Rate this article:  

米国最高裁判所は、先日判決が下されたCitgo Asphalt Refining Co.Frescati Shipping Co., Ltd.との「Athos I号」事件に関する訴訟において、業界団体であるBIMCO(ボルチック国際海運協議会)、INTERTANKO(国際独立タンカー船主協会)、INTERCARGO(国際乾貨物船主協会)が法廷助言書を提出することを認めました。法廷助言書とは、審理中の事件に関係する意見や法的先例を主張するため、紛争の当事者でない者が作成するものです。BIMCO、INTERTANKO、INTERCARGOの代理人であるHolland and Knight LLC のChris Nolan弁護士とRobert Denig弁護士は、米国法に基づいて用船契約を交渉する方々に対し、安全港・バース条項を検討する際の助言を行っています。また、今回のパンデミックを機会に、(船長が安全ではないと考える港への)用船者の入港指示を拒否する船長の黙示的権利という点からも、最高裁の判決について考察します。

こちらは、英文記事「Athos 1 – an insider’s perspective」(2020年4月27日付)の和訳です。

判決

Citgo Asphalt Refining Co.Frescati Shipping Co., Ltd.事件(Athos l号事件)において、米最高裁は、米国法に基づいて安全バース/安全港条項を解釈するための指針を示した上で、業界で一般的に使用されている定型条項は、安全性に関する明示の保証であると解釈しなければならず、安全バースを選択し提供する絶対的な義務を用船者に課すものであると判断しました。

意見7-2において、最高裁は、契約に関する紛争で必要とされるとおり、契約書内の重要な文言は当事者の意図に合致するものであると考えました。安全バース条項は明確かつ明瞭なものであったことから、争点はその条項内の重要な用語の意味の解釈に終始すると見られていました。

用船契約の交渉は、レバレッジと、時には思い切った決断のバランスです。企業にとっては、他の何よりも重要な問題が存在することがあります。そうした問題があるがゆえに、条項の文言について、その重要性や、場合によっては保険上の問題に応じて、何時間も、何日も、または何週間もかけて、電子メールで草案の交渉が行われます。残りの条項については、たいてい標準的な条項ですが、業界の条項、個人的な好みや弁護士の発案に基づいて、定型文言の追加や削除、修正が行われていきます。2020年3月30日、米最高裁は、Citgo Asphalt Refining Co.Frescati Shipping Co., Ltd.事件の意見において、こうした用船契約の条項のうち、最も普及しており重要な条項のひとつである安全バース/安全港条項の解釈のための指針を示した上で、業界において一般的に使用されている定型条項は、安全性に関する明示の保証であると解釈しなければならず、安全バースを選択し提供する絶対的な義務を用船者に課すものであると判断しました。

 

業界の重要性

紛争の発端は、M/T Athos Iが関わった2004年のデラウェア川での原油流出事故です。この事故は、ベネズエラから1,900マイルの航海の後、Athos Iが、向かっていたバースからわずか900フィートの川底に遺棄されていた9トンの錨に接触して船体に穴があく損傷を受け、そこから264,000ガロンの原油が河川に流出したというものです。1990年米国油濁法に基づいて、Athos I号の本船所有者が流出の「責任者」であるとされ、環境浄化費用をまず負担しましたが、その費用は1億米ドルを超えるものでした。

環境対応の後、船主と連邦政府は、船舶の航海用船者から、清掃費用に充てた金額を回収しようとしました。問題になっている安全バース条項は、相当な時間と費用をかけて、多数の事実審と控訴審において、地方裁判所の判事と第3巡回区連邦控訴裁判所による詳細な分析が行われました。しかし、最も重要な法律問題は、(用船契約において多少修正が加えられていたものの)以下の業界標準のASBATANKVOYの安全バース条項の解釈に関するものでした。

Icon quote
安全な碇泊-転錨  船舶が常時安全に浮揚した状態で進行し、停泊し、離れうること、また、瀬取りは用船者の費用および危険負担によることを条件として、用船者が指定および準備した安全な場所もしくは埠頭で、またはその船舶の到着時に到達可能な横付けした船舶もしくは艀で、荷役作業を行うものとする。

 

重要なのは、最高裁の判決は、普及している条項内の「安全」と「常時」という2つの用語の平易な意味の解釈を示したということです。

 

貴社の安全バース条項の解釈

Sonia Sotomayor判事が書いた意見7-2において、最高裁は、契約に関する紛争で求められるとおり、契約書内の重要な文言は当事者の意思に合致するものであると考えました。安全バース条項は明確かつ明瞭なものであったことから、多数意見は、その条項内の重要な用語の明白な意味に基づく解釈に終始すると結論付けました。15年にわたる裁判所での主張や上訴を経て、どのようにして条項の文言がそれほど明確なものになり得たのでしょうか。以下に、用船契約を点検してその影響を判断する際に留意すべき3つの点を示します。

 

辞書を引く

安全バース条項は、船舶が「常時安全に浮揚した状態で」選択された港に向かうことができる限り、船舶が通航できる「安全な場所」を指定するよう用船者に求めるものです。Webster辞典の単純な定義によると、「安全な」という言葉を使用することで、「危害または危険のない」安全なバースを指定することを示したものに違いありません。また、「常時」「安全に浮揚した」状態で行われる船舶の航行とは、いかなる場合も、常に、という意味に違いありません。これらの平易な概念は、まとめて解釈すると、「用船者に安全に関する保証義務を負わせる」ものに違いありません。

 

限定的な条項の文言を探す

用船者の利益をより配慮した安全バース条項の解釈には、絶対的な保証型の文言はないといえるでしょう。多数意見は、用船契約内で、「相当の注意」を払うことを求める文言を当事者が積極的に盛り込んだいくつかの重要な条項を精査し、いくつかを見つけました。安全バース条項には責任を制限する限定的な文言が含まれていなかったことから、このように契約に他の条項と共に不法行為上の責任という概念を含めることで、安全バース条項の保証としての性質が改めて確認されました。

 

他の業界書式

当事者が選択しなかった他の業界書式では安全に関する絶対的な保証を適切に制限するための指針が定められているとしても、そのことは、用船者の立場を支持するものではありませんでした。裁判所は、脚注で、INTERTANKVOY書式の安全バース条項を引用しました。その条項には、バースを選択するにあたり「相当の注意」を払うことだけを用船者に求めるという限定が付されているものの、「安全な」港と「常時」浮揚という文言が盛り込まれています。

 

次の用船契約を修正する際の全体像

つまり、安全バース条項は安全に関する絶対的な保証を示したものであるとして第二巡回区(ニューヨーク)と米国海事仲裁人協会の仲裁判断が何十年にもわたって主導してきた契約の解釈が、船主に有利な最高裁判決につながったのです。裁判所の判決の影響は、ASBATANKVOYの安全バース条項の単なる解釈よりも広範に及びます。反対意見は、多数意見は「海運業界が回避して契約するための明確な基準となる考え方を提供するものだ」と指摘しましたが、多数意見は「用船者は、自己の義務または責任の範囲を明示的に制限することにより、本来であれば安全に関する保証を定めることになる制限のない文言を回避して自由に契約することができる」ことを確認することで、用船者にとって重要な背景情報を付け加えました。

安全バース条項の解釈から生じる事案に関わる係争中の各紛争において、最高裁は、企業やその弁護士のために明確な指標を提供しました。更なる契約を作成・交渉する場合、トレーダー、ブローカー並びにその弁護士は、引き受けようとしている義務をより明確にするために、いくつかの簡単な手順を取ることをよく検討すべきです。「安全な」バースと「常時」浮遊という文言の近くに「保証」または「相当の注意」という文言を慎重に盛り込むことが、20年に及ぶ法廷闘争を回避するために有用な最初の措置です。船会社の個別の事情により、更なる契約上のニュアンスが加えられることになるでしょう。

 

Covid-19の影響?

海運業界は、全世界に影響を及ぼしているCovid-19危機に適応しつつあります。  興味深いことに、最高裁の判決の助言的なパラグラフは、入港時の問題に直面している船主と用船者にとって参考になるものです。裁判所は、船長が安全ではないと判断する港への入港を拒否する「黙示的」権利を有し、傭船者は関連費用を負担することを要求されるということを当事者に思い出させるものでした。もっとも、拒否は、「正当な拒否」でなければなりません。これは高い障壁ですが、全世界の港はおろか、Covid-19のホットスポットとなっている米国の港で我々が十分に直面しうるものです。港の全体が安全でないとみなされる可能性は低いものの、今日、人々の健康や貨物の流通の確保に向けた安全対策が講じられるなど、状況は変化し続けています。船長がコロナウィルスの状況を理由として入港を拒否した場合、船長は、陸上の業務部門や、Gardとその法律専門家の指導するところにより、現地の状況を証拠として慎重に記録しておかなければならないでしょう。

本記事は、Holland and KnightのパートナーであるChris Nolan弁護士(最高裁の審理への入廷を待っているところを撮影)、アソシエイトであるRobert Denig弁護士からのコメントを基に作成したものです。英国法の視点については、Gard Insightの記事 
「用船契約の『連鎖反応』:『Athos I号』事件に対する最近の米最高裁判決」(HTML / PDF)を参照ください。