・評価する必要があります。集めたデータの評価は米国農業工学会(ASAE)規格のD245.6(2007年10月制定、2017年改正)規格に照らして行うことができます。この規格には植物由来の農業製品と水分との関係性が書かれており、荷主はこれを見ながら気温と水分量を基にして、各ロットにカビが生えやすいかどうか、カビの発生に伴って自己発熱しやすいかどうかを判断することができます。この規格によれば、温度が25°Cを上回っているうえ水分量が13%を超えている大豆ではカビの繁殖に適した条件が生まれるおそれがあります。そのような状態のロットにはもっと乾燥が必要といってよいでしょう。13%という数字は大半の取引契約で定められている水分量と相反しています。大半の取引契約では水分量を14%と定めているのですが、これは大豆を長距離輸送するにはあまりにも高すぎる数字です。

 

輸送や保管を行う過程で温度や水分量が変わる可能性もあるため、国内を輸送している間は経験豊富な荷役監督が大豆の温度と水分量をチェックするべきです。輸出港の現在のインフラや貯蔵設備を改善するため、業界による投資も必要です。港に到着したはしけやトラックに積まれている貨物の中に水分量が高いとおぼしきロットがあった場合に、それを乾燥させられるようなしっかりとした乾燥設備を備える必要があります。疑わしい貨物は、船積み前の貨物を入れる輸出用のバルク倉庫やサイロに貯蔵する前にもう一度乾燥させなければなりません。もしくは、問題が発生しそうと思われるロットがあれば、仕向地を中国などの遠い所ではなくもっと近い所に変更するべきです。

 

次は船についてお聞きします。ブラジルから中国向けの大豆輸送を行う本船の船主が船積み前に行っておくべきことはありますか?

 

船主側としては、本船の堪航性を十分に確保し、ハッチカバーのメンテナンスをしっかりと行っておく必要があります。ハッチカバーが悪天候に耐えられるか確認するため、ホーステストや超音波テストを荷役前に行ってその記録を残しておいてください。ホールドは荷役前に清掃・乾燥させておき、長い航海に備えてビルジは空にしておきましょう。サーベイヤーと乗組員は、船積み中に荷役と貨物の写真を必ず撮影してください。カーゴクレームを受けてしまった場合にこの写真がとても貴重な証拠となるかもしれないからです。

 

P&Iクラブは船主、用船者双方に対するクレームを引き受けていますが、こういったクレームを減らすためクラブが前もってできることは何かありますか?

 

高額なクレームが繰り返し発生する場合、船主や船主が加入するクラブは、経験豊富なサーベイヤーや荷役監督を荷役時に派遣することを検討するとよいかもしれません。荷役監督は、荷役を行うにあたってトラックやはしけに積まれた大豆の状態をチェックしてくれます。こうすれば、明らかに固結していたりカビが生えていたりする貨物の船積みを確実に拒否できるはずです。また、荷役監督は貨物の温度と水分量も定期的にチェックしてくれるはずです。温度プローブと水分計を正常に動くようにしておき、定期的に較正しておいてください。荷役中にサンプルを採取する予定の場合、採取は油・種子・油脂連盟(FOSFA)のサンプル採取ルールに従って実施してください。こうすることで、集めたサンプルすべてを採取数量の代表とすることができるでしょう。

 

これまでの経験から、クレームが発生した際、その多くは換気方法が問題の中心にあることが分かりました。換気について、また換気によって輸送結果にどのような影響を及ぼすかということについて詳しく教えていただけますか?

 

ブラジルから中国への航海中は、ハッチカバーの裏面に結露が発生してそれが貨物の表面に滴下することで、表面にカビが発生する可能性があります。これは「船体の汗濡れ」と呼ばれ、温度の高い貨物から発生した暖かい空気が冷たい船体構造部材と接触することで起こります。暖かい空気が接触して冷却されると、水分が部材表面で結露するのです。この現象は、喜望峰回りで航海するときなど、船が温暖な気候の場所からそれよりも涼しい気候の場所へ向かうときによく発生します。

 

乗組員に対しては業界で承認された方法に従って換気を行うことを推奨します。適切な換気を行う目的は、ホールドの上部空間の暖かい空気を取り除いて船体の汗濡れリスクを下げることです。

 

主に用いられている換気方法は2つあります。「露点ルール」と「3°Cルール」です。航海中、ホールドの上部空間で露点を正確に測ることはほぼ不可能です。そのため、CWA社では「3°Cルール」に従って換気を行うよう推奨しています。このルールでは、外気温が船積み時の貨物の温度より3°C以上低い場合にカーゴホールドの換気を行う必要があります。ただし天候が許す場合に限ります。

 

このルールで使用するのは、荷役中や荷役完了時に計測した各ホールドの貨物の温度と、毎回の当直時に計測する外気の乾球温度です。航海中にホールド内の温度を改めて測る必要はありません。荷役中は貨物の温度を複数の場所で測ることをお勧めします。特に荷役が終わりに近づいてきたときにはぜひそうしてください。これはホールドごとの貨物の平均温度を算出するためです。算出した平均温度は毎回の当直時に測った外気の乾球温度との比較に使用することができます。

 

この換気方法では乗組員がホールドに入る必要がないため、「露点ルール」よりも簡単かつ安全に行うことができます。また、露点を算出する必要もないため、間違う可能性も低くなります。

 

外気温が最も下がる夜間にも換気が必要になることがあります。航海中には外気温が何度も変動しうるものと思っておいてください。航海中に外気温が最も下がった時点が換気を行う必要性が一番高い時です。ただし、換気に適した天候ではないと船長が判断することもあります。

 

換気を行った日時と理由を示した詳細な換気記録を残しておくことも大切です。悪天候など何らかの理由で換気を行えない場合は、その旨を換気記録にはっきりと記載しておいてください。換気を行っても、貨物の自己発熱を防ぐことはできず、貨物の温度を下げられるわけではありません。ですが、船体についた汗が貨物表面に滴下するおそれを軽減することで、貨物表面にカビが生えるリスクを抑えることができるのです。

 

ハッチを開けたときに多少損傷があることが分かった場合、損失を軽減するために何をすればよいですか?

 

ホールドを最初に開けたときに貨物表面に損傷があることを確認した場合は、各ホールドの貨物表面の写真を鮮明な画質で撮影しておく必要があります。揚げ荷役を見ていれば損傷の傾向が詳しく分かるので、写真は荷役が終わるまで撮り続け、すべての写真に分かりやすい説明文と日付を入れてください。

 

貨物表面の明らかなカビ損傷は通常、手またはグラブのいずれかを使って分別することができます。揚げ荷役中にFOSFAのサンプル採取ルールに従って代表サンプルの採取を行うために、経験豊富な荷役監督やサーベイヤーを手配することも欠かせません。こうすることで、貨物の代表サンプルの採

 

取や、適切な規格に従った分析を行うことができ、貨物の品質が損なわれていないか確認することができるでしょう。

 

大豆は過度な熱損傷を受けると、油とタンパク質が劣化する可能性があります。ただ、必ずそうなるわけではありませんし、損傷の程度は代表サンプルの分析を行ってからでないと分かりません。私たちの経験から言いますと、固結したり変色したりした貨物を外観上問題のない貨物と混ぜ合わせるのは、中国の大半の大豆粉砕工場ではよく行われていることです。混ぜ合わせてもひとまず使い物になる大豆油や大豆製品を作るため、精製所で適切な混合率を計算するというのが一般的です。

 

Heard博士、色々と教えていただきありがとうございました。

ロスプリベンションに関するこの他のアドバイスについては、Gardインサイトの記事「大豆貨物の熱損傷 - 検査の重要性」を参照してください。

 

 

執筆者について: Stephanie Heard博士は、ローサムステッド研究所で栽培・分子植物病理学の博士号を取得した後、2013年にCWA社の食料・農産物部門にコンサルタント科学者として入社しました。作物・穀物・飼料の劣化や、それに伴うカビの発生・マイコトキシン汚染に関する問題の仕組みに精通しています。農産物の損傷原因を調べてクレームの軽減を図る科学調査に携わっており、定期的に現場に赴いて調査を行っています。また、貯蔵・輸送中の農業貨物の管理に関する助言も行っているほか、これまで中国の裁判所で鑑定人の役割を務めたこともあります。