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COVID-19の感染拡大を防止するため、外出禁止令が出され社会的距離を保つよう推奨される中、従来の法手続きは事実上不可能になっています。しかし、法廷審問、仲裁、調停を延期するという選択肢に代わり、ビデオストリーミングプラットフォームの利用が急増しています。GardのFDD弁護士であるLouis Shepherd とFredrik Falck-Knutsenが、様々な司法管轄区域での取組を概観し、テクノロジーを使った自らの経験についてコメントします。

こちらは、英文記事「Necessity is the mother of invention – virtual proceedings in the time of pandemic」(2020年5月14日付)の和訳です。

Gardは、COVID-19のパンデミックに起因する紛争が多発していることを認識しています。相次ぐ紛争は、船舶や港湾のオペレーションに多大な影響を及ぼしています。検疫の遅延、不可抗力クレーム、物資や船員の調達難など、船舶は厳しい状況に直面しています。海運業界でも、COVID-19の影響で多くの従業員が在宅勤務を行っていますが、社会的距離を保つためのルールを守りながら、引き続き紛争の解決にあたらなければなりません。船舶がアレストされたり、差押命令が出されたりしているなど、緊急を要する類の紛争もあります。そうでなくても、決められた審問日当日に向けて長い時間をかけて準備してきた当事者にとっては、延期によりその案件に月単位または年単位での遅れが生じる可能性もあります。

 

Gardが把握している情報によると、こうした困難な状況下でも、法廷審問、仲裁、調停などの和解交渉が、当事者がビデオ会議を使ってリモートでコミュニケーションを取りながら、引き続き効果的に行われています。

 

裁判

 

多くの裁判所が、社会的距離を保つために定められた各地域のガイドラインに基づき、安全な方法で審問を進められるようにするための手続きを策定しています。代理人の数が制限されていれば法廷の使用が可能な場合もありますが、多くの審問はリモートで行わなければならないのが現状です。3月19日、イングランドとウェールズの首席裁判長は、「すべての管轄区域において、審問は一部またはすべての当事者がリモートで参加する形式で行うことを現時点での基本姿勢とする」と発表しました。また、民事裁判官と家庭裁判官に対しては、法手続きをむやみに延期するのではなく、ビデオストリーミングを活用するよう要請しました。

 

Teare判事は、商事裁判所と海事裁判所を監督する立場にあります。同氏は、ビデオ会議を使用せず商事裁判所の裁判延期を求める要請について次のように述べて退けました。「リモート審問を実現できるよう協力を仰ぐことは、すべての当事者の義務です」

 

リモート審問の実施方法に関するガイダンスは、Remote Hearings Protocol(リモート審問のプロトコル)に記載されています。このプロトコルによると、「リモート審問で利用できる方法としては、BTの電話会議、Skype for Business、裁判所へのビデオリンク、BTのMeetMe、Zoom、通常の電話などが挙げられます(これらに限定されるものではありません)。また、参加者が利用できるコミュニケーション手法があれば、必要に応じて検討することが可能です」

 

このプロトコルでは、開かれた司法の原則を担保する重要性を認めたうえで、リモート審問は可能な限り傍聴できるようにすべきであることを定めています。最近制定された2020年英国コロナウイルス法により、法廷審問のライブ配信が可能になっており、既に実施されています。前述の商事裁判所の裁判でTeare判事は、法的手続きをYouTube経由でライブ配信するように命じました。

 

他国の裁判所では、複雑な案件についても実施予定の裁判を延期することなくビデオストリーミング形式に移行しています。例えば、オーストラリア連邦裁判所で係争中のFord Motor Company(フォード・モーター・カンパニー)を相手取った集団訴訟に関して、Perram裁判官は、6月中旬に予定されている6週間にわたる裁判を10月に延期するというフォードの申請を却下しました。Capic v Ford Motor Company of Australia Limited (Adjournment) [2020] FCA 486(キャピック対オーストラリアのフォード・モーター・カンパニー(延期))[2020年] FCA486.

 

Perram裁判官は、COVID-19に伴う規制が敷かれている現状でも、裁判所が「経済活動の継続と司法行政を始めとした政府の公益サービスを推進する」必要性を指摘しました。同裁判官は、「この2点を総合的に勘案すると、バーチャルプラットフォームを介して自宅から参加する形式で裁判を行うことは妥当である」と結論付けています。

 

 

 

 

仲裁

 

ほとんどの仲裁は口頭審問を経ずに書類のみに基づいて行われるため、COVID-19の影響を受ける仲裁の数はさほど多くありません。仲裁は合意に基づくプロセスであるため、審問が必要になった場合には、プロセスの公平性を担保しつつ実務的な対応が可能であれば、当事者がリモートで出席することには何の問題もありません。2018年、国際仲裁におけるビデオ会議に関するソウル・プロトコルが公開されました。このプロトコルでは、バーチャルでの仲裁審問に当事者が同意し実際に審問を行う際の実用的な検討項目をリストアップしています。Seoul Protocol(ソウル・プロトコル)

 

仲裁審問は、数年前から全面的または部分的にリモートで行われるようになりましたが、当初の想定ほど広まってはいません。テクノロジーに対する不安や、最も有利な論証方法ではないかもしれないという懸念から、現在でもリモート審問への参加を憂慮する声もあります。時間の経過とともに、人々はリモート審問の仕組みに慣れていくと思われます。また、当事者と証人全員が同じ方法で審問に参加していれば、いずれかの当事者にとって有利または不利になることはありません。バーチャル審問に参加する際のマナーも策定されつつあり、やがて参加のハードルは低くなるでしょう。

 

調停

 

調停または円滑な和解交渉は、合意に基づくプロセスであり、リモート会議実現に向けた道は開かれています。Gardは、ノルウェーの裁判所に提訴されたP&Iクレームに関するオンライン/ビデオ調停(ノルウェー語でrettsmekling)に初めて参加しました。COVID-19の状況を踏まえ、ノルウェーでは当面の間、実質的な法廷審問や調停はほとんど行われていません。そのため裁判所は、調停や審問が継続できるようビデオ会議の環境整備を行ってきました。ノルウェー最高裁判所は、全面的なビデオ会議による控訴審を行ったところです。

 

この訴訟では、当事者と裁判官が、ノルウェー北部、オスロ、アーレンダールなど、ノルウェー国内の異なる場所から参加していました。技術的な観点から見ると、調停は非常にうまくいきました。初回会議と最終会議は、共通のバーチャルルームで行われました。その後、当事者には非公開で対話できる個別のバーチャルルームが用意され、調停人は実質的な調停と同様にこれらの「ルーム」間を行き来し続けました。プラットフォームを介したコミュニケーションは、身内同士でも訴訟相手に対しても良好で、実り多い経験になりました。調停の強みは、当事者全員を一か所に集合させて焦点を絞ることができる点です。バーチャル上で調停を行うことにより収拾がつかなくなるのではないかと懸念されていましたが、それは杞憂でした。参加者全員が、事案の解決という共通の目標に向かって誠意的に取り組んだおかげで、調停は成功裏に終わりました。

 

パンデミックが収束した後も引き続きバーチャルでの手続きが行われるでしょうか?

 

パンデミックが発生する前から、法手続きの種類によってはビデオ会議テクノロジーの利用がトレンドになりつつありました。必要に迫られたことで、何年も前倒しにトレンドが広まっているのです。

 

より多くの法律家がストリーミングテクノロジーを使うようになりこれに慣れていけば、多くの紛争を効率的に処理するためのツールとしてバーチャルでの手続きが受け入れられるようになると確信しています。

 

もちろん、緊急事態下でなければバーチャル手続きを行うことが適切でない訴訟もあります。例えば刑事裁判の場合、被告が原告に対抗できる権利や陪審員による裁判を受ける権利があるため、バーチャル手続きには適していません。複雑な民事訴訟もそぐわないでしょう。Perram裁判官は、キャピック対フォード・モーター・カンパニーの判決を下す際に次のように述べています。

 

平常時であれば、当事者の意志に反してこのような不十分な裁判形式を遠隔で強制することなど思いもよらないでしょう。しかし、今は平常時ではありません。私たちの身の回りの生活の大部分は不十分な状態であり、今後もその状態が継続するという時代を迎えているのです。私たちは、この裁判が成功するよう全力を尽くさなければならないと思います。うまく機能しなくなれば延期も視野に入れますが、少なくとも挑戦することは必要です。

 

世界的なパンデミックが続くこの状況下で、私たちは皆、案件が公正かつ迅速に処理されるよう全力を尽くさなければなりません。そのためには準備が不可欠です。立場を明確かつ簡潔に示しましょう。ストリーミングテクノロジーへの投資を惜しまず、審問に入る前に、ストリーミングテクノロジーの使用方法に慣れましょう。技術的なハードルを解消できるよう、裁判所やその他の参加者と事前にコミュニケーションを取り協力していきましょう。

 

バーチャル手続きは、パンデミックの渦中でも訴訟を前進させ紛争の解決を図るための(時として唯一の)方法です。法律家のほとんどは、バーチャル手続きは従来の訴訟や調停よりも時間がかかるとしていますが、テクノロジーに精通し、現行のアプリケーションの改良や調整を重ねれば効率が上がる可能性も秘めています。弁護士が空港から姿を消すかどうかを予想するには時期尚早ですが、バーチャル手続きによって出張を削減できるのは間違いありません。持続可能性が優先課題となる中、これは多くの企業が検討すべき点です。