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最近の調査研究結果は、船員が不安障害やうつ病を発症するのを防ぐために、運航者は船員に対する支援を手厚くすべきであることを示唆しています。インターネットアクセスなどの船内娯楽設備の提供、宿泊設備の改善、レクリエーション活動の実施などが推奨されます。

こちらは、英文記事「Seafarers’ mental health and wellbeing」(2019年11月26日付)の和訳です。

最近の調査研究結果は、船員が不安障害やうつ病を発症するのを防ぐために、運航者は船員に対する支援を手厚くすべきであることを示唆しています。インターネットアクセスなどの船内娯楽設備の提供、宿泊設備の改善、レクリエーション活動の実施などが推奨されます。

 

職場でのメンタルヘルスと健康に対する関心が高まり続ける中、国際貨物輸送業界で働く船員のメンタルヘルスと健康の現状を探るための調査が最近実施されました。この調査は、イギリス労働安全衛生研究所(IOSH)の資金提供を受けてカーディフ大学が実施したものです。調査では、アンケート、インタビュー、文献、P&Iクラブのクレームデータ等が活用され、以下の点が明らかになりました。

 

  • 主要な利害関係者が船員の精神疾患やメンタルヘルスの問題を重大な問題と捉えているかどうか。
  • 貨物船の船員がメンタルヘルスと健康にとってプラスまたはマイナスに寄与しているとみなす要因。
  • 船員のメンタルヘルスと健康に関してより手厚い支援を提供するために、運航者が実施できる対策と慣行。

 

船員のメンタルヘルスを扱うシリーズの第2回目にあたる本稿では、カーディフ大学の調査結果の中からいくつかの重要なポイントを取り上げます。調査レポートの全文はIOSHのウェブサイトで入手できます。同レポートには運航者が、船員のメンタルヘルスと健康の向上に向けてどのような対策を講じることができるかについて、数多くの推奨事項が掲載されています。

 

問題点

 

海事労働には他の職業とは異なる特有の性質があります。それは、過酷な肉体労働環境、潜在的に危険な作業、長時間の作業、重度のストレスと疲労などです。また、海事労働は「孤独な毎日」とも言われています。船員は長期間家族や友人と離れて過ごすだけでなく、多くの船員が船上でも孤立した生活を送ります。船の自動化の進展に伴って船員の数が減っているほか、船員同士の文化的、民族的背景が全く異なる場合もあります。このような状況から、船員は特に精神疾患やメンタルヘルスの問題に対し脆弱であると考えられます。

 

船員のメンタルヘルスに関するデータ

 

カーディフ大学の調査では、船員の間で精神疾患やメンタルヘルスの問題が悪化しているという明確な証拠は見つかっていません。しかし、同調査は、船員のメンタルヘルスに関する問題の発生率は一般の人よりも高い傾向があること、また、最近の精神疾患の発病数は、近年、貨物船でより多く見られるようになっていることを示す証拠がいくつかあるとしています。

 

Gard’s data for mental illness and suicide(Gardの精神疾患や自殺に関するデータ)を見ると、実際よりも過少報告になっている可能性はあるものの、精神疾患と自殺者の数は過去10年間であまり変化が見られません。カーディフ大学の調査において他のP&Iクラブのデータを分析した際も同様の結果が示され、P&Iクラブ全体のデータでも、病気による本国送還事例のうちメンタルヘルスが理由の送還が占める割合に大きな増減は見られませんでした。また、同データは、メンタルヘルスに関するクレームは、病気を理由とする本国送還のごく一部を占めるに留まっていることを示しています。

 

主要な利害関係者の姿勢

 

カーディフ大学の調査は、「業界関係者は船員のメンタルヘルスと健康の問題に関心を持つべきだが、やや出遅れた感が否めない」と指摘しています。実際、回答した雇用主の55%は、過去10年間、自社では船員のメンタルヘルスの問題に取り組むための対策や慣行を導入していないと述べています。今後は、雇用主の事後対策や船員の自助策よりも、船員の船上での労働・生活環境を改善するための事前対策に一層力を入れる必要があります。

 

船員のメンタルヘルスを蝕む要因

 

船員のメンタルヘルスと健康を蝕むとされる要因は多々あります。職業全般に共通する要因もあれば、特定の船種や航路、船内での地位、会社の手順に深く関連していると見られる要因もあります。

 

カーディフ大学の調査は、海事労働全般に内在すると考えられる一般的素因として、孤立や疎外感、陸上滞在時間の不足、刑事責任に対する恐れ、失業に対する恐れ、家族と離れ離れになること挙げ、これらすべてが船員を精神疾患やメンタルヘルスの問題に陥りやすくしていると指摘しています。さらに同調査では、船の仕事特有の要因(例:過度の労働、不十分な食事)や船員に関連する要因(例:船長が威張り散らす、差別を受けた、不本意な非難を受けて上司や他の同僚と不仲になった)など、これらすべてが、船員が勤務中に気分の落ち込みを感じた原因として報告されています。

 

推奨事項

 

精神疾患の問題は多岐にわたるテーマです。この問題を理解するために、運航者はより多くの時間を割くべきです。まずは、船員が一般の人と同じように、日々の生活において困難さ、感情、動機を抱えているという事実を受け入れることが重要です。また、船員は、船上での業務に24時間週7日ずっと縛られ、友人や家族とも遠く離れなければならない辛さを抱えています。船員のメンタルヘルスは、船内の労働環境に影響を受けることがある点に注意することが重要です。特に船員同士の争いやいじめなどが見られる場合、影響は顕著となります。

 

カーディフ大学の調査は、良好なメンタルヘルスを支援するための対策について、「船員に(船上、陸上の人々との)肯定的な社会交流を促し、船員がリラックスし、元気を取り戻し、気分を高揚させる機会を増やせるような主体的な船内環境改善に重点を置いたものである必要がある」と強調しています。無料インターネットの提供は、船上での幸福感、メンタルヘルス、健康の改善に最も役立つことが分かっていますが、その他にも労働条件や人間関係、身体的健康、宿泊設備、レクリエーションなどが、運航者が対策を講じることのできる分野であることが分かっています。

 

メンタルヘルスの問題解消に向けて、船員に対し、メンタルヘルスと健康について話し合うことを促してください。 メンタルヘルスについて、オフィスでのミーティングや船上での安全ミーティングで定期的に話し合うとよいでしょう。また、Gardの発行した「メンタルヘルスと船員について:今こそ話し合う時です」と「職場ではすべての人が尊厳と敬意をもって扱われるべきです」もご参照ください。