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こちらは、英文記事「Lay-up and re-activation revisited」(2020年3月26日付)の和訳です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、これまでに考えられなかった形で海運業界に影響を及ぼしています。世界各地の港湾が特定の船舶の入港を拒否しており、渡航制限により乗組員の交替が延期され、船は運航を停止し、乗組員が解雇されています。こうした運航上の問題を背景に、現在、一部の船主や運航者は、船舶の休航を検討することを余儀なくされています。

船主の決断

 

休航を決断すると、船主は、その後、重要な決断をいくつか行うことになります。最も重要な決断事項は休航期間で、どの種類の休航を選択するかにかかわってきます。船主が今後12か月以内に船を運航再開できると見込んでいる場合は、最小限の乗組員を船上に待機させ、機械と設備を稼働状態に維持する「ホットレイアップ(あるいはウォームレイアップ)」が適切でしょう。休航が1年以上継続する見込みの場合、船主はおそらくコールドレイアップ(船上に船員がいない状態)を選択するでしょう。これにより、日々の運航費が実際の係船費と監視費に軽減されます。 

 

もう1つの重要な決断は休航地です。船主は、その地域の最も厳しい気象条件に関する情報を入手するとともに、地元当局の承認を得る必要があります。

 

休航に関連するリスク

 

休航期間中も被保険者から保険会社にクレームがなされるリスクがなくなるわけではありません。休航中のリスクには、複数の要因が関係します。

 

休航には2つのフェーズがあります。休航自体のフェーズと、運航再開のフェーズ(休航解除直後後の運航期間を含む)です。各フェーズにはそれぞれ異なるリスクがあります。

 

休航中に発生の可能性があると考えられるリスクは以下のとおりです。

 

  • 他船に衝突されるリスク。係船中の船舶側に責任がない場合でも、衝突した船舶側の責任が制限される可能性があるため、回収不能な多額の費用が生じる可能性があります。
  • 係船装置を破損させるリスク。アンカーの引きずりが座礁の最大の原因であり、海岸線の近くに船舶を停泊させると、このリスクが増加します。
  • 火災リスク。船舶を互いに隣接(プラトーニング)させてグループで係留している場合、類焼する可能性があります。船を隣接して係留している場合、その中の1隻から火災が発生すれば他船に延焼する可能性があります。
  • セキュリティの低下リスク。運航を停止させた停船中の船には限られた人員しか乗船していないため、緊急事態に対処することが一層難しい状態にあります。

 

運航再開時または休航解除の直後は、次のことが発生する可能性があります。

 

  • 機器の一般的な劣化による故障。休航中に大気の状況(特に、湿度)を監視していなかった場合、腐食や劣化が発生している可能性があります。
  • 配管システムとバルブ(油圧システム、空気圧システム)内部の腐食による故障。
  • 大きな機械コンポーネントを動作させずに放置していた、あるいは潤滑被膜が不十分な状態で動作させている。
  • 調節装置と制御装置の故障による起動トラブル。
  • 動作停止中に数か月間、コンポーネントの手入れが不十分であったことが原因の故障。
  • 数か月間、電源の投入やソフトウェアのアップデートが行われなかったことに起因する、電子機器の起動エラー。

 

保険に関しては、保険の補償対象とされていた通常の運航や業務が休航によって停止されるため、リスクが変化することになります。このため、船主(被保険者)は、船の運航停止を保険会社に通知しなければなりません。

 

保険に対する影響

 

船主は保険会社に通知した後、通常、保険料の一部払戻しの申請を行うことになります。これは、適切な休航は、保険会社にとってリスクの軽減を意味する場合があるためです。保険会社は、リスクの全体像を確認するには被保険者から十分な情報提供を受ける必要があるため、通常、被保険者に詳細情報と安全な休航が行われていることの証明の提出を依頼します。

 

P&I保険や船体(H&M)保険の契約条件は、船舶が船級を「稼働中」または「休航中」のいずれかの状態に維持していることです。何らかの理由で船級が停止されると、自動的に保険が失効し、船級協会からの確認書がない限り、保険は復活しません。

 

休航がP&Iカバーに及ぼす影響は、貨物、乗客、乗組員の一部に関するリスクが減少・変化するなど、比較的特定が容易です。休航後に残存するその他のP&I保険上のリスクとして挙げられるのは、漏出(燃料、潤滑油、ごみなど)による汚染発生のリスクでしょう。また、係船装置を破壊して座礁するという最悪のケースが発生すれば、船骸を撤去しなければならなくなるリスクも残ります。GardのP&Iルールには、検査(ルール第9条)と休航戻し(ルール第22条)という休航に関連する条項が含まれています。按分による保険料の払戻しは、最低30日間休航していることが条件となっています。

 

休航がH&Mカバーに及ぼす影響は、リスク特性が変化することからより複雑です。Nordic Marine Insurance Plan(北欧海上保険通則)は、休航をリスクの変更であると定義しており(第3-26条)、休航計画を策定して船体保険会社に提出して承認を得るよう求めています。

 

Gardでは、休航の通知を受けた場合、次のことをメンバーに依頼します。

 

  • 休航する船の船級が維持されることを船主に確認すること。
  • 休航する船の休航計画の提出。

 

休航計画

 

休航計画には、船級協会からの要件を含み、運航停止の方法や休航中の保守・メンテナンスの方法を記載する必要があります。また、休航計画には、運航再開手順を記載する必要がありますが、休航期間の長さに応じて変更する必要があります。

 

大半の船級協会と多くの海洋コンサルティング会社が、休航に関するガイドラインと推奨事項を発行しています。各船級協会は、さらに、休航検査などの技術的サービスを提供したり、船の休航・保守状態に関する休航宣言書を発行する場合があります。こうしたサービスは大抵の船級協会が付加的なコンサルティングサービスとして提供しており、船主は有償で利用することができます。船級協会による検査と宣言書は、H&MとP&Iカバーの両方に関してGardが要求する書面要件を網羅しているため、大いに役立ちます。

 

船主の多くが、自船に対する経験と深い知識を生かせるように、自社のリソースを使って休航計画を準備することを望んでいます。こうした船主を支援するため、Gardでは、休航計画に含めるべき最小要件をいくつか規定しています。Gardの最小要件一覧(附属書)をご参照ください。 

 

船主が順守する必要のある主な3つの要件は次のとおりです。

 

  1. 休航地については、特に気象条件に重点を置いて記載する必要があります。また、地元当局の承認が必須です。
  2. 係留・投錨装置の配置は、船級協会による(または船級協会を通じての)承認が必要です。適格機関が計算を実施することも可能ですが、船級協会の承認を得る必要があります。
  3. 船主は、船内の重要機器の製造元に連絡し、メンテナンス、保守、再稼働を製造元の推奨事項に従って確実に実施するよう手配する必要があります。また、クルーズ船の高価な宿泊施設を保守することも重要です。

 

火災・洪水の防止や保護など、その他の要件もありますが、上記3つの主な要件を順守することで、船舶が十分に安全な場所で休航していること、係留装置が休航地と予想される気象条件に対して適切であること、船舶自体と機器類がメーカーの推奨に従って管理されていることを確保することができます。

 

休航後の運航再開

 

通常、保険クレームにつながる事案が発生するのは、休航中ではありません。休航に伴う様々なプロセスの中で最も問題が多く、コスト削減の観点から見落としや先延ばしが起こりやすいのが、運航再開時です。運航再開プロセスは、休航の準備以上に時間がかかる場合があり、陸側の管理者や乗組員の協力に加え、外部のサービスエンジニアや乾ドックを備えた造船所からも応援が必要になります。これらのサービスに対する需要は、景気回復時(一般的に船主が船舶の運航再開を希望するタイミング)に高まる可能性があります。

 

Gardでは、長期間の休航後の運航再開は、船級協会と機器製造元の推奨に従い、細心の注意を払って実行することを強くお勧めします。機械本体を慎重に扱うだけでなく、燃料や潤滑油が休航中に船内で保管されていた場合は分析を行うなど、それらの品質にも注意を払う必要があります。

 

船舶の運航再開時、船級協会は機械設備全体を完全にチェックすると同時に、未実施の検査があればそれを実行しなければなりません。休航期間に応じて、乾ドックか、少なくとも海上試運転を実施する必要があります。通常は、安全管理システムの全面的な監査も実行する必要があります。必要とされる検査範囲は、休航前と休航中の保守とメンテナンスの状態によっていくぶん異なってきます。このため、休航中の保守とメンテナンスの実施状況を文書化しておくことが非常に重要となります。後になって保険クレームが発生した場合、そうした文書が、必要な予防措置が製造元の推奨事項に従って行われたことを証明する上で重要になります。

 

保険会社は、休航中のカバーの一部として個別に運航再開条項を含める場合があります。主な要件は、やはり船級協会と製造元の承認や推奨に則ることですが、付加的なリスクをカバーするために休航解除後の限定した期間に対して、個別の「機械に関する追加の免責金額」が導入される場合があります。

 

推奨事項

 

被保険者は、早い段階で計画している休航について保険会社に通知することが推奨されます。保険会社は、提供された情報に基づき、待機期間が休航と見なされるかどうかを判定し、休航の計画・準備に対する第三者の審査が必要になるかを検討します。

 

また、保険会社が運航再開検査をどの程度実施すべきかを検討し、運航再開・再稼働の早期段階でサーベイヤーが関与できるようにするために、被保険者は運航再開を決定したらできるだけ早期に保険会社に通知するようにしてください。

 

 

附属書最低限、休航計画に含める必要のある事項

 

1.休航地

 

休航地については、特にその地域の気象条件を併記すること。また、休航地に関しては、地元当局からの承認が必須。ハリケーンの影響を受ける地域や熱帯地域での係船に関しては十分な配慮が必要。

 

2.係留・投錨装置の配置

 

海岸や他の船舶までの距離などの係留・投錨装置の配置に関する記載およびそれらのメンテナンス方法を休航計画に含めること。係留・投錨装置の配置は、船舶の船級協会または船級協会が任命したコンサルタントによって承認されることが望ましいものの、他の適格な機関に計算を依頼することも可能。

 

係留・投錨装置の配置を計算するには、海底、最大風力と風向、海岸と船舶の係船柱、アンカーとアンカー関連の装置に関する情報が必要。使用中または一定の張力下にあるアンカーウインドラスとムアリングウインチについては、常時正常に作動させるために、頻繁にテストとメンテナンスを行うこと。

 

3.船級のステータス

 

Gardでは通常、保険料の払戻しを簡素化するために、船級を「休航中」のステータスに変更するよう求めています。年次検査などの必須の検査については、船級協会のルールに従って実施すること。通常運航中の船舶に関しては、船級協会のルール・規則を常に順守していることが保険カバーの前提条件であり、これは休航中も同様です。なお、船級が一時停止されると保険のカバーが失効することになります。

 

4.最小配員

 

休航の状況に応じて乗組員の最低必要数に関する旗国の要件を維持すること。休航計画に記載されている監視員と定期メンテナンスを第三者に委託する場合、委託に関しても休航計画に記載すること。

 

5.電力の利用の可否

 

また、休航計画には、必要と考えられる推進力を記載するほか、休航エリアでのタグボートによる支援が可能かどうか記載すること。

 

6.爆発と火災からの防護

 

すべてのカーゴタンク、ポンプ室、コファダム、カーゴラインは、原則として、休航中にガスのない状態を維持すること。地元当局の承認があれば、不活性化されたタンクも容認される可能性があります。有効なガスフリー証明書が船内に保管されている場合のみ、火気使用作業が許可されます。

 

火災警報システムはすべて、休航中も完全に作動させておくこと。船舶の標準的な消火システムを使用できる状態で用意しておくこと。据え付けの消火システム(CO 2タンク)が何らかの理由で取り外されている場合、代替システムが作動可能であり、船級協会によって承認されていることが必要。

 

7.洪水に対する予防策

 

使用していない船外バルブはすべて閉じておくこと。海水冷却器/復水器などを使用できる状態のままにする場合は、海水が入らないように密閉すること。

 

バラストタンク、ポンプ室、ビルジの水位は定期的にチェックする必要があり、全スペースのビルジアラームシステムを正常な作動状態に維持すること。コールドレイアップの場合は、ビルジアラームシステムが常時作動中でなくても許容されます。すべての水密戸とマンホールを閉じること。

 

8.機器のメンテナンス

 

休航計画には、機械・機器類が通常どおり使用されていないことが原因で発生する損傷を防止するための機械・機器類の保守・メンテナンス・操作について、製造元の推奨事項に従い、記載すること。休航計画には特に以下の機械・機器の保守・メンテナンスについて記載すること。

 

  • ターボチャージャー、ギア、軸系装置搭載の主機関
  • 発電機付き補助機関
  • ボイラー

 

  • ポンプ、コンプレッサーなどの回転機械装置など
  • 船種固有の機器
  • 周囲の温度と湿度、ヒーターの使用、除湿機、防腐油などに関する一般的な要件。

 

9.運航再開/休航解除

 

休航を解除する際の検査・テスト範囲は、休航中のメンテナンスや保守の実施の程度や、休航を解除する理由(売買、再就航のための乾ドック、解撤)によって決定されます。Gardでは、再稼働に関して船級の要件を維持していること、休航・再稼働時に製造元の推奨する保守・メンテナンス方法に従っていることを要件としています。

 

 

免責事項:当記事は、船舶の休航方法に関するガイダンスの一例であり、船級協会または規制当局が求めるその他の要件に代わるものではありません。