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Gardでチーフリスクオフィサーを務めるTorunn Biller Whiteにインタビューを行い、Gardにおけるリスクマネジメントの在り方や、中長期的な視点で新興リスクを特定しているのか話を聞きました。

Torunnは2016年10月にGardに入社し、現在はGardのチーフリスクオフィサーを務めています。また、Gardグループのリーダーシップチームの一員でもあります。金融セクター出身のTorunnは、複数の銀行や金融機関でリスクアナリストを務めた後、直近ではノルウェーの公共サービス年金基金のSPKでエンタープライズリスクマネジメント/セキュリティの指揮を執っていました。マルチライン海事保険会社であるGardの顔として、既知のリスクと近い将来に起こりえるリスクを可視化することも、同氏とチームに期待される任務の一つです。昨今のパンデミックの状況下で多忙な中、新興リスクに対する自身の考えを語ってくれました。

 

Torunnさんが担当されている主な役割は、アクチュアリーとリスク資本、コンプライアンスと品質管理、そしてリスクマネジメントの3つですが、今回はリスクマネジメントについて掘り下げて伺いたいと思います。まず、Torunnさんとチームはどのような仕事をしているのか教えてください。

 

Gardは保険会社として、メンバーの皆さまがリスクを管理し、リスクの結果にうまく対応できるように支援することであり、そして私たち全員が日々の業務でリスクを管理しています。一方、リスクマネジメントに係る役割は、全ての金融リスクと非金融リスクの特定、評価、管理、監視、報告を確実に行うことです。金融リスクは、クレームの不確実性、金融市場の変動、あるいはカウンターパーティの債務不履行によって発生します。私たちはGard独自のリスク・資本モデルを活用して、グループと傘下の保険会社の資本要件を計算しています。現在では、Finanstilsynet(ノルウェーの金融管理当局)による承認の下、この社内モデルを活用して保険リスクと市場リスクの自己資本要件を計算するようになりました。Finanstilsynetからのお墨付きは、社内モデルチームに対する大きな評価であり、Gardにとっても素晴らしい功績です。

 

Gardはグローバル企業であり、世界各国で様々な規制を受けています。あらゆる規制を理解し遵守することが業務上不可欠なのは言うまでもありません。当社のコンプライアンスチームは、定期的なリスク評価や社内研修、従業員や役員とのコミュニケーションを通じて、コンプライアンスリスクの管理を徹底すべく多大な努力を払っています。

 

私のチームは情報セキュリティに対しても特別な責任を担っており、Gardの情報セキュリティ管理システムを構築する中心的役割を果たしています。さらに、Gardに影響を与える可能性のある新興リスクを特定し、経営陣や役員会に報告する責任もあります。

 

2019年に特定された新興リスクの中で、上位にランクインされたものをいくつか紹介してください。

 

私たちは、毎年、新興リスクを特定しています。私たちが扱う新興リスクの中には、前例がなかったり顕在化する可能性が低い、その時点では重要ではないと認識されていたものの後に重大なリスクに発展する可能性のあるリスクも含まれています。2019年に当社のCEOは、「地政学的傾向 ― リスクと機会」を企業イニシアチブに定めました。その目的は、Gardに何らかの影響を及ぼしている複雑な問題に対する取り組みを促し、リスクに備えたり、短・中期に生じるビジネス機会を逃さないようにすることです。私たちは、(環境、地政学的状況、社会経済、技術という)4本の軸を中心におよそ40の様々なシナリオを想定し、役員会やGardの経営陣にそれらをランク付けするよう依頼しました。そして様々な部署や地域からの参加者によるワーキンググループを設立し、追加で講じるべき措置がないかどうか検討し提言するよう要請しました。一部の提言は、即実行が求められるものです。その他の提言は、将来、リスクが高まる「引き金」が引かれた場合に対応する必要が生じます。こうした兆候を、私たちのチームが監視しています。

 

昨年の秋に特定された上位3つのトピックについては、既に検討を行っています。第1位の「船舶と船主に対するサイバー攻撃」プロジェクトでは、なりすまし攻撃、ランサムウェア、そして船に搭載された運航システムに対する攻撃の直接的・間接的影響を調査しています。第2位の「エネルギー転換」プロジェクトでは、世界的に進む再生可能エネルギーへの転換がGardにどのような影響を及ぼすのかについて着目しています。第3位の「大国同士の対立」プロジェクトでは、激化する米中の覇権争いについて調査し、制裁体制、貿易パターン、現地パートナーや地域パートナーとの連携関係にどのような影響をもたらすかについて検討しています。

 

実施予定のプロジェクトは他にもあります。次は、海運業界における国際法について検討する予定です。また、気候変動による暴風やハリケーン、そして中東で高まる緊張感についても見ていく予定です。こうした複雑な問題に取り組むことで、リスクに対してより長期的な思考方法を確立させることができます。例えばエネルギー転換は、数年、もっと言えば数十年単位のプロセスです。そのための準備は不可欠であり、未来を見据えて強みを確立するためには今すぐに着手する必要があります。

 

中国が世界保健機関(WHO)に新型コロナウイルスの流行について報告したのは、20191231日でした。1か月後の130日、WHOはこの感染症が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に相当すると声明を出し、211日に新型コロナウイルス感染症による疾患を「COVID-19」と命名しました。この感染症が指数関数的に世界中で拡大を続ける中、WHO311日にCOVID-19がパンデミックに相当すると宣言しました。この新たなリスクをリスクマトリックスに組み込むにあたり、Torunnさんのチームが行っている仕事について教えてください。

 

私たちが昨年想定していた40のシナリオの中にパンデミックに関するものもあったのですが、上位12位までの検討候補には残っていませんでした。今年になって、まさかこのような形で私たちに襲い掛かるとは想定していませんでした。この数か月間は多忙を極めています。私たちは、オフィスのある香港、続いてシンガポールで、非常に早い段階からこの深刻な事態の予兆を察知していました。影響を被る業務が多岐にわたることはすぐに予想されたため、2月初旬には事業運営におけるタスクフォースを立ち上げました。このタスクフォースは、クレーム、アンダーライティング、ロスプリベンション、投資、人事、広報といった様々な部署のメンバーで構成されています。グループは定期的に会議を設けて情報を共有し、部署横断的な問題が発生した場合はその解決にあたります。初回会議で作成したリスクマップは、以降の会議でも活用されており、状況の進展に合わせて都度更新されています。

 

CFOは財務部にも同様のタスクフォースを立ち上げ、広報や人事といった他の部門にもタスクフォースを設ける動きが広がっています。こうした非常事態下では、従業員に対して頻繁に情報提供を行うことが特に重要です。

 

Gardが従業員の健康リスクを管理するために講じた対策によって、Torunnさんの働き方にはどのような影響がありましたか。

 

COVID-19の危機を受け、Gardの全従業員が在宅勤務に移行したため、デジタルコミュニケーションへのシフトが加速しました。当社のテクノロジー部門は非常に迅速に対応し、ほんの数日で全従業員に対して在宅勤務用の機器を提供することができました。会社全体が新たな勤務形態への転換を余儀なくされていますが、新しいツールやコミュニケーション方法への適応力には目を見張るものがあります。頻繁に行われるグローバルでのバーチャル会議や会話を通じて、当社の従業員はより一層親密になっているように感じています。Microsoft Teamsを使った役員会もありましたし、先週は自宅のリビングからノルウェー金融当局とのバーチャル会議を初めて開催しました。

 

アーレンダールやベルゲンまたその他一部の海外支社では同僚たちが徐々にオフィス勤務に復帰しているため、今度は逆方向に切り替えていかなければなりません。オフィス勤務への移行は、各支社が所在する国や地域の政府の勧告内容に沿って、規制された方法で安全に進めなければなりません。

 

COVID-19のパンデミックは、既に特定されている新興リスクとどう関連していますか。例えば、全員がリモート勤務をしている場合、サイバー攻撃のリスクが高まるのではないでしょうか。

 

当社のリスク状況は今回の非常事態の間に一変しました。リモート勤務が広がったことで、サイバー犯罪に対する脆弱性が高まりました。在宅勤務環境におけるセキュリティ基準は、従来のオフィス環境ほど厳格ではないのが一般的です。パンデミックに乗じたサイバー攻撃が全体的に増加傾向にあることは把握しています。サイバーリスクの高まりは早い段階で特定されており、幅広く注意喚起を行ってきました。その結果、従業員の意識向上トレーニングを中心としたサイバー意識向上週間を設けることになりました。

 

Torunnさん、リスクマネジメントに対する考えや新興リスクへの興味深い取り組みを紹介してくださり、ありがとうございました。

 

リスクマネジメントとは、常に「ノー」ということではない、という認識が大切だと思っています。リスクマネジメントは、新しい不確実な領域を進む方向性を示し、複雑さを増す世界を理解できるよう導くことを指します。一歩先を見据え、既知のリスクや新興リスクが当社だけでなくメンバーの皆さまにどのような影響を及ぼす可能性があるか、常に目を光らせて注視していくことが私たちの任務です。リスクを予想できれば、新たな製品やサービスといった解決策を探ることも可能になります。結局のところ、保険会社にとってはリスクと機会は表裏一体なのです。