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買主が燃料油を購入する際、実際のサプライヤーから直接購入するかブローカーやトレーダー経由で購入するかにかかわらず、また、売買がグローバル枠組み協定に基づいたものか港ごとの個別契約かにかかわらず、共通している特徴は売主の契約条件が一般的に普及しているということです。

こちらは、英文記事「Bunker supply contracts – key considerations for the buyer」(2020年6月8日付)の和訳です。

2020年1月1日、2020年の国際海事機関(IMO)規制に従って硫黄分濃度の上限引き下げ規制が施行されました。これまでGardや海運・保険業界各社では、この新たな規制に関して大きく記事で取り上げてきました。しかしながら、燃料油を購入する際の契約条件については十分な検討がなされていないのではないでしょうか。

売主の契約条件には、売主の責任限度の固定(大抵の場合、低額)、特定の損失(不稼働損失、利益損失、間接的損失、派生的損失など)の除外、短期に設定された買主のクレーム期限、売主に有利な証拠条項・準拠法条項・裁判管轄条項が盛り込まれていることが多々あります。ボルチック国際海運協議会(BIMCO)と共に標準的なバンカー購入契約書を策定しようという数々の取り組みがこれまで行われ、2015年にBIMCOバンカー購入契約書が導入されました(その後2018年に改訂)。この契約書は、これまで用いられてきた売主の標準的な契約条件と比べて公平でバランスのとれた内容となっており、草案の作成過程には、船主、用船者、バンカー会社の代表者が全面的に携わりました。

商取引の観点から見ると、燃料油を1社または少数の売主から購入する際にこのBIMCO契約書をグローバル枠組み協定の一環としてあらかじめ取り決めておけば、公平でバランスのとれた条件を交渉することが簡単になるかもしれません。

買主は、BIMCO契約書を基にして以下のチェックリストにある重要なポイントについていくつか交渉してみるとよいでしょう。

 

燃料油供給契約の締結時に重要となるポイントのチェックリスト

  • 売主に対するデューディリジェンス:財務状態、保険状況(後述します)、過去の供給時におけるトラブルといった面から、売主の市場での評判や財務状態を考慮しましょう。また、その売主は実際のサプライヤーかそれとも単なる仲介業者なのか、供給する燃料油の品質をどのように証明するのか、サプライチェーンの品質管理工程はどうなっているのか、という点も確認してください。
  • 燃料油に対するデューディリジェンス:積まれている燃料油の保管、出荷、取り扱い、使用について特別な規則があるか、品質証明書に特別な情報は必要かなど、供給される燃料油とその供給元に関してどんな情報が必要か検討しましょう。

 

硫黄分0.50%の燃料油の供給と使用に関しては、便利な業界共同ガイダンスが用意されています。

  • 燃料油の規格:契約では燃料油の適切な規格を定める必要があります(該当するISO規格を明示するなど)。残渣油燃料に対して最も一般的に使用されている規格はISO 8217表2です。 表2で示された硫黄分上限は「法的要求値」として記載されており、2020年1月1日以降はMARPOL条約により国際的な硫黄分濃度の上限が0.50%となっています。なお、SOx排出規制海域ではさらに厳しい上限が適用されます。ISO 8217は定期的に改正されるため、業界ガイダンスでは最新版であるISO 8217 2017規格を推奨しています。また、現在の燃料油供給条項で定められている燃料油がIMO 2020に準拠しているかに加えて、用船契約書で定められている要件とまったく同じ内容になっている(Back-to-Back)かも確認しましょう。さらに、燃料油が汚染物質を含んでおらず、使用目的に適合しており、MARPOL条約に準拠しているという明示条項の追加も検討しましょう。 
  • サンプリングおよび品質試験:契約では、硫黄分などに関するサンプリングおよび品質試験体制を合意のうえ定める必要があります。売主のサンプルのみではなく、サプライヤーと本船それぞれから採取したサンプルを分析するのが理想的です。 この場合も、買主が異なる試験基準にさらされることのないよう、サンプリングと試験の要件を可能な限り用船契約と一致させる必要があります。サンプリングの手順については、採用予定の合意済み分析体制と合わせて契約内で詳しく定めるのが理想的です。また、試験を行いたい公認ラボを契約内で定めるか否かについても検討が必要です。特定の燃料油の品質や性状について疑義がある場合、試験ラボに関する合意ができていないと、事態が悪化して問題解決に遅れが生じる恐れがあります。 
  • 品質のクレーム期限:品質試験は補油地以外の場所にある公認ラボで行う必要がある場合を考慮して、品質のクレーム期限については試験を行う十分な時間を確保できる契約内容にするのが理想的です。Gardのこれまでの経験上、燃料油供給契約におけるクレーム期限は非常に短いのが一般的です。特に、供給された燃料油はすぐに使用されるわけではなく(例えば、用船契約に基づいて試験結果が要求され、燃料油を実際に使用するのはその後ということもあります)、仮にすぐに使用したとしても問題が即座に現れない場合もあることを考えると、あまりにも短すぎます。サプライヤーへの遡求期限がその燃料油を使用する前に切れてしまった事例はこれまでいくつもありました。したがって、クレーム期限を設定する場合は、当該燃料油の使用後14日間とするか、またはそれよりもさらに長い期間(例:45日間)を設定することをお勧めします。
  • 責任制限:標準的な燃料油供給契約では相互の責任制限の金額は低く設定されているのが一般的です(通常は当該燃料油の請求額か、最高でもその2倍の額)。オフスペックの燃料油を補油または消費すると損失額が非常に大きくなる恐れがあるという事実に鑑みて、責任制限額の増額交渉を行うことを検討しましょう。可能な場合は最低でも燃料油の金額の2倍以上に設定することをお勧めします。または、特定の金額と燃料油代の最低2倍の金額の両方を文言として入れ、いずれか高い方の金額が採用されるようにするという方法もあります。そして最後に、合意した制限金額は必ず両当事者に相互に適用されるようにしてください(売主だけに適用させない)。
  • OWバンカー」問題:燃料油を実際のサプライヤーから直接購入する場合はリスクが低いですが、ブローカーやトレーダー経由で購入する場合は、ブローカーやトレーダーが当該燃料油の代金を相手方へまだ支払っていない恐れがあるというリスクがあります。その場合、仮にブローカーやトレーダーが支払い不能に陥ると、その複数の相手方から支払い請求が同時に寄せられ、買主が二重払いしなければならないリスクに陥る可能性があります。 そのため、売主が当該燃料油に対する代金を支払い済みであることを保証する条項、および売主からの支払い請求に応じる前に買主が売主から第三者への支払い証憑を請求する権利を有することを定めた条項を加えるとよいでしょう。そうすることで、証憑が提出されなかった場合に、買主は支払いを保留したり違反した売主を引き留めたりすることができます。

売主が倒産した場合に備えて、売主、実際のサプライヤー、または第三者が買主/本船に対して直接の請求権を有しているか否かの判決が管轄裁判所から下されるまでは、買主は当該燃料油の代金の支払いを留保する権利を有する、という条項も加えるとなおよいでしょう。また、請求権を認める判決が下された場合に備えて、買主が複数の当事者に対して(しかも複数回)当該燃料油の支払いを行わなくても済むように、管轄裁判所の判決に従って行われる売主以外の当事者に対する支払いよりも正当な当事者に対する支払いが優先されるものとする、と契約書で規定することもできます。

さらに、売買契約とするため、1979年物品売買法を条件として契約を取り決めることも検討しましょう(こうすることで、目的への適合性と品質に関する限りは当該法によって守られ、さらに売主が買主へ燃料油を販売する際に適切な権利を有していることも要件に入るようになります)。  

  • 保険:売主が保険に加入しており、その証拠の提出を求める条項を定めるのが理想的です。対象とする保険としては、信用保険、専門家賠償責任保険、製造物責任保険などが考えられます。
  • 現地の法律および規則:標準的な契約書ではほとんどの場合、燃料供給契約の部分に現地法と現地規則が取り入れられています。現地法と現地規則は、契約当事者が契約締結時には気付かないような予期しない事態を引き起こす可能性があります。そのため、現地法と現地規則全体を除外するか、その適用範囲を燃料油のサンプリングのみに限定するよう検討することをお勧めします。
  • 燃料供給条件の統一:リスク分担を確保し、サプライヤーに有利な個別の契約条件を適用されることのないよう、すべてのサプライヤーに対して一律に同じ条件を適用するのが理想的です。つまり、大半のサプライヤーと枠組み協定/標準契約を締結するということです。
  • リーエン:本船に対するリーエンまたは第三者(例:用船者が買主の場合は船主)に対する請求権を売主に付与するような条件は避けるようにしましょう。これは用船契約上、深刻な問題を引き起こす可能性があります。もうひとつ考慮すべきポイントとして、売主から購入した燃料油に関して第三者が万一本船に対してリーエンや負担を行使する場合に備えて、売主は買主に被害が及ばないようにして買主を補償する旨の明示条項を追加する、ということが挙げられます。同様に、いかなる第三者も当該燃料油に関して買主に対する請求権を有さない、またはいかなる第三者も当該燃料油に関して本船もしくはその姉妹船に対するリーエン、担保権、負担、アレストを行使する権利を有さないということを売主が保証する条項を加えてもよいでしょう。最後に、それでも請求されてしまった場合に備えて、売主は競合権利者確定手続きが可能になるよう協力するものとする、という条項を加えることも検討しましょう。前述の「OWバンカー」問題についてのGardの見解も参照してください。
  • 除外項目:間接的損失や派生的損失を除外するべきかを検討しましょう(不稼働損失につながる恐れがあるため)。除外項目が多岐にわたっていないか注意してください。これは売主

向けに作られた契約書によく見られます。除外項目に合意する場合は、それらすべてが契約の両当事者に互いに適用されていることを確認しましょう。

  • 準拠法および裁判管轄:米国法を適用することは避け(船舶先取特権が認められるため)、中立的な準拠法および裁判管轄を定めるよう交渉しましょう。これらは必ずしも売主が選択するものではありません。

ここでご紹介した提案事項は、燃料油の品質に関する争議や訴訟でのGardのこれまでの経験を基にしています。買主にとって重要なことは、売主の契約条件を受け入れた場合にどのような事態が生じるか理解すること、そして、公平でバランスのとれた契約の交渉は取り組んでみるだけの価値が十分にあると理解することです。契約条件が交渉不可能な場合でも、デューディリジェンスを尽くしてから売主を選ぶことでリスクを軽減することができます。

 

今回のGard Insightは、HFWの弁護士であるRory Butler氏およびLouise Lazarou氏にご協力をいただき作成いたしました。Gardでは、2020年よりMARPOL条約で施行された低硫黄分規制の要件に関する記事、アラート、サーキュラーを発行しており、GardのWebサイトで「残渣油の規格と硫黄分の試験」、「VLSFO0.5%硫黄分の船舶燃料油)の単独安定性と混合安定性」、「PSCによる船舶燃料油のスポットサンプリングに備える」、「硫黄分排出規制違反時のP&I保険によるてん補範囲」の制限などのトピックと併せてご参照いただけます。