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こちらは、英文記事「Charterparty ‘chain reaction’: The recent U.S. Supreme Court decision in the ‘Athos I’ case」(2020年4月2日付)の和訳です。

 

330日、米国の最高裁判所は、Citgo Asphalt Refining Co. (以下「CARCO」)他とFrescati Shipping Co., Ltd.他との「Athos I号」事件に関する訴訟において、再用船者であるCARCOが再用船契約の「安全バース」条項を通じ、船主に対し、大規模な油濁の清掃にかかった費用一切を補償する責任があるとした第3巡回区控訴裁判所の判決を支持する判決を下しました。今回の最高裁の判決は、用船契約の「連鎖構造」内にいるものの、争点となった「安全バース」条項を含む契約書の実際の署名者ではない関係者に「安全バース」条項の文言が適用される可能性があることを示唆する形となりました。

また、今回の訴訟は、米国で発生した油濁事故がいかに高額な費用を発生させ、それに続く訴訟がどれほど長期化するかを示すものとなりました。Gardの米国の弁護士で、油濁事件に詳しいFrank Gonynorが「Athos I号」の判決について詳しく解説するとともに、用船契約の多くが英国法に準拠していることを踏まえ、英国の弁護士であるAdrian Moylan氏にも解説に加わっていただきました。 

 

控訴の背景

 

最高裁への控訴では、ASBATANKVOY書式の用船契約における「安全バース」条項が、安全に関する絶対的な保証なのか、あるいは、単に用船者がバースまたは港の選定時に相当の注意を払うことを義務付けるに留まるのか、という点が争点となりました。第3巡回区控訴裁判所はFrescatiの主張を支持し、ASBATANKVOY書式の安全バース条項は「保証」であるとしました。一方で、第5巡回区控訴裁判所は、別の事件を扱った訴訟で、同様の条項について「相当の注意義務のみを課したに留まる」との判決を下していました。このように連邦巡回区控訴裁判所間で判断が割れていたことが、CARCOによる最高裁への控訴につながっていきました。

 

2004年の流出事故から米最高裁の判決が出るまでにおよそ16年が費やされました。訴訟手続きは、41日間にわたった第一審を始め、意見書の発行、第一審破棄、193ページもの判決文を出した地方裁判所裁判官による31日間の再審理、二度の控訴、第3巡回区裁判所に対する合衆国控訴裁判所からの意見書提出など、非常に長期間に及びました。一連の裁判の紆余曲折を紐解くことは、海事弁護士や上訴の専門家、法学者にとっては興味深いテーマかもしれません。ですが、ここではテーマが広大過ぎるため割愛し、 代わりに、最高裁の論法とそれが船主、用船者にとって何を意味するかを説明していきたいと思います。

 

原油流出事故と訴訟

 

Frescatiは、所有するタンカー「Athos I号」(「本船」)をStar Tankersに定期用船に出しました。Star Tankersは本船をCARCOに航海用船に出し、CARCOが原油貨物をデラウェア川沿岸のニュージャージー州ポールズボロのCITGOアスファルト精製所に輸送するために本船を仕向けました。バースから約900フィート離れたデラウェア川の底には、当事者を始め誰も存在を知ることのない、遺棄された錨が沈んでいました。2004年11月26日、本船がデラウェア川のバースに入る際、川底にあった錨に接触して船体に穴があき、およそ265,000ガロンの原油がデラウェア川に流出し、280マイルにわたる沿岸地域に影響を与えました。油濁の処理費用は合計1億3,300万米ドルにのぼり、その一部は本船の保険会社と米国政府が負担しました。その後、保険会社と米国政府の双方がCARCOに求償していました。

 

最高裁の判決の基礎となった重要な先例の1つが、船主はStar TankersとCARCO間の航海用船契約に含まれている「安全バース」条項の文言の第三受益者であるとした第3巡回区控訴裁判所の判決でした。船主を「第三受益者」としたこの判決は、その後の解釈の基礎を成す重要なものでした。用船契約関連の紛争で第三受益者の存在が示唆される可能性が出てきた場合、この時の判決でどのような解釈が行われたかを知っておくと有益でしょう(第3巡回区控訴裁判所の判決内容は、In Re Frescati Shipping Co.,、718 F.3d 184、200 (Third Cir. 2013)とGardの過去の記事でお読みいただけます)。 米国の油濁法では、船舶の限度額を超えて支払われた清掃費用および補償費用について、米国の油濁責任信託基金(Oil Spill Liability Trust Fund)に求償代位権を与えています。そのため、Frescatiが航海用船契約の安全バース条項の第三受益者と見なされたことから、米国政府も同じく第三者受益者と見なされることになりました。 

 

使用されたASBATANKVOY書式の規定は以下のとおりでした。

 

「船舶は、常時安全に浮揚した状態で進行し、停泊し、離れうることを条件として、用船者が指定および準備した安全な場所または埠頭で荷役作業を行うものとする」

 

米最高裁は見解の中で、米国と英国の古い判例を引用しつつ、上記のような文言で規定された安全バース条項はすべて、用船者が船主に対し「保証(warranty)」として安全バースを保証(guarantee)していることを意味すると明確に示しました。この点は安全バース条項で「保証」という用語が全く使用されていない場合にも当てはまり、最高裁は、重要事項に関する契約書に規定された事実の記述は、たとえ保証であることが特定、または指定されていない場合でも保証と見なされることが『海事契約上、定着している』と述べています。最高裁は、用船者が、バースが「安全な」バースであることを確認する相当の注意を払うだけで完全な保証までは提供していないINTERTANKVOY書式など、用船者の義務を軽減した安全バース条項を含む他の一般的な用船契約書式の使用を主張できたことに注目すべきとの判断を示しました。

 

とは言え、最高裁にとって、潜在的なハードルが1つ存在していました。同様の文言が使われた安全バース条項に関する判決がニューオーリンズの第5巡回区控訴裁判所で既に下されていたのです(Orduna SA対Zen-Noh Grain Corp、913 F.2d 1149〔1990年〕)。再用船契約で同様の文言が使われていたものの、ニューオーリンズの判決では、再用船者に相当な注意義務を課すだけに留まっていました。これについて、最高裁は、ニューオーリンズの判決の基礎となったのは「安全バース」条項の文言ではなく、「不法行為法と政策への配慮」だったと述べました。最高裁が、意見書を重視したか、あるいは裁判官の目を不都合な点から逸らしたのかは定かではありませんが、いずれにせよハードルは回避され、以降の解釈はかなり簡単かつ目新しさに欠けるものとなりました。

 

米最高裁による判決は全会一致ではありませんでした。裁判官9人のうち2人は、「安全バース」条項は用船者に指定したバースに船舶が安全に寄港できることを相当の注意を払って確認する義務を負わせるだけに留まり、保証ではないとの考えを示しました。しかし、2人の論法が最高裁の大多数にとって説得力を欠いたものであることは明白でした。

 

導き出された結果は、再用船者にとって著しく不利な内容を肯定するものであり、以下のような米国法の観点から導き出されたものとなりました。

 

  • 「安全バース」条項は重大な選択であり、当事者同士が気軽に同意すべきものではなく、当事者間でその重大性を検討、交渉した上でのみ同意すべきものである。この見解は裁判所により改めて示されました。
  • 用船契約の「連鎖構造」内の当事者は、連鎖構造の中で後から作成されるすべての用船契約の「安全バース」条項に対し、どのような規定が作成されたかを把握し、当事者が実際に署名した用船契約と食い違う予期しない責任の概念が適用されないかを確認、あるいは防止するための措置を講じる必要がある。

 

英国法の観点

 

最近、英国の最高裁がOcean Victory号事件で、非安全港に関する法律を見直しました。その結果、非安全港に関する評価基準は、米英間でより近付いた内容となっています。港湾内で船舶に発生した予期せぬ事故や危険に関する、船主・用船者間のリスク配分に関しては広く理解が進んでいます。もし、「Athos I号」事件が英国法で扱われたとすれば、本船がバースに進入中に遺棄されていた錨で損傷を受けた場合、無修正のASBATANKVOY書式の安全バース条項の条件に従い、用船者に責任が課せられる結果となっていたと考えられます。

 

タンカーの用船者が自己の責任をより限定または制限したい場合、以下の内容を含むBPVoy5などの用船契約書式が選択されます。

 

「用船者は、船長に船舶を任意の港に仕向けることを指示する前に、船舶が常に安全に浮揚しながら当該港に停泊できるようにするために相当の注意を払うものとする。但し、用船者は、この用船契約のいかなる部分においても港の安全を保証するものではなく、用船者が前述の相当の注意義務を怠ったことによって引き起こされた損失または損害を除き、本契約に関する一切の責任を負わないものとする」

 

上記のような条項は、用船者に、港を指定する前に当該港が安全であることを確認するために相当の注意を払うことのみを義務付けるものです。適切な相当の注意を払ったとしても回避できない損傷を船舶が受けた場合、用船者は責任を免除されます。

 

この概念は、時折、将来の安全性と混同されることがあります。と言うのも、安全港の評価基準は、完全な保証を含む用船契約と相当の注意のみを義務付けた用船契約の両方において、港の指定または予備航海(approach voyage)開始の指示が与えられるタイミングで適用されるためです。両者の違いは、相当の注意を義務付ける用船契約では、相当の注意では発見できない港の危険な特性により、用船者が責任を免除される可能性があるのに対し、絶対的な保証を定めた用船契約では、「保証」は港の指定時と将来の両方に適用され、船舶が安全に港に進入し、停泊し、出航できることが要求されます。予期または予見できない事象が発生した場合でも、絶対的な保証を与えた用船者の場合、責任は免除されません。例えば、気候変動や、パンデミックが発生した場合であっても、そのような事象が過去に発生したかどうかは一切考慮されません。安全港の評価基準は、船舶が寄港する時に遭遇する危険が港の特性と見なされるかどうかです。 

 

 Athos I号の判決の中で多くの英国の弁護士が驚くと思われる点は、原船主が自船をある条件で用船に出した後、原船主の用船者が再用船した際に最初の条件よりも有利な条件で契約を締結した場合、原船主が棚ぼた式にその有利な条件から利益を受け取れる点です。一般的に、再用船者に行使できる条項としては、積荷に対するリーエン(留置権)があります。しかしながら、リーエンを行使して原船主が、異なる当事者間で締結された再用船契約上の約束から棚ぼた式で利益を得ようとしても、再用船契約の締結日が原船主の締結した契約日の数か月後や数年後になることはざらで、実際に行使することは困難と思われます。

 

英国法上の用船契約の当事者は、自身が締結した用船契約に含まれる条項は、当事者以外のいかなる者に対しても、その契約に基づいて発生する権利を付与したり、義務を課したりすることはできない、という認識を持っています。抵当権者と貸し手は、担保融資証書の一部として、用船契約の利益分を担保に取ることができ、借り手が債務不履行になった場合、通告により強制的に履行できます。1999年契約(第三者の権利)法は再用船契約に適用され、第三者による契約条件の強制を認める規定を定めることができますが、その場合、意図された受益者を明示するか、その用船契約の条件において適格者であることが黙示的に分かるようにする必要があります。1999年契約(第三者の権利)法では、第三者に自身に利益をもたらす契約条件の強制が認められる一方、例えば、手数料を請求する船舶仲買人が、一切の請求を仲裁条項に従って進めるといった要件に従うなど、第三者側でも契約上の義務に従うことが必要となります。 海事契約では1999年契約法を除外することが極めて一般化していますが、今回のAthos I号の最高裁判決により、ほとんどの用船契約で1999年契約法がより一層頻繁に明示的に除外される可能性があります。なお、1999年契約法は、用船契約には適用されますが、船荷証券には適用されないことにご注意ください。

 

総括

 

海運業界団体のBIMCO(ボルチック国際海運協議会)、INTERTANKO(国際独立タンカー船主協会)、INTERCARGO(国際乾貨物船主協会)が提出した法廷助言書では、定型書式の用船契約適用における確実性と国際的統一性を支持する主張が唱えられており、最高裁における船主の立場を支持する内容でした。海運業は世界規模で行われる事業であり、同一書式の用船契約条項は、異なる管轄区域においても同一の意味であることが望ましいと考えられます。

 

また、最高裁の判決は、用船者がより自身に有利な条項を選択することで、契約上、自由にエクスポージャーを制限できるという英国法の見解にも準拠しています。現実の世界では、相当の注意義務基準について交渉できるのは、石油会社や主要商品のトレーダーのような大規模トレーダーに限られています。自由に契約できることは、多くの場合有利に作用します。

 

貨物のボラティリティが高い時、用船契約の連鎖構造は長く複雑化し、契約上の相手方当事者により、異なる安全港/安全バース条項が選択されているだけでなく、異なる法律や裁判管轄条項が選択されている状態となっている可能性があります。たとえ長くはないにしても、そのような連鎖構造には通常、1つまたは複数の定期用船契約と末端の航海用船契約が含まれています。本船は、安全港/安全バース条項に関する相当の注意義務を規定した条項を含む英国法・仲裁を指定した用船契約にてStar Tankersに用船されました。一方、Star TankersとCARCO間の航海用船契約は、米国法と米国の裁判管轄を指定していました。したがって、船主(および米国政府を含む船主の代位者)は、安全バース保証だけでなく、米国法と米国の管轄条項の面でも利益を得たことになります。

 

米国が第三受益者に対して出した結論と同じ結論を英国が出すかは、依然として不明です。原船主が非安全港またはバースを原因とする損失を被った場合の用船契約の「連鎖構造」の下での英国の訴訟実務は、船主が用船者に対して訴訟を提起し、これを受けて用船者が下流の契約上の相手方当事者(すなわち再用船者)に対して訴訟を提起するというものです。特定の用船契約の当事者だけが提起する権利を有しているため、このようなドミノのような流れになります。用船契約の条件が英国法と仲裁を指定しており、条件が原契約と同じもの(back-to-back)である場合、当事者は、同一の仲裁人を選任するとともに手続きを併合することにより、仲裁を「合理化」することに合意することができます。但し、これは単に便宜と費用節約を目的とするものに過ぎません。安全港/バース保証の強制にあたり、英国法では、条件が全く同じであっても、米国の訴訟で行われていたように、連鎖の先端から末端に直接向かう権利は認められていません。

 

以上のとおり、米最高裁の「Athos I号」事件への判決は、ある種の「安全バース」条項の解釈の統一性については、一定の成果を達成したと言えます。

 

Citgo社の社長兼CEOのカルロス・ジョルダ氏は声明の中で、最高裁の判決について次のように述べています。「非常に長い戦いでしたが、残念な結果となりました。私たちの本案に関する見解は裁判所とは明確に異なりますが、私たちは最高裁の解釈を尊重します。これでようやくAthos事件に終止符を打てます」(2020年3月30日付、コートハウス・ニュース)。

 

とは言え、さらに検討を進めていけば、上述のとおり、今回のような状況においては、重大な法的問題や手続き上の差異が依然として未解決のまま残っています。このため、将来の訴訟においてこの残された複雑な問題を取り扱う余地を残しています。ひとつ、確かなことがあるとすれば、それは、安全港と安全バースを指定するという用船者の契約上の約束は、契約書に書かれた細かな文言が何であれ、財政的に重大な結果を招きうるリスク配分であるということです。海運業界団体の法廷助言書で指摘されたように、そのようなリスクには保険をかけることが可能です。