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英国最高裁判所は、Alize 1954 v Allianz Elementar Versicherungs AGCMA CGM LIBRA号)事件で最近下された判決に対する上告権を認めました。本判決は共同海損に関するものでしたが、海上物品輸送というさらに広範な文脈から見たリスクと責任の分担に関する判決でもあるため、今回は、不堪航に関する評決内容がもたらす結果について考察していきたいと思います。

こちらは、英文記事「Defective passage planning: unseaworthiness or a navigational decision? The CMA CGM LIBRA question sails on to the UK Supreme Court」(2020年8月26日付)の和訳です。

国際法は、船舶関係者と貨物関係者との間での物品輸送に関するリスク分担を定めたものです。 簡単に言えば、船主は本船の不堪航が原因によるカーゴクレームに対する責任は負う一方で、航海上の過失など特定のリスクが原因によるカーゴクレームについては免責となります。ところが、今回の判決(Alize 1954 v Allianz Elementar Versicherungs AG (The “CMA CGM LIBRA”) [2020] EWCA Civ 293)は、「堪航性」の問題と見なされるリスクと「航海」の問題と見なされるリスクについてのこれまでの線引きを変える内容となっており、それによって船主が負う海上冒険のリスク範囲が拡大されています。このCMA CGM LIBRA号事件は共同海損に関する事件ではありますが、今回の判決によって、航海上の判断が原因で不堪航になったとする貨物関係者からのクレームが増えたのも無理はありません。先日、本船船主による英国最高裁判所への上告が認められ、国際P&Iグループも船主側の見解を支持しています。

 

事件の背景

 

2011年5月17日、6,000TEU積みのコンテナ船M/V「CMA CGM LIBRA」号が中国・厦門(Xiamen)港を出港中に座礁しました。海図に記された航路外の水深値は信頼度が低く、実際はそれよりも浅いという水路通報が発表されていましたが、本船の海図にはその注意情報が記録されておらず、船長は水深が深いものと思って航路の外側を走らせていたところ座礁したのです。そして、船主は貨物関係者に対して共同海損分担金の拠出を求めました。

 

第一審判決

 

2019年3月8日にTeare J裁判官が下した第一審判決では、水路通報による注意情報を記録しなかったことで航海計画と海図に欠陥が生じ、その欠陥によって本船が発航時に不堪航になったと判断され、船主の訴えは棄却されました。

 

この判決は海事法曹界に大きな議論を巻き起こしました。これは堪航性の問題を航海の問題と混同した判決だという見解を持つ人たちは、航海計画の準備は航海に関する問題であり、ヘーグ・ルールまたはヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条第2項(a)に基づけば、航海過失の場合は運送人を免責にできると主張しました。また、航海計画の作成を航海の問題ではなく堪航性の問題の範疇と見なした裁判所の今回の判決は、これまで定着してきた船舶関係者と貨物関係者とのリスク分担の線引きを崩壊させるものだとしています。さらに、極めて短期間の行動を切り取るような判断の仕方、つまり、堪航性の確保に際して発航前に実行したことや実行しなかったことすべてを取り上げるような判断の仕方では、船舶関係者と貨物関係者との間でのリスク分担を見直すことになった場合、航海計画の問題として考えるときよりも、その影響が広範囲にわたるおそれがあるとも述べています。

 

一方で、今回の判決を、堪航性に関する運送人の義務を定めた原則を正しく適用したものだとする人たちもいます。根拠としているのは、 McFadden v Blue Star Line (1905)事件で定められた堪航性に関する従来の定義、つまり「当該欠陥を知っていれば、慎重な船主は発航前にそれを是正するよう要求したか? 要求した場合、その船舶は堪航性がなかった」という基準です。この見解を踏まえると、慎重な船主であれば、欠陥のある航海計画や更新が適切に行われていない欠陥のある海図を用いて船を故意に出港させることはないということになるため、本船は発航前に堪航能力がなかったと言えると主張しました。

控訴院の判決

 

第一審判決は控訴に持ち込まれ、その後2020年3月4日に控訴院で下された判決によって論争はいっとき解決されたかのように思われました。控訴院のベテランの海事裁判官3名が全員一致で第一審判決を支持したのです。判決では、航海上または管理上の過失が発航前に発生した場合に船舶は不堪航になる可能性があることが確認され、航海計画と海図は「船に付属するもの」ではなく乗組員が下した航海上の判断を記録したものであるという船主側の主張は退けられました。

 

さらに、船主が運送人としてひとたび貨物の輸送責任を引き受けた場合、その航海に備えて船長と乗組員が行うすべての行為は、(発航前または発航時に行われた、航海に関する行為であっても)航海者としての行為ではなく、運送人としての行為になると認定されました。したがって、船主はそのようなあらゆる行為に対する責任を負うため、乗組員が本船の堪航性を確保するために相当の注意を尽くさなかった場合、船主がその責めを負うことになるのです。

 

最高裁への上告

 

2020年7月下旬、船主はこの控訴院の判決を英国最高裁判所へ上告することが認められました。海図にどのような情報を記載すべきかという乗組員の判断は「船に付属するもの」ではなく航海上の判断であるため堪航性の問題ではない、という船主の立場は変わっていません。上告審は2021年の後半に開かれる見込みです。

 

まとめ

 

海上冒険における船舶関係者と貨物関係者の間のリスク分担に関して本事件は重要な意味合いを持っていることから、国際P&Iグループは、英国最高裁による審理開催決定を歓迎しています。最高裁への上告申請についてもサポートを行ってきました。Gardは今後も本事件の最新の進展状況を随時お伝えしてまいります。