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船員が新型コロナウイルスの検査を受けられる体制は以前に比べて広がってきてはいますが、100%正確な検査はないということを船舶運航者は心得ておく必要があります。Ingrid H. Johansen博士の説明にもあるように、感染している船員の乗船を防ぐには、交代要員の船員を乗船場所で2週間隔離することをこれまで通り最優先の対策とするべきです。

こちらは、英文記事「COVID-19 tests may give false sense of security」(2020年9月15日付)の2020年10月1日付更新版の和訳です。

 

国際海事機関(IMO)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に大流行する中で船員の交代と移動を安全に行うための手順に関する推奨すべき枠組みを、多数の業界団体と共同で取りまとめました(IMO Circular Letter No.4202/Add.14)。この手順では、乗船する船員が自国を出発する前や乗船場所まで移動する途中に感染するリスク、さらに、下船した船員が帰国するまでの間に感染するリスクをどう管理・制御するかということについて、船舶運航者、船員、政府、海事局、港湾局、その他船員交代に関わるすべての関係者に対する推奨事項が定められています。

 

多くの港や国でCOVID-19に対する様々な規制が運用されている今、船舶運航者は当局との信頼関係を築くことが重要です。そのため、IMOの手順で定められた該当する推奨事項すべてを実行し、船員に自分の健康状態を観察させる、個人用防護具(PPE)を適切に使用する、対人距離の確保を徹底する、適切な検査キットが利用できる場合は隔離と検査を効率よく組み合わせる、といった対策を取り入れることを推奨します。また、交代・移動の過程すべてにおいてこれらの推奨事項を守らなければならないということを認識しやすくするために、手順の実施にあたってマニュアルを作成することも必要です。

 

Gardから見た最近の状況

 

安全に交代できるように船舶運航者と船員は最善を尽くしているにもかかわらず、交代要員がCOVID-19に感染してしまっているケースが増えています。また、船舶運航者が自社の船員交代計画の一環として船員の検査にますます頼るようにもなっています。

 

GardのInsight記事「COVID-19検査の概要」(2020年6月2日付)では、ノルウェー海上・潜水医学センターのIngrid H. Johansen博士がCOVID-19の検査の複雑さについて説明しています。続報となる今回の記事では、船員交代を安全に行えるようにするため、船舶運航者がなぜ検査と隔離を併用する必要があるのかを説明します。

 

COVID-19検査による陰性判定の問題

 

新型コロナウイルスの検出に現在推奨されている検査方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査の名で知られています。前回のInsight記事にあったように、PCR検査はウイルスから遺伝物質を正確に特定できると考えられている一方、このような検査に頼る場合ならではの問題もあります。最も重要な点として、PCR検査を行う場合、検査結果には次のような特徴があることを理解しておかなければなりません。

 

  • あくまで検査を行った時点での体内のウイルス濃度を示したものである
  • 検査後数日の間にどうなるかを示すものではない
  • 検査を受けた人が過去にCOVID-19に感染したことがあるかどうかは分からない
  • 感染してから検査までの期間が短すぎると、体内のウイルス濃度がまだ低すぎて検出できないため、「偽陰性」を示すことがある

 

さらに、すべての検査、検査手順、分析には多少の不確実性が伴います。検査方法があまり正確でないか、細かく決まっていない場合があります。検体の質があまりよくない、または、他の検査が混ざるなどして検査の分析に問題がある場合もあります。そのため、PCR検査は正確で「偽陽性」が出るリスクが非常に低いと考えられているとしても、「偽陰性」のリスクを排除することはできません。以下のGardの事例は検査結果だけに頼ることがいかに危険であるかを物語っています。

 

 

事例その1

 

ある若くて健康な船員が、自国を出発する前に3日間の間隔を空けてPCR検査を2回受け、2回目の検査で陰性判定が出てから4日後に乗船しました。その翌日、高熱で体調が悪化。すぐに船内の医務室に隔離され、伝染の可能性がある病気の蔓延を防ぐために必要な予防策すべてが講じられました。そして体調悪化の翌日、下船をして検査をしたところCOVID-19の陽性と判定されました。最後に陰性判定が出てから最初の陽性判定が出るまで計6日間が経過していました。

 

 

上記の事例から分かるように、船員交代に際してPCR検査を隔離措置の完全な代替策にすることはできません。船員が感染するリスクを適切に管理・制御するため、検査を行う場合は、隔離措置、ならびにPPEの使用や対人距離の確保などその他の行動措置と併用する必要があります。

 

COVID-19に関する重要なタイムライン

 

検査のタイミングが重要なのはなぜか?前回のInsight記事で説明しましたが、PCR検査は体内の活性ウイルスを検出するものです。ウイルスが活性を持つためには、体内でウイルスが広がり始めている必要があります。PCR検査では感染後3~8日目にウイルスを検出できる可能性が最も高くなることが分かっています。つまり、感染してから検査を受けるまでの時間が短すぎるとウイルスが検出されない場合があるということです。

 

症状が現れるまでにどのくらいかかるか? 感染してから症状が現れるまでには平均で5~6日かかり、症状が出た人のほぼ全員が感染から14日以内に発症しています。このうち、感染後最初の5日間のうちに発症する人は50%、感染後12日目までに発症する人は97.5%にもなります。ほとんどの人が軽い症状から始まり、重症化する人はたいてい最初に症状が現れてから1週間ほどして症状が悪化します。また、一度も目立った症状が出ない感染者も一部いることが分かっていますが、この記事の執筆時点では、どれだけの人がこの種類に当てはまるのかは分かっていません。

 

この病気の感染力が最も強いのはいつか? このウイルスに感染した人は、感染初期に最も感染力が強くなっています。発症した人を見てみると、他の人を感染させるリスクが最も高いのは発症前の48時間であることが分かっており、最初に症状が現れてから7日後には感染リスクは低下し始め、発症後10日以上過ぎると感染を引き起こす可能性は低くなると考えられています。無症状の感染者も他の人を感染させる可能性がありますが、どの程度感染を引き起こすのかは分かっていません。

 

事例その1に戻りますが、この若い船員がウイルスに感染したのが自国で2回目の検査を受ける前だったのか、それとも船に向かう移動中だったのかは分かりませんし、このPCR検査が正確だったのかどうかも分かりません。明らかなのは、この船員が乗船の瞬間から他の船員にかなりの感染リスクをもたらしたということです。こういった状況が起こらないようにするには、港に到着してから乗船するまでに十分な隔離期間を設けることが最善の方法だったと言えるでしょう。

 

検査は必ず資格のある医療従事者と協力して行う

 

最近Gardに報告があったもう一つの事例からは、COVID-19の検査がいかに複雑かということが分かります。

 

事例その2

 

ある船員の一団が自国を出発し、その2日後に乗船地に到着しました。全員、出発直前に行われたPCR検査での陰性証明書を持っており、出発前には手の消毒を行い、マスクと手袋を着用していました。乗船地への到着翌日にPCR検査を再度受けたところ、2日後に出た結果で全員にCOVID-19の陽性判定が出たため、現地の規則に基づき7日間の隔離下に置かれました。そして、最初に陽性判定が出てから10日ほどして隔離期間が終わったのち、再検査を受けました。結果は、1人が依然として陽性だった一方、残りは全員陰性でした。これはいったいどう説明すればよいのでしょうか?

 

 

事例その2について、検査手順や陰性証明書に問題はなかったと仮定しましょう。この船員たちがウイルスに感染した可能性が最も高いのは、自国で検査を受ける直前か、または移動中です。体がウイルスをうまく克服したことで、3回目の検査ではウイルスが検出されなかったのです。引き続き陽性判定が出た船員については、いわゆる「長期ウイルス排出」が行われていた可能性があります。これは、初感染してすべての症状が治まってからかなりの時間が経っても検査でウイルスが検出される珍しい状態です。決して100%断言できるわけではありませんが、これまでの所見から、長期ウイルス排出が行われている人が他の人を感染させるおそれはないものと思われます。

 

事例その2の検査結果について考え得る説明をしましたが、この事例は、検査結果をどう捉えるかは難しい問題であることも示しており、検査を行う際には資格を持った医療従事者と密接に連携することがいかに重要かを浮き彫りにしています。

 

検査と隔離の併用についての推奨事項

 

外航船の船員供給国の中には、船員が移動する前提条件として検査を課しているところがあります。自国で検査と隔離を行うことで、船員が感染した状態で移動、乗船しないようにし、移動中に他の人を感染させるリスクを防ぐことができます。とはいえ、上記の2つの事例で考察したように、自国から港に移動する直前、または移動中でも感染するリスクはあります。PCR検査では感染後3~8日目にウイルスを検出できる可能性が最も高いことが分かっていますので、感染した船員を乗船させないようにするには、自国での検査、そして港近くでの十分な隔離期間と追加の検査を組み合わせることが最適な方法と言えるでしょう。

 

2020年7月、国際海員健康協会(IMHA)は「健康な船員を本船へ:隔離と検査によるリスクの緩和」という声明を発表し、船員の交代計画の一環として検査と隔離の最適な組み合わせ方について、専門家が次のような「基準指針」を定めています。

 

 

最初の検査は、感染している船員を移動させないことが目的です。2回目の検査は、移動直前や移動中に感染していないかを調べるのが目的です。そして3回目の検査は、乗船前に完全なお墨付きを与えることが目的です。IMHAの声明には、隔離の最適な実施方法についてのアドバイスも記載されています。

 

地理的な条件から上記の手順を実行するのが難しい場所があることや、地元当局が独自の要件を定めている場合があることも承知していますが、船舶運航者には、上記の観点で自社の船員の交代計画に問題が無いか念入りに確認することを推奨します。なお、このような対策を実行する際には実務的な影響やコスト的な影響があるかもしれませんが、コロナウイルスを船上に持ち込んだ場合に起こりうる事態と常に比較検討することが重要であることを忘れないでください。

 

免疫の高まりによって状況は改善されるのか

 

今後は、ウイルスに感染したことのある船員がますます多くなる状況へと徐々に移行していくでしょう。病気から回復した人もいる一方で、自分が感染していたことに気付かない人も多くいるでしょう。こういった船員たちは今後この病気にかかる心配はないかもしれません。ただ、ウイルスが登場してからまだわずかしか経っていないため、この点については引き続き確認が必要です。また、免疫がどのくらい続くのか、ウイルス自体が徐々に変化して人々を再感染させられるようになるのかについては、はっきりしたことは分かりません。そのため、この記事の執筆時点で、保健当局はCOVID-19から回復した人の具体的な免疫期間についての明言を避けています。

 

将来的には、COVID-19から船舶を守る一番の安全策が、乗船前の隔離と検査を用いた方法から、免疫があると確認された船員やワクチンを接種した船員を乗船させる方法に変わっていくものと思います。

 

まとめと推奨事項

 

船員交代の手配は、海運業界が現在直面している最大級の難問、そして「安全上のジレンマ」となっています。COVID-19に伴う規制によって多くの船員が契約期間を延長し、本来の長い乗船期間が終わっても交代して下船することができなくなっています。こういった状態を続けていくことは明らかに不可能であり、船員の健康と安全、そして船舶の安全運航に深刻な影響をもたらします。また他方では、船員交代によってCOVID-19を船内に持ち込む可能性が高くなるという問題もあります。

 

COVID-19が拡大する中でも安全な船員交代をスムーズに行い一般市民の健康を守るため、海運業界全体と各国政府は、IMO Circular Letter No. 4204/Add.14で定められた船員交代に関する手順と次のような保健ガイダンスを取り入れる必要があります。

 

船員がCOVID-19の検査を受けられる体制は以前に比べて広がってきてはいますが、船舶運航者には、自社の船員交代計画の一環として、検査と隔離期間の最適な組み合わせ方法を念入りに検討することを推奨します。Ingrid H. Johansen博士の説明にもありましたが、100%正確な検査はないため、隔離対策の代わりとして検査一本に絞ることは絶対にやめるべきです。また博士は、隔離期間を短くするために検査を行っている場合には注意が必要であるとも強調しており、このような対策の仕方では新型コロナウイルスを船内に持ち込むリスクが大幅に高くなる可能性があると警告しています。COVID-19から回復した人が再感染するおそれがなくなるのはどのくらいの期間なのか詳細が分かるまでは、検査の有無にかかわらず、感染した船員の乗船を防ぐために乗船地での乗船前隔離を最優先の対策と考えるべきです。

 

 

 

COVID-19に関するその他の情報源をお探しの方へ:GardのHot topic: COVID-19(新型コロナウイルス)のページにアクセスしてください。船舶運航者、船長、船員がCOVID-19の大流行への警戒、準備、対応を行えるような関連ウェブサイトやガイドライン、Gardの資料のリンクをまとめて掲載しています。